ポケモン廃人、知らん地方に転移した。【完結】   作:タク@DMP

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第12話:巡る輪廻

「ギアを更に1つ、上げていくぞッ!!」

 

 

 

 全身が黒褐色のメタリックな外骨格に覆われたカレハカマキリのようなポケモン。

 原種のそれよりも細い体躯だが、枯れ葉のような羽根を広げれば禍々しい目玉のような模様が現れる。

 その佇まいは、ストライクでありながら()()の如き威容を放っていた。

 

「”リーフブレード”!!」

 

 地面を蹴り、ストライクは一気に天上へと跳び上がる。

 そして、思いっきり回転すると、ニンフィア目掛けて空から急襲をかけるのだった。

 ”でんこうせっか”で紙一重で躱してみせるニンフィアだったが、初めてであった個体のはずなのに、その動きには何処か既視感があるようだった。

 

「おいおい冗談だろ? 今のを避けんのかよ」

「避けるっつーか、この動き……!!」

「ふぃるふぃー……!!」

 

 幾度と見て、幾度と躱してきた動き。

 個体としてストライクは多数いるが、このような独特の回転を挟む個体などメグルは1匹しか知らない。

 

「ニンフィア、”ハイパーボイス”!!」

「接近しろ、撃たせんじゃねえぞ!! リーフブレード!!」

 

 一瞬で距離を詰めたストライクが鎌を振るえば、衝撃波だけで向こうの家屋が真っ二つになって崩れ落ちる。 

 技を中断して避けていなければ、こうなっていたのは自分だったと察して、流石のニンフィアの顔色も悪くなるのだった。

 

「空ぶったのにあの威力なのかよ!?」

「ふぃー……!!」

「俺は旅団最強だ。ストライクもまた、俺の最強のシモベだ。俺達が──この世界の頂点捕食者であることの証明をするッ!!」

 

 地面が抉れるほどの斬撃を繰り返し見舞うストライク。

 とてもではないが、此方から攻撃を仕掛ける余裕など存在しない。

 既に辺りはストライクの放った”飛ぶ斬撃”によって切り裂かれており、見る影も無くなっている。

 

「ニンフィア戻れ!! とてもじゃねえが、お前じゃ受けきれない!!」

「ふぃー……!!」

 

 これほどの斬撃の使い手が相手では、不利を取るのはニンフィアの方だった。

 一発でも喰らえばKOは免れない。

 ならば──

 

「バサギリ!! お前の出番だッ!!」

「グラッシャーッ!!」

 

 咆哮を上げてバサギリが飛び出す。

 そして、本能的に同類の相手と察知したのか、目を赤くして興奮すると──飛び掛かるのだった。

 

「”がんせきアックス”!!」

「”リーフブレード”!!」

 

 大斧と刃がぶつかり合う。

 それだけで余波が周囲に伝わり、空気の振動をメグルとリンネは受けることになる。

 しかし、押し勝ったのはストライクの方だった。

 バサギリの身体はあっさりと空中に跳ね上げられてしまうのだった。

 

「そのモンスター……俺のストライクと動きが同じだ。こっちの方が明らかに馬力が強いようだが」

「バサギリ、くたばってんなよ……!!」

「グラッシュ……!!」

「諦めろ」

 

 バサギリの身体には種子が埋め込まれていた。

 そこからは宿り木が生えて絡みついていく。

 相手の体力を吸い取る技”やどりぎのタネ”だ。

 

「……宿り木……!! 今の斬撃でばら撒いたのか!?」

「こんなもんか? 好きな女を助けにやってきた割には、随分とお粗末な戦いだな」

「ギッシャラララァッ!!」

 

 吼えるストライク。

 バサギリは既に宿り木に拘束され、地面に縛り付けられてしまっている。

 

「これも仕事だからよ、恨むんじゃねえぞ。ストライク!! ”にほんばれ”!!」

「”にほんばれ”だと!? まさか──」

 

 辺りがさんさんと晴れていく。

 それに伴い、ストライクの漆黒の身体にも光が照り返す。

 刃からは湯気が出て──白い光が湧きだすのだった。

 

 

 

「”ソーラーブレード”で消し飛ばせッ!!」

 

 

 

 地面に鎌が振り下ろされると共に、極光がバサギリとメグル目掛けて放たれた。

 それは地面を走っていく。

 避けられない。躱せない。

 オオワザさえも超える威力のそれは、目の前のもの全てを消し飛ばしていく。

 辛うじてバサギリはやどりぎを引き千切り、メグルの身体を抱えて安全圏まで飛び退こうとするが──逃げ切る事が出来ず、巻き込まれてしまうのだった。

 

「……辛うじて直撃は避けたか」

 

 後に残るのは、閃光が地面を焼いた後。

 そこには、横たわるバサギリ、そしてメグルの姿があった。

 全身は火傷塗れ。服はボロボロ。動き出す様子はない。

 

「死んだか? ──いや、確かめんと分かんねーな」

 

 懐からナイフを取り出し、ストライクと共にリンネは迫る。

 メグルとバサギリにはまだ息があるかもしれない、という確信があった。

 もしも直撃していたならば肉体の原形など残りはしないからである。

 

「……悪く思うなよ。これで終わりだ──!!」

 

 

 

 ──聞こえるか? リンネ。一度船に戻るんだ。

 

 

 

 彼は──足を止める。

 脳内に響くのは上司であるクロウリーの声だ。

 

 ──全ての巫女が揃った。貴方達の向かった方とは逆の方角の集落だ。最早これ以上の戦闘の必要はない。

 

「クロウリー、反抗勢力が居る。残さず芽を摘まねぇと」

 

 ──ただちに撤退するんだ。そちらに向かわせた軍勢は、殆どが消耗してしまっているだろう。ワスレナから報告は受けている。既に撤退が始まっている。

 

「ああ、分かった。……こいつを始末して終わりだ」

 

 リンネはメグルの胸倉を掴んで引っ張り上げた。

 そして──その顔を見て、固まる。

 

「……コイツの顔……」

「人の顔が、何だってェ……!!」

「!!」

 

 絞り出すような声が聞こえてくる。

 メグルは──リンネの手を掴み、今にも食い殺さんばかりの目で睨みつけていた。

 まだ死ぬわけにはいかない。まだ死ねない。

 アルカはこの間にも囚われている。助けにいかねばならない。

 だが、もうボールに手が伸びても、スイッチを入れる力が入らなかった。

 仮にスイッチが入ったとして。既にストライクが宿り木の種をボールに埋め込んでおり、中からは開かないようになっていたのであるが。

 

「笑わせんなよ……この程度で俺に歯向かおうとしていたのか?」

「──ッ」

「アルカを助け出す? 身の程を弁えろと散々言っただろうが」

「弁える? はっ、うるせーうるせー……!! ンな事分かってんだよ……でも、助けに行かなきゃいけねえだろが……!! 守るって決めたんだよ……!!」

 

(ノオトとヒメノちゃん、大丈夫かな……後は、イクサに任せれば、良いと思ってたけど……)

 

(……アルカ。ごめん。結局俺、お前を迎えにいけなかった──)

 

 堂々と考えが巡っていく。

 走馬灯のように。

 

 

 

「本当に不愉快なヤツだ、此処で死ねッ!!」

 

 

 

 そう言って振り上げた手は──凍り付いていて動かなかった。

 すぐさまリンネはメグルを地面に投げ捨て、辺りを警戒する。

 

「誰だッ!! 名乗りやがれッ!!」

「……退いてもらおうか。此処から先は某達が相手だ」

「ガォン」

 

 山伏のような装束の男が、リンネの前に現れていた。

 傍らにいる青白い毛の獣人のポケモンは──格別の空気を放っていた。

 明らかな強者。武人の本能がそう判断する。

 

「不覚を取るとは……ストライク。”リーフブレード”ッ!!」

「──ルカリオ、”アイススピナー”ッ!!」

 

 二匹がぶつかり合う。

 触れただけで相手を凍てつかせる拳を放つポケモン。

 その姿にメグルは見覚えがあった。

 

「ルカリオ……ヒャッキの……!?」

 

 かつて、強敵として立ちはだかったヒャッキの姿のルカリオ。

 氷の拳を使いこなす冷たき獣人のポケモン。

 それを扱いこなせる手合いなど、メグルが思いつく限り一人しか思いつかない。

 

「邪魔をするんじゃねえッ!! 天狗風情がッ!!」

 

 相も変わらず地形を変える程の威力の斬撃を振り回すストライク。

 だが、それをいなしてみせるルカリオは一歩詰めると、更に刺し穿つかのような正拳突きを見舞う。

 格闘戦では両者互角。

 しかし、タイプではストライクが不利となる。

 

(やり手め、此処でオーライズを切るか──ッ!!)

 

 

 

 ──何をしているのだ、リンネ。早く戻れと言っているだろう?

 

 

 

「……了解ッ……!!」

 

 ストライクを木の実のボールの中に収めたリンネ。

 頭の中に響くクロウリーの指示に応えるようにして、背後に時空の裂け目を作り出すと──そのまま倒れ込んでいくのだった。

 山伏装束の男もそれを深追いはしない。すぐさまメグルの方に駆け寄るのだった。

 

「……ッ酷いケガだ。運び出せッ!! 治療の準備をッ!! 彼を死なせるなッ!!」

「ハッ!!」

「……助かったぜ」

 

 ぽつり、と呟くメグルに──男は仮面を取って頷く。

 

「……()()()()

 

 かつて敵だった彼の名を呼ぶ。

 男は、何処か嬉しそうに言った。

 

「久しいな。今度は我々がお前達を助ける」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 ──魔海に浮かぶ黒舟は、クロウリー達の拠点だ。

 そこに帰還したリンネは待ち侘びたようなクロウリーに一言謝罪をする。

 意外そうに彼は問うのだった。

 

「随分と遅かったね。楽しかったのかい?」

「……手こずったんだよ。サイゴクの英雄たちに」

「彼等は三大妖怪を解放した後で片付けても遅くはない。貴方に苦戦するような相手ならば、大妖怪には勝てない」

「……だろーなァ」

 

 そもそも、妖怪など居なくとも、ワスレナと共同で事に当たれば殲滅できる自信がリンネにはあった。

 とはいえクロウリーは黒舟の守りを固めたいらしく、リンネを呼び戻したようだった。

 二人の付き合いは長い。

 戦災孤児だったリンネをクロウリーが引き取って育てて、十年近く経つ。

 クロウリーの懐刀として育ったリンネは、今や彼の軍団のトップを率いる最強の戦士として君臨していた。

 

「もうすぐ、もうすぐだ。三大妖怪を解放すれば、私を追放した大陸の連中を蹂躙できる」

「……」

「リンネ。これまで通り、お前の力は有効に使わせてもらうよ」

「何を今更。俺はあんたの為に戦っているんだからな」

 

 クロウリーが望む世界ならば、その先を見てみたい。

 その一心でリンネは戦い続けてきた。

 彼に、クロウリーの本心は全て推し量ることはできない。

 だが──彼の為ならば死ねる。忠誠心は間違いなく本物だ。

 彼が居なければ──自分は今も孤独だったかもしれない。

 

「ところでリンネ。お前は最近髪を伸ばしすぎだ。それでは前が見えないだろう。見ているだけで鬱陶しい」

「適当に切る。なら今此処で」

「ああ、汚い!! ちゃんとゴミ箱に捨てておいてくれよ、全く……」

 

 髪を無造作に掴んで束ねると、リンネはそれを惜しげもなくナイフで切ってしまった。

 そのまま何事も無かったかのように彼はクロウリーに尋ねる。

 

「そういえば、テングの……アルカという巫女は何処にいる」

「気になるのかね? らしくもない」

「少し気掛かりな事があってな」

 

(あのメグルと言う男……あいつが別世界から来たというならば。前にクロウリーが教えてくれた多次元交錯理論にあった──)

 

 胸倉をつかんだ時のメグルの顔が、リンネには焼き付いて離れなかった。 

 

「くれぐれも逃がさないようにはしてくれ──というのは要らぬ説法だったか」

「見くびってくれるなよ、クロウリー。俺は失敗しない」

「悪い悪い。それでだ、彼女は確か──」

 

 クロウリーに、アルカが収監されている場所を教えて貰い、衝動に突き動かされるがままにリンネは部屋に押し入る。

 念のため通路にも鍵をかけて、脱出が出来ないようにして。

 そのまま鍵を開け、無遠慮に部屋に押し入った。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「だ、誰だろ……」

 

 

 

 ノックの音。

 そして間もなく、部屋の鍵が開けられる音がした。

 アルカはシーツにくるまり、ベッドに潜る。

 嫌な予感しかしない。儀式とやらの準備が出来たのか、それとも──

 胸騒ぎは止まらない。だが、自分からは出て行くつもりにはならなかった。

 

 

 

「入んぞ」

 

 

 

 その声を聞き、アルカの胸は高鳴った。

 耳から突き抜けるような心地よさが記憶を揺さぶる。

 思わずアルカは、飛び上がり──そのままシーツを脱ぎ捨てて起きた。

 

 

 

「メグル!? 来てくれたの──ッ!?」

「……」

 

 

 

 部屋の灯りが点いて、入って来た人物の顔が顕になる。

 それで──アルカは困惑した。

 確かにメグルの声が聞こえた気がした。聞き間違えるはず等なかった。

 にも拘らず。その声の抑揚は彼にしては冷淡であったし、違和感さえ覚えた。

 姿を見れば、より違和感は強まる。

 彼は黒いローブを羽織っていた。船の中に居た魔術師たちと同じ格好だ。

 しかし。首から上。その髪も、目も、顔つきも──全て、自分が知っている最愛と同じなのだ。

 男の顔は、メグルと瓜二つだった。

 

「……誰……メグル……じゃないよね……?」

「ッ……」

 

 男は何処か驚いたような顔でアルカを見つめていた。

 しかし、首を横に振ると──答える。

 

「やはりその名前を呼ぶんだな。だけど、俺があいつじゃないことは分かったみてーだな、アルカ」

「誰!? メグルの事を知ってるの!? ……君は……誰?」

「リンネ。クロウリー様の懐刀だ」

 

 つかつか、とリンネは部屋に押し入ると──怯えた顔のアルカに詰め寄った。

 

「……何で、メグルと同じ顔してるの……!?」

「俺が聞きたいくらいだぜ。尤も、同じ顔の割にヤツは弱かったがね」

「……戦ったの!? メグルは──ヒャッキに来てるの?」

「ああ。お前を助けに来たみたいだぜ」

 

(メグル──! あんなにひどい事したのに、ボクを……!)

 

「だけど残念だったな。勝ったのは俺だ。当然の結果だ」

「ッ! メグルが負けるわけない……!!」

「じゃあ何故あいつはお前を助けに来ない?」

 

 その言葉にアルカは押し黙る。そして、慄いたまま一番の恐れを口に出した。

 

「……殺したの?」

「殺したかったが、まだ生きてるぜ。だけど──あれだけの傷を受けては立ち直れるわけがねえ」

「……」

「どっちにしろ、あの男は諦めるんだな。次に来たら俺が殺してやるよ」

「メグルは死なないよ」

 

 アルカは──メグルと瓜二つの男を前に、食ってかかった。

 死ぬわけがない。諦めるわけがない。

 彼は──殺しても死ななかった。今まで何度も不可能を可能にして来たのだから。

 

「訳分かんねーな。あの男の何がそんなに良いんだ」

「……ボクにはメグルしか居ないから」

「奇遇だな。俺も似たようなモンだ。だけど──やめとけ。あいつは弱い」

「!」

 

 リンネはアルカの肩を掴む。

 がっしりとしていて、力が強い。メグルのそれよりも遥かに。

 戦い慣れている人間の手だった。

 

「……考えるに、あいつは俺の並行同位体……いわば無数に存在する世界における同一人物、だ」

「君がメグル!? 冗談も休み休み言えよ!! 只の他人の空似さ!! 世の中には3人、自分と同じ顔の奴がいるって──」

「ただ似てるだけなら、どうしてお前は俺とあいつを間違えた?」

「……ッそれは……君達が似すぎてるのが悪い!!」

「クロウリーが以前、教えてくれたんだ。この世界とお前達の居た世界に限った事じゃない。世界は無数に存在している。それは様々な可能性の分岐。だから──俺と同じ顔で、しかし違う運命を辿った者も確かに居る、と」

 

 並行世界。パラレルワールド。

 メグル達の世界ではそう言われている理論だ。

 同じ人間であっても、環境や起こった出来事が違えば、全く違う人物に育つ。

 メグルとリンネは──その一例だ。

 

「だけど、俺はあいつの上位互換だ。元々が同じならば、俺の方が上だ」

「……何を根拠に」

()()()()()()()()()。それ以上にシンプルな理由は無ェよ」

「……ぷっふ、バッカみたい」

 

 アルカは──その理屈を一笑に付す。

 

「強い? 強かったら何か偉いの? 仮に君の方が強くたって。ボクはメグルを信じるよ」

「あいつはお前を守れなかった。だから今お前は此処にいんだろが」

「……でも助けに来てくれる。絶対に」

「で? 今この瞬間、お前の好きなメグルは助けに来てくれんのかよ」

「……それは」

 

 来るわけがなかった。

 何故ならば、先程メグルはリンネが叩きのめしたばかりだからである。

 あれだけの傷を負って、すぐに立ち上がれるはずがない。

 ストライクの必殺の一撃を浴びせてやったのだから。

 

「全く弱い奴の何が良いんだかね──何も守れねぇのによ」

「……」

 

 そう言ってリンネは部屋から出て鍵をかけた。

 それを──アルカは見送ると、ベッドに突っ伏した。

 隠れていたサニーゴが現れ、心配そうに彼女に向かって「ぷきゅー」と鳴く。

 

「……何なんだよ、あいつ……メグルと同じ顔で声なのに……すっごくムカつく……!!」

 

 そして──彼女はシーツを握り締めた。

 喧嘩別れしたメグルの助けを待つことしか出来ない自分自身に、不甲斐なさを感じながら。

 

 

 

「……ほんっとに、自分がイヤになるよ」

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