ポケモン廃人、知らん地方に転移した。【完結】   作:タク@DMP

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第32話:不足

「オドシシ!! ストライク!! 出てこい!!」

 

 

 

 メグルがボールを投げると共に、2匹が飛び出して来る。

 場所は変わり、ベニシティの広場の一角にあるバトルコート。

 多少彼らが暴れても良いように広めのスペースを取っているのだ。

 そして万が一の事があったときに仲裁に入れるように、イーブイがちょこんとメグルの足元に座っていた。

 けだるそうに「くあぁ」と欠伸をしていたイーブイだったが、犬猿の仲とも言える2匹が出てくるなり露骨にしかめっ面をして引き下がる。

 既に、2匹は臨戦態勢を取っており「何故一緒にした馬鹿主人」と言わんばかりにメグルに向かって「ぷきゅー」と抗議してみせる。

 

「……わり、イーブイ。うっかり殺し合いになりかけたら一緒に止めてくれ」

「ぷっきゅるるるる」

 

 死ぬのはお前だけで十分だ、と言わんばかりに彼女はそっぽを向いた。

 

「そんなイヤそうな顔するなよ、お前のチームメイトみたいなもんなんだぞ……さて」

 

 現れたストライクは、案の定オドシシを睨み付け鎌を振り上げて威嚇している。 

 それを受け、オドシシもまた地面を蹴って睨み返す。

 一触即発。いつこのままバトルに発展してもおかしくはない。

 

「ストライクは──オドシシが催眠術で昏倒させて捕まえたんですよね」

「そうだな」

「ストライクと言うのはとても血の気の多いポケモンで知られています。個体差にもよりますが……やっぱり消化不良が原因じゃないでしょうか?」

「消化不良ォ? ……どういうこったよ」

「決着を付けたいんですよ、きっと。だから──そのためにボクが居るんじゃないですか」

 

 そう言うと、アルカはバトルコートの反対側に立ち、腰に手を当てた。

 にしっ、と笑みを浮かべると、彼女は「ストライク! 今だけ、ボクの傍で戦ってくれますか?」と叫ぶ。

 それに──ストライクは怪訝そうな顔で首を傾げた。

 

「ギッシャラララ……?」

「闘いたいんでしょう? オドシシと。ボクが闘わせてあげますよ、彼と」

「……成程、そう言う事か。もう1回、全力でぶつかり合えばフラストレーションは発散できる、って訳だな」

「御明察!」

 

 とはいえ、トレーナーの立場としては手持ち同士を戦わせることは難しい。

 どちらかに肩入れすることになってしまうからだ。熟練のトレーナーならば2匹に指示を出しながらスパーリングさせることも可能だが、初心者のメグルにそれを求めるのはあまりにも酷だった。

 ストライクは「捕獲」という形で終わってしまったあの日の試合の決着を強く渇望しているのである。

 

「でもよ、そいつお前の言う事聞くのかな?」

「心を通わせることが大事でしょ。ポケモンは主従じゃなくて──相棒だから。例えそれが一時の間でも」

 

(相棒──か。レジェアルではよく聞いた言い回しだ)

 

 事実、ストライクは反発する様子もなく、オドシシに向かって構えている。

 オドシシとの決着。待ちわびたこの瞬間の為ならば、彼にとってプライドなどつまらないものなのだろう。

 

「ま、とにもかくにも、やってみねーと分かんねーよな。オドシシ、頼むぞ!」

「ブルルルルゥ……!!」

 

 ギンッ、とオドシシの眼光がストライクを捉える。

 特性・威嚇。大きな二本の角が目玉の形を成すことで相手を威圧し、攻撃力を低下させるのだ。

 

「では始めましょう。……もう、ガマンできないみたいですしね! ──ストライク、思いっきり行っちゃえ!!」

 

 ぎゅん、と地面を蹴ったストライクがオドシシの周囲を走り回る。

 そして風を斬る勢いで回転すると、素早く鎌を振り上げた。

 

「やっぱり速い……ッ!!」

「”つばめがえし”!!」

 

 それは回避不可避の切り返し。

 一撃目を一歩退いて避けたオドシシだったが、すかさず放たれた二撃目に切り上げられて顔面を切り裂かれる。

 だが、その斬撃はオドシシの周囲を守るバリアに受け止められていた。

 

(俺が反応できなかったから、自分で展開したのかバリアを……!!)

 

「流血は免れたってとこかな。人が、ポケモンの反応についていかなきゃダメですよ、おにーさんっ!」

「ッ……分かってる!! オドシシ、バリアーラッシュだ!!」

 

 展開されたバリアが更に巨大化し、オドシシの周囲を守る盾と化す。

 そして、そのまま攻撃を終えたストライク目掛けて突貫するが、直線的な動き故にそのまま避けられてしまうのだった。

 流石飛行タイプ、地上攻撃は羽根を使って飛ぶことで難なく躱されてしまうのである。しかし。

 

「そのまま──”でんげきは”ッ!!」

 

 ストライクが飛んだ瞬間だった。

 オドシシの角に電気が迸り、そのまま角を伝って稲光が枝状に周囲に広がる。

 空中に居たストライクが当然回避できるはずもなく、電気の枝に捉えられて感電したストライクは四肢を広げたまま地面に落ちるのだった。

 

【オドシシの でんげきは!!】

 

【こうかは ばつぐんだ!!】

 

「ッ……よっし!! 当たった!!」

「打ち合いでは不利、ですか……」

 

 アルカの言う通り、真っ向勝負では有効打を持たないストライクが不利だ。

 加えてストライクは威嚇で攻撃力が下がっており、更に”バリアーラッシュ”で障壁を展開したことで、オドシシは見た目以上に堅牢になっている。

 そのため、初撃の”つばめがえし”さえもオドシシには痛手になっていないのである。

 一方、ストライクは”でんげきは”を次にまともに受ければ致命傷は免れないだろう。

 しかし、それを受けて尚ストライクが怯む様子はない。カチンカチンカチン、と鎌同士を鳴らせると、大きく鎌を広げてオドシシに迫る。

 ──かと思った瞬間、その身体が幾重にも増えた。

 ”かげぶんしん”だとメグルは直感する。残像が見える程の高速移動により、オドシシの周囲を取り囲むようにして走り続ける。

 

「連続、”つばめがえし”!!」

「マズいッ……”でんげきは”で残像諸共消し飛ばせ!!」

 

 確かにオドシシの守りは堅牢だった。

 だが、それ以上にストライクの手数は大きな武器となる。

 幾ら硬い城壁と言えど、何度も突いていればいずれは脆く崩れ去るもの。

 オドシシが電気を放とうとした瞬間に、それを邪魔するようにストライクは何度も、何度も何度も何度も切り付けていくのである。

 技を撃つ瞬間に攻撃を受ければ、当然怯んでしまう。

 特殊技と言うある意味での超能力を使うのに集中しなければならないのに、頭蓋を何度も揺らされるのだ。堪ったものではない。

 

「こ、これじゃあ技を放つどころじゃないのか……!!」

「ブルルルルルゥ……!」

「……賢いな。ストライクは野生のカンでそれが分かってやがるのか……!」

 

 ストライクは残像を己に収束させると、オドシシの眼前に一気に近付く。

 あまりにも速い接近であった。

 

「──チャンス! オドシシ、”さいみんじゅつ”だ!!」

 

 しかし──トドメを刺すべく近付いたその瞬間が命取りとなる。

 オドシシの角が妖しく光り輝き、ストライクに向かって暗示を強くかけるのだった。

 ぐらり、とストライクの身体が大きく傾き、地面に倒れる──と思われた。

 

 

 

 ──そのまま、鎌の一振りが再びオドシシの身体を捉えた。

 

 

 

 思わぬ力強い反撃を受けたオドシシは、そのまま地面に倒れ伏せる。

 至近距離だったにも関わらず、催眠術は効かなかった。

 直前で、影分身は解除されており、絶対に有効となるタイミングのはずだった。

 

「嘘だろ!? どうやって防い──まさか」

 

 ストライクは──()()()()()()()

 ポケモンの技の使い方は、その生態によって違う。オドシシの催眠術は相手の視覚に働きかけて暗示をもたらす。故に──視覚に頼らない相手には通用しない。

 極限まで接近すれば、もうそこから先は視覚が無くともオドシシを捉えることが出来る。

 それどころか、正面に急接近すればオドシシが”さいみんじゅつ”を使うであろうことがストライクには分かっていた。

 

(俺達は催眠術を使()()()()()んだ……! あの時と全く同じシチュエーションなら、オドシシも迷わず俺の指示が無くてもさいみんじゅつを使ったはず……! それほどまでに絶好のタイミングだった……!)

 

(──おにーさんには悪いけど、このストライク……相当に賢い……! 前にやられた戦術の対策をきっちり自分で考えるどころか、それを誘発してみせた……!)

 

「そこッ!! ”かげぶんしん”、続いて”れんぞくぎり”で叩き込めッ!!」

 

 再びストライクの残像が周囲に現れ、次々に切り付けていく。

 当然だが”でんげきは”を放つ余力など残されておらず、角からは紫電が迸るのみ。

 

 

 

【ストライクの れんぞくぎり!!】

 

 

 

 斬撃の波が堅牢なバリアを遂に撃ち砕く。

 バリアが破壊されたことでふらついたオドシシは、その連続攻撃を受け止める事が出来ず、そのまま地面に倒れ伏せたのだった。

 決着はついた。

 ストライクの勝利だ。

 それを確信した時、ストライクの野太い勝鬨が周囲に響き渡ったのだった。

 しばらくして、がくがくの脚で立とうとするオドシシだったが、最後にストライクを強くにらんだ後、そのまま倒れてしまい、そのまま吸い込まれるようにボールへと戻っていく。

 

「おにーさん。この子は……なかなか厄介ですよ。野生ではきっと、長い事1匹で生きてきたんでしょうね」

「ッ……やっぱり、トレーナーの力量をポケモンが超えちまってるのか……」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 ──その後。

 メグルは反省会をすべく、一昨日バトルをした主人が経営するお好み焼き屋に、アルカ共々足を運んでいた。

 何か食べなければやっていられなかったし、礼代わりでアルカに夕食を奢りたかったのである。

 

「……なんか、ごめんなさい」

「いや、こっちこそ。わざわざ付き合って貰ったのにな」

「……ま、まー、仕方ないですよね! ボク、ポケモンバトルはとっても強いですから! ……えと。やっぱり、落ち込んでます?」

「……それなりには」

 

 ストライクの実力は、メグルが思っていた以上のものであり、言う事を聞かないのはフラストレーションに加えてメグルがストライクの速度に追いつけていないことが原因であった。

 また、先のバトルでもそうだったが、次々に移り替わる戦況にそもそもメグルは対応できていないのである。

 

(……オドシシのさいみんじゅつが当たらなかったなら、その後回避か”バリアーラッシュ”で守りを固めることを指示するべきだったんだ……! 効果抜群で必中技の”でんげきは”に固執しすぎた……!)

 

 現実のバトルは、ゲームのターン制とは大きく異なる。

 ポケモンもまたある程度考えて行動するが、それならばトレーナーは更にその先を見据えていなければならないのだ。

 大前提として()()()()()()()()()()()()()賢い。戦術面ではカバーしなければならない。

 だが、今のメグルはポケモンにむしろ振り回されてしまっているのである。

 今回のアルカとの模擬試合では、それが浮き彫りになる形となった。

 

(でも実際バトルとなると、目も頭も追い付かなくなるし大変なんだよな……)

 

「はい、肉玉ソバ一丁上がり!!」

 

 主人が目の前で焼いた蕎麦のお好み焼きが盛り付けられた。

 ソースと青海苔の匂いが鼻腔をくすぐる。

 沈んだ気持ちが少しだけ楽になった気がする。空腹には勝てないものだ。

 

「あ、ありがとうございます。……いただきます」

「鳥焼きもお願いします、大将!」

 

 隣のアルカが追加で注文する。

 

「あいよっ!! たっぷり食ってきんさい!!」

「……俺も食うかあ」

 

 ヘラでお好み焼きを切り、その上に乗せて口に運ぶ。

 よく焼かれてしなったキャベツとモヤシがコクのあるソースに絡んで美味だ。

 

「んまいっ……!? 俺が作ったやつよりも……!?」

「ハッハ、嬉しいねぇ。こだわりはやっぱりソースじゃソース。そして後はソバじゃ」

「……幾らでも食える……」

 

 がつがつ、とお好み焼きを食べていくと腹が膨らんでいく。

 

「ちょっとは元気出ました?」

「ん、そうだな……」

「なんじゃ、何かあったんか? ……もしかして、あのストライクの事か?」

「ええまあ……と言うより、俺自身の問題なんですけど。ポケモンに振り回されちゃって……俺が追いつけてないんです」

「でも、それって結局感覚でどうにかするしかないよね。一番はポケモンと仲良くなることだとボクは思うんですけど」

「自分で言ったのは良いけど、実行するのは難しいな……」

「それはこないだも俺が言うたのう」

「……俺に、ストライクが扱いこなせるのかな」

 

 正直、メグルは自信を失いつつあった。

 ストライクの能力は高い。正直、トレーナー無しで戦った方が良い程に。

 下手に指示をしても今のままでは逆上させてしまうだけだし、メグルも的確な指示を出せない。

 

「ポケモンもお好み焼きと同じじゃけぇ。その道をガンコに突き詰めて行って分かる事もあるけぇの。一朝一夕やない」

「……その道をガンコに突き詰める、か」

「キャプテンたちも……最初は苦労したみたいじゃけぇの。ウチのハズシさんなんて、使うのがやんちゃな炎ポケモンばかりじゃけぇ、御すのが大変じゃったやろ」

「キャプテンも苦労するんですね」

「むしろ、キャプテンだからこそ分かる事があるんやろ」

 

 メグルは目を伏せる。

 そして、ストライクのモンスターボールを再び握り締める。

 

「ストライクに集中してるかもしれないけど、他のポケモンの事も忘れちゃいけないですよ、おにーさんっ」

「あ、そうか……」

「はっはははは! ポケモントレーナーは大変じゃけぇのう!」

「ポケモンは相棒なんです。ちゃんと1匹1匹を見なきゃ」

 

 やることは山積みだ。

 メグルはポケモントレーナーである以上、現状問題を抱えているストライクのみならず他のポケモンにも目を向けなければならない。

 

「うっし、明日からまた鍛え直しだ。まだまだ試練がどうとか言ってる場合じゃなかったな」

「その意気ですっ、おにーさん!」

「大将、豚玉おかわり!!」

「あいよ!!」

 

 もう1度、メグルはポケモン1匹1匹と向き合うことにした。そのためにも、今はお好み焼きで英気を養う──

 

「……しっかし兄ちゃんも隅に置けんね」

「え?」

 

 お好み焼きを頬張る中、大将はアルカの方をちらっと見る。

 そして──小指を立てながら言った。

 

「そこの姉ちゃんは……()()やろ? ()()

「ぶっ……違いますよ。俺は無理矢理付き合わされただけで……」

「えー? デートって言ったじゃないですか」

「無理矢理だろが、無理矢理」

 

 不満げに頬を膨らませるアルカ。

 とはいえ、そんな彼女が居なければメグルは己の課題に向き合うことは出来なかった。

 

 

 

「……でも感謝はしてるよ。一応、な。あんがと」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 ──次の日。

 ポケモンセンターの前でメグルとアルカは落ち合っていた。

 

「この際だし、とことんまで付き合いますよ、おにーさん。ボクもこのままってのは寝覚め悪いんで」

「その割には今朝はちゃんと起きてきたんだな」

「茶化さないでください! どっかの誰かが、試練で醜態を晒さないためですっ!」

「醜態って……」

「それに、おにーさんと居れば、また美味しいお店を探せるかもですし!」

「ゲンキンなやっちゃなー……まあ良いけどよ」

 

 どうやら、昨日のお好み焼き屋をアルカは相当気に入ったらしかった。

 普段あまり食べ物に頓着しないからか、一度美味いものを食べるとハマってしまったらしい。すっかり餌付けされてしまったようである。

 正直、ポケモントレーナーとして先輩のアルカは現状ではかなり頼りになる。

 メグルとしても色々アドバイスを貰えるのはありがたい。

 

(あと、コイツ放っておいたらまた危なっかしいしな……野外で水浴びするようなヤツだし、変な事しだしたらまたストップ掛けよう)

 

「何か不名誉な事考えてます?」

「おーっとそれよりも今日行くところはだな──」

 

 メグルはスマホロトムを起動する。

 行先はベニシティの東側。サイゴク地方きっての港湾都市だ。

 

 

 

 

「──ポートエリア……此処で特訓だ」

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