ポケモン廃人、知らん地方に転移した。【完結】 作:タク@DMP
「パララララララララッ!! パララララララララッ!! パララララララララッ!!」
誇りも無ければ矜持も無い。
しかし、仇なす者には相応の報復をせねばならぬ。
本来なら電気を通さぬ身体には太刀打ちすら出来ないはずのやしろの主。
だが、彼の者は激しく抵抗し、とうとう己を追い払うに至った。
己に課せられた命を達するためならば、今度こそあの者を排さねばならぬ。
オニドリルが目を付けたのは──あの時、あのやしろに居た少年だった。
脅威の度合いなど関係ない。
あの少年は、先程自分に屈辱を味わわせた一派の一人だ。ただそれだけの理由ではあったが──報復をしなければ気が済まなかった。
──扇動の喇叭は鳴り響く。其れは、逆恨みの”鬼”となった。
※※※
「──おーい、大丈夫かい? 生きてる?」
「イキテマス」
仰向けで倒れたままメグルは震え声で答えた。
たいあたりを喰らった場所が今も痛い。そして起き上がれない。
「まー、アレでも手加減はするように躾てあるから。辛うじて」
「手加減してコレかよ……」
「ボールに入ってるポケモンは、野生のそれに比べれば多少なりとも気質は穏やかになっているし、その力も抑えられているものさ。……本当に多少、だけど」
その発言でメグルはゾッとした。
もしもこのイーブイが野生ポケモンだったら、今頃彼の骨は砕かれていたことであろう。
「ともかく、これが初めてのポケモンだね。おめでとう」
ボールの中のイーブイは、次に出した時はどのような振る舞いを見せるだろうか。
きっと、一朝一夕ではあの性質は治らない。治るはずがない。
(まあ、長い目で付き合って行くしかないよな……とんだ問題児を手持ちにしちまった……)
「……ところでさ、メグル君。なんか空、暗くない?」
「え?」
ふと、空を見上げる。
確かに暗い。
まるで、雲が太陽を覆ったかのようだ。
そして間もなく──
「──パララララララララッ!!」
あの独特な鳴き声が響き渡った。
大きな翼が、五重の塔を横切るなり旋回し──地面へ軽やかに降り立った。
通常のそれよりも遥かに大きな体躯。
そして、地面を掘り穿つために捻じれた嘴。
間違いなく、先程おやしろを襲撃したあのオニドリルだ。
「パララララララララッ!!」
「まさか──その日のうちにやってくるとは思わなかったね……しかも、町の中に!」
「な、何しに来たんだよコイツ!」
「さぁ? さっき追い返されたのを根に持ってるんじゃない? オニドリルって結構執念深い性格だし?」
遅れて、町中にサイレンが鳴り響く。
『巨大な野生ポケモンが街中に入り込みました、住民の方はただちに避難してください──』と。
「……仕方ないなぁ。センセイ、頼むよっ!」
「どぅーどぅー」
博士は手早くボールを繰り出し、ドーブルを繰り出す。
ドーブル自体は、種族値がかなり低い貧弱なポケモンだ。
まともに戦っても、あの巨大なオニドリルに勝てるわけが無い。
無論、あれだけ攻撃的であっても──イーブイもこの個体が相手では戦いにならない。
「そいつでどうやって戦──」
「センセイ、”キノコのほうし”、お願いねっ!」
「えっ!?」
飛び掛かるオニドリルの攻撃を即座に避け──センセイと呼ばれたドーブルは身体を翻すと筆型の尻尾から緑色の粉末を大量に撒き散らす。
【ドーブルの キノコのほうし!!】
その技は本来、文字通りキノコ型のポケモンで無ければ習得することが出来ない技だ。
吸った相手は昏倒し、そのまま眠りについてしまう強力な催眠技である。
そしてドーブルは一度見た相手の技をコピーしてしまう性質があり、例えキノコのほうしであろうがドラゴンタイプの大技だろうが習得することが可能なのだ。
尤も、メグルからすればそんなことは常識だ。ダブルバトルでは何度、補助技を有効活用するドーブルに苦しめられただろう。
驚いたのは──このポンコツ博士が、ドーブルに実戦的な技を覚えさせていた事である。
(この人、本当は研究職じゃなくてバトル畑の人間なんじゃ──)
「ッ……参ったね、メグル君」
しかし盛り上がるメグルとは裏腹に、博士は苦い顔をしていた。
地面に倒れ込もうとしたオニドリルだったが──しかし、その強靭な脚で地面に踏みとどまる。
立ち振る舞いこそふらふらしているが、完全に眠ったわけではないようだ。
(おかしいおかしいおかしい! キノコのほうしは100%眠らせる技のはずだろ!?)
「どうやら身体が大きいからか──それとも、何か特殊な力でも持っているのか、完全には眠らせることが出来なかったようだ」
「っ……!」
(ぬしポケモンのオーラみたいなものが状態異常を防いでるのか……!? ちょっとは効いてるみたいだけど──)
「僕、実は今、センセイ以外のポケモン持ってないんだよねえ。だから、君とイーブイの力、貸してくれないかな」
「えっ、良いんですか!? ヌシでも勝てなかった相手ですよ!?」
「だいじょーぶ。その子、強いからね」
「……!」
手持ちを信じてみろ、ということだろうか。
「行け、イーブイ!!」
ぽんっ!
音を立てて、ボールからイーブイが飛び出す。
さっきのさっきだからか、キッと毛玉はこちらを睨んでいた。
しかし、すぐさま近くに戦い甲斐のある巨大な敵を認めると──そのまま一目散に突っ込んでいくのだった。
「って、まだ何にも指示してねえ!!」
【イーブイのでんこうせっか!!】
残像が出来る勢いでイーブイは跳びはね回り、オニドリルの顔面を尻尾で薙ぎ払うのだった。
がくり、と眠気に塗れた巨体が揺らぐ。
その怒涛の攻勢を見て、先程の博士の言葉を思い出す。
人間相手は手加減するように躾けていた、と──
「ね? 言ったでしょ?」
「でも今度は言う事を聞かないじゃないですか!?」
「それは……そうだね! それさえ解決できればいいんだけど。取り敢えず援護しようか! センセイ、”このゆびとまれ”お願いします!」
ドーブルが絵筆の尻尾でオニドリルの顔面を塗ったくる。
当然、怒り狂った凶鳥の狙いはドーブルへと向いた。
”このゆびとまれ”は自らに全ての攻撃を誘導する技だ。
しかし、眠気に塗れた意識ではドーブルの身体を捉えることなどできない。
俊敏な動きと攻撃誘導が合わされば、それは立派な”避ける盾”と化す。
その間にイーブイがオニドリルに対して立て続けに攻撃を叩きこみ続ける。
戦いは、あくまでもメグル達の優勢に進んでいるように思えた。しかし。
(──ダメだ。幾ら何でも、このまま力押しで勝てる相手とは思えない──ッ! これが通用するのは、あいつが半分寝てる間だ!)
改めてメグルはスマホロトムでイーブイをスキャンする。
覚えている技は「たいあたり、すなかけ、でんこうせっか、つぶらなひとみ」の4つだ。
つぶらなひとみは攻撃力を下げる技だ。もし相手が攻勢に入っても、こちらへのダメージを軽減することができる。
弱体化は対ボスの鉄則である。
(せめて、イーブイが言う事を聞いてくれれば──)
「ギッシャァァァァァーッ!!」
突如眠気に塗れ。横から現れた凶暴な毛玉に攻撃を叩きこまれ。
既にオニドリルの堪忍袋の緒は切れつつあった。
絶叫がその場に響き渡る。
衝撃波だけで、ドーブル、そしてイーブイの小さな体は吹き飛ばされてしまった。
「ギッシャララララララララ!!」
「あ、あらら、完全に怒っちゃったみたいだね……」
オニドリルが地面に激しく降り立つ。怒りか、はたまたその身に宿した異なる力のためか、その目は赤く不気味に光っていた。
罅の入った地面から尖った岩が次々に切り出された。
単なる物理的な衝撃によるものではない。ポケモンの引き起こす超常現象の一つだ。
そのタイプは地面。
大地を蹴り、大地を穿ち、そして大地を鳴らし響かせる。
「──ギッシャラララララ!!」
飛び上がったオニドリルの周囲には、無数の岩や瓦礫が舞い踊る。
再び電光石火の勢いで攻撃を叩きこもうとするイーブイであったが、周囲を取り囲む岩に弾かれ、地面に吹っ飛ばされてしまう。
それでも立ち上がり、向かって行こうとする根性は大したものであるが、あの状態のオニドリルが相手ではまともに攻撃など通るはずがない。
危険を察知したメグルはイーブイに駆け寄り、無理矢理その身体を抱き寄せる。
「やめろやめろ! 見て分からないのか!? 無茶だ!!」
「ぷっきゅるるるるる!」
「ッ……デカいのが来る! 離れろ!」
博士が叫んだ直後だった。
オニドリルが空中に飛び上がる。
そのまま周囲に漂わせた岩と瓦礫と共に──
【野生のオニドリルの──】
──地面目掛けて、回転しながら突っ込んでくるのだった。
【──ならくおとしッ!!】
一瞬、何が起こったのか分からなかった。
これまで以上に恐ろしい速度でオニドリルは地面に迫る──
「いけない! センセイ、リフレクター!!」
その勢いで、彼が身に纏っていた岩が、瓦礫が砕け散り──衝撃波と共に飛び散った。
それは瞬時にドーブルが展開した物理攻撃を受け止める障壁によって防がれる。
しかし、それだけで終わるはずもなかった。地面は波打ち、幾重にもなってイーブイを、ドーブルを、そしてメグルと博士に向かって襲い掛かるのだった。
障壁は敢え無く、一瞬で砕け散る。
彼らはうねる地面に飲み込まれてしまうのだった──
※※※
「……この数の野生ポケモン……! まさか、オニドリルに住処を追われたの!?」
小動物型のポケモンと言えど、彼らが人里に降りれば、被害はただでは済まない。
町のポケモントレーナーたちも応戦しているが、如何せん数が多く、次から次へと山から下りてくるのであり、立て続けの連戦に苦しめられていた。
「ッ……! レアコイル、電磁波!」
しかし、そこに現れたのがユイであった。
レアコイルを繰り出して電磁波をネットのように張り巡らせることで近付くポケモンたちを無力化していた。
麻痺したポケモンはその場で立ちすくむもの、そしてそのまま怯えて逃げ帰る者と様々だった。
「た、助かりましたユイさん!」
「あれだけの数を一瞬で制圧するなんて──!」
「驚いてる場合? 街に一匹も入れるんじゃないわ!」
「は、はいっ!」
(と言ったモノの──大群行進が止む様子はない、か……!)
「バオオオオオオオオオオオオンッ!!」
怒号が周囲を揺らした。
一際大きなリングマだ。
その様子は明らかに錯乱しており、電磁波を受けても尚、暴れ続けている。
無理もない。リングマの特性は根性──状態異常になった場合、攻撃力が跳ね上がるのである。
そればかりか、ポケモンたちの技を受けても尚、怯むどころか突き進んでいる始末だ。
「──下がって! 死にたくなきゃ撤退しなさい!」
ユイは呼びかける。最早、並みのトレーナーでは相手にならなかった。
辺りの木々を腕で薙ぎ払い、根元からひっくり返している姿はさながら怪物の一言。トレーナーたちは逃げ惑うしかなかった。
引っこ抜いた木をトレーナーたちに向かって振り回しており、彼らは逃げ惑うしかなかった。
だが、その1人が木の根に足をとられたのか、転んでしまう。
「あぁぁぁーっ!! 助けてくれぇぇぇー!!」
「レアコイル、リングマに10万ボル──」
そう指示しかけて口を噤んだ。
射線上に逃げるトレーナーたちが居る。
このまま撃てば当たってしまうし、直撃しても威力が弱まっているのでリングマを斃せない。
(そんなっ……あたしはまた肝心な時に──ッ!)
俯いた顔は──次の瞬間には驚きに変わっていた。
轟!!
それは喝の如く。
極雷がリングマの脳天を吹き飛ばす。
バキバキバキィッ!! と音を立てて周りの木々が焼け焦げた。
レアコイルのそれよりも遥かに大きな雷鳴。
それを放てる者など1人しかいない。
「ヌシ様!?」
「……」
全身に稲光を纏う黒いポケモン。
ヌシのサンダースは、傷ついた身体を引きずり、そこに立っていた。
「だ、ダメだよ!! そんな身体じゃあ──」
「ビッシャァァァーン!!」
電撃がユイの足元に落ちる。
「手出し無用だ」と言っているようだった。
サンダースの狙いは既に、下山する野生ポケモンたちに向いていた。
「サンダース……一緒に戦ってくれないの……?」
「……」
くいっ、とサンダースは振り向く。
その視線は此処からでもよく見えるまちのシンボル・あかがねのとうを向いていた。
思わずユイもその方を双眼鏡を通して見る。
──大きな鳥ポケモンが、瓦礫や岩を浮かび上がらせていた。
「ッ……まさか──!」
脳裏に過るのは──さっきやしろを襲ったオニドリルだった。
町に住む人々が、そして未だにポケモンを所持していないメグルも危ない。
「手分けして、町の危機を救えってこと? ……やっぱり敵わないなあ」
確かに、未だに対等ではない。
傍から見ればヌシであるサンダースが、未熟なユイを従える関係とも取れる。
しかし、彼女には落ち込んでいる時間などなかった。今彼女がやるべきことは、町を守る事。
それがキャプテン代理として負った使命なのだ。
自分がぐずぐずしていれば、町に住むポケモンも人々も危ない。
「ねえヌシ様! あたしさ、父さんみたいにヌシ様と一緒に戦うことは出来ないけど……あのオニドリルだけは、絶対に止めてみせるから──ッ!!」