ポケモン廃人、知らん地方に転移した。【完結】 作:タク@DMP
※※※
──倒れたヌシを手当し、ポケモンセンターに駆け込む。
幸い、距離は然程離れてはおらず、迅速に傷ついたポケモンは治療されることになった。
しかし、モンスターボールに入っているレアコイルはポケモンセンターの治療マシンで一瞬で回復したものの、野生ポケモンであるヌシはしばらく入院することになったのである。
そして肝心のユイと言えば、
「……大丈夫っ。ヌシ様は強いから。きっと治るよ」
と、気丈に振る舞っているが、落ち込んでいるようだった。
表情は暗い。ポケモンシリーズで「キャプテン」の役職に就く人間はいずれも「ぬし」や「キング・クイーン」といった、強大なだけではなくその地域の守り神のような立ち位置の
それ故に、ヌシ様を傷つけてしまった彼女の無念は察するに余りある。
メグルはこの地方のヌシ様をよく知るわけではない。しかし、今までにプレイしたゲームでは、いずれもキャプテンの世話するボスポケモンが設定上強いことは理解していた。
相性差はあっただろうが、ヌシに深手を負わせたあのオニドリルも同等の力を持つと言っても過言ではないだろう。
(ヌシ様は精神的な支柱でもあるだろうし……ショックだろうな)
「──
「博士!?」
ふと、後ろからそんな声が聞こえてきた。ショックで顔色が暗かったユイはそちらの方を向く。メグルも釣られて顔を上げた。
サングラスをかけ、白衣を背中に羽織った青年が陽気に微笑んでいた。
気さくそうに手を振ると、彼はこちらに歩いて来る。
「やっはろー♪ 無事で良かったよユイ君♪」
「どぅーどぅー」
その傍らには、えかきポケモンのドーブルが立っている。
尻尾が筆のようになっており、絵具のような体液を分泌する犬型のポケモンだ。
「いやぁーっ、大変なことになっちゃったねぇー。電気タイプが効かないオニドリルにヌシ様がやられたって?」
(何だこの陽キャ……)
「博士! 良かった、オニドリルの行方は──」
「それがさぁ、全っ然手掛かりゼロ! 空だけじゃなくって、地面にも潜れる鳥ポケモンなんでしょ? 何処に潜んでいてもおかしくないかなあ」
「……そ、そうかあ」
「んで、サンダースがあそこまでやられたのを考えると……電気が効かない、地面タイプってのは確実か」
「サンダース?」
メグルは思わずユイに問いかけた。
かみなりポケモンのサンダースは、黄色く逆立った体毛が特徴的だ。
やしろにいた、あの黒いポケモンとは似ても似つかない。
「うん。なるかみのやしろを守っているヌシ様は、サンダース。姿が違うのは──この地方で採掘される特別な”たま”で進化するから」
「ヌシ相手に喧嘩を売れるほど強いなら、いつかまたサンダースを狙ってやってくるんじゃないかなァ? 確証はナッシングだけどねー♪ アッハハハ」
「そんな、笑い事じゃないんだけど! 博士!」
「……博士? この人が?」
「こらっ、失礼!」
思わずメグルは問うてしまった。何処からどう見てもチャラ男にしか見えない。
言っていることも適当だ。最も、それだけあのオニドリルについて分からないことが多いということでもあるのだが。
「この地方のポケモン学の権威、イデア博士なんだからっ! 確かに見た目はダメ男だし、生活力ゼロだけど……立派な博士なんだからねっ!」
「ユイちゃん、君の方がボロクソ言ってない?」
博士。多くのゲーム本編に於いてはプレイヤーに最初のポケモンを渡すことになる人物だ。
その地方に於いても重要な立ち位置にいることが殆どである。
見た目はアレだが、イデアが本当に博士ならば信用に足るし頼れることは違いない、とメグルは判断した。見た目はアレだが。
ま、いっか、と適当に流したイデアは腕を組むと──メグルの方を見た。
「で、君は誰? 見たこと無い顔だけど、旅行客?」
「メグルって言います。えーと、その──」
「聞いてよ博士! こいつ、森の中でポケモンも持たずにやってきたの!」
「ポケモンも無しに!? ふぅーん……迷子か何かかな? じゃなきゃよっぽどな気狂いと見た」
「実は……」
このままでは話が進まない。
信じて貰えないかもしれないが、相手がポケモンの博士なら──と思い切って全てを話すことにしたのである。
見た所かなりエキセントリックな性格であったし、多少突飛な話でも受け入れてくれるのではないか、と考えたのだ。
「──あんた、イカれてんの?」
「まあ、そうなるよな……俺もイカれてると思う。てか夢であってほしかった。夢であれ」
「なんか……あたしも、あんたがウソ吐いてるようには見えないのよね……あたしもイカれてるのかしら」
「ハッハ! ブラボー! 面白い! 最高に面白いね! 自室に居たらアンノーンが大量に出てきて、穴が開いて、気が付いたら知らない世界だった! もしこれがウソなら君、小説家になれるね!」
にぃっ、と笑みを浮かべたイデアは──「でも」と続けた。
「ポケモンの力なら……世界を超えることだって不可能とは言えないよね? ユイ君」
「っ……そう、ですけど」
そう、ポケモンの力ならば可能であることをメグルも知っている。
例えばディアルガやパルキアといった「神」と呼ばれる伝説のポケモンだ。
あるいは、それと同等の時間や空間に干渉できる存在か。
(とはいえ、そのおかげで信じて貰えて良かった……あんまり大っぴらには出来ないけど)
「ポケモンについてはどれくらい知ってる?」
「ゲームやアニメの中の存在、ですね……俺が元居た世界では」
「なるほどねえ。元の世界に戻りたい?」
「戻りたいです!!」
「即答ね……ま、当然か。親や友達も心配してるだろーし」
(心配するような友達は居ないけどな……)
ユイの言葉に不覚ながら心を抉られるメグルであった。
しかし彼は少なくとも、異能力を持ったモンスターが跳梁跋扈するこの世界にずっと居たいわけではなかった。
確かにゲームやアニメのポケモンを連れた旅に憧れる気持ちが無かったわけではない。
しかし、それはあくまでも創作の話だから楽しめるのであって、当事者になった今は全く笑えない。
現に、レアコイルのあの電撃やオニドリルの地震攻撃を見た後だと猶更だ。あのようなモンスターと数えきれないくらい遭遇することになる。
それに──彼は根っからのポケモン廃人だ。ポケモンの新作が彼を待っていた。
「と言ったって、メグルがどうやって此処に来たのか、彼自身も分かってないんじゃないですか?」
「だよねえ。だから、彼を此処に連れてきた犯人を突き止める必要がある。ヒントは君の話に出てきたアンノーンだと僕は思うんだよ」
「アンノーン……ですか。でも、あいつらに世界を超えるような力があるんでしょうか?」
メグルの記憶にある限り、彼らの種族値はかなり低い。
とてもそれだけの力を起こせるようなポケモンではない。
「無いね。
「!」
アニメではそのような場面が幾度となく描かれていたのをメグルは思い出す。
例えば結晶塔のエンテイなどが最たるだろう。何百匹も集まったアンノーンは、伝説のポケモンをそっくりそのまま再現してみせた。
彼らはその名の通り不明な点が非常に多いポケモンだ。そして同時に、超常的な力を司るエスパータイプのポケモンでもある。
そのため、複数体集まった時は何をしでかしてもおかしくない、というのがこの世界の研究者の人間の認識であるようだった。
「例えば2年前なんて、5匹のアンノーンが空をずぅっと真っ暗にしたことがあってね……3日くらいそのままだったよ」
「それほどまでとは……」
「んで、アンノーンというポケモンは限られた地域にしか生息していないんだ」
(そう言えばあいつら日本がモチーフの地方が舞台の作品にしか野生で生息しなかったような)
「──アンノーンが多く生息する地方。そして、アンノーンの描かれた古代文字が存在する地方。その数少ない一つが──この地方だ」
「この地方って言ったって……此処は何処か俺にはさっぱりで──」
そう言いかけて、メグルに閃光走る。
彼らはアルファベットの文字のような姿をしている。
そして、アンノーンに似た古代文字が描かれた古代遺跡のある地方──ジョウトやシンオウでは特によく見られるポケモンだ。
まだ希望を捨てるには早かったかもしれない、と彼は逡巡する。
(──アンノーンの生息地はカントーやホウエン、ジョウト、シンオウの4つの地域にしか生息しない。もしかしたら、ワンチャンこの地方はこの4つの地方のうちのどれかなのでは?)
(ハッハ!! 俺は今までプレイしたポケモンの地方の道順もダンジョンの中身も全部丸暗記してんだ!! いける!!)
「──ああ、言ってなかったね。此処はサイゴク地方。古くよりポケモンを”守り神”として祀る地だ。地理的にはジョウト地方の西方……って言っても分かんないか」
(あああああ!! そんな地方知らんァァァーッ!!)
そもそも、サンダースのリージョンフォームが居る時点で知っている地方という線は無かったのである。哀れ。
「何で項垂れてんのよ、あんた……知らん世界に飛ばされてきた時点で今更じゃない? もしあたしだったら今頃寝込んでるわよ」
「そーゆーことじゃなくってぇ……!」
(覚えゲーも通用しねえなら、何で俺を此処に転移させたんだ!? 何処の誰か知らないけど、取り敢えずアルセウスぜってー許さねえ……!!)
※先に断っておくとアルセウスは無実です。
斯くして。
覚えゲーが通用しないポケモン廃人による異世界攻略が始まってしまったのである。
「それで……アンノーンは、何処に生息してるんですか? ちょっとあいつら乱獲してやらなきゃ──」
「アンノーンは、”アラガミ遺跡”に生息してるわ。だけど、その生息域が問題なのよ」
「アラガミ遺跡はね例によって立ち入り禁止なんだ。というか、おやしろさまのある区域は何処も立ち入り禁止なんだよね。キャプテン以外は」
(しかもすぐにはしばきに行けないんかい!!)
「んで、よしんば入れても、侵入者を阻むかのように強いポケモンがうじゃうじゃ生息してるんだよねぇー、死ねるよ?」
「キャプテンでさえ、生きて戻ってくるのは難しいわ。勿論、ポケモンを持ってないあんたを庇いながら進むなんてもってのほか」
完全にラスダンか裏ダンの類じゃねえか、とメグルは内心で毒突いた。
言わば、チャンピオンロードどころかシロガネ山のような危険地帯なのだろう。
奥の遺跡に居るのが、あの弱っちいアンノーンというのがまた腹立たしさを加速させる。
「何か! 希望は無いんですか!?」
「あるよ」
「あるの!?」
「──当然、遺跡を踏破出来るくらい強いポケモントレーナーになることね」
「……」
沈黙するしかない。
それが出来れば苦労はしないのである。
「ま、いきなり強くなれって言われても困るよねぇ。だから、まずは”おやしろまいり”に挑んでみるのはどうかな」
「アンノーン達へのお礼参りなら今すぐ行きたいんですけど」
「違うわよ」
(伊勢参り……じゃなくて、アローラ地方のしまめぐりみたいなものかな)
「サイゴク地方の風習で、ポケモントレーナーになりたての少年少女は、その年のうちに5つのやしろを参拝するの。その過程でおやしろのキャプテンから試練を受ける。そして試練を突破することで”証”を手に入れるの」
(やっぱりしまめぐりだ)
同じくキャプテンを有するアローラ地方にも似たような名前の行事があり、それを軸にポケットモンスター サン・ムーンのストーリーは進行するのである。
「そして、証を全て手に入れられたトレーナーは、アラガミ遺跡で森の神様に謁見する権利を手に入れられるんだ」
(え、要るんか? 謁見する権利……誰が欲しがるんだそれ……)
どう考えても胡散臭さしか漂って来ないのだった。
「一応聞いておくんだけど、森の神様って?」
「このサイゴク地方の守り神よ。と言っても、誰も姿を見たことは無いんだけどねえ……あたしも一度、アラガミ遺跡の奥まで行ったことはあるけど、結局出会えなかったわ」
(伝説か幻のポケモンか……今は無視して良いかもな)
どの道、何か条件が無ければ出会う事は叶わないだろう、とメグルは考える。
一先ずは転移に直接関係のあるアンノーンに出会うことが最優先だ。
(どの道ポケモンを手に入れて鍛えないといけないんだから、当然と言えば当然か。いっそ、ジョウト地方やシンオウ地方に行ってみるのも手だけど……やっぱ手掛かりはこの地方にありそうだし)
いずれにせよ、覚悟を決める必要はありそうであった。
元の世界に戻る手段が、いきなり空から降ってくるわけではない。
であれば、自らの脚で探しに行くしかないのである。
(やるしか……無いのか、おやしろまいり……)
こんなはずではなかった、と項垂れる。
「取り合えず、今日は旅の準備をしようか。他に行く当てもないだろーしねぇ♪」
「はい……」
※※※
博士の家に泊めて貰えることになったメグルであったが、一先ず確認するべきはこの地方の地理である。
「んじゃあ、汚いところだけどゆっくりしていってよ」
「どぅーどぅー」
「マジで汚ェ……」
研究器具、資料が散乱し、ダンボールがあちこちに積み上がっている。
壁には博士の傍にいつもいるドーブルのラクガキが塗ったくられていた。
他に研究員が居る様子はなく、この中には彼しかいないらしい。
そりゃあこんな状態で助手が雇えるはずもない。
「此処がキミの部屋ね。暑かったら冷房付けて良いから」
と通されたのは、空き部屋であった。
普段博士はずっと1階の研究室に籠っているからか、他の部屋にはいかないんだとかなんとか。
(生活力ゼロってマジだったんだなあ……)
※※※
(さて、言われるがままにお使いをするのがゲームの主人公だけどさ、俺はそうはいかないぞ)
ポケモンの世界の地方は、現実世界の地域をモチーフにしている。
そのため博士に貸して貰った地図を見れば凡そどの辺りかを調べる事が出来た。
そして、しばし研究所を出て、町を回ってみることにしたのである。
(現実世界の地域で言えば、中国地方……そして此処は山口県の山口市にあたる場所……なのかな)
シャクドウシティは丁度山口県の真ん中辺りに位置している。当然元の世界の街並みとは大きく異なる点も多いが、内陸部で山林に囲まれており、落ち着いた雰囲気の家屋が立ち並ぶ。人々はポケモンたちを当たり前のように連れており、周囲には和やかな空気が流れていた。
そして、研究所を出て真っ先に目に着いたのは大きな五重の塔であった。
それは、ジョウト地方の町にある同じものを思い起こさせる。
(やっぱり、何かしら関係あるんだろうな。ライコウの像があったなら、スイクンやエンテイの像もあるはず。森の神様も、もしかしたら俺が知っているポケモンなのかも)
そもそも、ジョウト地方とは陸続きになっている地方だ。リージョンフォームこそあれど、新種のポケモンは居ないのではないか、とメグルは予想した。
そして、もう1つ彼が詳しく調べたのは”おやしろまいり”についてだ。
街を回っていると、本屋らしき場所があったので足を運んでみる。
すると案の定、おやしろまいりに関する本やサイゴク地方のガイドブックのようなものがあったので、それをパラパラと立ち読み。
(おおよその世界観は分かった。この地方では、強いトレーナーとして認められるための方法が幾つかあって、遠回りのようで手っ取り早いのが”おやしろまいり”なんだ。その過程でトレーナーとして鍛えられる、と)
それが、おやしろまいりに参加する大きなメリットらしい。これをクリアしたトレーナーは、すぐに大きな大会に出られるようになるのだという。
失敗しても、他の地方に出て修行をしたり、キャプテンの下で修業をするといった道が開かれているのだとか。
そして”おやしろ”の存在する街の場所を大雑把に調べたところ、全部で5つ。
それぞれがサイゴク中に点在しており、町同士の行き来にはゲームのように道路を通ったり山超えをしなければならないようだ。
しかし、ポケモンを鍛えることが目的である以上、そこをすっ飛ばすと強い敵相手に詰むことになりかねなかった。
(最強の旅パ、作ってやろうじゃねーか! ……と意気込んではみたものの、相手はあのオニドリルやサンダースなんだよなあ。当面、欲しいタイプのポケモンが2種類。地面タイプと──)
まずは、あのサンダースもヌシポケモンならばいずれは戦う機会が来るかもしれない。
電気ポケモンの対策は電気が効かない地面タイプで行うのが手っ取り早い。
尤も、恐らく地面タイプであろうオニドリル相手にあのボロボロの状態で反撃していた辺り、それだけで勝てる相手とは思えなかったが、それでもいないよりはマシだ。
そしてもう1つは──
(──あのオニドリルの対策になる水タイプが欲しい、かな)
そもそも、水タイプは弱点が少なく、また弱点を突ける相手も多い。戦闘でも頼りになる存在だ。
そればかりか、古のポケモンでは「なみのり」のひでん技で海を渡ることも出来る便利な立ち位置である。
この地方にひでん技があるかどうかはさておいて。
(いやー、こうしてパーティを考えている時が一番楽しいんだよな、当面この2つは確定として──)
そこまで考えた辺りでふと、メグルは思考を止める。
(──あれ? 結局俺、最初のポケモン貰ってなくね?)
──悲報、今も尚手持ちは0匹。
そもそも、ポケモンを捕まえるにしたって、戦闘をしなければならないわけで、そのためには自分のポケモンが必要なのである。
※※※
「なに? 最初のポケモン? ……いる? やっぱり」
「いや、いるでしょ!!」
そうでなければ、話にならない。
「あっははは、そう言ってくれると思ったよ♪ ナイスツッコミ!」
「怒りますよ」
「ごめんって。サイゴク地方では、慣習的に最初のポケモンはこの子って決まっていてね。お気に召すかは分からないけど──」
彼は玄関に出た。
ポケットに入っていた1つのモンスターボールをメグルの目の前に投げ入れる。
「──さあ、これが君の最初のポケモンだっ!」
ぽんっ! 音を立ててボールが開く。
そこには──
「……あの、博士?」
「……あれ? おっかしぃなぁー?」
──
ただただ虚無がそこに横たわっていた。
つまり──ボールの中身は空。ただただ哀愁を漂わせながらモンスターボールは口を開けていたのである。
【サンダース(サイゴクのすがた)】
こくらいポケモン
タイプ:電気/エスパー
『勇猛果敢で恐れを知らない性質。空気中から体毛を通じて電気を取り込み、体内でサイコパワーに変えることが出来るため、疲れない。』