ポケモン廃人、知らん地方に転移した。【完結】   作:タク@DMP

201 / 225
第13話:テングの国の事情

 ※※※

 

 

 

 ──テングの国・城下町。

 クロウリー達の襲撃を逃れた人々が身を寄せており、周囲は多くの兵士やポケモン達によって守られている。

 文字通りの最終防衛ラインであり、そこには先の隠れ里から逃された人々達の姿もあった。

 天守閣が崩れ落ちた城の最上階に──キリ、レモン、イクサ、デジーの4人は呼び出されていた。

 要件は、現テングの国・元首との謁見である。

 彼らは待ち合わせの為に大広間に通されていた。

 

「……ヒャッキって、なんだか昔の日本って感じだ……時代劇の世界に入ったみたい」

 

 ただ、それにしては城の内部は荒れ果てており、世紀末感が漂っている。

 聞いた話によれば、これは今に始まった事ではなく、戦争で官民ともに生活が荒れていた余波が未だに残っているからだと言う。

 戦争で予算はひっ迫しており、城を立て直す予算すらなかったらしい。その結果が、このボロ屋敷──とはイヌハギの言であった。

 

「ニホン? ジダイゲキ? 何ソレ?」 

「昔の日本……いや、列島を舞台にしたドラマの事だよ。町並みはこんな感じさ」

「へーえ! 本当にこんな街並みが昔あったんだ!」

「私達からすれば信じられないわね」

「まあ、二人は列島出身じゃないし、余計に現実味が湧かないだろうけど」

「ジダイゲキって何が出るの?」

「侍とか忍者」

 

 レモンとデジーの視線はキリに向いた。

 

「そんなにジロジロ見られると恐縮でござるな……」

 

 仮面を付けたままではあるものの、キリは何処かやりづらそうに答えた。素のシャイな部分は仮面を被っても完全には隠せないらしい。

 

「イクサ君の居た世界にも忍者っていたの?」

「いや流石に忍者は居ませんよ」

 

(僕だってビックリだわ、サイゴクにはまだ忍者らしい忍者が居るって)

 

「そう言えばメグル殿も拙者を見て”忍者っているんだ……”と言っていたでござるな……忍者が居ない世界があるのは、ショックでござるよ」

「まあポケモンが居るし忍者くらい居てもおかしくないんですけど」

「漫画にはよく出てくるけどね、ニンジャ!」

「私も漫画の生き物だと思ってたわ」

「生き物って……まあいや、忍者としてはそう思って貰った方がやりやすいのでござるが」

「むしろこんなにオープンに活動してていいんですね、忍者って」

「時代が変われば忍者の在り方も変わるでござるよ」

 

 それに顔は隠しているでござるからな、隠密行動の理念は忘れてないでござる、とキリは続けた。

 尚、その理由が隠密行動のためではなく、対面恐怖症と赤面症を隠すためであることは伏せる。汚いぞ忍者。

 

「へーえ、キリさんってカッコいいし強いし! サイゴク最強のキャプテンって言われてるだけはあるよねっ!!」

「デジーってそういうの憧れるんだ」

「うんっ! ボク、カッコいいの大好きっ!」

 

 そんなこと、露とも知らずにキラキラと輝く目でキリを見つめるデジー。しかし、先に続いたのは──

 

「特にその仮面、変声期と暗視ゴーグル仕込んでるよね!? リストバンドにはワイヤー装置!! 後、スーツは排気機構を取り込んでるでしょ!? バリバリ最先端って感じ!! 後で分解させて!!」

「違った!! メカニックの悪い発作が起きてる!!」

「ぶ、分解は勘弁してほしいでござるな……」

「ねえ転校生も、あの仮面カッコいいと思うよね!? バラしたいって思うよね!?」

「ゴメン、後者は多分君だけだよ」

「人のものを分解したがるのは感性疑うわ」

「ひどーい!!」

「ところで1つ聞きたいのでござるが」

「何?」

「貴殿らはサイゴクに留学していると言っていたでござるが……貴殿たちの世界の拙者はどうだったでござるか?」

「……」

「……」

「……」

 

 3人は黙りこくる。

 一度彼らは、ひぐれのおやしろに訪れ、試練も受けている。

 だが──キリの姿は何処にも無かった。そればかりか、おやしろにはキャプテンが不在である、と聞かされていた。

 外出していないのではない。適任が──ヨイノマガンに認められたトレーナーが居なかったのだ、という。

 

「実は──出会わなかったんですよ。会えたら良いんですけど」

「そうか。拙者らしいと言えばらしいでござるな。恐らく任務に励んでいるのでござろう」

 

(どうしよう、そもそも生まれてなかったりとかするのかな?)

 

(影も形も無かったわね、この人……歴史が違うとこういう事もあるのかしら)

 

 デジーの推察は正しい。

 イクサ達の居る次元では、早期にキリの父・ウルイが死去してしまっているため、キリはそもそも誕生していないのである。

 結果、これがサイゴク地方のクラウングループに対する抑止力を失わせる要因でもあった。

 

「えーと──それより、メグルさんたち、大丈夫なんでしょうか?」

「テング団としても、今は藁にもすがりたい思い。ノオト殿たちを懸命に治療してるはずでござるよ」

 

 それに応急処置は施したでござるからな、とキリは続けた。

 あれだけの流血沙汰を前に、彼女は眉一つ動かさず、その場でノオトの刺し傷を縫合して止血、そしてメグルとヒメノにも適切な処置をしてみせたのだった。

 流石そこは忍者、戦場で味方が傷ついた時の心得もしっかりしていた。

 尤も、内心は酷く動揺していたのは言うまでもない。

 

(ノオト殿……拙者が近くに居れば……! 凶刃に倒れることもなかったのに……!)

 

 仮面の下の青い瞳は涙で潤んでいた。

 だが、そばを歩くイクサ達には決してそのような素振りは見せない。

 

「今は只待つ。信じて待つ。耐え忍ぶは忍びのいろはでござるよ」

「流石忍者ね……どんな時も冷静だわ」

「ボク達に出来る事は無いモンねー……」

「待たせたな」

 

 仮面を取ったイヌハギが襖を開き、現れる。

 そのままイクサ達は、更に最奥の部屋へと通されるのだった。

 彼らが目の当たりにしたのは、黒子姿の男達を侍らせた少女であった。

 そして、その近くにイヌハギが傅く。

 

「──”チャチャ様”。英雄たちをお連れしました」

「ご苦労です、イヌハギ」

 

【テングの国”大姫”チャチャ】

 

 少女は黒い羽根の付いた天女のような意匠を身に纏っていた。

 アルカのそれにも似た赤い髪は、テングの国の人間特有のもの。

 青白い肌は、長い間瘴気に侵されてきた彼らの呪いの証。

 しかし、何処か穏やかな笑みを携えており、聞いていたようなテングの国の人間の凶暴性は感じさせない。

 

「……この方は?」

「今のテングの国を率いる大姫様だ。隠れ忍んでいた穏健派の末裔である」

 

 イヌハギが答えた。

 テングの国の事情を知らぬイクサ達は顔を見合わせる。

 

「穏健派? 過激派が居るような口ぶりね」

「それが以前、この国を支配していた男・タマズサだ。鏡の羽根を持つアーマーガアと共に戦場では無敵を誇っていた」

「鏡の羽根を持つアーマーガア? もしかしてアイツかしら」

 

 レモンは先程戦った、鏡の羽根を持つアーマーガアを思い出す。ハタタカガチのギガオーライズを切らなければまともに戦う事が出来なかったであろうことは想像に難くない。

 

「成程、確かにアレなら無敵かもね」

「奴は古き伝説を求め、サイゴク地方に攻め入った。俺達三羽烏を伴って。500年前の復讐という名目を盾にして」

「500年の前の復讐って何でしょう?」

「イデアと言う男がいた」

 

 口火を切ったのはキリだった。

 その名前に3人はギョッとする。自分達も良く知る博士の名前だったからである。

 イクサは口を挟もうとしたが、レモンに止められた。面倒な事になるであろうことは目に見えていたからである。

 

「奴は500年前、ヒャッキから2匹の伝説のポケモンを連れ出した」

「その名はルギアとホウオウ。2匹はヒャッキを覆う瘴気を祓う役目を持っていた」

「しかし、イデアは己の好奇心のままに2匹を連れ出した。結果、ヒャッキは──瘴気に覆われた、でござるな?」

「その認識で間違いない」

 

(500年前……? イデア博士って不老不死か何かなのか?)

 

(同名の別人であってほしいわね)

 

(流石に別人でしょ)

 

「結論から言えば、元凶の男──イデアは今も生きている。奴はホウオウの炎を浴びて不老不死になったのだ」

「……ホウオウ。テングの国の古文書に、奴について記された資料があった。その炎、永遠の命を与える、と」

「こちらの世界の人間が貴殿たちに迷惑をかけた。既に奴は捕らえている。二度と悪さは出来まい。永遠に……な」

 

 3人は顔を見合わせる。

 不老不死──と言う言葉で、やはり自分達の知っているイデアとは名前が同じだけの別人だろう、と考える。

 何故なら彼はオーラギアスの毒を受けて死にかかっていたのだから。

 

「……話を戻そう。理由はどうあれ、我々こそサイゴクだけではなくオニとキュウビの国にも多大な戦禍を齎した。本来ならば戦乱の責任を取り、旧三羽烏全員の死を以て終わらせるのが……筋なのだろうが。姫様が許してくれなかったのでな」

「滅多な事を言わないで下さいな、イヌハギ」

 

 チャチャは──窘めるように言った。

 

「イヌハギはタマズサを上手く抑えてもらっていたのです。影ながら……ね」

 

 三羽烏は、テングの国を統べる自治組織・テング団のトップ三人組。

 イヌハギは、タマズサの側近的立ち位置でずっと、彼の暴走をコントロールしてきた。

 水面下では他二国とのホットラインを開設して被害を抑えたり、彼の立てた数々の破滅的作戦を、彼にバレない範囲で縮小させる──と言った具合である。

 イヌハギもかつては過激派でありサイゴクに復讐心を燃やしていたものの、復讐ではなく只々暴れたいという欲求のみで戦禍を広げるタマズサのやり方に愛想が尽きたからであった。

 彼が居なければ、サイゴクはもっと早くに潰滅していた──と、タマズサの暴れっぷりをよく知る者は語る。

 それほどまでに暴君は破壊的欲求を抱えていたのである。

 イヌハギは、全てが終わった後、自ら処刑されることを選ぼうとしたのだが──この功績を知っていたチャチャはそれを止め、自らの傍に置くことにした。

 残ったテング団の残党を従えて味方につけるには、彼には生きてもらわなければならなかったし、彼もまた平穏を望んでいたことを知っていたからである。

 

「とはいえ、貴方達に我々を許せとは言いません。どうか望みがあるならば何なりと私に申しつけ下さい」

「姫……」

「拙者たちがかつて受けた傷はあまりにも大きい。だが──今は貴殿らに先の戦いの責を問うている場合ではない」

 

 キリは一歩進み出ると、イヌハギに手を差し伸べる。

 

「時空の裂け目は我々にとっても無視できない問題だ。それに、アルカ殿がクロウリーに攫われたのでな」

「……アルカが!? ……そうか」

「我々は多くのものを失った。だが、それは貴殿たちも同じであろう。此処は手を取り合うことで手打ちにしないか」

「願ったり叶ったりだが……良いのか?」

「災禍のタネは根絶する。それが互いの世界の為でござるよ」

 

 後ろで聞いていたイクサ達も頷く。

 

「僕達に出来る事があるなら、ぜひやらせてくださいっ!」

「またバケモノが裂け目から出てきたら困るもの」

「そーだよっ! 任せといて!」

「……知らぬ顔が増えているが」

「彼等もまた、別世界からの助っ人だ」

「……そうか。奴らの生み出した時空の裂け目の影響は、やはり他の世界にまで」

 

 イヌハギは唸る。

 この世界から裂け目が消えない理由は──クロウリーの時空間魔術によるものだ、と彼は語る。

 裂け目が一度生まれれば、他の世界にまでその影響は波及する。

 結果、メグルの故郷の世界は、裂け目から災厄を呼び寄せて──滅び去ったことはキリたちも聞いている。

 

「でも裂け目以上にクロウリーの狙いは”ヒャッキの三大妖怪の封印”です。これが危険極まりありません」

「ヒャッキの三大妖怪……貴殿らがギガオーライズに使っていた……」

「そうだ。ヒャッキ地方をかつて統べていた3匹の強大なモンスターたちだ」

「ヨーカイ? ねえ転校生、ヨーカイって何?」

「バケモノの別の言い方かな」

「大雑把に言えばそうでござるな。ポケモンもかつて”妖怪”や”化生”として恐れられていた種がいた」

「成程ぉ。正体がよく分からないポケモンをそう呼んだんだね!」

 

 ヒャッキの世界には不思議な生物を”ポケモン”と呼ぶ概念が無い。

 故に、強大な存在である彼等は”三大妖怪”の名で知られていた。

 

「クロウリー達の目的は、三大妖怪を復活させること、かしら?」

「いいえ……三大妖怪は()()()()()()()()()はずです」

「え?」

 

 チャチャの言葉に、イクサは首を傾げる。

 

「どうして分かるんですか?」

「これは私の一族が口伝で代々伝えてきた昔話です」

 

 彼女は──語る。

 

 

 

 ──三大妖怪、ヒャッキの地を統べし最も強大な化生なり。

 

 ──妖怪たち、巫女と絆を結び、その地を守りけり。

 

 ──ある時、空の裂け目より禍の渦出でる。ヒャッキの大地を覆う瘴気の始まりなり。

 

 ──妖怪たちと、それを統べる巫女、その身を犠牲にして遠き島に災禍を封じたり。

 

 

 

「災禍を利用されないため、今まで私の一族以外にこの話は口外しないように言われていました。ですが今、まさに災禍は目覚めようとしているのです」

「……ちょっと待って。それじゃあなに? この地方って……まさか、三大妖怪以上の厄ネタが封じられてるってことかしら?」

 

 レモンは頭を抱えながら言った。

 

「そもそも、瘴気って何なんでしょうか? ざっくりとした概念で分からないですよ」

「今でこそヒャッキの空は晴れているが、前は酷かった。浴びれば人もモンスターも狂い悶え、凶暴化する。瘴気が満ちている場所は……人が住めない」

「……ねえ、転校生。なーんか聞き覚えがない? それって」

「……奇遇だねデジー。僕も覚えがあるよ」

「何よ二人共、察したような顔をしちゃって。ねえ、他に何か資料は無いのかしら?」

「当時、私のご先祖様が描いた秘伝の絵があるのですが──」

 

 そう言って、何処からともなくチャチャは掛け軸を取り出して、広げてみせる。

 

 

 

 

 ──烏。狐。獣鬼。

 

 

 

 三匹の妖怪が、島の周りを取り囲む。

 

 

 

 

 そこに座すは──頭から天に向けて光を放つ巨大な大蜘蛛であった。

 

 

 

 

「オアーッッッ!?」

「ブクブクブクブク……」

「あばばばばばばば……」

 

 

 

 

 当然。

 それを見て発狂するのは、オシアス組約3名。

 あまりにも突発的に見覚えしかない大蜘蛛を見て彼らは狂い悶えた。

 

「三人共ァーッ!? どうしたでござるかァ!?」

「い、いや、ちょっと見えちゃいけないものが見えた気がしましてェ……」

「ちょっと見覚えがあるけど見たくないものが見えたっていうのかしらね……」

「ボク……疲れちゃってェ……もう動けなくってェ……」

「そ、そうだ! 名前! そのデカい蜘蛛って何か名前があるんですか!?」

「え、ええ……確か王羅蟻亜棲(オウラギアス)と呼ばれていますね」

「おっごごごごごごごご」

 

 ばたばたと転がるイクサとデジー。レモンも胃を悪くしたのか腹を押さえて蹲る。

 最悪であった。最の悪であった。

 自分達が必死こいて封じ込めたものが、この世界にも封じられていて、おまけに──アホ共にその封をまた解かれようとしている。

 由々しき事態であった。彼等は激怒した。あの邪知暴虐なクロウリーという男を絶対に止めねばならぬ、と。

 

「三人共、どうしたでござるか! 仮にも同盟相手の前、ふざけている場合ではござらん!」

「ふざけてないよ!! 大真面目だよ!!」

「えっ、あっ、うん……」

 

 起き上がったデジーに胸倉を揺すられ、キリも反論するのを止めた。

 

「えーと、キリさん、驚かないで聞いてくださいね……多分クロウリーを止めないと、この世界どころか他の世界もまとめて滅びますね」

「あのバカでかい蜘蛛、私達一度戦ったことがあるのよ……デンジャラスだったわ」

「……多分、終わりの始まりって奴かなあ……うん……」

 

 結論は出た。

 瘴気=高濃度のオシアス磁気。

 三大妖怪が封じていた災禍=オーラギアス。

 即ち、かつてイクサ達が戦った星を蝕む呪いである。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 ──同時刻、サイゴク地方(メグル達のよく知る方)にて。

 

「いやー、参ったね。イクサ君たちを追って裂け目に入ったのは良いけどさァ」

「……()()()()()()()は一体この世界で何をやらかしたのだ」

「多分、相当ヤバイ事だと思う。町の人たち、死んだ人でも見るような目で僕の事見てたし」

 

 シャクドウシティに現れた裂け目。

 そこから降って来た彼らは、元居たサイゴクとよく知る場所に一先ず安堵していたが──町民に声をかけた瞬間に悲鳴を上げて逃げられてしまったのである。

 何のことだか分からない、といった顔で向かい合う二人。

 そうこうしているうちに──物凄い形相で、黒い毛皮に身を包んだヌシポケモンがすっ飛んできた。

 更に、それを追っかけるようにして現れたのは、博士にとっても見覚えがあり過ぎる人物であった。

 ただしこちらを見るなり、いきなりポケモンを嗾けて雷を落としてきたのであるが。

 

 

 

「ス、ストップ!! ストップ、ユイちゃん!! やめよう!! 先ずは話そう!!」

「よくもまあぬけぬけと戻って来られたわね……殺してやる、殺してやるわイデア博士」

「あーイデアよ。これ多分妾達死ぬぞ」

 

(マジでこっちの僕、何をやらかしちゃったのかなぁ!?)


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。