ポケモン廃人、知らん地方に転移した。【完結】 作:タク@DMP
※※※
「──つー訳で、完成したのがコレか……」
ベニのキャンプ場で行った初めてのお好み焼きづくりは大変で、ひっくり返すのすら一苦労だった。
生地に食材を乗せて焼き、その隣でソース蕎麦を焼いて最後にその上に乗せる。
単純な料理だが、鉄板から発せられる熱気と相まってなかなかこれが難しい。
後、肝心なのはソースだという。ポケモンが好む味と香りの木の実が配合されており、これがポケモンを喜ばせるとか何とか。
「よーし、お前ら出てこーい!!」
ボールを丸ごと全部、放り投げる。
イーブイ、オドシシ、ストライク、イシツブテ、シキジカ、ヘイガニの6匹が飛び出して来た。
全員、きょとんとした様子であったが、香ばしいソースと生地の焼けた匂いで鉄板の方に寄ってくる。
しかし、案の定ストライクはオドシシの姿を見るなり威嚇を始めるのだった。
「やめろ! 飯の時間なんだぞ、ストライク……」
「ギッシャラララ……ッ!」
咎められたからか、今度はメグルの方を向くストライク。
その殺気の混じった視線と、両手の鎌に恐怖感を抱くメグルだったが──それでも手持ちには変わりない。
「ほら、これやるから……な? 落ち着こうぜ」
切り分け、フォークで刺したお好み焼きをストライクの口元に持っていく。
すんすんと鼻をひくひくさせた彼だったが、がぶり、とそのままフォークごと噛みつくのだった。
そのまま、もっと寄越せと言わんばかりに「ぐるるる」と喉で鳴くので、こんな事もあろうかと用意していた大きい一切れをまとめて差し出すと、夢中でかぶりつく。
「普通に食ってる……よーし、皆の分もあるからなーっ!」
(手持ち6匹分ともなると、材料費嵩むなあ。時々しか無理だわこりゃ……)
そう言って、全員にお好み焼きを取り分けようとしたその時だった。
「はわー、これはなかなか見事なお好み焼きなのですよー」
──テーブルに誰かが居る。
あまりにも自然過ぎて見過ごしそうになったが、巫女装束の女の子がお好み焼きを前にして、目をらんらんと輝かせている。
イーブイも、そしてメグルも、全く前触れなく現れた彼女を前にして怪訝な表情を浮かべるしかない。
「いや、お前は誰だよ!?」
「ほわっ!?」
※※※
「ほわ、ごめんなさいですよ……美味しそうな匂いがしたもので、寝ぼけて釣られて来ちゃいましたです」
「それは良いんだけど……え? 寝ぼけてた?」
「はいー、オバケさんが出るのは、夜だと相場が決まっているのですよー、今の今まで寝てたのです」
「オバケ? ゴーストポケモンか?」
(まさか夜までテントで寝てるつもりだったんじゃないだろうな、この子……夜行性か?)
紫の袴を履いた巫女装束の少女は、中学生ほどの背格好に見えた。
少なくともおやしろめぐりが出来るような年齢には見えない。
地元の神社の巫女さんだろうか、とメグルは考えていたが、何となくそれも違うような気がしていた。
なんせ、おやしろがあるのはポートエリア。此処からはセントラルエリアを挟んだ場所にあるのである。
おまけに、オバケ探しに興じる巫女さんなど聞いた事が無い。
「ベニシティは、わたしの故郷よりずっとずっと大きい町だと思っていたけど、こうやって落ち着ける場所があるのは良い事だと思うのですよー」
「えーと、オバケを探しにわざわざこんな所に来たのか?」
「いえいえー、オバケ探しはついでなのですよー。ベニシティで大事な用事がある、とお声が掛かったのですー。でも、それまで時間があるので観光をしていたのですよー」
「だけどあぶねーだろ、夜は怖いポケモンも出るらしいぜ? 襲われたらどうするんだよ」
「その心配はないのですよー。わたしのポケモンは、みーんな強いのですよー」
周囲の空気が冷えたような気がした。
彼女が腰にぶら下げているモンスターボール。
そこから、何処か身の毛のよだつような気配が感じ取られたのだ。
(な、なんだ、このヤなカンジは……この子、何者なんだ?)
メグルは、あまり彼女の心配はしなくて良いような気がしてくる。
人は見掛けによらず。持っているポケモンさえ強ければ、身を守ることは出来るのだろう。
「わたしのポケモン、皆からはよーく怖がられているのですよー。でも、わたしの言う事はちゃあんと聞いてくれる、良い子達なのですよー」
「は、ははっ、そりゃいいじゃねえか。俺なんか全然言う事聞いてくれねえのに」
「それは──あなたが、自分のポケモンを怖がっているからじゃないですかー?」
「ッ……見てたのか」
「怖がっている相手の言う事をポケモンは聞かないのですよー」
お好み焼きをがっつく手持ち達を見ながら──メグルは嘆息した。
オドシシはさておきストライク相手には少なからずメグルは恐怖感を抱いている。
最初に出会った時、確かに彼の事を「欲しい」と思った一方で「自分では手が付けられないかもしれない」とも考えていたのである。
「わたしたちは、ポケモンの言葉はわからないのですよー。でも、言葉が無くても通じるものってあると思うのですよー」
「……言葉が無くても通じるもの、って何なんだよ。それがわかりゃ苦労しないっての」
「ふふっ、少なくともポケモンがあなた様に着いて来てくれるのは、少なからずあなた様を認めている証なのですよ。そうでなくては、ポケモンは主を見限って離れることだってできるのですよー」
やはり彼女は只者ではない、とメグルは直感する。
態度こそほわほわとしているが、その芯には一本、強いものが捻じ込まれているようだった。
「……敵わないな。俺はやっぱり、まだまだだ」
「旅の中で分かる事も多いと思うのです。だから焦らずにゴーゴー、なのですよー」
「……一体君は何者なんだ?」
「ふふっ。わたしはヒメノ。ゴーストタイプとオバケが好きな、ただの巫女さんなのですよー」
言った彼女は、ひらり、と舞ってみせる。
「そも、わたしだって上手くいかないことの一つや二つはあるのです。昨日なんて、オバケの代わりにヘンなおねーさんに出会ってしまったのですよー」
「変なお姉さん?」
「昨日、”カブラギ遺跡”という場所でオバケを探していたのです。そしたら、ずっと遺跡を観察している不思議なお姉さんと出会ったのです。その時に少しお話したのですよー」
(ああ、ボクはサイゴクの遺跡を調査してるんだ。今日はこの辺りで寝泊まりしようと思っててさ。あ、これ誰にも言っちゃダメだよ! ボク、邪魔されたくないんだからねっ!)
(分かったのですよー)
と言ったやり取りを交わしたのだという。
「あっと……これ、誰にも言っちゃいけなかったんでしたー、うっかりさんだったのですよ」
「そうなの!?」
「あまりにも怪しかったので、ついお口が喋ってしまったのですよー」
悪びれずに言ってのけるヒメノ。
意外と肝が据わっているのかもしれない。
「……なあ、そのお姉さんってどんな格好をしてたんだ?」
「毛皮のジャケットでゴーグル付けた怪しいお姉さんだったのですよー」
そんな胡乱な人物は1人しか該当しない。
アルカだ。アルカは”カブラギ遺跡”という場所で何かを調べている。
そして、その周辺で寝泊まりをしているのだという。となれば、目指す場所は決まった。
「ありがとうヒメノちゃん、カブラギ遺跡に行ってみるわ!」
「はいー、貴方にオバケさんの加護があらんことをー、なのですよー♪」
「それは別に要らないかな……」
※※※
ヒメノと別れた後、ピクニックを中止したメグルはカブラギ遺跡に向かう事にした。
言わば、大昔の集落の跡らしく、住居や道具などが発掘されるらしい。
近くには貝塚と言って、食べて捨てられた貝や魚(のポケモン)の貝殻や骨が見つかったのだという。
周囲は開けた高原になっており、カブラギ遺跡は盆地の中に座していた。しかし──
「プッキュルル」
何処にもあの怪しい毛皮女の姿は見られない。
しかし、イーブイは警戒するように鼻をひくつかせながら周囲を見回している。
以前、イーブイはアルカに捕食されかけたことがある。それで、彼女の匂いを覚えていたのだろう。
……恐ろしい天敵として。
そしてその匂いを辿るようにして、イーブイは走り出すのだった。
「プッキュルルルィッ!!」
「……居るんだな? その先に」
「プッキュイ……!」
遺跡から外れた所に森がある。
比較的開けているからか、周囲の野生ポケモンの脅威度は低めだ。キャンプを張るには丁度良いのだろう。
周囲からはせせらぎの音も聞こえてくる。
近くに──川がある。
しばらく進んでいくと、水が落ちるような音が聞こえてくる。
「川か? 水辺はキャンプを張るには持って来いってことか」
「ぷっきゅるるる」
(高原の奥に泉があって、そこから川が流れてるってことか……)
草を掻き分け、進んでいく。
そうするうちに水の音はどんどん大きくなっていく。
滝だ。泉から湧いた水が滝になって落ちているのである。
そして近付く度にイーブイの眉間に皺が寄っていくのが分かった。
天敵・アルカがすぐそこに居る事を確信しているのだろう。
「プッキュルルル!!」
「……オーケー、行こう!!」
人影が薄っすらとだが見える。
だっ、とメグルはイーブイと共に思い切って茂みの奥に飛び出した。
「えっ」
「えっ……?」
……メグルは硬直する。小さな滝、そして泉。
以前会った時は毛皮のジャケットで隠れて分からなかったが、凡そ太陽を浴びたそれとは疑わしい程に青白い肌が全て目に飛び込んできた。
しかし、その体躯は肌色とは裏腹に健康的に丸みを帯びている。
つぅ、と雫、そして水が、綺麗な楕円を描く胸を伝って落ちていく。
目を覆い隠す程に長い前髪からは、右目だけが見えており、ルビーのように赤い。
青白かった頬は、メグルを視認するなり──かぁ、と紅潮するのだった。
つまり彼女は一糸纏わぬ姿で水浴びしていたのである。
「きっ、きゃああああああああーッッッ!?」
甲高い悲鳴が泉中に響き渡った。
すぐさまメグルは視線を逸らしたが、動揺のあまり尻餅をついてしまう。
「待て待て待てーッ!! 違う!! そういうつもりじゃなかったんだ!!」
「お、お、お、おにーさんっっっ!? な、なんで、こんなところにッ……!? ボ、ボク、は、ハダカ、見られ──ッ!!」
「違う!! そういうつもりじゃなかったんだ!!」
「じゃ、じゃあ此処から離れてくださいーッ!! ポケモン出しますよ!!」
「ごめんなさいでしたーッ!?」
※※※
「──ほんっとにもうっ!! 人が水浴びしている所を覗くなんて、サイテーです!!」
(あんなところで水浴びしてる方が悪いと思うんだが……)
ぷんすか、と怒るアルカ。
毛皮のコートを着込み、ゴーグルをつけると見覚えのある姿に戻ってしまった。
「不服そうですね?」
「いや、そんな事ねーよ? 俺、何にも見てねーから」
「ウソです。さっきからおにーさん、ボクの方を見ないじゃないですか!」
当然だが、鮮烈に記憶に焼き付いて当分離れはしないだろう。
それを彼女も分かっているのか、じとりとメグルの事を見つめると小声で「……えっち」とののしるのだった。
「……違うんだって……俺は単にお前に会いたかっただけで」
「それはそれで気持ち悪いんですけど……どうやってボクの居場所を突き止めたんですか?」
「気持ち悪い言うな、正統な理由があるんだわ」
「ま、まぁ……でも、ボクとしても”会いたかった”って言われるのは悪い気はしないですし? あの美味しい食べ物を恵んでくれた恩もあるし──此処はボクの懐に免じて、裸を見られた件はチャラにしてあげても──」
「──以前、俺に渡した宝石とテング団の事について残さず喋って貰おうか」
一気にアルカの顔が不機嫌になっていく。
「テング団って奴らが、おやしろやヌシポケモンを狙ってる。そいつらが使ってた石と、お前が前に渡した石……同じなんだよ」
「ノーコメントで」
「お前はあいつらの仲間なのか! ……実際に被害が出てんだ。答えて貰わねーと困る」
「それは違います! ……あいつらは……ボクの故郷の……そうですね、何と言えば良いんだろう。自警団? 軍? ま、野蛮な奴等ですよ。何処で嗅ぎつけたか知らないけど関わらない方が身のためです」
「そういうわけにはいかねえよ。つーか、お前の故郷って何処なんだ?」
「辺鄙なド田舎ですよ。サイゴク以上にね」
(ド田舎……? いやまさか)
メグルは先ほどのアルカの裸を思い出す。
いやらしい意味ではない。
彼女の身体で真っ先に目についたのは──あの青白い肌だった。
(肌の色については突っ込んで聞きづらいけど……出身を示すには良い材料だ。
「……もう良いですか? サービスは此処までですよ」
彼女は話を打ち切るように──モンスターボールを構えた。
「……何のつもりだよ? まだ聞きたい事は山ほどあるんだ。石の事とか」
「ボクだって身バレが怖いんですよ。貴方がテング団にボクの居場所を漏らさないとも限らない。そうしたら、あいつらにまた絡まれる。調査の邪魔になります」
「そんな事しねえよ」
「じゃあ、賭けましょう!」
「賭ける?」
「ポケモンバトルですよ。この地方じゃあ、よくやることみたいじゃないですか」
「何処でもやるだろポケモンバトルは」
「……。勝ったら、貴方の欲しい情報を何でも教えてあげます」
「俺が負けたら?」
アルカは自信たっぷりと言わんばかりの笑みを浮かべてみせる。
「──何でも、ボクの言う事を聞いてもらいますからねッ!」
【登場人物】
アルカ 女 ?歳
毛皮のジャケットを着込み、ゴーグルをつけた少女。目は前髪に隠れてよく見えない。癖の強い赤毛と、青白い肌が目を引く。好奇心旺盛で気さくな一方、非常に強かかつ計算高い一面を持つ……が、そこかしこに抜けている所があり、全てが完璧とは言い難い。名前の由来はムラサキ科の植物のアルカネット。