ポケモン廃人、知らん地方に転移した。【完結】   作:タク@DMP

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第31話:激情

 ※※※

 

 

 

「キリさんっ、今日はありがとうございました──」

「礼は不要でござる。サイゴクの危機、共に乗り越えるでござるよ」

 

 

 

 忍び装束の上、マスクに覆われて素顔は分からないが、キリの態度は温和で紳士的だ。

 ユイも試練の時には随分と世話になっており、彼に好意的な人物は多い。

 

「と言っても、あたしキャプテンじゃないから、何処まで出来るかは分からないけど……」

「今、ヌシ様に認められなくとも、地道に出来る事を積み重ね、耐え忍ぶ。それもまた道でござる」

「皆そう言うんですけどねー……」

「キャプテンは気苦労も多い。今のうちから慣れておくのは大事でござろう」

「気苦労──」

「お二人で何のお話をしているのですー?」

 

 声が聞こえてきて、二人は思わず振り向いた。

 

「げっ、ヒメノちゃん──」

「ヒメノ殿」

 

 ユイはヒメノの姿を再び見るなり身の毛がよだってしまった。

 自分よりも年下にもかかわらず、大人にも負けない威圧感を放っていた彼女に、すっかりユイは気圧されてしまっていた。

 

「ユイ様ー、()()()()()()()()()()、という言葉があるので、これからもよろしくなのですよー♪」

「あ、あはははは……そ、そうね」

「……そう。それはそれ、これはこれ、なのですよー。()()()

「ッ……!」

 

 そう言った彼女は──いきなりボールを天高く投げた。

 

 

 

「──ジュペッタ。”シャドークロー”、なのですよー♪」

「いけないッ!!」

 

 

 

 おどろおどろしい幾つもの手がキリを狙う。

 しかし、それを護るかのように──全身が殻に覆われたポケモンが彼の目の前に現れた。

 影の手は現れた標的を貫くように何重にも重なって突き刺す。

 殻は盾となり──パキッ、と音を立てて砕け散る。

 そうして中から現れたのは、粒子で構成されたこんぺいとうのようなポケモンだった。

 

「ッ……よし。よく耐えたでござる、メテノ」

「しゃらんしゃららんっ」

 

 宇宙に集まった塵を装甲として纏うポケモン──メテノ。

 その本体は成層圏のナノ粒子が突然変異したものと考えられており、硬い外殻の内部に今まさに跳ね回っている本体が隠されている。

 ナノ粒子の本体を守るだけあって、外殻の硬さは強靭の一言。 

 だが、それが破られたことは、影の手の威力の凄まじさを意味していた。

 

【メテノ ながれぼしポケモン タイプ:岩/飛行】

 

「メテノの殻が一瞬で破られた……相変わらずジュペッタとは思えないすさまじい強さね……ッ!!」

「本当なら殻どころか中身諸共ぺちゃんこなのですよー♪」

「ケタ、ケタケタケタッ!!」

 

 不気味な笑い声をあげるのは──ジュペッタ。

 ぬいぐるみに怨念が宿ったポケモンだ。

 自分を捨てた子供を探し、彷徨うという恐ろしい習性を持つという。

 まさに、呪いを武器に戦う”よあけのおやしろ”のキャプテンに相応しいエースポケモンであった。

 

「……何のつもりでござるか、ヒメノ殿」

「良い機会だし決着を付けに来たのですよー♪ ……以前に舐めさせられた辛酸、此処で晴らす時、なのですよー」

「以前……ッ!? キ、キリさん、ヒメノちゃんと何かあったの──!?」

「何ということは無い。キャプテン同士の合同修行で打ち負かした。それだけの事でござる」

「……それで、キリさんを憎んでるの!?」

 

 ユイは思い出す。

 父のショウブは「結局、イッコンの新しいキャプテンの姉の方には1度も勝てなかったなあ」とぼやいていたのだ。

 それが示すのは、ヒメノが恐ろしい実力の持ち主であるということ。それに裏付けされた自信の持ち主であることだ。

 

(キャプテンの中でもヒメノちゃんに勝てるのは珍しい……キリさんに敵愾心を抱いているの……!?)

 

 ユイは恐る恐る、ヒメノの顔を見やる。

 その表情は──予想に反し、ほんのりと赤く染まっていた。

 ユイは目を擦り、もう一度その表情を見やる。

 何かがおかしい。てっきり、顔は笑っていても目は笑っていないものと思っていたのに、さながら恋する乙女のように恥じらう仕草を見せていた。

 

(あれっ!? なんか違う──!?)

 

「……素顔も、素性も、全て暴きたい。そう思うのは、恋患う乙女にとって当然のことなのですよ」

「え、は? こ、恋……!?」

「私の戦術。ポケモン。その全てが通用しなかったのは……リュウグウのおじいちゃん以来、なのですよー。ヒメノは、結婚するなら……自分よりも強い人、と決めているのですよー♪」

「……それから会うたびにポケモン勝負を挑まれて辟易しているでござるよ……」

「情熱的なあぷろーち、と言ってほしいのですよー!」

 

 むぅ、とヒメノは珍しく頬を膨らませた。

 

「あーあ、この年頃の女の子によくある恋に恋するって奴ね……後年黒歴史になるタイプの」

 

 ユイの指摘は正確に的を射ていた。

 幾ら苛烈なキャプテンと言えどヒメノは所詮、まだ13歳の子供なのである。

 

「くすすっ。愛余って憎しみに転ずると言いますので。あなたは応じるしかないのですよー♪」

「とんだ脅迫でござるな……メテノよ、いつも通り短期決戦でござる。しかし相手はヒメノ殿、用心でござるよ!」

「しゃらんしゃらららん」

「用心だなんて。ヒメノのことなど歯牙にも掛けていないのに、よく言うのですよー。だから、たっぷりと呪ってあげるのですよー♪ ジュペッタ、準備は良いですー?」

「ケタケタケタケタケタッ」

 

 ひょい、と跳んだジュペッタは建物の屋根に飛び上がる。がぱぁっ、とジッパーで閉じられた口が大きく開いた。

 そこから再び幾つもの手が伸び、メテノ目掛けて襲い掛かる。

 ”シャドークロー”。幻影の魔手。それも、先程よりも遥かに数が多く、勢いも増しており、ジュペッタ本体よりも巨大な千手の怪物となって襲い来る。

 まるでそれ自体が怪物のように肥大化した影の手は、蜘蛛のようにのたうち回りながら虱潰しにメテノを叩いていく。

 質量そのものは無いのか手が叩いても屋根や桟橋は軋みすらしない。

 だが、一度捕まればそのまま飲み込まれてしまうであろうことは想像に難くない。

 

(そもそも、あたしのポケモンであれを避けられるポケモンって居る……ッ!? 居ない、よね……!?)

 

 決して攻撃の軌道も単調ではない。フェイントを織り交ぜながら、あの手この手でメテノを捉えようと無数の手が襲い来る。

 だが、それでも尚メテノが一度も被弾していないのは、偏にキリの育成の手腕に拠る所が大きく、決してジュペッタがノーコンだからではない。

 むしろ、並大抵かそれ以上程度のトレーナーならばジュペッタの放つシャドークローの物量に押し潰されて倒れてしまうだろう。

 

(そも、ヒメノの前では何処に逃げるかもお見通し。()()()()()()()()()お見通し。通用しないのですよー。……なのに。回避軌道が全く読めない。キリ様。貴方の事がヒメノには全く分からないのですよー♪)

 

 マイクロ粒子のみで構成された身軽な体。小ささ。それを生かし、メテノは持ち前の身軽さを生かしてそれから逃れ続ける。

 急加速と減速を繰り返し、不規則な軌道を描きながら影の手を逃れ続けていく。

 しかし、それを大人しく許すヒメノではない。

 

「ならば”のろい”も掛けて、短期決戦なのですよー♪」

「なっ……!!」

 

 ジュペッタの背中に巨大な釘が現れて、一気に打ち込まれた。

 それと同時にメテノの身体にも巨大な釘が現れ、打ち込まれる。

 ”のろい”は体力を削ることで、相手を呪う技。呪われた相手はその体力を消耗し続けるのだ。避けられるならば、不可避の一撃を叩きこむのみ。死なば諸共。まさに”よあけのおやしろ”キャプテンらしい切札である。

 こうなれば最早長期戦は不可能。ジュペッタを早期に倒すか、メテノが力尽きるか、だ。

 

「最も、その体力なら一撃でも当たればオシマイなのですよー♪」

「ならばこちらも渾身の一撃を喰らわせるのみでござる。メテノ、ストーンエッジを放つでござるッ!!」

「当たらないのですよー。ジュペッタ、”シャドークロー”なのですよー♪」 

 

 メテノの周囲に塵が集まっていき、それが次第に巨大な苦無型の刃となり、雨のようにジュペッタへと降り注ぐ。

 1つ1つがその首を狙う正確な射撃。

 それさえも紙一重でジュペッタは躱していき、自らの両腕を伸ばしてメテノを狙う──しかし。

 

「居ない!? 岩に紛れて消えたのです……!?」

 

 ヒメノは目を見開いた。

 一瞬、岩陰に隠れた間にメテノの姿は視界から消えていた。

 ジュペッタも、いきなりメテノが消えたからか辺りを見回している。

 

「言ったでござろう、短期決戦、と」

「──まさか」

 

 上空から落ちてくる影。

 それがジュペッタの背後を取った。

 

 

 

「最大出力──”メテオビーム”でござるッ!!」

 

 

 

 その掛け声と共にメテノの表面に集められた宇宙のエネルギーが、集中し──ジュペッタを消し飛ばす勢いで放たれる。

 それは岩タイプの特殊技でも最大の威力を誇る大技であり、とうてい”のろい”で自らの体力を削っていたジュペッタが耐えられる代物ではなかった。

 吹き飛ばされたジュペッタは、文字通りボロ切れのように桟橋の上に叩きつけられ、そのまま動かなくなるのだった。

 

(た、溜めるのに時間が掛かるメテオビームをあの時間で……!? 一体どんなカラクリを……!?)

 

「あーあ……勝てると思ったのに、残念なのですよ」

「決着でござるな。……メテノ! すぐに戻るでござるよッ!」

「しゃらんしゃらららんっ」 

 

 いつになく急いだ様子でボールを取り出すキリ。

 メテノはそれに吸い込まれていく。

 それを見やると、落胆しながらもヒメノはジュペッタをボールに戻すのだった。

 そして、握ったボールに「お疲れなのですよー」と呼びかけると、キリの方へ向き直る。

 

「今回もヒメノの敗け、なのですよー。結局、キリ様のことは分からず仕舞いなのですよー」

「世の中には知らなくて良いことも沢山あるでござる」

「ふふっ、ミステリアスなキリ様、素敵なのですよー♪」

「ねえ、このレベルの()()()()()を毎回やってんの……!?」

「ユイ様は私達の事をいささか買いかぶり過ぎなのですよー♪ このくらい、キャプテンならば当然なのですよー♪」

「……あんたねぇ……」

 

 ユイが胃が痛くなるのだった。

 このヒメノという少女、あまりにもアクが強すぎる。

 

「……理解したでござるか? キャプテンには()()()が付きまとうものでござるよ」

「頭も痛くなってきた……」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 ──コハクタウンに続き、ベニシティでも博物館に連れて行かれるとはメグルは思わなかった。

 

「んで? 満足か?」

 

 大量の買い物の荷物を引きずりながら、メグルは問うた。

 アルカはきらきらとした目で返す。

 

「はい♡ いやー、ベニシティの博物館も良いものでしたねー。ガラル地方の奇妙な化石の特別展示!」

「目は輝いてるけど、本当にキラキラしたものとは無縁な奴だなぁ……」

 

 期間限定の特別展示は、ガラル地方の化石特集だった。

 ガラル地方の化石は特殊で、種類が異なるはずの2つの化石を合体させて復元することでキメラの如き1匹のポケモンになるのだ。

 何故化石同士で合体するのか、それとも元々このような異様な姿だったのかは分かっていない。

 それを見るなりアルカは目を輝かせており「古代の浪漫ですね!」と叫んでいた。

 

(カセキメラ、か……強いからいつかは手に入れたいが、遠いガラルの化石は流石に手が出ねえなあ)

 

 さて、廃人目線だとこのガラルの化石ポケモンは話が変わってくる。

 ユーザーから”カセキメラ”と呼ばれる彼らは──とにかく火力特化のポケモンである。

 能力値自体は平均的だが、相手よりも先に行動した時に威力が跳ね上がる専用技の火力が非常に高く、対戦でも活躍していたポケモンたちだ。

 しかし、このサイゴク地方では流石にガラルの化石は手に入らない。目の前に実物の化石は展示されているものの、メグルは生殺しであった。

 博物館を出た後、ほくほく笑顔でアルカは「実はホウエンの化石はですねー」と未だに化石のことについて語りが止まらなかった。興奮冷めやらぬ、というやつである。

 

「ほんとーに化石が好きなんだな……」

「化石に限ったことではありません! 発掘される遺物は長い年月をかけて……不思議な力を得ると言います。それが──きっと、ボクが探しているモノに最も近しいモノだと思うんです」

「それがお前の旅する理由、か」

「はいっ」

 

 その笑顔は純粋そのものだが──それでも彼女が何を探しているかはメグルには想像も付かなかった。

 貴重なポケモンのカセキか、遺物か、それとも──考えても絞り込むことが出来ない。

 

「おにーさんは、何か好きなものがありますか? ボクの化石や遺跡探しみたいに」

「……俺の、好きなものか」

 

 そんな問いかけに──メグルは自然と返していた。

 

「俺は──多分、物心ついてからずっとポケモンが好きなんだ」

 

 ポケモンと言うゲームが好きな理由なら、間違いなくあの無限にも等しい戦略性だと答える。

 だがきっと、彼女にそんな話をしても仕方がない。

 

「何でポケモンが好きなのかって言われても困るけど──姿かたちは違うし、こっちと同じ言葉でしゃべるわけでもない。だけど……なぜか俺と同じ場所を向いてくれる。それって実は、凄い事だと思うんだ」

 

 ただ単に言う事を聞くだけの道具ではない。

 彼らはメグルの住んでいた世界の動物と比べれば知能が高く、そして持つ能力も桁違いに高い。

 そんな彼らが人間と通じ合う事が出来るのは、とてもすごいことではないかと彼は考える。人間に牙を剥こうと思えば剥けるし、現にそれで命を落とした人だっている。だがそれでも──この世界の大多数の人間は、ポケモンと心を通わせて生きている。

 

「ポケモンがこの世界に全部で何種類居るかは分からない。だけど、全然違う姿で全然違う力を持っているポケモン全部と、ボール1つで友達になろうと思えばなれる。そう思うとワクワクしないか?」

「ッ……仲間、友達」

 

 少なくともメグルは昔、アニメを見た時はそう考えていた。

 流石にボール1つだけでは非現実的な話だとは思う。現に今、メグルはボールに入れたストライク1匹に手を焼いているのだから。

 

(勿論ボール投げただけで友達になれるのは理想論さ。だけど、その理想があるから俺は……ストライクと仲良くなるのを諦めてないんだと思う)

 

「……その考え方、好きです! モンスターボールがあれば、この世にある全てのポケモンと友達になれるかもしれないって考え!」

「っ……そうか?」

「じゃあ猶更! ストライクとも早く仲良くならなきゃ、ですね!」

 

(否定、されなかった……それどころか、キラキラとした目でこっちを見てくれる)

 

 どきり、と胸が跳ねる。

 前髪に目は隠れているが、確かに表情は輝いていた。

 

(こいつ……キラキラしたものとは無縁と思ってたけど、驚くほどに……真っ直ぐだ)

 

 思わず、彼女の目に吸い込まれそうになり、目を逸らした。

 

(バカバカ、チョーシに乗るな俺!)

 

「ん? どうしたんですか、おにーさん。顔、赤いですよ」

「何でもないっ」

 

 そっぽを向いたその時。ぷるるるる、とメグルのスマートフォンが鳴る。

 思わずそれを手に取ると──イデア博士からだった。

 

「はい博士──」

「あっ、メグル君!? 聞いてよ、おやしろ、明日から空くんだってさ! 試練に挑めるよ!」

「マジですか!? ありがとうございます!」

「いや、僕は何もしてないけどねー。んじゃっ、張り切ってそのまま2つ目の試練も突破しちゃってよ!」

 

 曰く。

 大合議の結果、警備は固めたままでおやしろは開くことになったのだという。

 

「また試練に挑むんですか?」

「ああ、おやしろの閉鎖が解除されたんだってよ。だけど、不安は尽きねーぜ……せめて、ストライクが俺の言う事を聞いてくれればな……」

「案が無いこともないです」

「というのは?」

「──ストライクとオドシシをもう1度対面させてみてください。それで分かるはずです」

「……!」

 

 何時になく真剣な眼差しでアルカはこちらを見つめてくる。

 メグルは、その目に吸い込まれそうになりながらも──誤魔化すように腰のベルトに吊り下げたモンスターボールを指でなぞった。

 

「……ポケモン同士の揉め事は、ポケモン同士でしか解決できませんから」

「分かったよ。正直……猫の手も借りたかったんだ」

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