ポケモン廃人、知らん地方に転移した。【完結】 作:タク@DMP
──ヤレユータンに見舞ったソーラービームが強烈な威力であっただけで、あの大猿そのものは既にかなり弱っていただろう、とハズシは推測している。
それほどまでに、ストライクとヤレユータンは苛烈に争ったであろう痕跡があった。
その戦いの末に翅を捥がれてしまったのだろう、と。
ポケモンセンターの集中治療室に運び込まれたおかげか、何とか一命は取り留めた。
しかし。
「……この分じゃあ、今までのように戦うのは無理でしょうね」
「やっぱり、ですか……」
ストライクは他の翅を持つ虫ポケモンに比べれば、飛行に重きは置かない。
しかし、それでもあの跳躍を可能にしていたのは翅を羽ばたかせることによる浮力を利用していたからだという。
更に高速での動きは両翅でバランスを取っていることによって可能にしている。進化後のハッサムも、翅の役割は薄くなっているとはいえ、重い体のバランスを取るために両翅が必要なのだという。
従って、右翅を失ったことにより、ストライクは以前のように高速で動くことは出来なくなった。
そしてハッサムに進化すると、身体が重量化することによって余計にアンバランスさに苦しむことになるのだという。
「飛べるかどうかではなく、体の構造上、翅がある事に意味があるので……しばらく、バトルには出さない方が良いかと……」
その説明を医師から聞いた後、メグルは項垂れた顔で待合室に出た。
心配そうな顔でアルカがそこに立っていた。
「……あのオネエさんから全部聞きました」
「……そうか」
「ストライクの件……翅がなくなったって……」
「俺、どうすれば良いんだよ……」
「しばらく彼は病院に任せるしかないわね」
奥からハズシがやってくる。
「……最も、欠損した翅は元には戻らない。その上で、トレーナーとして貴方は決断することになるでしょうね」
「?」
「ストライクを戦いから引退させるか、どうか」
「引退……そんな!! まだ俺は……」
メグルは思わず座席から立ち上がり、そして口を噤んだ。
虫ポケモンの命とも言える翅を片方失ったのだ。
とても、今までのように戦えないのは医師からも伝えられていた。
この引退勧告も加え、彼やストライクが望んでいても、今までのように戦うことはもう叶わないと突きつけられたようなものだった。
「納得は出来ないでしょうね。扱いきれなかったにせよ、貴方は間違いなくカレのあの強さに惹かれた」
「……」
「でも、ハッキリ言って──かなり茨の道よ。あの子、トレーナーの居ない所であれだけ大暴れしたってことでしょう? 同種の中でも相当気性が荒いわ」
メグルでは、翅を失った上に獰猛なストライクを扱いきれない、とハズシは言っていた。
とても初心者トレーナーには任せられない荷である。
「しかも翅を失ってるから、強さは同種よりも劣ってしまっている。貴方への見返りは無い。面倒、見切れる?」
メグルは拳を握り締める。
それでも諦められない。
対戦では当たり前のように見てきた「ハッサム」というポケモン。
そしてその進化前のストライク。
その中でもひときわ強力な個体。
育て上げられれば、この旅で強い味方になる。
そんな希望を抱いて手持ちに加えたのが始まりだった。
蓋を開けてみれば、イーブイを超えるとんでもない暴れん坊だったのであるが。
(思い通りにいかない事だらけで、投げ出したくなったこともあったけど……諦めなんてつくわけないだろ……!? あいつらだって生きてるんだ……!!)
「育てます。でも、俺はトレーナーです。俺の一存では、あいつが戦うのをやめさせられません」
「ポケモンの意思を尊重する、と?」
「はい」
言う事を聞かずとも、あれだけの鮮やかな跳躍と技の数々は、戦う事に生き甲斐を見出しているからこそ成せるものだとメグルは直感していた。
そして──好きな事を奪われることの辛さはメグルが一番知っているつもりだった。
「あいつが戦いをやめたがるなら、それで良い。でも……俺の勝手であいつの好きなことを奪ってしまったら、今度こそあいつは……翅以上の大切なものを失う気がするんです」
「……愚問だったようね」
笑みを浮かべるとハズシはメグルの手を取る。
「えっ」
「貴方の愛、確かに受け取ったわ!」
「あ、愛……?」
「貴方に出来る事? そんなの決まってるわ。もう一度同じ事を繰り返させないことよ。自分のポケモンに、自分の指示下で動くことが安全だと理解させるの」
そうすれば、もうポケモンは勝手に貴方の指示無く行動しない。先のように分断されても、トレーナーとの信頼があれば、トレーナーを探すことを優先するものだ、とハズシは説いた。
「そのためには、貴方自身がスキルアップするしかない。やるわよね? 勿論」
「……はい!」
「良い返事。貴方、ワタシの所に修行に来なさい。それをおやしろの試練とするわ」
「でも、ストライクは──」
「”ひのたまじま”のポケモンセンターで面倒を見ましょう。あそこは、おやしろの麓。そして私の知り合いの管轄よ♡」
「ッ……どうにかなるんですか」
「
「俺が、強くなる……」
「貴方がストライクを使役出来るだけ強くならなきゃダメ。勿論、他の手持ちもナメられないくらい強くならなきゃダメ」
「だけど」と彼は指を突きあげて言った。
「でも、愛があれば乗り越えられない試練じゃないわ! 付いて来なさいな!」
「……はいっ!!」
「そうと決まれば──教習開始よ!!」
「はいっ!! ……教習?」
こうして。
メグルのおやしろでの修行が始まったのである。
ようがんのおやしろの試練、開始──
(いや、この人今教習っつった? 自動車免許感覚なの?)
※※※
ひのたまじま──その中央には休火山・アケノ火山が鎮座する。
それを監視するかのように麓には”ようがんのおやしろ”が佇んでいた。
そしてさらにその近くには「ベニ・ライド教習所」と看板が書かれた建物がある。
ハズシによる「試練」、またの名を「教習」は文字通りライドギア訓練だったのである。
「おやしろまいり2つ目の試練は、漏れなくどのおやしろでもライドギアの訓練を行う事になっているの」
「ライドギア……? ああ、リザードンの身体についていたアレ!」
即ち、乗り手と乗られる側のポケモンを助ける補助具の事である。
「サイゴクは山道が多いから、ライドポケモンに頼ることもあるでしょう──と言う訳で先ずは視力検査から」
「え? 視力検査? 何で?」
「何でって、目が悪かったら危ないでしょ? 車と同じよ」
(マジで自動車教習所方式だった……)
教習所に案内されるなり、いきなりメグルは視力検査室に通される。
「0.2……我ながらゴミみてーな視力だ……」
当然だが眼鏡が無ければ車を運転できない視力である。
「はい眼鏡決定」
「俺眼鏡嫌なんですけど……仕方ないかあ」
「つべこべ言わない。それに、付けるのは眼鏡じゃないわ。ライドギア用のゴーグルよ。はいカタログ」
「たっけぇ!?」
──ライド用ゴーグル(度入り)、お値段2万5千円(おやしろまいり挑戦者用価格)購入決定──。
これでもスポーツ用ゴーグルの中では値段は抑え目になっている方であるが、痛い出費だった。
だが見返りも大きかった。本人も慣れ切ってしまったメグルの劣悪な視力は、この度入りゴーグルで矯正されることになる。
「すげぇ! めっちゃ見える! 世界ってこんなに鮮明だったんか!?」
「貴方、目が悪いならバトルの時もコレ着けなさいな。常に首にぶら下げておきなさい。頑丈だから、ポケモンの技が当たっても割れないわよ」
「そう考えると2万って破格だったんだなコレ……」
これでメグルもメガネユーザーの仲間入り。平時は外しておき、必要な場面で度入りのゴーグルを掛けることにしたのだった。
「物事はシンプルなのよ。眼鏡越しの視界なら、バトルの光景も変わってくるわよ」
「あざっす!! 一生ついていきます!!」
「うふふ、さて、次に行くわよ次!」
ゴーグル選びが終わった後は、広い部屋に通されて「安全ペーパーテスト」なる問題用紙を渡される。
ご丁寧にマークシート方式だ。
「教習を行う上で貴方の思考パターンと常識を測ります」
「マジのマジで自動車教習所じゃねーか……」
「まあ似たようなものよね。自動車免許よりは早く終わると思うけど。ただ、ライドギアも危なくないとは言えないから。ふざけた人に使ってほしくないのよね」
これが”おやしろまいり”が17歳以上でなければ出来ない理由の一つである。
サイゴク地方ではライドポケモンには必ず補助をするためのライドギアを付けねばならず、更に免許が必要となる。
加えて、その免許の取得は17歳以上でなければならないといった規則があるのだ。
これはサイゴクの過酷な自然環境を考慮し、ある程度発育した身体と規則を理解出来る人間でなければライドギアを使うのは危険だからである。
「と言う訳で──これから貴方には合計10コマの学科と、8コマの実技訓練を行ってもらいます。最後に卒業試験があって、免許皆伝ね」
「は、はぁ、お願いします」
「心身ともに健康で、尚且つポケモンと心を通わせなければポケモンライドは叶わないわ。でも、大事なのは──愛!! 私も愛を以て貴方に出来る限りの全てを教えるわ!!」
(不安だ……)
※※※
「もう、無理だ、疲れた……」
1日目から結局学科3時間(うち1時間は最初のオリエンテーション)、そして実技2時間。
気が付けば夜の8時であった。
旅をして多少は体力がついたものと思っていたが、どうやら気の所為だったらしい。
(つーかライドギア訓練っつーけど、これで本当にポケモン達と心を通わせることが出来るようになるのか──!? これただの免許講習編じゃねーか!!)
加えて、メグルが消耗していた理由はそれだけではない。
(今回の実技の指導を務めるキンカンよ♡ よろしく♡)
(今回の授業の講師を務めるザボンよ♡ よろしく♡)
──何故か講師が皆オネエだったからである。何故講師がオネエなのかの説明は無かった。他の受講生もツッコミづらそうな顔をしていた。
おかげで講義の中身があんまり入って来なかったのである。
また、ポケモンライドそのものも初心者にとってはなかなか感覚が掴みづらかった。
最初の実技講習は訓練場のモトトカゲに乗るところから始まるのだが、どうやら間違えて嫌がるところを蹴ってしまったらしく、早速振り落とされてしまうのだった。
当然、メグルの頭には大きなたんこぶが出来ており、早速医務室のお世話になってしまうのだった。
宿泊施設に戻るメグルの目が死んでいるのも無理はないというものであった。
そして彼は──待ち受けていたように突っ立っているアルカに気付かなかった。
「……アルカ」
「えーと、何と言うか……お疲れ様です、おにーさん」
「……」
「……」
微妙な空気がその場に流れる。
気まずい沈黙がしばらく漂った後、アルカの方から口を開いた。
「……ボクの事、ハズシさんに言わなくて良かったんですか?」
「言わねーよ。勝負に負けたし、それ以上は追及しないって約束だったろ。それに知られたくなかったんだろ?」
「……件のヤレユータンが暴れてたのは間違いなくテング団の仕業です」
「首輪か。ハズシさんは何も言ってなかったけど……薄々察してそうだな。前回のテング団の襲撃で、オーライズについてキャプテンはある程度把握してるんだ」
「あのリュウグウって人が見てたから、ですか?」
「そうだな。後は俺達がオーライズを見てた」
(キャプテンの間で大合議が開かれたなら、テング団の事も共有されてる可能性が高いし……オーライズを見ても慌ててなかったよな)
問題は──メグル自身の出自についてである。
リュウグウは以前「混乱を招く故、他のキャプテンにはまだ伝えておらんがな」と言った。
ハズシは、メグルが異世界人であることをまだ知らない。
そして同時に、アルカを見ても何も言わなかった辺り、アルカがテング団と同郷であることも知らない。
「お前さ、自分がテング団と同じ故郷の人間だって知られたくないんだろ」
「……はい」
「じゃ、黙っとく。お前が嫌がることはしない」
「で、でも。ボクが本当にテング団だったら、どうするんですか!?」
「本当にテング団なら、そんな風に言わねーだろ。それに勝負の約束は守る」
「……もう! そんなんだといつか騙されます!」
「気を付ける」
けらけらと笑ってみせるメグル。
アルカは肝心なところで非情に徹することが出来ない人間だ、とこの数日間で何となく分かっていた。
「その代わり──話せる範囲で教えてほしいんだけど……テング団は、お前から見てどういう奴らなんだ?」
「……面倒な奴らです」
苦虫を噛み潰したように彼女は言った。
「ボクは役立たずだから放り出されちゃったようなもので……あいつらの事、ちょっとイヤです。でも、やってることはボクらの故郷のためにやってることなんです」
「……おやしろを壊す事が何でお前らの故郷を救う事に繋がるんだよ?」
「それが分からないんです。末端は何も知らされてないんです。ただ、サイゴクの民は、ボク達の故郷から大切な宝を奪った敵だってことを高らかに謳ってるんです」
(奴らはその報復の為におやしろを壊して回ってるのか)
「宝ってのは何だ? 奪われたのは……いつの事だ?」
おやしろを壊す納得できない理由ではなかった。
しかし、引っ掛かる点が無いわけではない。
そもそもその「宝」がどのようなものなのか。実在するのかどうか、だ。
更に「宝」を奪われたのが何時の事なのかがメグルは気になる。
「