ポケモン廃人、知らん地方に転移した。【完結】 作:タク@DMP
第21話:そもそもカセキ復元マシンの原理が謎
──石商人の少女・アルカのポケモンバトルに「危げ」の言葉は無い。
「ごめんねー、おにーさんっ。ボク、ポケモンバトルすっごく強いんですよねー」
「な、なんだこのガキ……!!」
「わ、分かった!! 悪かった!! 悪かったから、見逃してくれ!!」
「じゃあ……ダすものダしてください。分かってますよね?」
うんうん、と路地裏の荒くれものたちは首を縦に振り、札束を握り締めて彼女に渡す。
「まいどーっ♪ カブトもご苦労さんですっ!」
「ピギィ」
【カブト こうらポケモン タイプ:岩/水】
下手人は──こうらのようなポケモン・カブトであった。
カゲボウズ、ドガースといった荒くれものたちの手持ちを屠ると、再びそこが定位置だと言わんばかりにアルカの背中に張り付いてしまう。
ひーふーみーよー、と札束を数える彼女は、ぺろり、と口元を舐めた。ポケモンバトルでは、勝者に賞金が支払われる。落とした財布の分には敵わないが、当面の旅費は工面できそうだった。
怯えたスキンヘッドのトレーナーたちは彼女に道を譲る。
そこに居た全員が、アルカに倒されたのだ。抵抗など出来るはずがなかった。
(あのおにーさんには感謝しなきゃ。腹が減ってたらポケモンバトルどころじゃなかったし。また会えると良いなー)
悪魔のような笑みを浮かべ、アルカは路地裏を去る。
(──さーてと。目指すべきは──ベニシティ……だったかな!)
※※※
『コハクタウン─変わらぬ自然の遺物は、文字無き古文書』
──ベニシティへの道は非常に遠く、険しいため、セイランシティから電車に乗っていくのが手っ取り早いと言われている。
実際、山口県の西の端・下関市から広島県の中央である広島市に行くようなものだから、徒歩などもっての外であったし、仮に徒歩で行く場合サイゴク山脈の鬼の如く強い野生ポケモンと戦うことになるだろうとのことで、少なくとも証を一つしか持っていないような新人が通って良い道ではないのだという。
加えて、試練の難易度は持っている証に応じてキャプテンの裁量で変わる。そのため手持ちを鍛える、ないし新たな手持ちを手に入れなければ突破することは難しい。
そうでなくとも、またテング団の介入といったイレギュラーな事態が起こらないとも限らない。
道中が実質無いも同然ならば寄り道してでも手持ちのレベルを上げなければ話にならない。
そこで候補に挙がったのは──コハクタウン。セイランシティの北東に位置するこの町は、化石の産出地として知られており、”トゲトゲ洞”と呼ばれる鍾乳洞はトレーナーの修行の地としても有名だ。
だが、メグルからすれば何が何でも手に入れたいのはやはり「ポケモンのカセキ」であった。
(で、化石の産出地に来たからには──
──この世界に於けるポケモンの化石──もとい
何故普通のポケモンの死骸は復元しても生き返らないのか、何故カセキならば復元すると生き返るのかは定かではないが、長年地中にいたことで復活する条件が整うでは? とメグルはざっくり考えている。
そもそも普通のポケモンですらカセキ以外の方法で生き返る、生まれ変わる事があるので(ドラメシヤやガラルサニーゴ、一部の伝説のポケモン)、最早ポケモンとはそういうものであり、深く考えてはいけないのかもしれない。
閑話休題。
当然、コハクタウンでもポケモンのカセキが見つかることがあり、コハク博物館にはカセキ復元装置もあるのだという。
となれば、カセキさえ見つかれば必然的にカセキポケモンは手に入るという事であった。が。
(──見つかるわけが無かった!! カセキなんてそうそう簡単に!!)
コハクタウンでは一般向けに化石採集場が開かれている。
しかし所詮、一般人の掘り出すことの出来るカセキなどたかが知れているのだ。
例えば古代の植物の化石も立派な化石である。
そして仮に見つかったとして、それがよく分からない小さな虫の化石だったり、復元しようがないような小さな爪だったり骨だったりしても文句は言えないのである。
つまり、化石はよく見つかるが復元するに足るカセキが見つかることはやはり稀なのであった。
(だ、ダメだ……石を割れども割れども、植物しか見つからねえ……!)
「わぁー、すごいですねー♪ 初めてでそんなに見つかる人はそんなにいないですよ~♪」
(博物館の係員のお姉さんが気ィ遣ってめっちゃ褒めてくれるけど……ッ!!)
「あ、あの……ポケモンのカセキって出るんですか……? てか、どんなカセキが見つかるんですか……?」
「えーと、オムナイトやカブトみたいな水産ポケモンが殆どですねー。大昔、この辺りは海だったようですよ」
「ほ、他には?」
「実はリングマやオドシシのような現生種の骨が見つかることもあって。ただ、彼らは復元装置に入れても復元できないんですよね」
「何でなんでしょうね。イマイチそれが分からないんですが」
「カセキになるには、年月が足りていないようなんですよね。それでも100年くらい前の地層だったみたいですけど」
「ふーむ……やっぱりそうなのか……」
「あ、因みにそれはリーフの石ですよ」
「えっ」
メグルは二度見する。
曰く、植物の化石がポケモンの進化に関わるアイテムとなることもあるのだという。
メグルが採掘した植物の化石は、草タイプのポケモンの進化に関わるリーフの石と呼ばれるアイテムだったのである。
「プッキュイ!」
「えっ」
見ると、頭の上に乗っかっていたイーブイがリーフのいしに手を伸ばそうとする。
さっとメグルの顔から血の気が引いた。イーブイは──リーフの石に触ると草タイプのリーフィアに進化するのだ。
しかし、メグルはイーブイの進化はじっくり選ぶと決めている。うっかりここで進化されたら堪ったものではなかった。
「ダメダメダメ!! まだ早いからダメ!! お前の進化先沢山あるんだから、もっとじっくり選ぼう!? な!?」
「プルルルッキュイ」
「そんな顔してもダメ!! せめて進化の石全部揃えてからだ!」
「……プッキュルルル」
「わぶっ!?」
狂暴毛玉はあろうことか頭にへばりついておねだりをしてくる始末。
体感、ユイと別れてからはイーブイが甘えてくる頻度が増えたと感じるメグルだった。
ワガママも増えたが、それ以上に気を許しているかのような態度が増えたような気がする。
進化を渋る彼に猛抗議しているが、無理矢理リーフの石を奪い取るようなことはしない。
「お前の攻撃的な性質は、物理攻撃の高いリーフィア向きではあるけど……」
「攻撃的なリーフィアって想像するとイヤですね……なんか……」
「お前進化したら死ぬまでその姿で過ごさなきゃなんだからな? 後から変えられないんだからな?」
「プルルルル……」
(そもそもリーフィアって晴れ前提のスペックな所があるからな……タイプは数が多いから選択肢も多い。一先ずリーフの石は保管しとこ)
「あ、悪戯防止に石用のケースがあるんですけど、博物館で買っていきます?」
「是非ともお願いします」
「プッキュルルル!?」
係員のお姉さんの提案で、メグルは石用ケースを購入したのだった。1000円くらいだったが、鍵付きの頑丈かつ立派なモノであった。
※※※
「プーキュルルル」
「ふが!! ふがふがふがふが!!(すいませーん!! 誰か退けてくれませんかね、この凶悪毛玉!!)」
石をケースに仕舞って鞄に入れた辺りで、イーブイは顔面にへばりついてしまうのだった。
目が見えないので、ボールビームを撃つことも出来ない。
「分かった!! 分かるよ、お前の気持ち!! 強くなりてーんだろ!! だからさっさと進化してーんだろ!! でもな、イーブイには8つの進化先があるんだ、簡単に進化したら絶対後悔するんだからな!?」
「プッキュルルル!!」
「良いか、此処に8つのイーブイの進化系がいます!!」
無理矢理毛玉を押しのけ、メグルはセイランシティで購入したイーブイの進化系が描かれたタペストリーを目の前に出した。
「イーブイは──お前は誰に進化したい?」
「プッキュイ?」
イーブイは非常に遺伝子が不安定なポケモンだ。
そのため、環境や状況によって全く違うタイプのポケモンへと進化する。
──水タイプ・あわはきポケモンのシャワーズ。
──炎タイプ・ほのおポケモンのブースター。
──電気タイプ・かみなりポケモンのサンダース。
──エスパータイプ・たいようポケモンのエーフィ。
──悪タイプ・げっこうポケモンのブラッキー。
──草タイプ・しんりょくポケモンのリーフィア。
──氷タイプ・しんせつポケモンのグレイシア。
──フェアリータイプ・むすびつきポケモンのニンフィア。
この8体だ。
ハッキリ言って、道徳的な面ではイーブイの望む姿に進化させてやりたいのがトレーナー心である。
しかし、メグルの知るポケモンの世界において、この8体にはハッキリと明確な性能差が存在するのである。
イーブイの進化系の種族値は、同じ数値を入れ替えたものになっている。そのため、是が非でも良い配分のポケモンとあまりよろしくない配分のポケモンが生まれてしまうのだ。
そしてその全てが単タイプであること、覚える技の範囲も違うことから、やはりそこで性能に違いが生まれてくる。
(どんなポケモンも……タイプと種族値、習得技……この3つのステータスからは逃れられない……絶対に……!!)
これが、メグルの持論であった。
どんなに種族値が良いポケモンであっても、タイプや習得技が微妙だと活躍できない。
一方で、種族値が低いポケモンであってもタイプや習得技によっては思わぬ活躍が出来ることもある……それがポケモンだ。
廃人心としては、耐久に優れており技範囲も優秀なシャワーズかニンフィア、そしてブラッキーをメグルは推す。
または、高速アタッカーとして優秀なサンダースかエーフィだ。
(ブースターは足が遅く、耐久も低い。火力はあるけど、やはり他に優秀なポケモンが多い炎タイプなのが痛い。リーフィアは天候前提のスペックだし、草タイプも層が厚く、わざわざイーブイから進化させたいかと言うと……うーん。グレイシアもリーフィアほどじゃないが、やはり天候前提……!)
どうしても、ブイズで進んで進化させようとなると、この5匹が候補となってしまうのである。
そしてブラッキーは攻撃性能が低く、対戦では使いやすいが旅パでは使いづらい。
こうして絞られたのは、結局4匹。
(や、分かるよ? 旅パなら性能なんて気にしなくていーじゃんって気持ちは分かる。俺も出来ればそうしたかった。だけど──サイゴクの自然環境は過酷!! あまりにも!!)
ポケモンが生きているこの世界で、あまりポケモンを数値として見たくはないところもあるメグルであったが、どうしても手持ちの強さは生存率に直結する。
これまで、何度も危険な相手と戦っている以上、強い進化系に進化させてやりたいと思うところもある。
廃人魂はそうそう簡単に治るものではない。むしろ生き方と考え方にこびりついているのである。そもそもポケモンを見ただけで種族値がパッと浮かび上がるような人種なのだから、土台無理な話であった。
(俺はどうすりゃいいんだ!! 性能で見るべきか? お前のやりたいように進化させるべきか! 加えてコイツの性格も考慮しないとだよな……)
イーブイの攻撃的な性格や性質を考慮した場合、最も向いているのはブースターかリーフィアとなる。逆に遠距離攻撃を主体とし、技を使う側の精神状態がモロに影響するエーフィやニンフィアとはあまり噛み合わず、耐久が高くとも攻撃力が低いブラッキーは候補から外れてしまう。
もっと言えば、イーブイの「やんちゃ」な性格は物理攻撃が上がりやすくなるため、猶更ブースターやリーフィアが向いているのである。しかし、防御力が下がってしまうので元より防御力を捨てているブースターの方が相性が良い。それが最良の選択かはさておき。
(ブースターはなァ……俺には扱いこなせる気がしねえよ……体力が低いのと素早さが遅い所為で”フレアドライブ”を1回撃ったら瀕死になりかける未来しか見えない……)
結論。
特攻が下がるような性格でもないので、特殊技を主体とする進化系でも良しとすることにしたメグルであった。
「……で、お前はどれに進化したいんだ?」
「プッキュルルル?」
「だろー? 今すぐには決められないだろ」
首をかしげてしまったイーブイ。
どうやら彼女も、今はどれに進化すれば良いのかは分からないようだった。
(……やはり俺の一存で決めて良いとは思えない……しかし……!! うっかり進化させた結果、強敵相手に苦労するのは、俺とイーブイ、そして他の手持ち達……!!)
愛でて終わりならば、それで良かろう。カジュアルな対戦で使うのも良かろう。それをメグルは決して否定しない。
しかし、このサイゴクの旅では──メグルはこの過酷な自然の中で生き残らなければならない。真っ先に頼りになるのはポケモンとなる。
であれば、ある程度ポケモンを性能で選ぶのも許されて然るべきではないだろうか、と彼は考える。
──メグルは再び採集場に足を運ぶ。
他の進化の石ないしカセキが見つかる事を期待して。
※※※
「もー無理、バテた……」
メグルは大の字になって地面に転がる。
あれから2時間。日はもうすぐ暮れそうだ。
にも拘わらず、一向に何も収穫は無かった。
向こうの方から「すっげー!! これ”ひみつのコハク”じゃね!?」「これ水の石じゃね? パねー!!」という声が聞こえてきた時は殺意さえ湧いた。
「──ぷっきゅるるるっ!」
「笑ってんじゃねえ! オメーの進化する石なんだぞ!」
「ぷっきゅるるる」
寝っ転がるメグルの顔面に、イーブイがへばりつく。
呼吸が出来なくなりそうになるので引き剥がそうとするが、なかなか離れようとしない。
首のモフモフが鼻も口も塞ぎ、命の危険を感じたので、
「だーっ!! モフモフで殺す気かオメーは!!」
起き上がり、凶暴毛玉を何とか振り払うのだった。
ぽてっ、と地面に落ちたイーブイは拗ねてしまったようにそっぽを向いてしまう。
「良いかオメー、スキンシップにしたってもっとやりようってモンがな」
「プッキュルルル」
「聞く耳持たずか……」
「……プルル?」
その時だった。
イーブイがふと、空を見上げる。
ピン、と警戒するように耳を立て、身構える。
あまりの切り替えの早さに、メグルは彼女が何かを感じ取ったのだと気付いたが──周囲を見回してもポケモンの気配は感じられない。
「イーブイどうした? 悪い冗談は止せ」
「……プッキュルルル……!」
「月でも気になるのか……?」
彼女の目はじっと空を見据えている。
そこには、白昼月が西の空から浮かび上がっている。
(そう言えば、おかしいよな)
──月は東から空へ昇り、西に沈む。
それが元居た世界の常識だ。
しかし、今メグルが見る限り月は
(そういやLEGENDSアルセウスの攻略本にもあったな。月は西から昇って東に沈む……って。ンなバカなって思ってたが……この世界ではそれが当たり前なのか)
薄っすらとした知識でメグルは思案する。
そもそも、”つきのいし”でポケモンが進化したり、月の光で不思議な力を得るポケモンが居る。
この世界における”月”は、明らかにメグルの知るものとは大きく異なる。
そう言えば──この間、赤くなったのも月だったな、と考えた矢先だった。
「プッキュルルルル……ッ!!」
イーブイが警告するように甲高く鳴き、毛が大きく逆立った。
周囲の空が赤暗く染まっていく。
そして、薄白かった月が──カッとペンキをぶちまけたように赤くなったのだった。
さっ、とメグルの顔から血の気が引いた。
ヤミカラスが怯えたように逃げる鳴き声が聞こえ、バサバサと飛び立つ羽根音が遅れてやってくる。
「……赤くなった……!? 嫌な予感がしてたってか……!?」
「プッキュルルルルル……!」
(とっとと帰るに限る……こないだみたいに、デンジャラスな野生ポケモンが出てくる前に──)
そう言えば、まだイデア博士から、この赤い月現象について何も報告を貰っていないことにメグルは気付いた。
分かっているのは、先のムウマージのような凶暴化した強力な個体のポケモンが何処からともなく現れるということである。
従って、早めに安全な所に退避するに限る、と判断するメグルであったが──
「嫌ーッッッ!! 助けてェェェーッ!?」
……耳を劈く事件性のある悲鳴。
どうやら帰りたいとは言ってられないようであった。
【サイゴク地方観光ガイド・コハクタウン】
切り立った崖と岩山に囲まれた町。大昔は海だったため、ポケモンのカセキがよく産出される。化石採集場は考古博物館が管理しており、一般のトレーナーでも採掘することが出来るエリアが存在する。トゲトゲ洞と呼ばれる鍾乳洞が有名。
主な施設
・コハク考古博物館
・トゲトゲ洞
・化石採集場