ポケモン廃人、知らん地方に転移した。【完結】   作:タク@DMP

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第34話:虫の血は透明らしい

 ※※※

 

 

 

「レシーバー……」

「レシ、レシーバー……!」

 

 

 

 ──ナゲツケサル達は、戦利品を干し草の上に置いていく。

 そして、怯えてその前に座る彼らのボスを見上げた。

 全長2.5メートル、通常の同種個体よりも一回り以上は大きいであろう大猿のポケモンが座っていた。横には、木の実や骨といった食べ差しが山のように積み上がっている。

 もんずと木の実に手を伸ばすと、そのまま口に放った。自ら動くのが億劫なのである。

 だが味が気に入らなかったのか大猿の機嫌が悪そうに低く唸り声が上がるなり、ナゲツケサル1匹の身体が浮かび上がる。

 

「レッ、レシ──」

 

 鳴き声はそこで途切れた。

 浮かび上がったナゲツケサルは思いっきり地面に頭を叩きつけられ、そのまま動かなくなった。

 びくり、と怯えた彼らは、数匹が痙攣して泡を吹いている仲間を運び、数匹が新たな餌を探しに散っていく。

 残る数匹がボスの機嫌を伺うようにして、更なる戦利品を運び込む。

 その中には──モンスターボールが混じっていた。

 

「……」

 

 それに興味を示した大猿はボールに手を伸ばす。

 そのボタンに指が触れた途端、光と共に蓋が開く。

 

「ギシャララ!!」

 

 中から飛び出したストライクは威勢よく威嚇の声を上げた。

 ボールの中から自分が何処か知らない場所に、知らないポケモンの住処に運ばれたことは把握していた。

 そして、すぐさま鬱憤を晴らすかのように、面食らったナゲツケサルを切り付け、背後から襲って来たもう1匹の顎に後ろ蹴りを見舞う。

 一瞬で2匹が昏倒し、群れは一気に混乱する。だが、それを許すボスではなかった。

 

 

 

「ぶわっほほほほ!!」

 

 

 

 人間の号令のようだった。

 その一声でナゲツケサル達はぴたり、と止まり、すぐさま彼の通る道を開ける。

 ストライクもまた、群れのボスたる大猿を目の当たりにし、身構えた。

 今までの喧嘩相手とは一味も二味も違う相手であることを直感したのである。

 無理も無かった。その身体の周りには──冷たい霜が降りており、腕と胴、そして頭を流れる水の鎧が覆っている。

 

「ギッシャラララッ!!」

 

 しかしストライク、怯みはしない。

 野生では敵無しだった。

 ストライクは己の強さに確かな自負があったし、己の知性の高さに確かな自信があった。

 この程度の相手は、切り刻んできたつもりだ。

 すぐさま地面を蹴って得意の連続斬りを見舞うべく大猿に切りかかる。

 だが、その刃は届かない。空中で受け止められてしまった。

 大猿が別種であるナゲツケサル達を従えていたサイコパワーだ。目の前の敵を浮かび上がらせ、留めてしまう程に強力なものである。

 しかし、ストライクは──力づくでそれを振り切り、更に突貫する。

 

「……ぶわっほほほ」

 

 大猿の周囲に泡が浮かび上がった。

 彼がこの異様な力を手に入れたのは、つい先日だ。

 だが新しい玩具は試したくなるもの。ポケモンも人間の子供とそこは同じだ。

 故に、目の前の威勢のいい身の程知らずを一度、()()()()()やりたくなったのである。

 泡がストライクの身体に迫る。それをストライクは──鎌で切ってしまった。

 それが全ての間違いであったことに気付いたのはそのすぐあとである。粘液が飛び、身体がぬめり、滑って思ったように動かない。

 そうしているうちに、大猿の手元に鎧から流れた水が集まっていく。

 だが、ストライクは泡に気を取られてそれどころではない──

 

 

 

 

【──むげんほうようッ!!】

 

 

 

 直後。

 動けないストライクを、そして周りのナゲツケサルを巻き込む形で一筋の水柱が薙ぎ払った。

 本来ならばすいしょうのおやしろのヌシでなければ放てないはずのオオワザ。

 だが、オーライズは不可能を可能にする。

 一瞬だけ、シャワーズの幻影が浮かび上がり、そして消えた。

 ヌシのオーラを鎧として身に纏ったポケモンは、オオワザを一時だけ借り受けることが出来るようになる。

 ストライクはボロ雑巾のように撥ね飛ばされ、空中を舞い、無惨に地面に叩きつけられたのである。

 もしもメグルがこの場に居たならば。メグルはストライクの機動力を信じ、泡ではなく水ブレスをチャージしているヤレユータンを攻撃するように指示しただろう。

 シャワーズに比べれば、明らかに隙だらけな泡の布陣であったし、ヤレユータンは形質変化による防御が出来るわけでなければ、然程素早いポケモンではない。

 捉えるのは容易であった。

 しかしストライクは孤軍だった。シャワーズが使わなければ、只の初見殺し技でしかない”むげんほうよう”の事を教えてくれる者など誰も居なかった。

 

「ギッ、ギィ……!!」

 

 背中を打ち付け、弱り果てたストライク。

 イーブイやオドシシが受けたそれよりも威力は弱いとはいえ、”オオワザ”に変わりはなかった。 

 だが、彼はまだ戦意を失ってはいない。 

 死ぬまで戦い続けると言わんばかりに鎌を振り上げるストライクに、理性が蒸発した大猿は──新たな玩具を見るような目で一瞥すると、その太い手を伸ばすのだった。

 

 

 ※※※

 

 

 

 このリザードンというポケモンは、突き抜けたような強い特性があるポケモンではない。

 そしてタイプも種族値も、かの荒ぶる600族達のように特別高い箇所があるようなポケモンではない。

 しかし、人々はその威風堂々とした火竜をモチーフとした姿に惹かれ、憧れてきた。メグルが居た世界では、ポケモンをあまり知らない人でもリザードンは知っているという人もいる程であった。

 何故ならば彼の竜は原点にして頂点。果たしてそれ以上の説明など必要だろうか。

 その後、リザードンが()()()()()()()()()()()()()を手に入れ、レートやランクマッチの猛者たちと渡り合うことになるのはまた別の話。

 さて、この火竜の如き容姿からこの世界でも人気が高いリザードンであるが、決してバトルだけが彼らの居場所ではない。

 二本の腕に強靭な脚、そして大きな翼。地上、空中、どちらでも活動に困らない身体構造故、人間の活動の手助けをすることもあるのである。

 それがライドポケモンとしてのリザードンだ。彼らは背中に人間を乗せて飛ぶだけの膂力、そして目的地に確実に運ぶことができる知力を併せ持つのである。

 

「すごい……全然ぐらぐら揺れない……!」

「そりゃあ、そうやってトレーニングしたんだから。二人乗るくらいなら平気よ」

「ばぎゅあ」

「これでも昔は暴れん坊で手が付けられなかったんだから。ねえ?」

「そうだったんですか!?」

 

 「ばぎゅあ」とリザードンが受け答えする。

 ヒトカゲ系統は一度目の進化で、トレーナーの言う事を聞かなくなることがあるという。

 メグルも元の世界で見ていたポケモンのアニメでそのようなシーンを見ていたため、容易に想像出来た。

 

「だから、貴方も諦めちゃダメよ。ポケモンはね、ちゃんと向き合ってればちゃんと応えてくれるの」

「……俺に出来ますかね」

「あのストライクの事?」

「あいつ、すっごく強くて賢いんです。俺みたいな初心者の手に負えるポケモンじゃなくって。トレーナーって何で居るんだろう。俺はあいつにとって必要なのかな、って」

「必要よ」

「え」

「ただ、気付いてないだけね。トレーナーが成長する中で、ポケモンも成長するわよね。その中で互いが必要だってことに気付くのよ」

「そういうもんなんですかね……」

「精神論じゃない具体的なアドバイスなら、やっぱりトレーナー側がポケモンに追いつくしかないのよね。尤も、ポケモン側も矯正が必要なケースもあるけど」

「矯正、ですか」

「人間の指揮下で行動した方が強いって事をポケモンが理解すれば良いのよね。多くは敗北を積み重ねていくうちにそれを理解していくものよ。だから先ずは場数を踏むしかない」

「うちのストライク悪化してんですけど」

「貴方の所のストライクみたいに変に強いと、これがまた大変なのよー。ま、ワタシは協力するわよ。キャプテンだから」

「良いんですか?」

「一人で抱え込まないで。サイゴクのトレーナーの問題は、ワタシたちキャプテンの問題でもあるのよ。頼って頂戴」

 

 心強い人だ、とメグルはハズシの言葉の一つ一つから感じ取っていた。

 そうこうしているうちにハズシが何かに気付いたように「あ」と声を上げた。

 

「……視えたわ。あの下でナゲツケサルが移動してる」

「見えるんですか!?」

「だけど、慌ててるみたいね。一体何に怯えてるのかしら? あっちは生息域から離れてるんだけど」

 

 ハズシの視力に驚嘆するメグル。

 彼の視点からは何も見えはしない。

 鬱蒼とした竹林があるだけだ。だが現に彼の言う通り、生息域を逆走する形でナゲツケサル達が逃げ惑っていた。

 そして間もなく答え合わせのように、その500メートルほど先の竹がめきめきと音を立てて倒れていく。

 

「……成程、そう言う事!」

「どういう事なんですか!?」

「大暴れよ! あそこ丁度、ナゲツケサル達の巣! そこでデカい喧嘩が起こってるわね!」

「ッ……何かが暴れてるのか!? ハズシさん、この辺りでヤバそうなポケモンって!?」

「正直居ないわね! ゴロンダがちらちら見えるくらいかしら! ナゲツケサルのテリトリーには誰も近付かないわよ! ……元締めを除いてね」

 

 そう言ってる間に、リザードンは現場に降り立つ。

 酷い有様であった。竹は根元から圧し折れ、気絶したナゲツケサルが数匹、倒れているのが見える。

 そして何に巻き込まれたかは一目瞭然であった。メグルとハズシの目の前に佇んでいるのは、ただならぬ気配を放つ大猿のポケモンだった。

 

「ヤレユータン……まさかこいつが”元締め”なんですか!?」

「そのはずだけど、待って。色々おかしいわね」

 

 メグルは背を突くようにその名前が飛び出す。

 森の賢者と呼ばれる程に賢く、そして穏やかなポケモンだ。

 しかし、今目の前にいる個体はとても荒ぶっており、彼のイメージからは大きくかけ離れた姿をしている。

 そればかりか、その身体にはオーラで出来た鎧が纏われている。

 

(でも、何でオーライズしてんだコイツ……!? まさか、テング団が関わってんのか!? でも、おやしろのヌシじゃないポケモンをオーライズさせたって……何にもならないだろ? 何で……)

 

 

 

【ヤレユータン<AR:シャワーズ> けんじゃポケモン タイプ:水/氷】

 

 

 

(全身光ってるのはシャワーズの時と同じだけど、纏っているオーラが水っぽい……! じゃあこれは、あの時奪われたシャワーズのオーラ……!?)

 

「……どういう事? まさかこれがリュウグウの旦那が言ってた、オーライズ……!?」

 

 ぽつり、とハズシが言った。

 しかし彼らは考察をしている場合ではない事を突きつけられる。

 ヤレユータンの陰に隠れて見えなかったが、ストライクがそこに斃れているのが見えた。

 

「……しまった、ストライク!!」

「危険よ! 脇を通り抜けようとしたら殺されるわよ!」

 

 ヤレユータンは温厚で穏やかな気質であることはハズシも知っている。

 しかし、今の大猿はとてもそうには見えない。

 明らかに敵意、そして殺意をこちらに向けている。

 何より周囲で気絶しているナゲツケサルが、仲間も顧みない戦いっぷりの証拠だ。

 

「で、でも──! そうだ、あいつのボール──」

 

 そう言いかけてメグルは周囲を見回す。

 そして絶句した。木の実の食べ差しに紛れて、潰れて壊されたボールが転がっていた。

 ストライクのボールだ。思わず拾ったが、ボロボロでとても使えそうにない。

 そうしている間に、侵入者を見つけた巨大なヤレユータンがいきりたちながら手に持った葉を振り上げる。

 周囲に泡が浮かび上がった。

 

【野生のヤレユータンの──むげんほうよう!!】

 

「やっば──これって、まさかシャワーズの──」

「あー……そういう系ね」

 

 全てを察したようにハズシはリザードンに目を向ける。

 

(ここでアレをぶっ放したら()()()()()()()()()わね……此処は穏便に)

 

「──コータスちゃん!! 出て来なさいな!!」

「えっ」

 

 追加で彼はボールを投げ入れる。

 現れたのは、白い煙を噴き出す亀のポケモンだ。

 

【コータス せきたんポケモン タイプ:炎】

 

(晴らすのか──!?)

 

 メグルの予感は当たった。

 このコータスというポケモン、出てくるだけで天候を操ることが出来る強力な特性を持つ。

 その名は”ひでり”。コータスの立つ戦場では常に太陽が出て、日差しが強くなる。

 そして炎タイプの技の威力は跳ね上がり、水タイプの技の威力は減衰する。

 炎タイプや晴れの恩恵を受けるポケモンにとって優位な天候状態を、出てくるだけで発動できることからコータスは所謂”晴れパ”の起点として使われる。

 それはゲーム内のNPCも分かっているのか、しばしば炎タイプ使いが先発で使用することもある。

 現に、空はいきなり晴れ、日差しが強くなり、メグルの額からも汗が噴き出す。

 

「ボウヤ。良い事を教えてあげる。日差しがとても強い時、リュウグウの旦那はシャワーズに()()()()()()()()()()()()の」

「えっ──」

「泡は、特殊な冷気を帯びたエネルギー体。ポケモンの技くらいなら耐える程頑強。でも、泡そのもののバランスが崩れてしまう直射日光下ではその形を保てない!」

 

 ハズシが言っている間に、泡たちは崩れ、蒸発してしまう。

 そして、残りは水を高圧で凝縮させているヤレユータンが残るだけだ。 

 ”むげんほうよう”の弱点。それは、水ブレスをチャージしている本体が無防備となってしまうことである。

 

【リザードンは光を吸収した!】

 

 

 

「──何よりこの状態なら、リザードンちゃんのチャージが速い!!」

 

 

 

【リザードンのソーラービーム!!】

 

 

 

 一瞬、早かった。

 リザードンが太陽光を高速で翼に集め、口から白い光の閃光を解き放つ。

 それはヤレユータンの水の鎧を蒸発させ、巨体を吹き飛ばし、そして昏倒させるには十二分なのであった。

 しばらくふらふらとしていたヤレユータンだったが、オーラは完全に消え失せ、そのまま倒れてしまう。

 

【効果はバツグンだ!!】

 

「ま、ざっとこんなもんよね」

 

 ハズシは安堵した。

 2体掛かりになってしまったが、迅速にヤレユータンを沈黙させることに成功した。

 

「すっげえ!! オーライズしたポケモンを一撃で……あっ」

 

 メグルは目的を思い出す。

 ストライクの救出だ。ヤレユータンに隠れていたが、ストライクが倒れているのである。

 すぐに駆け込む。ボールは無いが、代わりのもので再びストライクを捕獲すれば良い、そう考えていた。

 しかし。

 

「!?」

 

 ハズシは目がとても良かった。故に、()()()()()()()

 メグルが駆け寄った先の光景を。

 そして、彼もまた言葉を失ってしまった。

 だが、今此処で自分まで取り乱すわけにはいかない、と走り出す。

 

「一足、遅かったわね……」

 

 がくり、とメグルは膝を突く。

 喉の奥に物が詰まったように、言葉が出ない。

 しかし、目の前に流れている()()()()()()()()()()()()を直視して、現実を思い知る。

 

 

 

 

「……ストライクの、()()()()()()()()……ッ!!」

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