ポケモン廃人、知らん地方に転移した。【完結】 作:タク@DMP
※※※
(おっかしいなぁーっ、逃げ出したのかなあー? 心当たりなんて部屋が汚かったことだったり、おやつの木の実の味を間違えたり、そもそも気質が荒かったくらいなもんなのに……)
(心当たりしかねーじゃねーか、数え役満なんだわ!! 何やってんだあんたマジで!!)
(分かった分かった! 僕も探すの手伝うから! 仕方ないなぁーもう、メグル君ったら♪)
(俺が手伝う側だし、元はと言えば全部あんたの所為だろーが!! ハッ倒すぞ!!)
──最初のポケモンを自ら捕らえるのは、メグルからすれば考えられる限り一番面倒なパターンであった。
しかし、見つけられなければ最初のポケモン無しで旅をするハードモードをやらされるハメになる。
ついでに博士は、新人トレーナーに渡すはずのポケモンを管理不十分で逃がしたという事で、このままだとトレーナー協会だとか偉いところから怒られるんだとか。
いっぺんちゃんとマジで怒られた方が良いんじゃないかと思いつつも、メグルは街を回りに回る。
手分けして探すとのことだったが、正直もうあの博士はアテにしていない。
町の人に聞き込みをしていたが、珍しいポケモンだからか割とすぐに見つかった。
場所はシャクドウシティの名物・あかがねのとう。
立派な五重の塔だが、その一階の屋根で気持ちよさそうに日光浴するポケモンの影があった。
「アレか……」
メグルは懐から博士から貸して貰ったスマホロトムを取り出す。
ポケモン図鑑機能が搭載されているこのアイテムは、ポケモンに翳せば即座にそのポケモンをスキャニングし、そのデータを表示する優れものである。
【イーブイ しんかポケモン ノーマルタイプ 所持トレーナーID:イデア】
──間違いない、とメグルは判断する。スマホロトムの機能のおかげで、野生のポケモンや他のトレーナーのポケモンと間違えることはない。
あれこそまさに博士の下から逃げたイーブイ。うさぎや犬のどちらにも似てるようで似つかぬ小動物のポケモンだ。
もふもふに自分で頭を埋め、イーブイはくぅくぅと寝息を立てて寝ている。
幸い、スマホロトムの機能はこちらの世界のスマホの使い方と然程変わらない。登録された連絡先を選んで電話するだけだ。
しばらくして、イーブイのモンスターボールを握った博士がやってくるのだった。
「流石メグル君っ! 僕が見込んだポケモントレーナーだねっ!」
(あんたの所為でまだトレーナーじゃないんだが?)
言いかけたメグルだったが、喉の奥に仕舞いこんだ。偉い。
あかがねのとうにいる住職さんに頭を下げて脚立を貸してもらい、屋根の上に登ると、キュートな寝顔を拝むことが出来たのだった。
(あ……実物を見るとちゃんと可愛いんだな、やっぱり。声が悠〇碧なのも納得だわ)
そう思っていた矢先であった。
ぴくり、とイーブイの耳が動く。
こちらの気配を感じ取ったかのように──パチリ、とその大きな目を開けるのだった。
「まあ此処は僕に任せておきたまえ。君はまだ、ポケモンとの接し方がよく分からないだろう」
「誰様ですか」
「こういう事もあろうかと、こんなものを用意していてね──」
取り出したのは猫じゃらしであった。
もう何から何まで間違っているような気がするメグルだった。
本当にポケモン学の権威なのだろうか、この男は。
「好戦的な小型ポケモンは皆これが好きなんだ」
「はぁ……」
猫じゃらしを取り出した博士は屋根に這いつくばると──
「はーい、イーブイちゃーん♡ こっちでちゅよ~♡ 戻っておいで~♡」
でろっでろの態度で博士はイーブイに向かっていく。完全に騒ぎの所為かイーブイは起きてしまい、欠伸をしてこちらを睨んでいた。
腰を低くし、目線を合わせる所は間違っていないと思うのだが、如何せん表情が率直に気持ち悪い。そしてイーブイの機嫌が露骨に悪く、もう既に失敗する予感しかしない。
博士がボールを構え、そのままイーブイを捕まえようとしたその時だった。
「ケッ」
【イーブイの すなかけ!!】
「あ”あ”あ”あ”あ”あ”!! 目”がァ”ァ”ァ”ーッッッ!!」
まあ、ダメだった。当然ダメだった。
イーブイが後ろ足で蹴ったところから砂煙が舞い上がり、それがモロに博士の眼球に直撃した。
目を抑えて、悲鳴を上げながら博士は屋根から転がって地面へ落ちていく。
1階の屋根と言えど、アレは死んだんじゃなかろうか。南無。
(でも何でだろう、不思議と胸がすく思いだ)
ぴくぴく、と足を震わせて倒れているホトケに手を合わせた後、メグルは再びイーブイと向き直る。
しかし。
「──ケッ」
(ガラ、悪ッ!?)
ぺっ、と何かを吐き出すイーブイ。目の前に毛玉を吐き出したのである。
くしっくしっ、と後ろ足で頭を掻いた後、ギロリとメグルを睨み付けるのだった。
僅か0.3m。ウサギサイズの目がくりくりとした小動物なのに、その態度はさながらグレッグルかゴロンダであった。
(つーか態度悪ッ!? 気性難とかそういうレベルじゃなくね!?)
「ケッ」
もう一度毛玉が目の前に吐き出される。
「オイ!! ちったぁ媚びてみせろや!! お前はこっちの世界じゃアイドル的存在なんだぞ!! お前はイーブイ!! ピカ様に並ぶポケモンの顔なんだぞ!!」
このイーブイは面と向かって相手に「馬鹿ブイねぇ」と言ってのけるタイプのイーブイである、とメグルは判断する。
場の空気は既に剣呑そのもの。仮に手持ちに入ったとして、手懐けられるかどうかも怪しい空気が漂ってくるのであった。
「その子は少々性格に難があってねぇ……!!」
死にそうな博士の声が屋根下から聞こえてくる。
幸か不幸か生きていたようである。
「少々ってレベルじゃ無くないですか!?」
「イーブイにしてはとっても強い子なんだけど、気性が荒すぎて前に渡したトレーナーから返却されちゃったんだよ……!! たまにいるのさ、闘争本能が抑え切れないって子が!」
「育て方が悪かったんじゃないですか?」
「そんなぁ!?」
「プッキュルルルィィィ……!」
明らかに威嚇している声が聞こえてくる。
「イーブイ、落ち着こうか。俺がお前の新しいトレーナーで──」
「プッキュルルルル」
【イーブイの たいあたり!!】
ドスンッ!!
鉛よりも重い一撃がメグルの腹に直撃した。
身体全部を使った突進だ。
臓物が全部出て来るかのような衝撃が襲い掛かり、メグルは腹を抱えて蹲る。
「ッ……おえっ、お……!!」
「きゅっぷぃッ!!」
「こいつ……!」
博士が落としたボールをメグルは手に取る。
カプセルの上蓋を押すとビーム光が発せられた。
それが当たればポケモンを戻せるのであるが──身軽な動きでイーブイは躱してしまうのだった。
「っ……マジで何なんだオマエ!」
「きゅっぷい!」
「いけ好かねーヤツ! そりゃあ前の主人はお前を返しに来るわけだわ!」
たいあたりの重みが未だにずしんと腹に残る。
ポケモンは怖い生き物です! という「LEGENDSアルセウス」のラベン博士の言葉を彼は思い出していた。
例え小さいポケモンと言えど、人間くらいなら打ち負かせるだけの力を持っているのだ。
人間と仲の良いポケモンはそれを無暗に振るわないだけで、本当ならこうやって「体当たり」の一撃だけで捻じ伏せられてしまうのだ。
「おらっ、捕まれッ!」
「ぷるるるるっ」
肝心のボールビームは全く当たる様子がない。
この身のこなし方、素人目に見ても格別であることは確かだった。
更にその間に追撃を受け、態勢が崩れる。
(ッ……クソッたれ! とんだ貧乏くじだ!)
瓦に倒れ込む中、メグルはイーブイを見やる。
まだやる気だ。
相手がポケモンだろうが人間だろうが関係ない。
その闘志が消えることは無いのだろう。
(……くそっ、どうやったらあいつを捕まえられる? どうやって、捕まえる? ポケモンも居ないのに?)
戦わせるポケモンなど居ない。
肝心の博士は腰をやっちまったのか、そのまま屋根の下で悶えている。
あのドーブルは何処にやったのだろうか。本当に役に立たない。
(……あいつの覚えてる技は──確か、たいあたりとすなかけか、電光石火らしき技は使ってないし、レベルは10より下ってところか?)
考えねばなるまい。
色違い然り。理想個体然り。伝説のポケモン然り。
手に入りにくいポケモン程、欲しくなるのはポケモントレーナーのサガだろうか。
メグルは──久々に闘志が燃えつつあった。
目の前にいるのはただのイーブイかもしれない。しかし、手持ちが居ない今、最も捕獲するのが難しいポケモンと言えるだろう。
ボールは1つ。ただし、ボールビームを当てればいいだけ。
普通に当てようとしても避けてしまう所為で当たらない。
(そして、その間に──イーブイは体当たりで襲い掛かってくる──ッ)
言ってる間に、再びイーブイが地面を蹴った。
その突貫が今度は頭を直撃し、メグルは瓦に倒れ込んだ。
「ッッッでぇぇぇ!!」
後頭部を打ち付け、のたうち回る。
しかし、追い詰められる度にメグルの闘志は加熱された。
(ッ……やんろ……!! こうなりゃヤケだ!! どうやってでも捕まえてやる……!!)
そもそも。
ポケモン廃人とは、対戦のために厳選を重ねる生き物であった。
そもそも。
ポケモン廃人とは、一度手に入れたいと狙いを定めたポケモンの為ならば如何なる苦行も受け入れる生き物であった。
故に──彼の中からは既に諦めるという選択肢は消えつつあった。
(──ポケモンってのは、ポケモンをゲットするゲームだ! 基本に立ち返れ! これを乗り越えなきゃ、コイツより強いポケモンなんて捕まえられるわけないだろ!)
「メグル君っ! 逃げるんだ! 一度ユイ君を呼んでくる、弱らせれば──」
「……おもしれーじゃねーか、イーブイ。俺、どうせ育てるなら強いポケモンが良いって思ってたんだよね」
「ぎゅっぷいっ!!」
「だけど、所詮は進化前だな。お前の実力はそれっぽっちか?」
虚勢だった。
3度にわたる重い一撃を受け、既に意識がトびそうであった。
しかしそれでも。
ボールビームを当てる為の一瞬の隙を誘発するべく。
メグルは──イーブイを挑発してみせる。
「──来いよ
「プッキュルルルィィィ!!」
イーブイ、キレた。
再びこちら目掛けてイーブイが突貫する。
腹に渾身の一撃が炸裂した。
頭が真っ白になった。
胃の中のものがひっくり返りそうになる。
ぐらり、とメグルの身体が揺れ──博士が彼の名を叫んだ。
「つーか……まーえたっ……!!」
「ッ!?」
しかし、今度はイーブイは離脱することが出来なかった。
激痛と衝撃に耐えきったメグルがその小さな体をガッチリと両腕でホールド。
「お前が覚えてる技が”たいあたり”だけで助かったよ、何の捻りも無い、ただただ真っ直ぐ突貫するだけの技っ!! だから、軌道が読めたんだッ!!」
暴れに暴れ、噛みついてまでくるイーブイ。
しかし、意識を手放しそうになりながら、彼は握り締めたモンスターボールをコツン、とイーブイに押し当てる。
ボールビームが間もなく放たれ──凶暴な毛玉は、今度こそボールの中に納まったのだった。
「っ……イーブイ、ゲット……完了っ」
ぱたり、とそのままメグルは瓦の上に倒れ込む。
イーブイの入ったモンスターボールを天高く掲げ──そのまま仰向けに倒れ込むのだった。
「ふふっ、意外と熱血というか……ほしいと決めたモノには一直線なところがあるんだねえ。良いトレーナーの素質アリ、かな」
博士はその姿を見て笑みを浮かべる。
頭には──でっかいたんこぶが出来ており、様子を見に来た住職さんが悲鳴を上げるのだった。
※※※
「──報告は以上です。そちらからも何か異常があったら……お願いします。ええ、忙しいところすみませんでした」
メグルが研究所に向かった後、すぐさまユイは他のキャプテンたちにメッセージで招集を掛けたのだった。
と言っても、招集に応じたキャプテンはユイ以外の5名中2名。
2人──
もう1人は機械に弱いので、そもそもスマホロトムを持っていない。郵送か、最悪直接出向く必要があるだろう、とユイは考えるのだった。
(……サンダース。何であなたは一人で戦っていたの? あたしの事を頼ってくれないの? ううん、分かってる……あたしが、弱いからだよね)
連絡を終えた後、彼女はポケモンセンターの一角で項垂れていた。
メグルの前では見せなかったが、彼女の内心では落胆か渦巻いていた。
ユイはまだ未熟だ。正式にキャプテンの職を引き継いだわけではない。
その理由は──ヌシのサンダースが彼女を認めていないからであった。
(弱気になっちゃダメだよ、あたし……あたしが居なきゃ、誰がおやしろさまを守るって言うの──)
パンパン、と頬を叩く。
しかし、その度に脳裏をよぎるのはヌシサンダースの姿だった。
先代キャプテンのまとめ役もしていたユイの父とサンダースの連携は見事なものだった。
キャプテンとヌシの間にボールで繋ぐ主従は無い。あくまでも対等だ。
故にキャプテンはヌシの力を求め、ヌシもまたキャプテンの力を自ら求める形が理想とされている。
しかし、サンダースはたった1人で、あのオニドリル相手に戦い、そしてボロボロに傷ついた。
サンダースは──彼女の力を求めて来なかった。
彼からすれば、ユイはまだ庇護する存在でしかなかったのである。
「……何よ」
「電話ロトー! 電話ロトー!」
スマホロトムがやかましく着信を伝える。
電話を取り、その一報を聞いたユイは──落ち込んでいる場合ではなくなっていた。
「──やしろのもりから、野生ポケモンが大挙して迫っている……!?」
【イーブイ】
しんかポケモン
タイプ:ノーマルタイプ
『遺伝子が不安定で、環境に適応しやすい。守り神の加護を受けたイーブイは、通常とは異なる姿へと進化する。』