ポケモン廃人、知らん地方に転移した。【完結】 作:タク@DMP
「……先日、シャクドウを襲ったオニドリル。続けて我がセイランを襲ったテング団。両者に共通するは、共に出自が不明であり、サイゴクに仇名すモノと言う事」
【セイランシティキャプテン・リュウグウ】
「──断じて許してはおけぬ。しかし、無用な混乱をサイゴクに招くことはしたくない。そこで。改めてキャプテンの皆から、此度の事変に関する意見を聞き、それを元に今後の意向を決めたいと考えておる。よいな?」
カツン、ともう一度リュウグウは杖を鳴らす。
現在、おやしろは全て閉鎖されて厳戒態勢が敷かれている。
ヌシポケモンは各自の裁量に任せるとはいえ、凡そは保護されているのが現実。
「先ず、イデア博士とシャクドウ大学からの報告を取りまとめる。ユイ」
「はい……皆さん、お手元の資料をご確認ください。私が大学と博士から預かっている情報を皆さんに共有したいと思います」
【シャクドウシティキャプテン代理・ユイ】
(うっわー……代理とはいえ、大合議の場に立つことになるなんて思わなかった……すっごく緊張するんだけど)
内心、ユイは冷や汗だらだらであった。
この場に居るキャプテンは4人。
皆が皆、全員癖の強い人物ばかりなのである。
一度おやしろめぐりで皆と会っているが、今は立場が違う。
挑戦者の時のような甘えた態度は許されない。代理とはいえキャプテン同士はあくまでも同輩であり、おやしろの名を背負っているのだから重圧も相応である。
「コホン──イデア博士とシャクドウ大学の共同研究の結果、先日捕獲されたオニドリルの遺伝情報はほぼ既存のオニドリルのそれと同じことが分かりました」
部屋の正面に映像が映し出される。
そこには、シャクドウ大学で行われたオニドリルの遺伝子情報検査の結果が表記されていた。
全員の目は、捕獲されたオニドリルに向けられる。
既存のそれとは大きく異なるドリルの如き嘴、そして地中を潜行するに耐えうる頑強な羽根。
それらの特性を備えていながら、遺伝子の情報はほぼ同じ。それが指し示す事実は唯一つ。
「つまり、
しかしそうなると、問題が一つ発生する。
リージョンフォームとして、このオニドリルをどういった立ち位置に置くか、だ。
「──問題は、この地上の何処にも、このオニドリルと形質が一致するリージョンフォームは存在しないんです。特徴的なドリルの如き嘴と、長時間の地中潜行に耐えうるだけの器官を備えていながら……」
「つまり、どの地方のポケモン図鑑でも記録されていない、この地方で初めて確認されたすがたということで良いかの?」
「……そうなります。しかし、この地方で進化したとは考えづらいんです。この地方独自のすがたならば、もっと早いうちに確認されていてもおかしくはないんです」
「──煙たくなってきたでござるな」
全身を忍び装束に包み、顔を布で覆い隠した人物が言った。
「……何処の馬の骨とも知らぬポケモンが入り込んでいるということでござろう。美しきサイゴクを穢すなど以ての外。由々しき事態でござる」
【クワゾメタウン”ひぐれのおやしろ”キャプテン・キリ】
──彼の名はキリ。
クワゾメタウンのキャプテンであり、代々続く忍びの家系の末裔。
現在も尚、”すながくれ忍軍”と呼ばれる忍びの組織の頭領を務めており、その技を如何なく発揮している。
しかし、その表情は常に覆い隠されており、感情どころかその性別さえも伺い知ることは出来ない。
「更に先日セイランシティのおやしろが襲撃された時、テング団と共に現れたダーテングの姿をあたしのスマホロトムが自動的に記録していました」
「……ダーテングまで」
「そしてこのダーテングについても、どの地方のリージョンフォームにも存在しない、独自のすがたであることが分かりました」
「これはこれは面白くなってきましたねー。もしかして、オバケさんのリージョンフォームも居るのでしょうか?」
「これ。洒落になっておらんぞ、ヒメノよ」
巫女服の少女が──微笑みながら言った。
それをリュウグウが窘める。明らかに危機感に欠ける発言であった。
「ふふっ、失礼したのですよー」
【イッコンタウン”よあけのおやしろ”キャプテン・ヒメノ】
ヒメノは──イッコンタウンのキャプテンを務める少女だ。
昨日、メグルと出会った時と変わらぬ、どこか気の抜けた表情で彼女は受け答えてみせる。
一見何にも考えていないようにさえ見える彼女だが──決してその場の全員は彼女を侮ることをしない。
否、そんな事が出来るはずもない。
今も尚、彼女が腰からぶら下げているモンスターボールからは、身の毛のよだつような気配が湧き出ているからである。
最年少でありながら、ある意味、キャプテンの中では最も恐れられている存在である。
「……つまり。同じ時期に現れ、おやしろとヌシポケモンを襲撃した出自不明のポケモンは……テング団が持ち込んだものであると考えるのが自然でしょう」
「では、テング団はどうやってこのような個体を手に入れたのですー?」
「それは──分かりません」
「遺伝子改造、と言う可能性も無きにしも非ず。その線については調べているでござるか?」
キリが問うた。
前例が無いわけではない。
倫理面の問題で禁じられてはいるが、遺伝子を弄ることでポケモンの姿かたち、能力に影響を与える研究は確かに存在する。
だが、彼の懸念とは裏腹にユイは首を横に振った。
「その線ははっきりと”無い”と断言されています。あのオニドリルは、私達の知る環境よりも更に過酷な環境で自然に形質変化したものだ、と大学側とイデア博士が結論を出しています」
「……承知した。しかし気味が悪いことには変わりないでござるな」
「まとめますと、現在サイゴクを脅かしているリージョンフォームは、何処から来たのかは不明です。この地上の何処にも同型のポケモンが記録されていないのだから当然なんですけど」
「それでは八方塞がりでござろう。リージョンフォームの出所を突き止めない事には……生態の解析も進まないでござる。オニドリルに続きダーテング。ならばほかにも存在していてもおかしくはない。しかし生息地すら分からないのでは──」
「あら、そうでもないわよ、キリちゃん」
その場の淀んだ空気を払拭するような、陽気な声が聞こえてくる。
にぃ、と口角を上げながら鶴の一声を上げた人物は立ち上がった。
「此処から先は……憶測混じりだけど、ワタシの経験を基にした仮説を説明するわ。良いわね? ユイちゃん」
「あ、はい、お任せします──ハズシさん」
【ベニシティ”ようがんのおやしろ”キャプテン・ハズシ】
濃い化粧に、厚いリップ。そしてライダースーツを着込んだ大柄の男だ。
見る人が見れば間違いなく「オネエ」と呼ぶであろう風貌である。最も外見に違わず言動も「オネエ」なのであるが。
「実は今回の大合議をリュウグウの旦那に提案したのは、ワタシなのよ♡」
「そうだったんですか!? 今初めて知ったんですけど」
「ええ。だってこれから話す情報はオフレコだもの。皆、キャプテン以外で他言は無用よ、イイ?」
「……承った」
「はいなのですよー」
「良い子ね」と言った後、ハズシは向き直る。
「地上に居ないなら、奴らが
「違う、世界……!?」
ユイには思い当たる節があった。
メグルは──ポケモンの居ない世界からやってきた少年だ。
確かに荒唐無稽かもしれない。しかし、今の彼女には他人事のようには思えなかった。
「オバケさんとどっこいどっこいなのですよー」
「いいえ、そうとも言えないわ。”ウルトラビースト”の前例を知っているなら、だけど」
「ウルトラ、ビースト……ですー?」
「……知識としては知っているでござる」
「むぅ……ウルトラビースト、か」
完全に初耳と言わんばかりに首を傾げるヒメノ。
聞いた事があると何かを直感したキリ。
そして、苦虫を嚙み潰したような顔を浮かべるリュウグウ。
キャプテンたちでさえ、その単語に対する反応は様々だ。
ユイはと言えば──当然、知らなかった。
(何それ、初めて知ったんだけどあたし……!!)
「ええ。アローラ以外だと国際警察の隠ぺいで広くは知られてないと思うわ。言わば──無数の異界に通じる穴・ウルトラホールを通って別世界から来た生命体の事を指すの」
「俄かには信じられないのですよー」
「証拠ならあるわ。6年前、アローラ地方で捕獲されたUB01 PARASITE。神経毒を持つ危険な生物よ」
全員は、その異様な姿が映った映像を見て息を呑む。
PARASITEと呼ばれたその存在は、ガラス質で構成された顔の無いクラゲのような生命体であった。
「ッ……実在したでござるか、ウルトラビースト……!!」
「なんだかオバケさんみたいなのですよー」
(何なの、コイツ……!! こんな生き物、本当に居るの……!? そもそも、生きてるのコイツ……)
「彼らはいずれも既存のポケモンに当てはまらない異様な性質、そして凶暴性を持っていたわ」
「じゃあ、あのオニドリルやダーテングもウルトラビースト……!?」
「もし彼らが本当に異界から来たなら、そう呼んでもいいかもしれないわね」
「生息地が見当たらないからと言って異界の生物と判断して良いものか……眉唾モノでござるな」
「ええ、だから参考程度に留めて頂戴。でも前例が無いことだもの。どんな可能性だってあるって思わない?」
「然り。あらゆる可能性を視野に入れるべきじゃ。ユイ。オヌシも分かるじゃろ?」
「はい……」
メグルの件を経験したユイは、ハズシの言う「可能性」を否定することは出来なかった。
「ただ……今回の件、ワタシはウルトラホールが絡んでいるわけではないと考えているわ」
「それはまた何故?」
「ワタシ、シャクドウ大学の研究に少しお邪魔させてもらったのだけど……オニドリルには無かったのよ。ウルトラホール特有のエネルギーが」
ウルトラホールは、限られた一部のウルトラビーストが開けることが出来るとされている。
その際にエネルギーが発生し、ポケモンに対して強力に働きかけるほどである。
アローラ地方の”ぬしポケモン”が強力である理由は此処にあり、ウルトラホールから発せられたエネルギーがポケモンの力を引き出すと考えられている。
しかし。オニドリルの身体からはこの独自のエネルギーは感知されなかった。
これは、今回の件にウルトラホールが絡んでいる訳ではないということを示す大きな材料となる。
「つまり。ハズシ殿の仮説はこうだ。”異世界”は確かに存在し、今回現れたオニドリルやダーテングはそこからやってきたということでござるな。ただし、ウルトラホールとは無関係、と」
「ええ。どうやってこっちに来たか分からないから、今のところはお手上げって感じ」
「……そうなると、過去に語られてきた伝承にヒントがある可能性は高いでござるな。もしかして、今回のようなことが過去にも起きたやもしれないでござる」
「うむ……強ち否定は出来んな」
「何が起こるか分からない。それだけは皆、覚悟しておいて頂戴。ま、キャプテンになった時点でそんなことは分かり切ってるでしょうけど」
ポケモンは──何でもアリの生物。
それは、キャプテンである彼らが最も分かっているはずだった。
しかし人間、己の理解の範疇から外れたものが現れると素直に受け止め難いものである。
各々に衝撃を残したまま、合議は続く。
「……では、続いて……今後のおやしろの行動指針を決めていきたいとワシは思う」
現在、サイゴクのおやしろは全て封鎖され、ヌシポケモンは厳重に保護されている。
しかし、おやしろは試練の場であり、同時にヌシの住処でもある。
元々ヌシは野生ポケモンでなければならない以上、人が常に居るのは彼らにとってもストレスが掛かるのである。
また、いつまでもおやしろの厳戒態勢を解かない事は、テング団のテロルに屈することを意味していた。
「テング団の目的は、おやしろの破壊、そして──ヌシポケモンのオーラの奪取じゃ」
「オーラ、か。強いポケモンには強い力が宿るというが、それを手に入れるとは……面妖でござるな」
「奴らの使っていた”オーライズ”なる技術は、ポケモンのオーラをオーパーツなる道具に封じ込め、オージュエルと呼ばれる石で解放することでポケモンに鎧のようにして纏わせるもの……と推測されておる」
「テング団は、より強いポケモンのオーラが欲しいのかもしれないわね。ウチのヌシポケモンたちは打ってつけ、か。でも、最終的な目的は見えず仕舞いね。おやしろを壊して何がしたいのやら」
「……下らん。ただの暴徒でござろう。力で現状変更など許されることではない。ましてや人間の都合にポケモンを巻き込むなど以ての外でござろう」
「ヌシポケモンを避難させた理由はそこにある。しかし、いつまでもこうと言う訳にはいかん。先ず、諸君らの見解をワシは聞いちょきたい」
「はいー、それではヒメノから提言があるのですよー」
ふわふわとした笑みを浮かべながら、ヒメノが手を上げた。
「……うむ。分かった。申してみよ」
「はいー。テング団は、おやしろさまに仇名す危ない集団なのです。怖いのです。でも、なるかみ、すいしょうと立て続けに狙われるのは……ヌシ様も、ひいてはおやしろも
「うん……うん? うん、続けよ、ヒメノ」
「──侮りは外患を呼ぶ最大の要因なのです。報復されないと思われているから、好き勝手されるのですよー」
(アレ、なんかすっごくイヤな予感がするんだけどあたし……)
ユイの心配など他所に、部屋の空気が下がる。
くすり、と可愛らしい笑みを浮かべながらヒメノはその先を言った。
「怨み返し。ただちに討伐部隊を編成し、テング団を一人残らず潰滅する……これが、”よあけのおやしろ”の総意なのですよー♪」
この少女、危険につき──