ポケモン廃人、知らん地方に転移した。【完結】   作:タク@DMP

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第33話:盗難ってどうなんですか?

 ベニシティ・ポートエリアは広島県呉市にあたる場所だ。

 セイランのそれを上回る規模の造船工廠を多数有しており、現在も大型客船は此処で建造されているという。

 だが、トレーナーの興味は専ら海辺にあるバトルコートだ。此処では連日、おやしろまいりを目指す少年少女や、おやしろまいりを始めたての新人トレーナーが集う大会が開かれる。

 即ちメグルからすれば、ほぼ同レベルのトレーナーの集まりなのである。

 ポケモンバトルの経験が足らないなら、実戦を以て補う。それが、彼の出した結論であった。

 人目につかない一番後ろの席からバーガーを頬張りながら観戦するアルカ。

 

「仕方ないから付き合ってあげますけどー、退屈だよね、カブトー」

「ぴー」

 

 と、完全に嫌々付き合っている風に見えるアルカであったが、実際の経緯はと言えば、

 

(えー、ボクは見てるだけー!? これって……ポートエリア限定のがんすバーガー? 魚のすり身とカレーのスパイスが合わさって美味──まだ沢山買ってるんですか!? ……し、仕方ないなあ、おにーさんはぁ、今回だけですよ?)

 

 ……このように食べ物に釣られた形となったのであった。

 現に今も、渡されたバーガーを頬張っている始末である。

 あまりのチョろさに、釣った側のメグルも彼女の身を案じるレベルであった。

 そんなメグルの内心も知らず、アルカはメグルの試合を見やる。

 相手はめいそうポケモンのアサナン。格闘タイプの技を持つため、イーブイやオドシシを出すことは出来ない。

 更に、エスパータイプを併せ持つため、オドシシのエスパー技も抜群を取れない。 

 従って、メグルが繰り出すことができるポケモンは、ストライクしか居ないのである。

 だがしかし、悲劇はすぐさま起こった。

 

「オアーッ!! ストライク、言う事を聞いてくれーッ!?」

 

 増長、此処に極まれり。

 宿敵であるオドシシを倒した今、最早何も恐れるものはないと言わんばかりにストライクはメグルをガン無視して大暴れ。

 アサナンを得意の回転斬りで何度も切り付け、すぐさまダウンさせてしまったのだった。

 暴れん坊であるイーブイでさえメグルの言う事を聞くのに、ストライクは最早トレーナーなど必要ないと言わんばかりの狼藉。

 会場からは「勝ってるのは良いが、あいつ自分のポケモンも御せないのか?」「ママから貰ったんかね、あのポケモンは」と陰口が聞こえてくる。

 おまけにメグルの対戦相手ですらも、

 

「オイラはオメーに負けたんじゃねー!! お前のポケモンに負けたんだ、ヴァーカ!!」

 

 と捨て台詞を吐く始末であった。

 

「おっしゃる通りです……ヤロー、逃げんな!! ボールに入れ!!」

 

 ストライクをボールに戻すのも一苦労のメグルには、反論の余地がない。

 

「……ダーメだこりゃ……悪化してるね」

 

 アルカは昨晩の自らの行いを激しく後悔した。

 フラストレーションが解消されたのは良いが、ストライクはより自らの実力を過信するようになってしまったのである。

 今の彼は、アルカの言う事でも聞くかどうかは分からない。

 

(悪い意味でプライドの塊でしょアレは……自分の力に絶対的な自信を持ってるタイプ? 何回か負けてるらしいけど、ポケモン本人は自分の力だけで何とか出来るって思ってそうなのがまた……)

 

 通常の個体よりも一回り大きな巨体を持つストライク。

 その在り方から、野生では群れでの狩りを必要としなかったであろうことは、アルカにも容易に察しがついた。

 それはそれとしてメグルがストライクの動きに追いつけていないのも事実であるのだが。

 

「あーら、なかなかの暴れんボーイね、あのストライク」

「ひゃいっ!?」

 

 突如、後ろから声を掛けられてアルカは双眼鏡を取り落としそうになった。

 振り向くと、そこに居たのは──赤いライダースーツに身を包んだ化粧の濃い大男であった。

 

「え、えと、何かボクに御用でしょうか? えーと、おにーさん?」

「オネエさんと呼んで頂戴♡」

「オネエさん……」

「身構えなくて結構。有望な新人トレーナーの試合を見に来てるだけ。ただ、ワタシちょろーっと有名人だから、目立つところに居ると囲まれちゃうのよ」

「ソウデスカ……」

「貴女は? さっきから同じ子の試合をずぅっと見てるみたいだけど。もしかして、あの子が彼氏とか?」

「知り合いです! ただのっ!」

 

 言ってしまえば、オネエの3文字が当てはまる。

 しかし、ライダースーツの間から見え隠れする胸筋、そして屈強な体格、何より底知れない余裕を醸し出す垂れ目から、アルカは本能的に”オネエさん”が只者ではないことを感じ取っていた。

 

「目が離せないの分かるわ。あの子が使ってるポケモン、揃って皆我が強いみたい。特にあのストライクは別格。野生では敵無しだったでしょうね」

「ッ……分かるんですか?」

「分かるわよ。でも、今のままじゃダーメ。トレーナーとポケモンはバランスが大事だわ。ポケモン側が強すぎるだけだと、ああやって振り回されるの」

「はぁー、実際どうすれば良いんでしょうね? ボクは、あんまりそこで苦労したことはないので」

「愛、かしらね」

「は?」

 

 両手でハートを作ると、屈強なオネエさんはもう1度言った。

 

 

 

「重要なのは愛ッ!! 燃えるような愛こそが、ポケモンとトレーナーを結びつけるのよ!」

 

(何でそこで愛なんだろう……?)

 

 

 

 アルカには、さっぱり理解が出来ないのであった。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「くっそ、この野郎……調子に乗って更に増長してるじゃねーかよ」

 

 

 

 ストライクのボールを腰のベルトに付けたメグルは、落胆したように肩を落とした。

 正直、オドシシと戦わせたのは失敗だったのではないか、と考えていた。

 自販機から吐き出されたジュースを手に取ると、ぐびっとそれを飲み干す。最早此処まで来ると、どうすれば良いのかメグルにも分からなかった。

 負けても折れない心を持っているのは良いのだが、反骨心がトレーナーにまで向かっているのである。

 そして何よりストライクは身体が大きく、凶暴な肉食系ポケモン。もしもこのまま御せなければ、いつかメグルの手から離れて周囲に被害を齎すのではないかと彼は危惧していた。

 そもそもストライクは元より人に襲い掛かっていたところを捕まえたポケモンであるが故に、それは決して杞憂ではない。

 

(それにしても、やっぱりS105って相当速い部類になるんだろうな……こいつを出したさっきの試合も、全く目が追い付かなかった……)

 

 それが、ストライクの全力全開である。

 何にもとらわれず、何にも縛られない暴れっぷり。

 駆け出しのトレーナーが抑え切れる代物ではないことは確かである。

 

 

 

「コルァァァーっ!! 待ちやがれーい!!」

「ん?」

 

 

 

 飛んできた怒声にふと振り向くと、メグルの身体は何かに撥ね飛ばされるのだった。

 ごろごろと地面を転がされ、自分にぶつかって来たそれを見やるとすぐにポケモンであるとメグルは感知した。

 

「レシーバーッ!!」

「レシ……レシーバーッ!!」

 

【ナゲツケサル れんけいポケモン タイプ:格闘】

 

 現れたのは2匹。その腕には木の実や野菜が抱きかかえられている。

 ひょいひょい、と軽い身のこなしでナゲツケサルは近くの電柱に登り、そのまま電線を足場にして逃げ去ってしまうのだった。

 

「な、何だったんだァ……!?」

「ああ、坊ちゃん大丈夫か! ケガはないか!?」

「……ナゲツケサルって、よく町の中に出るんですか?」

「こんな事初めてよ! 山に居る野生ポケモンが立ち入ってくるのは珍しいってんのにな」

「そうですか……いっててて」

 

 腰を打ち付けた所為か、メグルはすぐに起き上がれなかった。

 結局、手に持っていたドリンクも盗られてしまったようである。

 

「山に入ると、あいつらが旅人のモノを盗っていくんだよ。何でもだぜ。ナゲツケサルの生息地には近付くなって言われんな」

「災難に災難って重なるモンなんだなぁ……」

 

 肩を落としながら、時間も時間なのでバトルコートに戻る。試合が始まる5分前だ。

 正直、気が重かった。

 相手が格闘タイプだったならば、結局ストライクを投げなければいけないのだから。

 

(……まあ、でも大丈夫だろ。相手が格闘タイプじゃなきゃストライク以外を投げれば良いだけだしな)

 

 そう甘く考えていたメグルの希望的観測は一瞬でブチ壊された。

 対戦相手は、胴着に身を包んだ空手少年だ。

 素足で気合を入れながら「押忍」と叫んでいる。

 あれで格闘タイプ使いじゃなければ何を使うというのだろうか。

 

(ストライクの出番ッッッ)

 

 頭を抱えた。

 またあの暴れん坊を出さねばならないことに。

 

「てやんでぇい! カントー出身、空手道場育ち! よろしく!」

「カントー!? そりゃまた遠くから……」

「サイゴクのキャプテンには、すっごく強い格闘家が居るらしいからな。そいつに弟子入りしに来たんでい!」

「格闘家ァ? そんなの居たっけか……」

「イッコンタウンのキャプテンって聞いた! だが、イッコンに行く前に此処で腕試しでぇい!」

 

 そうなると、見掛けによらず目の前の少年は実力者なのかもしれない、とメグルは気を引き締める。

 と、同時に彼の話に出てきた「格闘家のキャプテン」について引っかかる事があった。

 

(……ふーん、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()使()()なんだな。あれ? どうだったっけ)

 

 此処最近、おやしろについて調べるどころではなかったため、メグルからしても曖昧であった。

 特に、残るイッコンタウンとクワゾメタウンについては、おやしろに取材が入る事すら少ないらしく、情報があまりないのである。

 ヌシポケモンの詳細も、そしてキャプテンについても。

 

「先ずはあんたを倒して、更なる高みへ進む!」

「ッ……やっべ」

 

 考え事をしている場合ではなかった。

 今重要なのは目の前にいるこの少年との勝負である。

 

(まだ格闘タイプを使うと決まったわけじゃない。カントー四天王シバもイワーク使ってたし──)

 

 尤も、それはそれで有効打を持っているメンバーがヘイガニくらいしか居ないのであるが。

 

「逃げも隠れもしねぇ!! 先に繰り出す!! 行けェ、サワムラー!!」

「ガッチガチの格闘タイプじゃねーかよ……!!」

 

【サワムラー キックポケモン タイプ:格闘】

 

 希望的観測など持つものではない。

 現れたのはバネ状の脚を持ち、顔と胴体が一体化したような人型のポケモンであった。キックポケモン・サワムラーは、その身軽さと火力に定評のあるアタッカーだ。

 流石に必殺技たる「とびひざげり」は高レベルでなければ習得しないが、それでもイーブイやオドシシをぶつけて良い相手ではない。

 言う事を聞かないとはいえ、ストライクをぶつけてトントンと言ったところだ。

 

「ッ……ストライク。力を貸してくれ!」

 

 そう言ってメグルは腰のベルトにぶら下げているモンスターボールに触れようと手を掛ける。

 しかし。

 

「……あれ」

 

 手は空を切った。そこにあるはずのものがない。

 思わずメグルは今持っているボールを全て取り出す。

 モンスターボールは半透明になっているため、中のポケモンが確認できるのである。

 

「無い」

 

 さっ、とメグルの顔から血の気が引いた。

 

「無い、無い!?」

 

 見当たらない。

 そもそもボールの数が足りないのである。

 ストライクの入っているボールが見当たらないのだ。

 

「な、何で──さっきまであったのに──あっ」

 

 体中が冷え切っていく感覚。

 ボールを紛失するタイミングなど、あの瞬間しか有り得ない。

 さっき、ナゲツケサルがぶつかってきたタイミングだ。

 そしてあの時、メグルは地面に倒れた。そこで落としたならば幾ら何でも気付く。

 ならば考えられるのは一つ。

 

 

 

(山に入ると、あいつらが旅人のモノを盗っていくんだよ。何でもだぜ。ナゲツケサルの生息地には近付くなって言われんな)

 

 

 

 メグルは察した。

 その”何でも”の中には、モンスターボールも含まれるという事を。

 

 

 

「すいませんッ!! 用事が出来たんで、棄権しますッ!!」

「……ええええええええええ!?」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 いきなり棄権してその場から立ち去ったメグルに対し呆れの声が飛ぶ。

 試合を放棄して逃げたように見える振る舞いは、観客や参加者の怒りを買っても仕方がない。

 無論、ずっと観戦していたアルカもまた、驚きの余り口が開きっぱなしになるほどであった。

 

「お、おにーさん何でぇ!?」

「……顔が普通じゃなかったわね」

「えっ!? 見えたんですか!?」

「ええ。あの子……なかなか見どころがあるじゃない」

 

 それを意味するのは、双眼鏡無しで遠くの人間の表情を視認出来たという事である。

 

「お嬢ちゃん。スタッフに事情説明お願い!」

「えっ、ちょっと、一体何処に──」

「決まってるでしょ? お節介よ。大会スタッフにこれを見せたら納得してくれると思うから♡」

「ッ……え。これって」

 

 渡された名刺を見てアルカは固まった。

 その間に、オネエさんは恐ろしく身軽な動きで観客席から飛び降りていくのが見えた。

 

 

 

「あ、あの人……何なの、ほんとに」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「ナゲツケサル、ナゲツケサルの生息地は──ッ!!」

 

 

 

 ボール諸共盗られたとなると、巣に持ち帰られた可能性が高い、とメグルは考える。

 ナゲツケサルは群れで行動するポケモンだ。そこに、戦利品を集めているのだという。

 そして、その生息地は3番山道。このポートエリアから然程離れていない場所にある登山道だ。その奥深くにある竹林に生息しているのだという。

 

「ッ……行くしかない、か」

 

 

 

 

「ばぎゅあ」

 

 

 

 

 耳を劈くような咆哮が空から聞こえてくる。

 ふと見上げると──視えたのは大きな翼を広げた竜だった。

 そこから飛び降り、地面に着地したのはライダースーツの大男であった。

 ヘルメットを取ると、濃い化粧とリーゼントが露になる。

 

「今度は何なんだ!?」

 

 突如現れた大型ポケモン、そしてそれを従える男。

 それを前にしてメグルは立ち竦む。理解が追い付かない。

 

「試合をほっぽりだして何処へ行くつもり?」

「え、えーと──ポケモンが盗られたんです! ……野生のナゲツケサルに、ボールごと!」

「成程。なら今すぐ乗りなさい。飛んで行った方が速いわ!」

「えっ」

「歩いて行けば40分以上かかる、更に山道から生息地までは30分! 貴方、自分のポケモンが大事なら賢い選択をしなさい」

「ありがたく力を借ります! でも、何で助けてくれるんですか!?」

「ふふっ、あんな危なっかしい試合をしてたら嫌でも目に入るわ。それと──ワタシ、これでもキャプテンなのよ」

「キャプ……テン!?」

 

 地面に降り立つ竜。

 それは、燃えるような橙色の身体に、尻尾の炎が特徴的な火竜だ。

 姿を見れば、ポケモンを知るものならば誰もが答えられるほどに有名なポケモンである。

 

(数えきれないほど見て来たのに……実際に目の当たりにするまで名前が出てこなかった……!! こんなに強大で、恐ろしいポケモンだったのか……こいつは……!!)

 

 

 

「ワタシはハズシ。この子は、ワタシの愛──リザードンちゃんよ♡」

「ばぎゅあーッ!!」

 

 

 

 

 火竜を従えるのは並大抵の事ではない。

 故に、その傍らに立つ者のトレーナーとしての力量を証明している。

 キャプテン。その称号は、サイゴク地方のトレーナーで最も重い名前だ。




【キャプテン3】
ハズシ 性別不詳 38歳
ベニシティのキャプテンを務めるオネエさん。ライダースーツに身を包んでおり、かつてはライドポケモンに乗るレーサーだった。面倒見が良く、町の人々やポケモン、同じキャプテンからも慕われている。炎タイプの専門トレーナーでもあり、相棒はリザードン。手持ち以外にも、ライド訓練中のポケモン(ファイアロー数匹)を連れている。
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