ポケモン廃人、知らん地方に転移した。【完結】   作:タク@DMP

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第14話:イデア・パラドックス

 ──アロハシャツに白衣の金髪オールバック、そしてサングラス。 

 胡散臭さが胡乱を纏ったようなこの男の名は──イデア。

 イクサが居た世界のサイゴク地方に於いては、ポケモン博士であり彼の心強い味方である。

 そして傍に立つ褐色肌にエキゾチックな衣装を身に着けた少女はミコ。

 その正式名称と正体はオオヒメミコ──オシアス地方のオーデータポケモンの一機であり、イクサ達の仲間だ。

 彼女は、人型の機体をサイコパワーで操作することで人間と意思疎通を図ることができるのだ。

 今この瞬間も本体はモンスターボールの中から、この少女型の身体をあたかも人間のように操作している。

 さて、イデアはイクサ達の留学の監督役であり、彼らのサイゴク巡りを支援していたのだが──事件は突如起きた。

 イクサ達が巨大な時空の裂け目に飲み込まれ、行方不明になってしまったからである。

 ミイラ取りがミイラになるのは覚悟の上。彼等も後から追いかける形で裂け目へ突入した。その結果、今に至る。

 しかし、此方のサイゴクの人間はイデアを歓迎しなかった。

 そればかりか──

 彼らの前に現れたのは、イデアも知るサイゴク地方のキャプテンの1人であり、彼の妻でもあるユイ。

 大好きな配信者に影響された青いオーバーサイズなコートに、稲光の走る目。

 そして鮮やかな金の髪。

 イデアも間違えるはずはない。若干自分が知っている姿よりも幼く見えるが、確かにユイだ。

 しかし──彼女は明らかにイデアに対して敵意を突き抜けて憎悪を向けているようだった。

 

(仮にも旦那さんなんだけどなぁ、僕!! もしかしてこの世界では破局してたとか!? 何でェ!?)

 

(殺す、コロス、コロス、殺すッ!! 何で今更顔を見なきゃいけないのよッ!!)

 

 ヌシポケモンである黒い体毛のサンダースまで引き連れたユイの癖っ毛は逆立っていた。

 サイゴクのキャプテン達は、各々が特化した技能や特殊能力を持つ。

 ヒメノが霊能力、ノオトが格闘術、キリが常人離れした思考能力。

 ならばユイが持つのは──ポケモンとの感応力であった。

 ギガオーライズせずともポケモンと心を同調させる事が出来るのである。

 彼女自身、これを自覚出来ているとは言えず、扱いこなせてはいない。しかし、話はシンプルだ。彼女の怒りに応じてポケモンもパワーアップする。単純だが強力な力なのである。

 従って、彼女が繰り出したキメラポケモン・パッチラゴンとパッチルドンの二匹は、既に彼女の怒りに呼応して咆哮しており、殺る気は十二分であった。

 

「あーと……パッチラゴン、パッチルドン……? 久しぶりだねぇ? 僕の事、分かる?」

「バッチララーッ!!」

「バッチルルーッ!!」

「うん……元気そうで何より!!」

「うずうずしてるんだから。この子達が、あんたの脳髄啄みたいってさぁ!!」

 

 同意するように二匹は咆哮する。ダメそうであった。

 超高電圧を帯びた嘴に貫かれれば一溜まりもない。

 このキメラポケモンたちは、太古のガラルの生態系における頂点であり、同時に──現代においては伝説のポケモンに匹敵する力を持つ怪物でもある。

 

「おい落ち着け小娘。我々は時空の裂け目からやってきたストレンジャー。このアロハシャツの胡散臭い男がこの世界で何をしたのかは知らんが、多分無関係だぞ」

「問答無用ッ!! 雷落としてやるんだからッ!! そこに居るあんたも同罪、なんだからねッ!!」

「おいイデアよ。コイツ、ヤバイぞ!! 何というか……話が通じんな!!」

「うーん、この思い立ったら止まらない暴走特急っぷり、まさにユイちゃんだなぁ……ッ!! 怒ったらマジでこんな感じ……いや、うちの嫁さんのがもっとマイルドかなあ」

「感心しとる場合か! てか惚気るでない! 別世界の本人が目の前に居るのだぞ!?」

 

 いきり立つパッチラゴンとパッチルドンは問答無用で”でんげきくちばし”を見舞おうとする。

 しかし、イデアが繰り出したガチグマによって二匹の嘴は掌によって受け止められてしまうのだった。

 否──この表現は聊か適当ではない。

 ガチグマでなければ受け止めることは叶わなかった。

 電気タイプを無効にするガチグマでなければ、高電圧の電気で焼き焦がされてお終い。

 無力化出来ているガチグマでさえ、その衝撃を殺せず、後ずさりしている始末だ。

 

「ガチグマを出してきたわね──”フリーズドライ”なんだからッ!!」

 

 パッチルドンの嘴が今度は超低温を帯びる。

 それにより、ガチグマの身体は掌から凍り付いていき、あっという間に氷像が完成してしまう。

 更に、そこにパッチラゴンが尻尾を振るい、叩きつけた。

 

「そして”ドラゴンテール”ッ!!」

 

 ガチグマは弾き飛ばされ、そのままイデアのボールの中へと入ってしまう。

 ”ドラゴンテール”は相手のポケモンを強制的に引っ込めさせる技だ。

 加えて氷漬けになってしまっているため、実質的にガチグマは戦闘不能に追い込まれてしまう。

 

「うーん……流石ユイちゃんだ、強すぎるなあ……」

「言っとる場合か! 妾も行く!」

 

 ミコは自らの本体──オオヒメミコをモンスターボールから繰り出す。

 彼女の胸に嵌めこまれた三角形の装飾品が浮かび上がり、オオヒメミコの胸に移る。

 同時に、オオヒメミコの瞳が緑色に発光し、全身にオシアス磁気が迸るのだった。

 これにより、オオヒメミコは完全に戦闘態勢に移行する。

 

「聞き分けのない小娘には、仕置きが必要だな!!」

「くしゃとりゃ!! ピピピピピ」

「センセイ、頼むよッ!!」

「どぅーどぅる」

 

 横にはイデアの相棒・ドーブルが並ぶ。

 これで2対2だ。

 しかし、横でヌシポケモンであるサンダースだけは、何かを見定めるようにしてジッとしているのだった。

 

「センセイ!? 生きてたの!?」

「何!? センセイ死んだの!?」

「どぅ!?」

「この世界は何が起きたのだ……イデアよ。いちいち振り回されていたら敵わんぞ」

「そうだけど、気になるよねえ!?」

「どうだっていい! また地獄に送り返してやるんだからッ! パッチラゴン、パッチルドン、”でんげきくちばし”!!」

 

 嘴に超高電圧が迸り、二匹は猛進して突撃する。

 一方のドーブルとオオヒメミコも迎撃の態勢に入るのだった。

 ドーブルが”リフレクター”を展開して攻撃を受け止める準備を整える。

 そしてオオヒメミコは空から雨のようにレーザーを降り注がせるのだった。

 

 

 

【オオヒメミコの サイコイレイザーッ!!】

 

 

 

 キメラポケモンたちは体を貫かれていき、更にそこへドーブルが”キノコのほうし”をばら撒く。

 あっと言う間に二匹は無力化され、そのままいびきを立てて寝てしまうのだった。

 

「そ、そんな!? こうなったら──ヌシ様ッ!!」

「ビッシャァァァァァーッン!!」

 

 ズドン、とユイの傍に──雷が落ちる。

 びくりと彼女は震えた。

 彼女の怒りを諫めるかのような振る舞い。

 そして、それ以上攻撃することはなく、サンダースは──ユイの前に立ち塞がるのだった。

 これ以上の争いは無意味である、と言わんばかりに。

 

「ッ……ど、どうしてヌシ様……」

「ほう、どうやらポケモンの方が聞き分けが良いようだな」

「ミコさん、その言い方は悪役っぽいからやめようね!?」

「失礼な! 本当の事を言ったまでであろう!」

 

 そんな矢先だった。

 ユイのスマホロトムが飛び出す。クワゾメの”すながくれ忍軍”からの緊急の連絡だった。

 

『ユイ様、イデア博士は確かに収監されており、手持ち達も保護先に居るとのことです。何かの間違いでは……!?』

「──ッ!? そんなはずない! あれはイデア博士! 間違いないんだから! ガチグマも、センセイも居るんだから!」

『気持ちは分かりますが、此処最近の事件と関連付けると……時空の裂け目を通って現れた別世界の住人では……? だとすれば、幾ら相手があのイデアであっても攻撃は待った方が──』

「そんなバカな──」

「一度話を聞いてくれないか、ユイちゃん。僕達は君と戦いたいわけじゃない。助けたい人が居てここに来たんだ」

「ッ……その口であたしを呼ぶなッ!!」

 

 甲高い叫び声が虚ろに木霊した。

 ユイは──崩れ落ちる。

 目の前にいるイデアを見ると、揺らいでしまう。

 忘れよう忘れようと思っていた思い出が、蘇ってしまう。

 

「……何でなの……何で、今更出てくるのよ」

「……ユイちゃん」

「その顔で、その姿で、”ユイちゃん”って呼ばないでよ……!!」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 ──アロハシャツに白衣の金髪オールバック、そしてサングラス。 

 胡散臭さが胡乱を纏ったようなこの男の名は──イデア。

 メグルの居るサイゴク地方に於いては、ポケモン博士であり、彼の心強い味方──だった。 

 その正体は、500年前にヒャッキから伝説のポケモンを持ち去り、戦禍と災禍の元凶となった男・イデ。

 ホウオウの炎に焼かれたことで不死身となった彼は、サイゴクのおやしろに罪を擦り付けて、ヒャッキとの戦争が起こる原因を作り、自分は隠遁。

 そして500年もの間、名前を変えてホウオウとルギアを再び手中に収めるチャンスを伺っていたのである。

 メグル達を裏切り、二匹の伝説を揃えたイデアは、サイゴク地方を面白半分で蹂躙。

 しかし──結局、メグル達の手で伝説は鎮圧され、彼は相棒のドーブルを失い──発狂。

 そのまま相棒が居ない永遠の時間を過ごすことになったのである。

 

「──えっ、クソ野郎じゃん僕……」

「全部事実ね。本人から聞いた話や、メグルちゃんの証言、その他諸々を総合すると……こう言う事ね」

 

 化粧の濃いリーゼントのオネエさんの言葉に、イデアは項垂れるしかないのだった。

 所業を挙げれば挙げる程、紛うことなきクソ野郎であることが浮き彫りになっていく。

 ユイが「殺す」と宣言するのも無理はない、と彼は頭を抱えた。

 

「胡散臭さが胡乱を纏っているのはどの世界線でも変わらんのだな、オマエは。だから信用されんのだろう」

「別方面から刺してくるじゃん」

「ワタシも正直信じられない所があるけど……でも、ヌシ様が攻撃を止めたってことはそういうことよね。あの子賢いから」

 

 結局駆け付けたのはベニシティのキャプテン・ハズシ。

 彼が仲裁役となり、この場を取り仕切ることになったのである。

 尚、当のユイはすっかり寝込んでしまっており、魘されているのだという。

 

「私達もイデアちゃんの事は複雑だけど、それは今いる貴方には無関係だものねエ、多分」

「多分って付けないでおくれよ……ハズシさんに塩対応されるの心にクるものがあるからさぁ」

「あら。ワタシって、あっちでも元気にしてる?」

「それは勿論。相変わらず皆のオネエさんやってるよ」

「少し安心したわ。ワタシは何処の世界でも変わらないのね」

「そうかい……僕はショッキングで仕方ないけどね。違う世界の自分がクソ野郎だって言われても、僕にはどうしようもないじゃんかさあ」

「でも、アナタの言う事も少し分かるのよ。話してて分かるわ。アナタ、私達の知ってるイデアとはこう……何かが違う気がするのよ」

「1つ、今の話で気になったことがあってね。イデってのは……僕の遠いご先祖様ってこと。後、僕の知ってるサイゴクは、そのヒャッキという世界に纏わる一連の事件は起こってないってことだ」

 

 そもそも、一見並行世界上の同一人物に見えるイデアたちだが、実際には彼らは顔が似た親族でしかない。

 500年前にホウオウの炎に焼かれたイデは、イデアと名乗って現代でポケモン博士として活動していた。

 しかし、イクサ達の居た世界のイデは、500年前にヒャッキにそもそも行かなかったのである。その為、普通に子孫を残し、天寿を全うしたのだ。

 結果。今此処にいるイデアは──並行世界上のイデの遠い子孫。同じ名前の別人なのである。

 

「成程ねえ。そう言えば、異世界から来たっていう子達も、ヒャッキなんて知らないみたいなこと言ってたわね」

「ッ!? 彼らに心当たりが!?」

「直接対面したわけじゃないけどね? 確か名前は──イクサちゃん、レモンちゃん、デジーちゃん……だったかしら?」

「ビンゴだハズシさん! 僕らは、彼らを探してこっちにやってきたんだ」

「裂け目に飲み込まれてしまってな。何とか元の世界に戻してやりたいのだが」

「彼等はヒャッキに行ったわよ」

「ウソォ!?」

 

 イデアは仰け反りそうになった。

 話を聞いていくと、今こうして起こっている時空の裂け目関連の事件を解決するため直接出向いたのだと言う。

 

「何という無茶をしてくれるんだ彼らは! オーラギアスを倒せたからって何でもできる訳じゃないだろうに! まだ子供なんだぜ!」

「良くない予感がするな。イデアよ、我々も急ぐぞ」

「急ぐって、まさかアナタたちもヒャッキに行くつもり?」

「勿論。僕は──イクサ君の保護者みたいなもんだからね。大人である僕が助けてあげなきゃダメでしょ」

「……やっぱりアナタ、私の知ってるイデアとは少し違うわね」

「え?」

「あの人放任主義だったし、滅多に熱いところを見せなかったわ」

 

 

 

「そいつを信用しちゃダメなんだから、ハズシさん……ッ!!」

 

 

 

 よろけながらユイが入ってくる。

 ぎょっとした顔でハズシは振り返った。

 顔色が悪い。一連の出来事で精神的に摩耗しているのは明らかだった。

 しかし、イデアへの敵愾心は強まる一方なのか、彼を思いっきり睨み付ける。

 

「そいつを信用した結果どうなったか知ってるでしょ!? メグル君も、皆も、ソイツに騙された!!」

「あのねぇ……気持ちは分かるわ。私も半信半疑よ」

「半信!? あたしの前で半分でもソイツを信じられる神経が分からない! またそいつが最後になって裏切ったら、誰が落とし前を付けるのよ!」

「……参ったなァ」

 

(流石に精神的にクるものがあるなあ……)

 

 世界が違えど、伴侶になる相手に此処まで言われると流石のイデアも参るものがあった。

 

「あたしは反対!! 反対なんだから!! さっさと元の世界に帰らせてよね!!」

 

 ばたむ、と大きな音を立てて彼女は襖を閉めて出ていってしまった。

 それを見て──ハズシは大きなため息を吐く。

 

「ごめんなさいねぇ。でも正直、私もアナタを疑ってる」

「いや、むしろ疑ってる割にすっごく親身になって聞いてくれるじゃない、ハズシさん」

「そりゃあね。何でかしらね……私もイデアちゃんの事はショックだったし、仲良くしてたからね……情が捨てられないのよ」

「……そうかい。勿体ないことしたんだな、こっちの僕は」

「ユイちゃんだって同じ。博士からポケモンを貰って旅に出たんだもの。おやしろめぐりの頃は、ことあるごとに博士博士って言ってたわ」

 

 ──博士はいっつもぐうたらだけど、何だかんだ最後に頼りになるのは博士なんだから!

 

「信頼してた分、憎さ数倍か。罪な男だなあ。なあ?」

「何で僕を見て言うのかなあ!?」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「……何で今更出てくるの」

 

 

 

 外の空気を浴びたくなったユイは──暗い顔のまま町中を歩いていた。

 遠い空には裂け目が開いているのが見えるが、自分にはどうする事も出来ない。

 別の世界からやってきたイデアの真意を確かめる事も、そして自分がよく知るイデアの真意を知ることも叶わない。

 イデアに寄せていた思いは、年上の頼れる大人としての思慕だった。

 父が早くに亡くなった後、キャプテンになりたいと思ってもなれなかった苦悩の期間の間、支えてくれたのは彼だった。

 それが──あの日、全部裏切られ、ウソだと吐き捨てられたような気がした。

 今更どうすることも──出来ない。

 涙がじんわりと出てくる。

 もう忘れるつもりだったのに、今になって全く同じ顔の彼が現れて──ユイは胸が痛んだ。

 

「……どーでもいい。もう、どーでもいいんだから。あんな奴……」

 

 そう言って目を伏せたその時だった。

 

 

 

「──?」

 

 

 

 パキ、パキパキ、と硝子が割れる音がした。

 後ろを振り返ると──そこには裂け目が現れていた。

 

「ウッソでしょ、こんなところまで!?」

 

 その中からは巨大な丸っこい土偶のポケモンが何匹も飛び出してくる。

 いずれも、その頭には龍の形をした飾りが付けられており、浮かび上がる腕も竜の頭を模している。

 そして、その身体からは赤い粒子が湧きだしており、明らかに異質さを放っていた。

 

「ネンドール……のリージョンフォームか何か!?」

「どぐりゅりゅりゅりゅ……」


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