ポケモン廃人、知らん地方に転移した。【完結】 作:タク@DMP
※※※
「赤い月、ねぇ。あった、あったよ。資料。全く人使いが荒いんだからぁ、このこのぉ」
(そういやこの人こういう人だったな……)
ふぁあああ、と大あくびを浮かべながらイデア博士はスマホ越しに言った。
自分から掛けたものの、即刻切りたくなったメグルだったが、我慢して話を続ける。
彼に連絡したのは他でもない。サイゴク地方で起こっている「赤い月」現象について、だ。
突如前触れもなく月が赤くなり、短時間ではあるものの凶暴な野生ポケモンが出現するのである。
「にしては今の今まで連絡寄越さなかったじゃないですか」
「仕方ないじゃない、僕は忙しいからねぇ。これでもテレビ番組に出させてもらってる身分だし、論文だって書いてる。勿論、”赤い月”についてもね」
「……あれは結局何なんですか?」
「
「ッ……」
さらり、と博士は言ってのける。
「と言っても、確証は持てない。なんせ、月にまで影響を齎すことが出来るようなポケモンが居るとは思えないからね。なんせ月って、この星から30万km離れたところにある衛星よ?」
「……異常は月そのものではない、と」
「──光の屈折が変わったことで、月と空が”赤く光っているように見えている”。これが僕の仮説かな。でも、僕は天文学素人だから期待しないでねー」
「でも言ってることは何となく分かりました」
「何らかのポケモンが空で暴れてて、その影響が僕らの見ている景色にも出てるんじゃないかな。ま、理由はどうあれ月が赤く見えるなんて、それはそれで尋常じゃないからさ。相当大きな異変と見て良い」
「っ……赤い月現象って、俺が来る前から起こってたんですか?」
「実は散発的に起こってたよ。ただ、君が来る前は幻か何かって言われててね。つまり、発生時間が短かったんだ。それが回を増すたびに発生時間が──長くなってる」
「……ムウマージには何か異変が起きてましたか?」
「体が大きいのは群れのボスだったってことで説明がつく。ただ、目が赤く光って凶暴化してたのは──やはり、赤い月の影響なんだろうね。それを見たことで興奮し、そして力が増した。赤い月が出ている時、大気中にはポケモンを凶暴化させる何かが充満しているんじゃないか?」
推論を述べた博士だったが、結局ムウマージを調べ回しても全く以て”ポケモンを凶暴化させる何か”については分からなかったらしい。
赤い月について、その原因を論じることは出来ても、正解に近付くことは今の所出来ないのである。
「逆にメグル君。ムウマージとストライクに遭遇した君は、彼らから何か感じ取ることが出来たか?」
「えっ」
そう言われても、すぐに答える事は出来ない。
彼らから感じることが出来たと言っても、本能のままに暴れていたようにしか見えないのである。
「とくには……よく暴れてるなあ、と」
「……そうだね。しかし、捕まえた後のムウマージは実に大人しかったよ。少なくとも君の所のイーブイや、今大学の研究施設に居るオニドリルよりはね」
となれば、やはり”赤い月”はポケモンを凶暴化させると考えて良いのだろう、とメグルは考える。
ただしそれは、本能を刺激するとかそういうレベルではなく、性格が豹変するレベルのものであることが伺える。
まだボールからは出していないが、わざわざ人里近くにやってきたあのストライクも、そうなのだろう。
「怖いのは、ポケモンと人の住む場所の境界が無くなることだよね。人がポケモンの住む領域を犯すとは言うけど、逆も起こり得る。そして、その”逆”が赤い月によって頻発するかもしれない」
「っ……ポケモンと人がぶつかり合う事がある、と」
「無くは無いよね」
そうなれば、人もポケモンも互いを恐れる時代に回帰してしまうだろう。
モンスターボールと、長い時間をかけて積み上げられてきた人とポケモンの距離感が破壊されてしまうことを意味する。
ただでさえサイゴク地方は野生ポケモンの勢力が他の地方と比べて強い方だ。人の生活が脅かされれば、人は野生ポケモンを排除するしかなくなってしまう。
「”赤い月”の起こる時間が長くなればなるほど、人とポケモンのバランスは崩れやすくなるだろう。その前に原因を突きとめなきゃね」
(あれ? じゃあ結局何にも進展してなくね?)
正味、何も分からないままであった。
同時に”赤い月”が決して座視出来るものではなく、異変がサイゴクを侵食していることは分かったが。
「リュウグウさんからは聞いてるけど”テング団”なる怪しい団体がうろついてるらしいし……くれぐれも気を付けるように」
「大丈夫なんですかね、この地方」
「少なくともキャプテンたちは黙って見てるつもりは無いみたいだよ」
「と言いますと?」
「先日リュウグウさんが退院してね」
「!」
「どうやら、キャプテンを集めて大合議をする……らしいね。それまで、どうやら全てのおやしろは閉鎖。ヌシポケモンも匿うようにしてるみたいで、しばらく試練は受けられないようだ」
セイランのおやしろで、暴走したシャワーズの攻撃を浴び、負傷していたリュウグウ。
しかし既に彼は完全に持ち直しており、後遺症も無く病院を去ったのだという。
そして可愛がっていたヌシポケモンを傷つけられて、黙っているわけがなかったのである。
当然、テング団の標的になりかねないヌシポケモンを保護し、更に方針が固まるまではおやしろを閉鎖する判断に踏み切ったところにリュウグウの本気が伺える。
「大合議っていつあるんですか?」
「3日後みたいだよ。それまで、ゆっくり戦力を整えたら良いんじゃないか。君がこの地方を救うって言うなら、強くなるに越したことは無いでしょ」
「……時間はたっぷりあるな。でもリュウグウさん、何をするつもりだろ」
「あの人……昔から怒ったらとても怖い人だからね。昔は鬼のリュウグウ、だなんて呼ばれてたみたいだよ?」
ごもっともであった。
となると、今ベニシティに行ってもすぐに試練が受けられるわけではない。
「で、次はベニシティ……”ようがんのおやしろ”か」
「炎タイプ、ですよね」
「ああ。キャプテンのハズシさんが担当するのは、炎タイプ。おやしろがあるのも、活火山の”ひのたまやま”だ」
「火山で戦わされるのか……ただ、炎タイプに強いポケモンがイシツブテしか居ないんですよね。イシツブテをゴローンに進化させれば、まだ戦えるとは思うんですが」
(ゴローンは炎タイプに対しては滅法強い。だけど、先の試練を考えるとそれだけで勝てるとは思えない……)
「取り合えず、ポケモンを捕まえていけば良いと思うよ。コハクタウン近辺には、トゲトゲ洞っていう鍾乳洞とカルスト台地があるからね。あの辺りには岩タイプや水タイプのポケモンも居る」
「……ところで博士」
「何だい?」
「……コハクタウンの化石採集場って、本当に化石出るんですか? 俺一日掘ってたんですけど……」
「いやあ、だって大きい化石って大体掘り尽くされちゃってるから、デカいのなんて早々出やしないよ」
「……そ、そうなのかなあ」
さっさと諦めて、明日はトゲトゲ洞に向かうことにしたメグルであった。
※※※
見晴らしの良いカルスト台地を南下していき、順路に従っていくと大鍾乳洞である”トゲトゲ洞”がぽっかりと穴を開けていた。
洞内からは常に地下水が溢れ出している。
図鑑で確認すると、この辺りに生息しているのはズバットやコロモリと言ったコウモリ型のポケモン、そして淡水に生息する水タイプのポケモンである。
現状、イーブイとオドシシ、そしてストライクの3匹をスタメンとしているメグルは、残る3匹の枠を埋めるつもりで捕獲しにかかるのだった。
「つー訳で役に立つのが、ストライクの”みねうち”ってわけだ」
──科学の力ってすげー!! とメグルが感じたことが一つ。
それは、ポケモンセンターに備え付けられているパソコンにポケモンを預ける際、”技の習得と忘れさせ”が出来るようになったという点だ。
元々ポケモンはモンスターボールに入っている際、自身の身体を電気信号に変えることが出来るという習性を持つ(ポケモンをパソコンに”預ける”ことが出来る理由である)。
その際、ポケモンの持つ記憶分野に介入することでポケモンが忘れていた技を思い出させることが出来るようになったのだという。
メグルは今所持していないが、携行出来るポケモンボックスさえ手に入れられれば、実質的にどこでもポケモンの技の管理が出来るようになる代物だ。
(要するに何処でも思い出し・忘れさせが出来るようになったってことじゃないか。ゲームでも実装されてほしーなぁ)
因みにLEGENDsアルセウスではそんなものが無くてもフィールド上でポケモンの技覚えが可能であった。その原理については敢えて触れないものとする。
閑話休題。
それを利用したメグルは早速、ストライクに”みねうち”を習得させることにした。
これは、どんなに攻撃してもポケモンのHPを必ず1残す技である。
ポケモンはHPが減れば減るほど捕獲しやすくなるのが常識だ。しかし、うっかり”倒し”てしまうと──ポケモン特有の性質で小さくなって逃げてしまい、捕獲出来なくなってしまう(モンスターボールはこの性質を利用したものである)。
そのため、ポケモンを倒さないギリギリの所まで体力を減らすこの技は有用だ。そこをオドシシに交代し、”さいみんじゅつ”で眠らせればほぼ確実に捕獲は成功するだろう。
(恰好良いし、強いし、有能、今からハッサムになった時が楽しみ──)
そう思って、目の前にストライクの入ったボールを放り投げる。
実は、捕まえてからの顔合わせはこれが初めてだ。
洞窟に潜る前に、一言挨拶でもと考えていた。が──
「ギッシャラララァ……ッ!!」
(あれぇーっ!? なんかすっげー機嫌悪い!?)
飛び出した矢先、威嚇するように鎌を振り上げるストライク。
フーッ、フーッと鼻で息をしており、興奮したようにじりじりとメグルの方に詰め寄る。
「あ、あのー、ストライクさん? お、俺は食っても美味くないですよ?」
「ギッシャララララ……!!」
すっ、と振り上げた鎌を、メグルのベルトにぶら下げたボールに向けるストライク。頭が良いのだろう。それを押せば中からポケモンが出てくることを学習している。「出せ」と命令しているようだった。
トレーナーの癖に、逆らうことが出来る雰囲気でもないため、メグルはボールを放り投げるのだった。
「ブルルルゥ?」
現れたのは──オドシシ。
ストライク捕獲の立役者となった手持ちだ。
現れたオドシシは落ち着き払った様子で、息をすると目の前に現れたストライクの敵意を感じ取ったのか呆れたように身構えるのだった。
「ギッシャララララッ!!」
「……ブルルゥ」
(な、何だなんだ!? イーブイやイシツブテじゃなくて、オドシシ……ッ!? 明らかに因縁があるみてーな空気……!」)
間に割って入って止めたいところだったが、ストライクの鎌の威力は先の戦いでよく知っている。
とてもではないが、介入できそうにはない。
一方的にストライクが襲い掛かる様子は無い。
だが、納得がいかないようにオドシシを睨み付けている。
オドシシはと言えば、いざとなればいつでも眠らせることが出来るからか、それともストライクに思う所があるのか、毅然とした態度で佇んでいる。
(分からねえ……俺にはポケモンの言葉とか分からないから、全く……!!)
「ギッシャラララ……!」
(もしかして、眠らされたのを根に持ってる……!?)
カチン、カチン、と両方の鎌を打ち鳴らし、威嚇するストライク。
それに対し身構えるオドシシ。
一触即発の空気が漂っていたその時だった。
「プッキュルルル!!」
ぽんっ!!
勝手にボールからイーブイが飛び出し、両者の間に割って入る。
何時も通り傍若無人な態度でイーブイは「混ぜろ」と言わんばかりにストライク、そしてオドシシにまでガンを飛ばすのだった。
「お、おい、イーブイ……!?」
「……ギッシャラララ……!」
「プッキュルルル……!」
「ブルルゥ」
(コイツら、実はすっげー仲が悪いのか……!?)
まさに三つ巴。
意図しない顔合わせとなった3匹に、メグルは戦慄するしかない。
(……オドシシ捕獲の時はイーブイが戦って、ストライク捕獲の時はイーブイはやられかけたけど、オドシシが捕獲に寄与してるんだよな……あれ、じゃあこれって──3竦み、ってコトォ!?)
イーブイ→オドシシ→ストライク→イーブイ。
タイプ相性上は互いに互角。
しかし、今この場では3者の実力は「戦い方の相性」もあって互角。
イーブイは身体が小さく小回りが効くため、オドシシの催眠に頼った戦い方が通用しない。
一方、ストライクの方が素早さが高い上に攻撃力も高いので、一度マウントを取られれば倒されてしまう。
だが、ストライクは直線的な戦い方が災いしてオドシシの技に引っ掛かってしまう……といった具合だった。
(オドシシは”あやしいひかり”を覚えてる……ストライク戦ではうっかり倒したらアウトだから、使わせなかっただけだけど……イーブイに刃を向けたら、オドシシは何時でも”あやしいひかり”が撃てる……!)
「プッキュルルル……ッ!!」
ストライクに臆することなく狼藉を咎めるイーブイ。
「ギッシャラララ……!!」
その生意気で小さな首を今すぐ掻きに行くことが出来るものの、そうなればオドシシの”あやしいひかり”に引っ掛かってしまうストライク。
「ブルルゥ……!」
そして、イーブイを捉えることが出来なくとも、ストライクに対しては技を一撃は耐えて催眠ないし混乱させることが出来るオドシシ。
同じパーティーとは思えない程に、緊迫した空気がその場に漂っていた。
「……ギッ」
しばらくして。
ストライクは、その場から背中を向ける。
「今日の所は見逃してやる」と言わんばかりに。
オドシシがメグルの方を向いたので、そのまま戻してやると、イーブイがギロリとメグルの方を睨んでいるのに気付いた。
「悪かったって……本来は、こういうのは俺の役目だって言いたいんだろ」
「プッキュルルル」
手持ちのポケモン恐ろしさに、介入することが出来なかったことに不甲斐なさを感じるメグルであった。
ストライクはと言えば、ずっと拗ねたように後ろを向いている。
(こりゃまた、難しいヤツを手持ちにしちまったなぁ……)
このスタメン、一触即発。