ポケモン廃人、知らん地方に転移した。【完結】 作:タク@DMP
※※※
「……リュウグウさん、結局傷が開いて入院伸びたんですね……」
「ほっほっほ、面目ない」
「本当に、何やってるんですかあなたは……シャワーズちゃんの為とは言え、死ぬかもしれなかったんですよ?」
「ぷるるるー……」
──不機嫌そうな声で鳴くシャワーズに、苦笑いするリュウグウ。
後日、彼の入院する病室に、メグルとユイは集まっていた。
その傍らではリュウグウの妻が、彼にリンゴをナイフで剥いてやっていた。
ユイは今回の出来事をまとめた報告書を書き上げると、リュウグウに手渡す。
今日集まったのは、先日すいしょうのおやしろで起こった事件を振り返り、今後のテング団に対する対策方針を決めるためである。
「今回の出来事は……多分、テング団があの首輪でサンダースのオーラをシャワーズに過剰に注いで、暴走させたことが発端だと思います」
「奴らの目的は、おやしろの破壊。そして弱ったシャワーズからオーラを採取すること、か」
「ずっと見張ってて、シャワーズが弱るのを待ち構えてたんだろうな」
そう考えると胸糞の悪い話だ。
結果的にシャワーズの命に別状は無かったものの、全てがテング団の掌の上で踊らされていたのだから。
「でもよく考えたら、流体になったら首輪からは抜けられるわよね? 自力で外せたんじゃないの?」
「シャワーズは流体になってる時、自分の体の中に首輪を取り込んでいたからな……まるで自分で離したがらないみたいだった」
「身に余る強烈な力に一度溺れれば、手放せなくなる。ヤクみたいなもんや。……可哀想に、シャワーズ。手放したくても首輪が手放せなかったんやろうな」
「……猶更許せないわね、あいつら。絶対こうなる事を分かってて、シャワーズに首輪を嵌めたんだから」
彼ら全員が使えるだけの分のオーラを採取するのに、大分時間を掛かっていたのを見ると、ヌシを弱らせなければいけない点が本当にネックだったのだろう、とメグルは考える。
オニドリルによる襲撃も、首輪を使った暴走も、ヌシを弱らせて一緒におやしろを破壊するための手段の一つだったのだろう。
前回と今回で、手段が違った点については単なる憶測にすぎないが、オニドリルが現在捕獲されている点を鑑みると──自分達のポケモンにリスクが及ぶ可能性を憂いたのだろう、とメグルは考える。
(にしても、この時代にモンスターボールを使ってなかったのもどういう事だ? オニドリルもモンスターボールに入れておけば、捕まえられずに済んだってのに……ヌシポケモンにしては扱いがぞんざいな気もする)
モンスターボールを用いないのは、それこそ昔のシンオウ地方で暮らしていたシンジュ団やコンゴウ団くらいなものだ、とメグルは考える。
あるいは野生ポケモンであることに意味を持つ「ヌシ」のいずれかだ。
にも拘らず、彼らはダーテングを使役する際にもボールからは出していなかった。恐らく、ずっと近くで潜伏させていたのだろう。
そうなるとオオワザを放てるほどに強力な個体であるあのオニドリルを、彼らなら力づくで取り返しに行きそうなものであるが、未だにそういった動きは無いらしい。
「分かった事も沢山あるわ。オーライズは、奴らが使うポケモンに他のポケモンのオーラを纏わせて変身させること」
「オージュエルはトレーナー側が持つ道具……カロス地方で言う”キーストーン”みたいなもんなんかのう」
(そうなると、オーパーツがポケモンに持たせる”メガストーン”に相当するってことか?)
心当たりは2つ。
シャワーズの首輪についていた宝石が、サンダースのオーラを込められた”オーパーツ”だったのだろう、とメグルは考える。
そしてもう1つについて論じる前に、ユイの方からその件について触れてくれた。
「それでメグル君のイーブイも、オーライズ出来ていたみたいだけど、あれはどういうことなの?」
「そうやな。いつの間にオージュエルを手にしていた?」
「実は……ユイとリュウグウさんの試合を見に来る前に、石商人を名乗る女の子から貰ったんだ。行き倒れていたところを助けたお礼に」
その時の事を話すメグル。
石商人を名乗る不思議な少女・アルカ。
彼女についてはセイランに長く住むリュウグウも知らず、やはりどこかからやってきて旅をしているのだろう。
行方はあの後眩ませており、分からない。
「石商人……発掘物を取り扱う商人やな。コハクタウンに集まっていそうなもんやが」
「偶然にしては出来すぎているわね。もしかしてそのアルカって子、テング団と何か関りがあるんじゃないの?」
「……ありそー。なんか、半ば押し付けられた気がしないでもないんだよなあ」
メグルはオージュエルを取り出し、皆に見せる。
しばらくそれを見つめていたリュウグウだったが「相分かった。君が持ってなさい」と言うのだった。
「良いんですか?」
「君は信用できる若者だからの。その力を無暗に使うことは無かろうて」
(あったけぇ……)
リュウグウの期待を裏切ることは出来ないな、とメグルは感じた。
自分の祖父も病気せずに生きていれば、こんなに頼れる爺さんだったのかもしれない、とふと思う。
「……待ってよ。メグル君のジュエルのことは分かったけど、オーライズってポケモンのオーラを纏うんでしょ? じゃあ、イーブイは何のポケモンのオーラを纏ったの?」
「きっと”もりのかみさま”じゃねーかなーって」
「え?」
ぎょっ、とした顔でユイは問いかける。
正体不明ではあるが、この地方の伝説のポケモンのようなものだ。
驚くのも無理はない。しかし、メグルの中ではこの仮説はほぼ確定的だった。
「”まもりがみのはね”と俺のオージュエルが反応したんだ。オーパーツがポケモンのオーラを纏わせるためのアイテムだとするなら……」
「
「いや、それが無理そうだ」
「え?」
メグルもそう考えていたのだが、人生そう簡単には上手くいかないらしい。
「……実はあの後、何処を探しても何処にも羽根は見つからなくって……あの一回で消えちまったみたいなんだ」
「ッ……え、ええええ……どうして? オーパーツは一回使ったら無くなっちゃうのかしら」
「だとしたら、使う側としては不便な代物だよな」
(だけど、テング団の連中を見てるとどうもそうには見えないんだよな……羽根が例外だっただけな気がする)
結局、オーライズそのものについても、オージュエル、オーパーツについても分からない事があまりにも多すぎる。
そしてサイゴク地方で騒乱を起こそうとしているテング団についても、分からないことが多い。
しばらく思案していたリュウグウだったが剥かれたリンゴを齧ると「よし」と何かを決意したように呟いた。そして──
「ユイ君。念には念を押して、シャクドウに一度戻ってくれまいか」
「え?」
「──とにかく。既にほかのおやしろには、ヌシの保護とおやしろの厳重警備をするように通達しておるわ。シャクドウには代理であるオヌシが居った方がええやろ」
「……あたしで良いんでしょうか?」
「ワシは言ったはずや。シャワーズを止めてくれ、とな。二人がかりとは言え、それを成し遂げたんや。信頼しとるぞい」
それでもまだ、心のもやもやは晴れない。
ユイは──確かめるようにリュウグウに問いかけた。
「……リュウグウさんは、どうやってヌシ様に認められたんですか?」
「さあのう。ワシも先代が親父やったからな。毎日シャワーズと一緒に居た……それだけや。だからハッキリ言って、ワシの生き方なぞオヌシの生き方の何の足しにもならんぞ」
「え?」
「オヌシの人生はオヌシの人生。オヌシはオヌシなりに、サンダースに認められるために精進しなさい。そもそもキャプテンになって終わりやないんやからな」
にっ、とリュウグウは笑ってみせる。
ユイは思案する。最強のキャプテンであるリュウグウの生き様をもう一度見れば、自分に何が足りないのか分かるような気がしていた。
しかしそれは間違いだった。何故ならば、彼の生き方はユイの生き方とは大きく異なるのだから。
「人生は長い! キャプテンがどうとか関係なく、先ずは日々を胸張って生きなさい! ショウブのヤツも……オヌシが暗い顔しちょると成仏できんやろ」
「……そうですね」
「何。いつかは認めてくれるわい。楽に行こうぞ、こんな時だからこそな」
少しだけではあったが、ユイの肩から力が抜けた気がした。
キャプテンになるのを焦るあまり、「鉄人」であるリュウグウを真似ようとしていたところが少なからず彼女にはあった。
「そんで、メグル君はおやしろめぐりを続けなさい」
「えっ良いんですか?」
「今の君ではどの道テング団には勝てん。奴らに用心しながら、より強くなるんや」
「……確かに」
(正直、メイン戦力がイーブイとオドシシなのはしんどいものがある……共同戦線張るのが当たり前だったけど、自力で戦えるようにならねーと)
「おやしろめぐりは……残る4つのおやしろを攻略した暁に、アラガミ遺跡の奥の奥にある”めぶきのおやしろ”へ参拝することになっておる。それで一人前や」
「ッ……めぶきのおやしろ……そこに森の神様が居るんですね」
「誰も会ったことはないがのう」
「小さい祠みたいなものだし、キャプテンも居ないわ。強いて言うなら──サイゴクのキャプテン全員の管轄と言ったところかしら」
「でもワシ、オヌシならなんとなーく森の神様にも会えそうな気がするんじゃよなあ。頑張ってくれい」
「っ……はい!」
「とはいえ……厄介な事になる前に──君に、あの妖しい石を渡した怪しい女の子を探しなさい」
「これからテング団の活動が活発化するにつれて、オーライズの事も知れ渡るんじゃないかしら。悪い奴らが使う力として」
疑われるようなことはするべきではないな、とメグルは考える。
今はオーパーツが使えないため、どの道オーライズする事も出来ない。
しかし、仮に使えたとしても極力使うのは避けた方が良い、とその場に居る全員が考えていた。
現時点ではブラックボックスそのものの現象でもあり、何が起こるか分からないからだ。
それこそシャワーズのように暴走する可能性も高い。
「力に、ポケモンに善悪は無い。使う者に善悪があるだけや。それを生かすも殺すもメグル君次第や。最も、ワシは信じておるがな」
「……ありがとうございます」
「ワシはどうせ今は此処から動けん。シャワーズと一緒に、これからどうするか考えるよ」
「ぷるるるるるるー」
「そうね。また無茶しそうになったら全力で止めますよ、ねえシャワーズちゃん」
「ぷるるー」
「うっ……」
ずしん、とリュウグウの上で丸くなり、シャワーズは怒ったように彼を睨み付けるのだった。
「もう無茶しないでね、おじいちゃん」と訴える孫のようだった。
「おお、おお、可愛いワシのシャワーズ。何処にも行ったりせんよ」
「ぷるるるるー」
「やれやれ……ポケモンと奥さんの尻に敷かれるのは何処も同じってことね」
「そうだなあ……」
※※※
「と言う訳で、いったん此処でお別れね」
「……そうなるのか」
「プッキュルルル」
セイランシティの駅には夕陽が差し込んでいた。
もうすぐ、電車がやってくる。
それを見送りたいのか、イーブイも自らボールから飛び出していた。
「あんた一人で旅出来るの?」
「教えて貰ったことをちゃあんと覚えておくよ」
「野垂れ死には勘弁してよね。きちっと生きて、また会うんだから」
「分かってる。俺だって元の世界に生きて戻りたいからな」
「プッキュルル」
甲高く鳴くと、イーブイはメグルの頭に飛び乗った。
「こいつは面倒見るから」と言わんばかりに。これではどちらが保護者か分かったものではない。
「なあ、リュウグウさんも言ってたけど……ユイはもっと自信もって良いと思う」
「そうかな。あたし、良い所全然なかったよ?」
「そんな事ねーよ、俺何回も助けられたし、俺一人じゃシャワーズは助けられなかった」
そして何より、鮮烈に目に映っている。
彼女が本気を出して戦った時の姿は、間違いなく将来キャプテンになるであろうことを確信させるものだった。
「シビルドンが合流した後、シャワーズと互角に戦ってた時、すっごく……えーと、なんつーのかな……うまく言えねーんだけど──カッコ良かったからさ」
「っ……」
彼女は目を逸らす。
顔が赤くなっていたのは、きっと夕陽の所為だけではない。
「も、もうっ! あんたは褒めすぎなんだから! 女の子をおだてないのっ!」
「そういうつもりじゃねーんだけど……」
「何? お世辞だったっていうの?」
「違う違う! 本気でそう思ってる、って!」
「うーそーくーさーいーんでーすけーどー?」
「めんどくせ……」
「何か言った?」
「めんどくせ、って言った」
「はぁ!? 何でそんな事言うのよ!」
「そういうところがめんどくせーんだよ!」
一頻り言い合った後──二人で笑い合う。
このやり取りも、後少しで終わりだ。
「っ……はははっ、確かにめんどくさかったわね、あたし」
「でも、すっげー世話になったよ」
「めんどくさいのは否定しないのね……此処から先は、あんたの力で切り開くのよ」
「ああ。俺は──あの石商人を探しだす。テング団の事を知ってるかもだし……もしかしたら、奴らが”世界の危機”ってヤツに関係してるかもだしよ」
「言えてるわね。あいつら、何か大それたこと考えてる」
「ああ。世界の危機なんてモンに発展する前に、止めりゃあいいんだろ。そのために強くなるよ」
「元の世界に戻りたいから?」
「それもあるかもしれないけど」
やはり、理由は唯一つ。
此処まで彼を突き動かして来たものは、彼にとって揺るがないものだった。
「……やっぱり俺、ポケモンが好きなんだ。だから……あいつらにすっげー腹が立ったんだよ。それだけだ」
「同感。最初はあんたの事変なヤツだって思ってたけど……あたし達、気が合うみたいね」
固く手が結ばれる。
そして、電車が音を立ててやって来た。
「次に会う時は、あたしはキャプテンになってると思う」
「じゃあ、最後に試練に挑みに来る。キャプテンになったお前に、挑みに行くよ」
「ええ。首を洗って待ってなさい! 受けて立つんだから!」
「待ってるのはお前の方じゃないかな……」
「細かい事はいーのっ!」
旅路は別たれた。
メグルはベニシティを、ユイはシャクドウシティを目指す──
「──シャクドウシティで、また会おう!」
「プッキュルルル!」
──第一章「晴嵐吹くおやしろ」(完)
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