ポケモン廃人、知らん地方に転移した。【完結】   作:タク@DMP

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第22話:この頭で「虫」と言い張るのは無理がある

「ギッシャラララーッッッ!!」

 

 

 

 

 大木が音を立てて倒れる。

 切断面は綺麗で、鋭利な刃物でばっさりと一掻きであった。

 その様を目にすれば悲鳴が飛び出し、恐怖で立てなくなるのも無理はない。

 

「ひっ、ひぃっ、助け──ッ!!」

「ギィッ……!!」

 

 その悲鳴を聞けば、当然獲物の鳴き声と狩人は感知するだろう。

 ずっ、と地面を蹴るだけで残像の残る速さで標的の前に現れ、鎌を振り上げる。 

 目に鮮烈な赤い残光を残しながら──

 

 

 

「──イシツブテ、いわおとしだッ!!」

 

 

 

 ──頭に岩が落とされるのだった。

 しかし、危機を察したのか下手人はその場から消え──気が付けばメグルの目の前にまで近付いている。

 

(速ッ……!? 避けた上に、こっちの方まで……!?)

 

「ひえええっ……!! 今のうち今のうちッ!!」

 

 慌てて逃げていく白衣姿の男。

 研究員だろうか、とメグルは判断する。

 本来なら化石採集場には野生ポケモン──それもこのような危険な種類が現れるはずがなく、面食らってしまったのだろう。

 突如現れた脅威を前にして腰を抜かしてしまったのか、這うようにしてその場を離れるのだった。一方、肝心の襲撃者と言えばメグルに照準を合わせ、威嚇するように鎌を振り上げる。

 

「ギッシャラララ……ッ!!」

「出たね……!」

 

 

 

【ストライク かまきりポケモン タイプ:虫/飛行】

 

 

 

 

(H70A110B80C55D80S105……恐ろしく速い動きに幹を斬るほどの威力、流石ストライクってところか……!)

 

 ストライクは、トカゲのような頭を持ちながら腕にはカマキリのような鎌を持つ変わったポケモンだ。

 腹部は昆虫のように長く伸びているものの、脚部は爬虫類のように鋭い爪が付いている。そして、小さいものの羽根が背中からは伸びているのだった。

 素早い動きで獲物を切り付け捕食する習性を持ち、ステータスは元々非進化ポケモンというだけあって強力だ。

 岩タイプの技を受ければ4倍のダメージこそ喰らってしまうが──当たらなければどうということはない。

 如何にして、この捕食者の攻撃を避け、そして攻撃を当てるかがメグルにとっての課題となる。そのためには先ず、素早さで同じ土台に立てねば話にならない。

 

「イシツブテ──ロックカットで素早さを上げて、食らいつけ!」

 

【イシツブテの素早さがぐーんと上がった!】

 

 身体の表面を磨き上げ、速度を上げたイシツブテは飛び出し、ストライクに掴みかかる。

 岩の身体が相手では、ストライクの刃も切り裂くには至らない。

 互いに間合いを突き放し、両者は睨み合う。

 

「ギッシャラララ……!」

「ッ……やっべぇヤツ……!! 苦手なタイプ相手でもまともに戦えるのか……だけど、猶更()()()()()()ッ!! イシツブテ、”たいあたり”!!」

 

 突貫するイシツブテ。

 しかし、残像が残るほどの速度でストライクはそれを躱してしまう。

 

「マジかよ……!!」

「ギッシャラララッ!!」

 

 脅威に足らず、と今の一瞬で判断したのだろう。

 間合いを詰めたストライクは、司令塔たるメグルを目掛けて鎌を振り上げる。

 途中、イシツブテが抑え込もうと飛び出したが、あと数歩でメグルの喉笛目掛けて刃が届く。

 

「──やっば──ッ!!」

 

 故に。

 ストライクは、メグルの手に握られているものを全く警戒していなかった。

 咄嗟に、身を守るようにしてメグルはボールを喉元に持って来て──ボタンを押す。

 ぽんっ!! と音を立てて、それは中から飛び出した。

 

 

 

 

 

「プッキュルルルルルッ!!」

 

 

 

 

 ──クリーンヒット。

 

 

 

 ストライクの頭を吹っ飛ばす勢いで、強烈な頭突きが炸裂した。

 思わぬ不意打ちと、脳を揺さぶる衝撃に襲撃者は悶え苦しむ。

 そして、当たり前のように着地した凶悪毛玉は、倒れ伏せたストライクにガンを飛ばすのだった。

 やはりこのイーブイ、普通ではない。

 

(イシツブテの岩技を使えば一撃で倒せるけど、それじゃあ捕まえられねえ……! 此処は頼むぞイーブイ!)

 

「ギッシャラララ……!!」

「キュルルルル……!!」

 

 睨み合う両者。メグルもそこに割って入る勇気など無く、イシツブテをボールに引っ込め、その対決を見守る。

 先に動いたのはストライク。

 摺り足で一気に間合いを詰め、必殺の鎌をイーブイ目掛けて振り下ろす。

 しかしイーブイも速い。見切ったと言わんばかりに、ストライクの股下に潜りこみ──

 

「──電光石火!!」

 

 ──メグルの声に合わせて、背中に強烈な頭突を喰らわせる。

 が、その姿は幻のように掻き消えてしまうのだった。

 

「んなっ、当たらないのかよ今のも──!?」

 

(──って、そりゃそうか!! さっきのは俺という標的に向かってきたところを運良く迎え打てただけで、こいつの素早さは尋常じゃない……!!)

 

 

 

 

【ストライクの 影分身!!】

 

 

 

 

 遅れて、周囲には大量のストライクの残像が現れる。

 当然、どれが本物かは一瞬で見分けがつくはずもない。

 イーブイを本気で倒すべき敵と認めたストライクは、彼らを打ち倒すべく大量の残像で一気に切りかかる。

 素早い斬撃がイーブイを襲う。

 速度故に正確性を欠き、一撃一撃は致命傷にはなりはしない。

 しかし、確かにその精度は敵の居場所を捉えるごとに増していく。

 刃の切れ味と共に。

 

「キュルルルッ……!!」

 

 斬られた場所から鮮血が飛び散り、いよいよメグルは、幾ら凶悪毛玉でも真っ向勝負でストライクには敵わないことを察する。

 

「イーブイ、チェンジ!! 出番だオドシシ!!」

 

 ──ならばこちらも、元非進化ポケモンで相手をするまで。

 屈強なオドシシが相変わらず残像を展開したままのストライクを迎え撃つべく、メグルの傍に降り立つ。

 間合いを見計らっているストライクだったが、いよいよ獲物2つがまとまっているのを見てまとめて始末に掛かるべく、カチンカチンと鎌を鳴らしながら狙いを定めた。

 

「良いかオドシシ。残像が幾つあったところで、本物は1つ。そして、そいつは今この瞬間も虎視眈々と俺達を狙っている」

「ブルルルルゥ……!!」

「つまり、俺達を見ていなきゃいけねえんだ……分かるな?」

 

 オドシシが頷く。

 ストライクが、残像を引き連れて赤い眼光を残し──飛び掛かった。

 しかし。

 

 

 

 

「──さいみんじゅつ!!」

 

 

 

 

 ──襲い掛かるということは、()()()()()()()()姿()()()()()()()()()()()()()ということ。

 つまり、目を逸らすことが許されないということ。追う側である捕食者の宿命である。

 故にストライクは、()()()()()()

 こちらを視認しなければならないが故に、是が非でもそれに引っ掛かるしかなかった。

 オドシシの催眠術は、角を目玉に見立てて相手に暗示をかけるというもの。

 幾つ残像を生み出したところで、向かってくる本物はそれを視認しなければならず、それは自ら催眠に掛かりにいくようなものだった。

 まさに、攻撃の瞬間こそが最も無防備になる瞬間だったのである。

 

「ギッシャッ……!?」

 

 ぐらり、と身体が揺れ、残像が消える。

 ストライクの身体は地面に倒れ──メグルの目の前まで滑り込んで来る。

 それを見逃す彼ではない。

 すぐさま、その後ろ頭にモンスターボールを叩きつけるのであった。大きな体が小さなボールへと吸い込まれていく。

 

「ッ……頼む。マジで入っててくれ……!!」

 

 メグルは懇願しながらその場から離れ、息を潜める。もしも飛び出してくれば、次こそ自分の命が危ない。

 かくん。かくん。かくん。

 ボールは音を立てて揺れ──そして、静かにカチッとロックが掛かるのだった。

 

 

 

【やったー! ストライクを捕まえたぞ!】

 

 

 

「っしゃーッ!! ストライク、ゲットだぜーッ!!」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 

「いやぁ、さっきは助けていただき、ありがとうございましたぁ」

 

 

 

 赤い月はすっかり元に戻っており、先程の白衣の男はお礼を言いにメグルの元へ戻ってくるのだった。丁度、イーブイの傷の手当をしていた彼は立ちあがると「いえいえ、どうも」と返す。

 

「実はわたくしこういうものでして」

 

 言った彼は名刺を取り出す。

 それを見てメグルは驚いた。

 

「え? ……コハク考古博物館……館長ォ!?」

「ははは、と言っても石を追いかけ続けて早数十年。今日もこの辺りで拾える進化の石について調べていたのですが、石に夢中で月が赤くなっていたことにも近付いて来たストライクに気が付かず」

 

 無論、笑い事ではない。研究者とは何処かしら頭のネジが外れているものなのだろうか。

 

「そこでお礼と言っては何ですが」

「もしかしてカセキを!?」

 

 メグルが期待するのはそれであった。

 邪な考えであったが、最早それくらいしかカセキを手に入れる方法は無いと考えたのである。

 しかし目の前にお出しされたのは──

 

「いや、我らコハクタウン”トゲトゲ洞”のマスコット”トゲトゲくん”のキーホルダーを……」

 

(──要らねえ!! 町起こしに失敗した集落の微妙なマスコットじゃねえか!!)

 

 最早それはポケモンですらない何かであった。

 ハリーセンに似たような微妙な顔した微妙なキーホルダーである。

 当然だが、嵩張らなくても要らない。

 

「丁重にお気持ちだけ頂きます」

「えええーッ!! かわいいのに……皆買わないんだよなあ、これだけ」

「そりゃそうでしょうよ……それよりもポケモンのカセキを──」

「しかし不吉なモノですな。月が赤く染まるとは……この間然り今日然り、またいつ起こるか」

「あの? あのー? だからポケモンのカセキを……」

「おーっと、君のイーブイ。何か石ころを触っているようですが、良いのですかな」

「もしもーッし!! 俺のカセキ──って、え?」

 

 見るとイーブイは、先程の戦いで両断された岩から欠けた石に触れようとしている。

 そこには、炎の如き模様が浮かび上がっている鉱石が転がっていた。

 今度こそメグルの顔に冷や汗が浮かび、血の気が失せる。

 間違いない。あれこそ探し求めていた進化の石。しかし、それは今イーブイが触れるべきものではないものでもある。

 

「おや、アレは炎の石──」

「ストーッッップ、イーブイッッッ!! ステイ!! ステェェェイ!!」

 

 

 

 ぴとっ

 

 

 

 イーブイの前足が石に触れる。

 

 

 

「考え直せぇぇぇぇーっ!?」

 

 

 

 叫ぶメグル。

 しかし……何も起こらない。

 不思議そうにぺたぺた、と石を触るイーブイだったが──進化する様子が一向に無い。

 思わず石を拾い上げるメグル。確かに炎を宿したような輝きの鉱石だ。

 

「炎の石……()()()()()()、イーブイが触ればブースターへ進化する石ですな」

「え?」

 

 それは、あたかもこの地方では炎の石に触れてもイーブイがブースターに進化しないと言わんばかりの物言いであった。

 しかし現に目の前のイーブイは、進化していない。つまり、館長の言っていることは正しい事が証明されているのである。

 

「何で!? このブロマイドにはイーブイの進化系全部映ってますけど!? 進化しねえの!?」

「ああ、それはカントーのシルフカンパニーが出してるブロマイドで、何処の地方でも売られてる商品ですな。こっちでは珍しい姿である()()()シャワーズ、ブースター、サンダースが映っているからサイゴクでは人気なんですな」

「俺てっきり、()()()()()()()()使()()()()()()姿()()()()()()と思ってたんですが」

「この地方では常識ですな」

「ええ……」

 

 確かにブロマイドには「シルフカンパニー」の文字が書かれている。

 これが全国で流通しているものであり、描かれているブイズも全国で通用する原種の姿であることには納得していた。

 てっきりメグルはこれを見て、サイゴクでも石に触れれば普通の進化をするものだと考えていたのだ。

 

(誰も一言でも言わなかったよな!! この地方では普通の姿のシャワーズ、ブースター、サンダースが拝めないって!!)

 

 と思ったメグルであったが、よくよく考えてみれば()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 アローラ地方では、タマタマがアローラナッシーに進化こそするが、普通の姿のナッシーには進化しないのと同じようなものである。

 しかし、この例では進化するためのアイテムは変わらない。どの地方だろうがタマタマは同じリーフの石で進化する。

 だがメグルのイーブイは、そもそも炎の石に触れてもブースターには進化しなかったのである。この点がこれまでのリージョンフォームとは異なる点だ。

 原種への進化の道が残されているようで、そもそもこの地方では原種に進化出来ないというトラップが仕掛けられていたのである。

 

「イーブイは8つの姿に進化するのはご存知ですな?」

「それはまあ」

「エーフィ、ブラッキー、リーフィア、グレイシア、ニンフィア。この5つの姿は他の地方でも見られる姿なのですな」

「はぁ。……これら5種にはリージョンフォームは存在しないんですね?」

「少なくとも、この地方ではそうですな」

 

 つまり、転がっていた石が炎の石ではなく、氷の石、リーフの石、太陽の石、月の石だとアウトだったわけである。

 しかし幸か不幸か、目の前に落ちていたのは炎の石であったため、イーブイは進化せずに済んだのだ。

 

「しかし、何故か……サイゴク地方で生まれたイーブイは、()()()()()()()()()()()()使()()()()()()()()()()()()()!」

「何で!?」

「……サイゴク地方でイーブイをシャワーズ、ブースター、サンダースに進化させるには”たま”が必要なんですな」

 

 そうして進化したイーブイは、サイゴクの姿のシャワーズ、ブースター、サンダースとなるらしい。

 

「”なるかみのたま”、”すいしょうのたま”、”ようがんのたま”。これらのアイテムは普通の進化の石以上に希少価値が高く、サイゴク地方でシャワーズ、ブースター、サンダースの3匹を進化させられる人はあまりいないのですな」

「……でも何でそんな特別な進化をするんですか?」

「恐らくは、この地方で生まれたイーブイに秘密があるのかもしれないですな。ここで生まれたイーブイは皆、”おやしろさま”と”ヌシ様”の加護を受けていると信じられておるのですが……そこに何か関係があるのかと」

「加護ォ? オカルト染みてるな」

「……この地方で生まれたイーブイは皆、大昔のヌシの血を引いているとされているのですな。あるいは、サイゴクという地に何か秘密があるのか……分からないことは多いですな」

「他所から連れてきたイーブイは、炎の石、雷の石、水の石で進化するんですか?」

「そう。そこがミソ!! なんと、ちゃあんと進化するのですな」

「な、なんだその面倒な仕様は……」

「その代わり、”たま”では進化しないことが既に証明されているのですな」

「……サイゴクで生まれているか否かがポイントなのか」

 

 まとめると、メグルのイーブイに限らず、サイゴク地方で生まれたイーブイは炎の石、水の石、雷の石では進化せず、特別な”たま”によって水・電気・炎タイプの進化系に進化するということ。

 一方で、他の5種類の進化系には普通に進化してしまうので、うっかり進化しないように注意が必要なのは相変わらずであるということだ。

 

「取り合えず、この”かわらずのいし”をお礼にあげるので、イーブイに持たせておくと望まぬ進化を防げますな」

「ありがたく貰っておきます」

「プッキュルルル!?」

 

 不服そうに鳴くイーブイ。

 しかし、もうこんな事で肝を冷やしたくないメグルは、さっさと”かわらずのいし”のペンダントをイーブイの首から下げてしまうのだった。

 不満そうなイーブイであったが、ぷい、と拗ねたようにそっぽを向いただけで、そのまま大人しくするのだった。

 「主人の判断にゆだねる」とでも言わんばかりに。凶悪毛玉であることには変わりないが、やはり最初に比べれば素直になった気がした。

 

「ついでにトゲトゲ君も──」

それは要らねえ

 

 ──ドンマイ、館長。

 ちなみにカセキは結局貰えなかった。当然と言えば当然であったが。

 

 

 

(……取り合えず、イデア博士に捕まえたストライクを見せたいよな。赤い月について聞きたい事もあるし)




【メグル現在の手持ち(スタメンに限る)】

イーブイ LV23 ♀ 特性:きけんよち 性格:やんちゃ
技:スピードスター、でんこうせっか、すなかけ、つぶらなひとみ
頭の硬さを生かした突貫攻撃は相変わらずの強さ。同レベルの同種に比べて明らかに頭一つ抜けている。どの進化系を選ぶかはまだ未定。やはりそう簡単に決められる問題ではないのである。


オドシシ LV22 ♂ 特性:いかく 性格:さびしがり
技:さいみんじゅつ、とっしん、ねんりき、おどろかす
さいみんじゅつの便利さはゲーム以上のもの。持ち前のタフさもあって、要所要所で活躍を見せる。取り合えず10万ボルトとシャドーボールの技マシンが欲しいメグルであった。


ストライク LV26 ♂ 特性:むしのしらせ 性格:せっかち
技:かげぶんしん、れんぞくぎり、つばさでうつ、きりさく
文句なしのスタメン入り。赤い月の時に現れた個体だからか、通常種よりも体の大きさも大きい。
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