ポケモン廃人、知らん地方に転移した。【完結】 作:タク@DMP
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「でっけぇぇぇーっ!?」
──ベニシティはサイゴクで最も大きな大都市である、とメグルはかねがね聞いていた。
しかし、蓋を開けてみれば想像していた以上のものが広がっていた。
まず、駅が別次元に巨大なのである。地方都市出身のメグルからすれば、考えられない程に。
構内だけでも迷子になりそうになるレベルだ。そうやって、入り組んだ建物を何とか抜け出して3階から見下ろすと──ベニシティの全貌が明らかになる。
ビル群が立ち並ぶのみならず、その周囲を覆うようにしてモノレールが取り囲んでいる。
自然に支配されているサイゴクの地で、人間が集落を発展させることが出来る数少ない場所、それが海辺だ。
セイランシティ然り、そしてベニシティ然り。
だが、ベニシティのそれは──セイランシティのそれを遥かに上回る。
『ベニシティ─夕暮れに佇む未来都市』
(そもそもが恐ろしくデカい町だぞ此処……ッ!? 地図の上では広島市どころか廿日市市や呉市まで入っているんじゃねえか……!?)
各地方に大体1つはある大都市枠があるとするならば、サイゴク地方ならば皆がベニシティと答えるだろう。
しかし、そのエリアは大きく3つに別れており、広島市に当たる文字通りの大都市・セントラルエリア。
人の手が入った自然公園が多数存在する、元居た世界における廿日市市に当たるナチュラルエリア。
そして港湾を中心として発展した、呉市に当たる町のポートエリア。
最終的な目的地はおやしろの存在するポートエリアから南下し、橋で渡ることが出来る島──”ひのたまじま”だ。
これでは町を一周するだけでも一日では終わらないだろう。
(念のために、アルカらしき人を誰か見ていないか探して回るか……商人ってなら、取引相手の多いデカい町に居てもおかしくない)
そもそも、あんな変わった格好の人間は早々居ないので、聞き取りを適当なタイミングで打ち切ることもできる。
目撃例が無いならば、そもそもベニシティには居ないと判断することが出来るのだ。
とはいえ、ベニシティはあまりにも広い。
そのため、試練に向けた準備と並行していく必要があると考えるのだった。
(それにしても……おやしろは閉まっているし、どっから行ったものか……)
迷路のように大きく広い駅を出ると、広場が見えた。
テニスコートのように区切られた一角で──何かがぶつかり合う音が聞こえた。
「──ニドラン、”つのでつく”!!」
「何の、マダツボミ、”まきつく”攻撃だ!!」
子供たちがポケモンを戦わせている。
観光用パンフレットを見ると、町の各地ではバトルスポットと呼ばれるポケモンバトルをするためのコートが設けられているという。
調べてみると、ベニシティは人口が多い故におやしろまいりを控えた子供も多く、彼らが来たる日に備えてポケモンを鍛えているのだとか。
また、ストリートバトルに興じるトレーナーも多く、更に町が大会を主催する日さえあるのだという。
ベニシティの主な興行は”スポーツ全般”。ポケモンを使ったレース、球技、そして──ポケモンバトルも例外ではない。
(そう言えば俺、まともなポケモンバトルはしたことなかったな)
ポケモンたちは先の敗北でかなりストレスを溜めている。
バトルが良い発散の機会になれば良いのだが、とメグルは考えた。
※※※
「石商人? そんな怪しいヤツ見なかったぜ」
「そうか……」
「ところで、あんたのイーブイ強かったな……何かイヤな事でもあったのか? イーブイらしからぬおっかなさだからよ」
「いつもの事だから気にしないでくれ」
「いつもの事なの!?」
メグルは初めて、トレーナー同士でのポケモンバトルを行った。アルカについての聞き取り調査をしている途中で、唐突に挑まれたのである。
とはいえ相手は、おやしろまいりをしていないような年齢の短パン小僧。哀れ、彼の連れていたズバットとコラッタは、イーブイが叩きのめしてしまった。
イーブイの機嫌は
(流石にその辺の子供のポケモンには負けはしないか……つーか、そんな事は先ずコイツが許さねえか)
「なあなあ、おにーさん、オイラもおやしろまいりしたら強くなれるかな!? 早く旅立ちたくって仕方ねーんだわ!」
「ど、どーだろ。俺もまだ1つしかおやしろを巡ってないから……でもよ、大変だぜ? 1人旅」
「それが醍醐味なんだろー!? おにーさんさぁ、何でおやしろまいりに出たんだよ」
(そりゃあ、シバきに行かないといけないヤツが居るからに決まってんだろ!!)
メグルをこの世界に連れてきたアンノーンの生息地は、おやしろまいりの終点・アラガミ遺跡だ。
彼自身が望んでおやしろまいりをしたわけではなく、元の世界に戻るための手掛かりを探すための手段だったのである。
「他の地方じゃあ、オイラの妹くらいの年齢のジムリーダーも居るくらいなのにさ、サイゴクは17にならなきゃ旅に出られねーんだぜ!? おかしいよなぁ」
(おかしくもなんとも無いと思うぞ、こんな危ない地方……)
「ああでも、そういえば……イッコンタウンの
「……イッコンタウン?」
思わずメグルは地図を取り出す。
位置的には岡山県・吉備中央町に相当する場所だ。
そこに座すおやしろは──”よあけのおやしろ”である。
「キャプテンってのは、おやしろめぐりをしなきゃなれないんじゃねえのか? 流石に」
「ンなルールは無いらしーぜ。ヌシ様に認められればそれで良いってよ。でも、イッコンのキャプテンはポケモンバトルも強いんだってさ」
曰く、他の地方に留学して修行をしたのだという。
「あ、でもよ! 強いのは、うちのハズシさんも同じ、いやそれ以上なんだからな! ……ちょっと
「アレ? 問題でもあるのか」
「癖がつえーんだよ……良い人には違いないんだろーけどさ、ちょっと近寄り難いよな」
「ふーん……」
「俺も早く17になって”おやしろまいり”してーよ。何なら、ジョウト地方かホウエン地方を旅してーくらいだけど、遠い地方はもっとダメだって親が言うんだぜ。万が一の時に目が届かないってさ」
きっと彼は、この大都会で何の不自由もなく育ってきたが故にこんな事が言えるのだろう。
少し外に出れば、待っているのは獰猛な大自然と野生ポケモンの脅威である。
安全な移動手段と言える鉄道ですら、野生ポケモンとの接触に備えて頑強な装甲が張り巡らされていたのをメグルは思い出した。
他所の地方で運用されている電車ですら、大型ポケモンに負ける事があったのだろう。きっと。
「なあ、1つだけ言っておくけどよ」
「ンだよ、おにーさん」
「……
「はぁーっ、怖い生き物ォ!? そんな事ねーよ、俺と俺のパートナーを見りゃ分かるだろ? 仲良しだぜ仲良し。どんな怖い事があるってんだよ。それぁ、おにーさんの所のイーブイが奇特なだけだぜ」
「負けてるのに、よくそこまで偉そうに出来るなこのガキんちょ……」
「うっせー! 次会った時はぜってー勝ってやるからな!」
そう言って短パン小僧は走り去っていくのだった。
「……若いって良いなあ」
そう言うメグルも、まだ19歳であった。
「……なあイーブイ。お前、こないだの敗けでモヤモヤ溜まってんのか?」
「プッキュルルル」
「……わりーな。俺がもっと強ければ……お前に悔しい思いさせないで良かったのにさ」
「プッキュイ」
ぷい、とイーブイはそっぽを向いてしまった。
やはり不甲斐ないと思われているのだろう、とメグルは感じる。
ポケモンバトルには勝利したものの、もやもやは晴れないままであった。
※※※
「いやー、参った参った。俺の敗けじゃぁ」
「ギッシャララララ!!」
カチンカチン、とバトルが終わっても尚鎌を鳴らして威嚇をするストライクをボールの中に戻す。
ポケモンは前提として闘争本能の強い生き物だ。ストレス発散に丁度良いのは、ポケモンバトルとなる。
しかし、ストライクはイーブイ以上に苛烈な戦いを見せた。建物の壁を蹴って勢いをつけた回転斬りは常軌を逸した威力であり、試合相手の男が繰り出したバチンウニはあっという間に倒されてしまうのだった。
(こええー……マジ切れじゃねーか、俺の指示殆ど聞いてなかったぞコイツ……)
まるで、かつてのイーブイを見ているようだ。
そしてイーブイと違って、なまじ殺傷力の高い武器を持っているのが更にタチが悪い。
言う事を無理矢理聞かせようとすれば、トレーナーに待っているのは死である。
「んで、人探してんだっけ?」
「あ、ああ。そうなんですよ」
試合後にメグルはさりげなくアルカについて、対戦相手の男に聞くことにした。しかし。
「ベニシティは人だらけじゃけど、そがいな変わった格好の人は見んかったでぇ」
「こっちでも手掛かりなしか……」
「まあじっくり探せばええ、ベニシティは懐が広い町じゃけぇ、ゆっくりしていきんさい」
「そうします」
「ところで、あんたのストライク強かったの……にしても終始怒ってたが何か嫌なことでもあったんか?」
「あるにはあったんですよね……」
ストライクもやはり、先の敗北を引きずっているようだった。
その鬱憤をバトルに向けてくれている分にはまだ良いのだが、いつか変な方向に爆発するであろうことをメグルは危惧していた。
「主力たちの気性が荒くて困ってて」
「我の強いポケモンに引っ張られとるんじゃろ。苦労しとるなぁ、気持ちは分かる」
「いやぁ、分かっちゃいます? 揃いも揃ってヤンチャなんですけど、抑えられない俺も悪い所があるんで……」
「ポケモンと仲良くなるなら……やっぱ野宿じゃろ」
「え?」
「お好み焼きじゃ、お好み焼き! キャンプセットでポケモンと一緒に囲んで食べるお好み焼きは絶品じゃけぇ!!」
「ね、熱弁しますね……」
(そういやキャンプでカレー作るくらいだし、お好み焼きくらいいいのか)
「なんせその道20年じゃけぇ」
言った男は、何処からともなく鉄ヘラを取り出すのだった。
どうやら、お好み焼き屋の主人だったようである。
「ベニと言えば、お好み焼き。ベニ焼きって言うヤツが居るが間違いや!」
「そうなんですね……」
(似たような話は、世界が変わってもあるんだなぁ……)
言わば広島のお好み焼きと大阪のお好み焼きの話である。
「レシピはバトルしてくれた好で譲っちゃるけぇの! キャンプでも作れるくらいには簡単じゃから!」
「え、えと……ありがとうございます……」
「キャンプでポケモンと飯を囲む。それだけで、ポケモンと仲良くなれるけぇの!」
「そんなもんですかねぇ」
「大事なのは、ココやろココ」
くっ、と親指でお好み焼き屋の主人は胸を指す。
「トレーナーが真っ向からガツンとポケモンに向き合ったら、分かり合える。俺も昔、おやしろめぐりしてたから分かる!」
「じゃあ……ありがたく貰っときます」
「ついでに、夜になったらいつでも俺の店に来んさい! 丁度此処の裏じゃけぇ!」
暖簾が無かったので気付かなかったが、見てみると確かに店らしき建物がある。
※※※
とはいえ、レシピを貰ったのは丁度良かったとメグルは考えていた。たまにはおやしろまいりやテング団の事など忘れて、ゆっくりキャンプでもしたい。明日は大合議の前日だが、バトル以外でポケモンたちと改めて触れ合うためにもナチュラルエリアにあるというキャンプエリアに足を運ぼうと考えていた。
何戦かトレーナーたちとのポケモンバトルをこなした後、メグルは稼いだ賞金を元手に必要なものを買い集めた。
そうしているうちに、すっかり日は暮れてしまっていた。
(……思えば、激動の日々だったな……)
どかっ、とベッドに転げ込むとメグルはぼんやりと考える。
おやしろまいりを進める事、そしてポケモンを捕まえて育てることに必死になっていた。だが、それだけではなく、この世界に来てからは何時どんな時もポケモンに囲まれていて気が休まらない。
(明日は一日ゆっくりしよう。俺も疲れた……)
思えば、デジタル中毒のような生活をしていた元居た世界と違い、此処ではポケモンの世話に追われている。彼らの分のご飯も用意しなければならないし、ブラッシングなどの手入れも必要だ。そうしているうちに、あっと言う間に一日が経ってしまい、スマホを見ている時間など無いのである。おかげですっかりデジタルデトックス出来たメグルだったが、やはりゲームが恋しい。現実のポケモン育成はゲームのように上手くはいかない。
(仲良くなれれば良いんだけどなあ、こいつらと)