ポケモン廃人、知らん地方に転移した。【完結】   作:タク@DMP

32 / 225
※ヒメノ、イッコンタウン→よあけのおやしろ キリ、クワゾメタウン→ひぐれのおやしろ

のキャプテンです。作中でミスがあったので修正し、此処で追記しておきます。


第30話:怨み返し

 通称・御三家と呼ばれるおやしろがある。

 それが、シャクドウの”なるかみのおやしろ”、セイランの”すいしょうのおやしろ”、そしてベニの”ようがんのおやしろ”である。

 この3つは、かつてジョウト地方からサイゴク地方に移住してきた民が、伝説のポケモンに敬意を払い、一族の繁栄を祈願する目的で建築されたおやしろである。

 故に、それぞれ”伝説の三聖獣”と呼ばれるポケモンと、それに似通った力を持つイーブイの進化系がヌシポケモンとして祀り上げられた。

 対して──それよりも歴史が古いのはイッコンの”よあけのおやしろ”、そしてクワゾメの”ひぐれのおやしろ”。

 この2つのおやしろは御三家とは成り立ちが異なる。

 元々、イッコンとクワゾメは野生ポケモンと戦う為に城塞や砦を建築して武装していた過去がある。それほどまでに、その時代のポケモンの襲撃は苛烈だったとされている。

 誰よりもサイゴクに降りかかる災いに対して敏感なのが、この2つの町であり、彼らは決して外敵の存在を許しはしない。

 故に、ヌシポケモンはかつて災いに対して果敢に立ち向かったポケモンの子孫である。その武功によって選ばれたヌシであるが故に、イーブイの進化系とは関係がない。

 おやしろとはサイゴクの均衡の象徴である。ヌシポケモンとはサイゴクの秩序の象徴である。

 それが決して犯されることなかれ。

 それを乱すならば、例え同じサイゴクの民であっても許すことなかれ。

 それこそが責務である。

 イッコンのキャプテンは代々そう教えられる。

 

「──甘い考えは、サイゴクを滅ぼす元なのです。おやしろを閉鎖して守りに入っている場合ではない、とヒメノは考えるのですよー♪」

 

 ヒメノは特に、祖父である先代キャプテンの考えを色濃く残している。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 怒鳴って追い出すだけで済ませるリュウグウとは訳が違うのだ。

 そもそもが防衛施設の神棚から発展したおやしろであるが故に、更に厳格な姿勢を取っているのは当然と言えば当然であるのだが。

 

(今からテング団に戦争を吹っ掛けるってこと……!? そんな事して町に何か被害が出たらどうするの……!?)

 

(……気持ちは分かる。しかし非常に危険な考え方じゃ。奴らの戦力は未知数。刺激すればどうなるか分からん。巻き添いを受けるのはいつも、民なのだぞ……!)

 

 が、しかし。当然このようなタカ派真っ逆さまの考えは、一歩間違えればサイゴクに無用な争いを招く元となる。言ってしまえば防衛を口実に攻め込むことも出来るからだ。

 そしてそれが可能なほどに、ヌシポケモンの力は──強大なのである。

 過去、何度かおやしろ間での争いはあり、多くの血が流れた。文明が発展したことで争いは消えていったが、それでも大合議は開かれる。

 暴走する者が現れないように必ず、こうして意見と見解を共有する場を設けるのである。

 

「相分かった。しかし、それはこちらの一存では決められん。分かっておるな? ヒメノよ」

「おやしろとヌシが襲われて尚、この期に及んで日和見主義に走る者を最早キャプテンと呼べるでしょうか? リュウグウのおじいちゃんも……当事者ですよね?」

「……」

 

 タカ派とも呼べる彼女の言動に、リュウグウは──ある男の面影を見た。

 ”よあけのおやしろ”の先代キャプテンの顔であった。

 

 

 

()()()……オヌシは今もまだ、そこに居るのか……?)

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 ──10年ほど前の事である。

 イッコンの近辺ではヌイコグマとキテルグマが大量発生した。アローラから密輸されたものが逃げ出し、繁殖したと言われている。

 キテルグマは餌を求め、度々人気(ひとけ)のあるおやしろや町の近くに姿を現した。

 当初こそリュウグウの進言もあって、現れ次第猟師が捕獲するという方向性であった。

 しかし、見慣れない可愛らしいポケモンであったが故に、不用意に進化前のヌイコグマに近付いた子供が──進化系であるキテルグマに殴り殺された上に、貪り食われるという事件が起こったことで事態は急変したのである。

 

「何故だリュウグウッ!! 人が死に、おやしろにまで入られているのだぞ躊躇している場合ではないッ!!」

 

【イッコンタウン”よあけのおやしろ”キャプテン(当時)・アサザ(76歳)】

 

「野生ポケモンが侵入し被害が出る。そのために防衛を固める。それは正しい事だ。しかし、此度のポケモンとて人間の被害者。無暗に殺さず、捕まえて元の地方に返すべきではないか。そのためのモンスターボールではないのか」

「ならん!!」

「……ッ」

 

 当時のイッコンタウンのキャプテン・アサザは、急進的にキテルグマの討伐に乗り出した。

 それは捕獲ではなく、根絶。全てを皆殺しにするという結論であった。

 なんせ、どの個体が人殺しの犯人かは分からないのである。そしてそれを調べるのもリスクが付きまとう。

 ならばもとよりサイゴクに居てはいけない生き物、これ以上増えないうちに全て根絶せねばなるまい、というのがアサザの考えだった。

 

「死者の怨みは……報復を以てのみ晴らすことが出来る!! どの道人を手に掛けたポケモンは生きていてはいけないのだ!! 熊型は特にそうだ、分かっているだろう!! 人の味を覚えれば、例えトレーナーであっても牙を剥く!!」

「言っていることは分かる。重々承知している。しかし……ならば該当する個体を──」

「どうやって判別する。殺して胃の中を調べてみるか?」

「……それは」

「ほうれ見た事か。我らは虱潰しに人殺しを行った個体を探すことなど出来ん。だから、根絶やすのだ!! そして親を殺された進化元は……必ず人間に憎悪を抱き、仇名す!! これもまた根絶やすしかないのだ……ッ!! 諸共に!!」

「ああ分かっちょるよ。痛いほどな。だが……進化前だけでも助けてやれんのか……」

「リュウグウ。自然を侮ると、どうなるかお前が一番知っているはずだ。お前がそうやって甘い考えだったから、ヌシも死なせたのではないか? ええ?」

「ッ……」

「やめねえか、バカジジイ!! 人の辛い過去掘り出して、どういう了見だコラ!!」

 

 当時、既にキャプテンに就任していたユイの父・ショウブが割って入る。

 外来種の駆逐には概ね賛成だった彼だったが、とうとうアサザの態度に業を煮やしたのである。

 

「リュウグウの爺さんが、どれだけあの件で苦しんだのか、あんた知ってんだろ!? どんな神経してやがんだよ……ッ!!」

 

【シャクドウシティ”なるかみのおやしろ”キャプテン(当時)・ショウブ(29歳)】

 

「ええい黙れ、止めるな小僧!! 人が死んでおるのだぞ!!」

「いいや、止めるぜ。あんたは……いや、あんた達は怒りに囚われて、()()()()()()を忘れているように思える。冷静じゃない人間たちに駆除作戦を任せるわけにはいかない」

「止めるなら、今此処でお前に引導を渡してやろうか? 小僧……」

「おう、望むところだクソジジイ!!」

 

 

 

「やめんかッ!!」

 

 

 

 リュウグウの渾身の怒号がその場に響き、アサザもショウブもボールに掛けた手を止める。しかし──叫んだあと、力無い表情でリュウグウはゆっくりと俯いて言ったのだった。

 

「……もうよい。分かった。……ワシが甘かった。つまらぬ情に流されるべきではなかった。外来種の根絶に……セイランのキャプテンとして、ワシは賛成する」

「爺さん……」

「……アサザの言う通り。奴らはサイゴクに居てはいけない命……そして、大合議の場でキャプテンの和を乱すわけにはいかん」

「分かれば良い、リュウグウ。しかしお前も老いたな。いい加減、後継者の1人でも見繕っておいてはどうだ?」

「……そうかもしれんのう」

 

 ──結果。

 イッコンタウン近辺の山から、ヌイコグマとキテルグマは1匹残らず消えた。その後、密輸に関わった組織もまた、アサザ主導の下で潰滅させられたという。

 駆除が終わったと聞き、リュウグウはイッコンタウンに足を運んだ。野外で、ビニールシートの上に並べられたキテルグマとヌイコグマの亡骸を見ながら──リュウグウは嘆息した。

 

「……何と惨い……此処までせんでも、と思ってしまうのはワシが甘いだけか……アサザ……」

 

 アサザのやった事は間違っていない。甘言を言っているのは自分の方だ。

 しかし──他に方法は無かったのか。何の為のモンスターボールなのだろうか。

 外来種を排除することは出来たものの、はっきりと後味の悪さがリュウグウに残っていた。

 やっていることは間違っていない。だがアサザのやり方は怨みを以て相手に報復するというもの。

 ”よあけのおやしろ”の成り立ちを考えれば無理もなかった。必勝を祈願すると共に、ポケモンとの激突で亡くなった人を弔うためのおやしろだからだ。そもそも「怨みを抱えれば抱える程に人やポケモンは強くなる」という思想が根底にあるのである。

 いつかそれが、大きな災いを生む元になるのではないか、とリュウグウは考えていた。怨みを力の源とする前時代的な風習を未だに崇高するアサザを危険視していた。

 だが──そう考えているうちに、アサザは先のキテルグマ駆除の四十九日後、熱病に三日ほど魘されたのち、あっさりと亡くなった。

 最後は譫言のように──「クマ……クマが……」と呟いていたという。キテルグマの祟りではないか、とあちこちでウワサされた。

 

 

 

(アサザよ、オヌシは何も間違った事はしちょらん……ワシが甘かっただけじゃ。だが……()()()()()()()()()()。人であれ、ポケモンであれ、例え相手が誰であろうと怨みを以て接してはいかん……ワシもまた、戒めねばならん事じゃ……)

 

 

 

 その後9年の間、イッコンタウンには長らくキャプテンが不在の時期が続く。次にキャプテンとして認められたのは、アサザの孫”達”であった。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「──キャプテンと呼べると思う」

「ッ……! 代理さんが、いきなり何ですかー?」

 

 

 そう言ったのは──割って入ったユイだった。

 

「だって、ヌシに認められれば誰であってもキャプテン。貴方だってそうだったじゃない、ヒメノちゃん」

「その資質に疑問を抱いているのですけどねー、ヒメノは。サイゴクを守る意思を持つ者がキャプテンなのですよー」

「それは……他でもないヌシ様を疑うことになるよ、ヒメノちゃん。そんな事、貴方達には出来ないでしょう?」

「……ッ!」

 

(ひえっ……)

 

 ヒメノの殺気が自分に向けられたのをユイは感じ取った。

 自分よりも遥かに年下にも関わらず、胸には確かに並々ならぬおやしろへの思いが詰まっている。

 しかし、それでも彼女の──”よあけのおやしろ”の行動にはブレーキを掛けねばならない。

 ユイは辛うじて正気を保ちながら、言葉をひとつひとつ紡いでいく。

 

「……人の意見も聞いてみようよ、ヒメノちゃん。あたしもそうだけど……一人で突っ走ったって、何にもならないんだよ」

「……」

「うむぅ、おヌシは大事な事を見落としちょる。相手が人間であるならば報復に走る可能性だってある。おやしろを守りながら、奴らの出方を慎重に伺うのじゃ」

「報復など覚悟の上、なのですよー」

「ねえ、ヒメノちゃん。貴方達のテング団を許しておけないという気持ちは分かるわ。でもね……それが却って、町の人たちの平穏を乱すことになったら大変でしょう?」

 

 ハズシが諭すようにして割って入る。

 

「キャプテンってのはね。おやしろだけじゃなくて、町の安全も守らなきゃいけないのよ。そのキャプテンが、勝手に突っ走っても仕方ないでしょう?」

「……でも、おやしろが──」

「どうせならこちらも相手に悟られないように動いて、奴らの拠点を見つけて一網打尽にした方が良いと思わない? ねえ」

「その間に仕掛けられたらどう責任を取るつもりですー?」

「逆に問おう、ヒメノ殿。あのような集団如き、相手取ることが出来ない”よあけのおやしろ”ではあるまい? 今一度熟考を願うでござる」

 

 キリは冷静だった。

 武功に秀でた”よあけのおやしろ”を逆手に取った問いかけであった。

 流石にこの状況では旗色が悪いと考えたのか、笑顔は崩さないままでヒメノはぱちん、と両の手を叩く。

 

「……それでは、対案を提示するのですよー♪ 人を止めておいて、何も無いということは──無いですよね?」

 

 最も、目は笑っていない。

 

「”ひぐれのおやしろ”としては、すながくれ忍軍を動員し、テング団の監視を行っている。彼らを追っていれば、いずれ本拠地に辿り着くと考えているでござる」

「”ようがんのおやしろ”としては、おやしろへの人員を増やす事で警備体制を固めたままで対応するわ。物量は多いのよ、任せておいて♡」

「”すいしょうのおやしろ”は──おやしろ再建まで、此方の人員を各地に派遣し、支援する」

「え、えーと……”なるかみのおやしろ”も──大体そんなカンジで! ただ、研究施設の警備も固めなきゃ、だから他よりも人員が要ると思う」

 

 概ね「警備を固めて静観、ただし監視と調査を続ける」という具体案を持ち、同じ方向性で向いているキャプテンたちを前に1人そっぽを向くわけにもいかず。

 

「はぁ……勝手にヒメノが熱くなっていたのがバカバカしいのです。では”よあけのおやしろ”も、今回の所は右に倣うのですよー」

 

 と、折れたのだった。

 こうして、波乱はあったものの滞りなく大合議は終わったのである。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「旦那。お疲れ様」

「……ハズシ殿」

 

 

 

 大合議が終わり、キャプテンたちが去っていく中、リュウグウは一人、佇んでいた。

 アサザは生きている、とリュウグウは確信した。

 しっかりとヒメノの中に生きている。今も尚。

 いや、ヒメノだけではない。”よあけのおやしろ”そのものが、今も尚アサザの考えが根付いているのだろう。

 

「やれやれ……弟君が似なかったのが幸いかしら」

「……長らく平和な時が続いたのだ。ワシらが平和ボケしているだけやもしれんぞ」

「珍しく弱気なのねぇ、旦那」

「我らは今、戦争を仕掛けられているも同然。”ひぐれのおやしろ”の言い分は大いにわかる」

「でも、そこで冷静さを欠いたらお終いよ。熱狂は人を狂わせるわ。あの子もそれを分かってくれれば良いんだけど」

「……そうじゃのう」

「ねえ、旦那。サイゴクの言い伝えって、よく”鬼”が出てくるじゃない」

 

 それは、災厄の象徴として出てくる言葉だ。 

 言い知れぬものを、形容しがたいものを昔の人は”鬼”という怪物に例えたのである。

 

「ワタシね、好きな”鬼”の戯画があるの。おやしろで鬼が暴れている絵よ。でも、鬼同士が争っているだけで人はそこに描かれていない」

「絵は……おやしろ同士の争いを描いたもので、誰の心にも”鬼”は居るって戒めだったかのう」

「そうよ。ワタシたちはポケモンを怪物と呼んで恐れ、敬い、時にぶつかってきた歴史を持つわ。でも……他でもないワタシたちが怪物にならないように気を付けなきゃね」

 

 そう言って、ハズシはボールを目の前に投げる。

 現れたのは──れっかポケモンのファイアローだ。 

 夕焼けのように鮮やかな紅の羽毛を持つ猛禽の如きポケモンである。

 その足には、ハングライダーのような機器が取り付けられている。

 

「それじゃ、ワタシも失礼するわ! 旦那は身体に気を付けて!」

「ああ待てい、ハズシ殿」

「何よ?」

「……もうじき、見どころのある少年──メグルがおやしろに来るじゃろう。試練の相手をしてあげい」

「あーら。贔屓目なのね。らしくもない」

「色々あってな。折を見て話す。各自、人が多いと喋りづらい事もあるだろうからな」

「……そうね」

「今は何も考えずに、あやつの事を頼みたい」

「良いわ、たぁ~っぷり、可愛がってアゲル♡」

 

 そう言って、ハズシはファイアローにぶら下がり──飛んでいくのだった。




【キャプテン2】
ヒメノ 女 13歳
イッコンタウン”よあけのおやしろ”のキャプテンを務める片割れ。常にのほほんとしており、どんなことにも動じない強い胆力の持ち主。霊感があり、オバケが見えるらしい。一方で、おやしろとヌシポケモン、そしてイッコンタウンには並々ならぬ思いを抱えており、祖父の教育からかそれに仇名すものを決して許しはしない。顔ではいつものように笑っていても、その選択には情けも容赦もない。そのため、先代である祖父と同じく「暴走」の可能性を危惧されている。
 加えて、他の地方で修行をしていたためか、おやしろまいりをする年齢に達していないにも関わらず、キャプテンの中ではリュウグウに次ぐ実力者と目されている。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。