ポケモン廃人、知らん地方に転移した。【完結】 作:タク@DMP
※※※
「まさか、本当に異世界から来ているとは思わなんだ、ね……」
「あっははは……」
(ウルトラホールは様々な世界に繋がっていたというわ……ポケモンが居ない世界というのがあってもおかしくはない、か)
ハズシに自らの身の上を話すと、彼は考え込むように唸り──そしてふっ、と笑みを浮かべた。
「ハズシさん?」
「言ったでしょう? ワタシ、こういう事は慣れっこなのよ」
「そうなんですか!?」
「ええ。この世界とは別の世界……ってヤツね。かつて、アローラに居た時、似たようなことに出会ったのよ」
(もしかしてウルトラビーストに遭遇したことがあるのか、この人……!?)
「でも、理解のある人間ばかりじゃあない。そこには気を付けて頂戴、メグルちゃん」
ハズシの顔が一際険しくなった。
「リュウグウの旦那が大合議で貴方の事を話さなかった理由、分かったわ。きっと旧家二社を警戒したのね」
「きゅ、きゅーけにしゃ?」
「よあけのおやしろとひぐれのおやしろよ。この2つはサイゴク地方に大昔からあるおやしろなの。外敵や野生ポケモンから集落を武力で守って来た過去があるのよ」
メグルは記憶を辿る。
観光ガイドの記述に書いてあったのだ。
セイラン、ベニ、シャクドウの3つのおやしろを御三家三社。
一方、イッコンとクワゾメの2つのおやしろを旧家二社と呼ぶ、と。
そして旧家二社の擁する家とおやしろは、サイゴクの中でも最も大きく、抱える戦力も相応のものである、と。
その理由は、かつて野生ポケモンからおやしろを守る為の防衛拠点であったこと、そして他のおやしろと戦う為に武力を蓄えていたからである。
(おっかないおやしろだと思ってたけど、やっぱり過激派寄りなんだな……)
「もしこの2つのおやしろにメグルちゃんの境遇が知られたらどうなるか、説明しなくても分かるわよね」
「俺……捕まったりします?」
「両方共、御三家よりもおやしろも大きいし組織も大きいの。非合法な手段だって取れる」
「こっわぁ……注意しておきます」
「でも安心して。ユイちゃんとワタシ、そしてリュウグウの旦那……御三家三社は貴方の味方よ。下手をすれば旧家二社の不信を買う行為だけど、それを覚悟してでもリュウグウの旦那は君の事を守りたかったんでしょうね」
「何でまた?」
「シャワーズを助けてくれたのが、それだけ嬉しかったのよ」
「それでもですよ」
メグルはバツが悪そうに頬を掻いた。
自分がそこまでしてもらえる義理などない、と言わんばかりに。
確かに異世界から来たとはいえ、メグルは彼らからすれば数多くいるトレーナーの一人でしかないのだから。
「ハズシさんも、リュウグウさんも、何で俺の事、こんなに良くしてくれるんだろうって……」
「人間はね、自分にされたことを人にもしたがる生き物よ。よくも悪くも」
懐かしむようにハズシは言った。
「ワタシはね……その昔、やんちゃ坊主だったわ。そんな時、見兼ねてワタシを正面から叱ってくれたのが……先代のキャプテンだったの」
「意外です」
「……でしょ?」
彼は語る。
かつて、ケンカに明け暮れた荒れた日々を過ごした事を。
家にも何処にも居場所は無く、ポケモンだけを信じ続けた日々を。
しかしポケモンは言葉を解さない。
彼の言葉を受け止めてくれるものはなかった。
そんな中、正面切って自分を怒鳴りつけてくれた人が居た。居場所を作ってくれた人が居た。
「ママはいつもタバコばっか吸って、すっごく口の悪い人だった。ああ、ママってのは……近くのオカマバーのママだったってことよ。キャプテンだったことを知ったのは後からだったのよ」
「あ、やっぱりオネエなんだ」
「でもね、ワタシはあの人のおかげで立ち直れたのよ」
──あんたねぇ、こんなところで凹んでんじゃねーのよ!! ビッグになってお前をバカにしたやつ全員見返してやりな!!
「だから……ポケモンに乗るのが好きだったから、レーサーになってバカにしたやつら皆見返してやろうって思った。でも途中から……ママに、見て欲しかった。ワタシの晴れ姿を。ワタシが一番になるところを」
「それだけ大事な人だったんですね」
「ええ。恩返し、したかったわ」
過去形だった。
今でもそのことを思い出すと、辛さが混じるのか──吐息に憂いが入る。
「病気だったの。末期だったから、ワタシにも隠してたのね。大事なレースの前に、心配させたくなかったんだって」
「ッ……」
「あんまりにも早すぎて……柄にもなく泣いちゃったのよ。まだ、なぁんにもお返し出来てなかったから。泣いたわ。何にも手に付かなかった」
泣いて泣いて、一頻り泣いて──そうしてハズシは行き着いた。
返せなかった分は、他の人に返そう、と。
今度は自分がされたように、他の人にも同じことをしてやろう、と。
それが今の彼の生き方に繋がっている。
「ワタシはワタシのやり方で、ママに返せなかった分の愛を、他の人に分けてあげることにした」
「それが……今の職業」
「ええ。教習所の教官に、ライドポケモンのブリーディング、レーサーのコーチ、キャプテン……忙しくて目が回りそうだわ。でも今、とっても充実してるのよ」
「……凄いや。俺にも出来るかな」
「気負う必要はないの。返す相手はワタシ達じゃなくて良い。貴方は……これから出会う人たちに、そして今育てている子達にありったけの愛を注いであげて」
ぱちり、と彼はウインクしてみせた。
「さて、休憩はお終い。爆弾探しに戻るわよ、メグルちゃん」
「でもヒントはあるんでしょうか? この島も結構大きいし……」
「おやしろのトレーナーがテング団と戦いながら爆弾を虱潰しに探してくれてる。何か報せがあったら──っと、噂をすれば何とやら、ね」
ハズシのスマホロトムが鳴った。
何か爆弾に関する手掛かりが見つかったのではないか、と淡い期待を抱いたメグルだったが、
「──何? 火山から野生ポケモン達が降りてきてる!?」
飛んできたのは、悪い方の報せだったのである。
※※※
──ようがんのおやしろは、アケノ火山を監視する大きな物見櫓の建築された大社だ。
奇しくも、火山の噴火以外でこの物見櫓の設備が生きることになる。
本来なら溶岩洞や火山に生息しているポケモン達が大挙していることを真っ先に察知したのである。
例えばようがんポケモンのマグマッグにマグカルゴ。太ましいラクダの姿をしたどんかんポケモンのドンメル。
いずれも、山から下りてくるようなポケモンではないにも関わらず、興奮した様子で人里に迫ってくるのである。
こうなれば、ハズシは火山の方へ駆け付けざるを得なかった。メグルもそれに追従する形になる。
「明らかに様子がおかしいわね……」
「見えるんですか!? ……って、すっごく目が良いんだった」
「それだけじゃないわ。頭から変なものが生えてるの」
「変なもの?」
「……どうせ近付いてくるわ。迎え撃つわよ!」
街中に入れるわけにはいかない。
ハズシも、メグルも、ポケモンを繰り出し、現れたポケモンを薙ぎ払っていく。
グレンアルマがワイドフォースで一掃し、取りこぼしたものをイーブイが、オドシシが倒していく。
しかし、それでも彼らは逃げる様子を見せず、狂ったように前進してくる。
傷つくことを恐れていない、というより痛みを感じていないようにさえ見える。
その様にメグルは一種の恐ろしさを感じた。
まるでゾンビのようだ、と。
「こいつら、倒したのに起き上がってくる……!」
「なら──ギャロップちゃん、アレを頼むわ!」
ヒヒンと嘶くのは、燃える鬣をなびかせる馬のポケモン・ギャロップ。
ハズシのレーサー時代からの相棒とされている一匹だ。
【ギャロップ ひのうまポケモン タイプ:炎】
「……成程、じゃあオドシシ頼む!」
「あーら♡ ワタシのやろうとしてることが分かるのね?」
「これでもポケモンの知識だけはあるんで!」
「合わせるわよ。準備は良い?」
「はいっ!!」
オドシシの角の目玉が妖しく光る。
ギャロップの角にサイコエネルギーが充填されていく。
「──ダブル”さいみんじゅつ”!!」
2体が同時に放った催眠術。
木々や建物に反響したサイコエネルギーが、マグマッグを、そしてドンメル達を昏倒させ、地面に叩き伏せたのだった。
「ッし!! 完璧だ!!」
「貴方、やっぱり見込みがあるわね」
「それほどでも──って、それよりも奴らの頭を調べましょう!」
「うふっ♡ 照れ屋さんなんだからぁ」
こうして、第一波は収まる。
倒れて動かない一匹のドンメルに恐る恐る近付くと、確かに頭から角のようなものが生えていた。
赤くて柔らかく、ひだがついている。直感で、菌糸類のようなものではないか、とメグルは判断する。
「……キノコ、ですよね? これ」
「それ以上近寄らない方が良いかもね。毒があるかもしれない。触っただけで腫れる種類もあるから」
「でもこんなキノコ、この辺りに生えてるんですか?」
「ええ。ワタシも見たことが無い。でも、ここで暴れてるポケモン達の共通点は……キノコが頭から生えていること」
「キノコに操られていたってことですか?」
(そもそも野生ポケモンを暴走させるだけなら、あの首輪を使えば良いわけだし。このポケモンの暴動自体は狙ったわけじゃないのか?)
「そうとしか思えない。キノコの持つ神経毒がポケモンに凶暴化と言う形で作用した可能性がある。神経毒ならワタシの見た事例でも類似のものがあった」
「テング団が持ち込んだんですかね」
「可能性が高いわね。にしても、色々と腑に落ちないことが多すぎる」
「……そうですね。ちょっと幾ら何でも回りくどさが過ぎるような気がするんですけど」
(爆破させるならさっさと爆破させればいいのに、団員に俺達を足止めさせて、時限爆弾仕掛けて、おまけに変なキノコで野生ポケモンを暴走させる? 何一つ行動が一貫してないじゃないか……キノコ……爆弾……?)
此処までのテング団の動きを見ても、ただの爆弾を抱えているにしては冗長だ。
探しても見つからないこともあり、彼らの言う「爆弾」が文字通りのものかどうかも怪しくなってきたのである。
メグルは思い返す。
イヌハギの言っていたことを。
──夜が明ける頃に……爆弾が爆ぜる。”ひのたまじま”全域に、死せる火の粉が降りかかる。それが嫌なら爆弾を……解除してみせろ。
「……ハズシさん。俺達が探してる爆弾って、どんなのだと思います?」
「よくよく考えてもおかしな話よね。この島諸共爆破するって言ってたわね。そんな大きな爆弾、こんなに島中に部下がいるのに使ったら危ないじゃない」
「あいつらの言ってる爆弾って……
「少なくとも
「はい。そもそもそんな大きな爆弾なら、仕掛ける時に誰かに見られていてもおかしくないし、とっくに見つかっててもおかしくない」
「なのに、これだけの人数が探していて未だに見つかっていない」
「そもそも爆破するだけなら、予告無く爆破すれば良い。橋を落としたり、船を沈めた時みたいに。奴らの仕掛けた爆弾は、俺達が思っていたものとは違う可能性があるんじゃねーかって……」
「あいつ……この島に死の粉が降りかかるって言ってたわね」
「……俺の居た世界に、爆弾キノコって呼ばれるキノコがいるんです。何かの衝撃で子嚢が破れたら、胞子を撒き散らす」
昔、国営放送の自然番組で見た事がある爆弾キノコと呼ばれるキノコがメグルの脳裏に過っていた。
子嚢が破れると、そこから胞子を撒き散らす。踏むと胞子を噴き出すので、面白がって子供が踏んでしまうのだというが、結果的に胞子がばら撒かれているので役割は果たせているのだとか。
「ええ、ええ、あるわ。ある。この世界にもある」
二人の視線は──キノコが生えて、倒れているポケモン達に向いていた。
「……尤もそれは、こんなに赤くて危ないキノコじゃないのだけど」
「ポケモンなら……何でもアリでしょ」
「それもそうね。もう何があっても驚かないわ」
※※※
「防護マスクを着けておいて頂戴。嫌な予感がする」
「大丈夫です! 大分息苦しいけど」
「後、これがおやしろに常備していた防塵ゴーグルよ。火山が噴火した時に備えているの。手持ちのポケモン皆に付けておいて頂戴」
「ありがとうございます」
──全ての準備は整った。キノコの胞子の対策のため、メグルとハズシは自身とポケモン達に出来る限りの対策を施す。
幸い、火山噴火時に使う救援用の防塵装備がそのまま使えるらしく、装備の数には困らなかった。
そして、ハズシが舵を取り、メグルが後ろに座り、リザードンが空を飛ぶ。目指すは異変の起点であるアケノ火山だ。
ハズシの驚異的な視力ならば、この距離からでも火山から降りてきている野生ポケモンの流れを視ることが出来る。
案の定、一点を起点にして野生ポケモンが逃げるように散っていた。そこから拡散するように、ポケモンの動きが狂ったようにおかしくなっていた。
しばらくして、何かに気付いたようにハズシは「あっ」と声を上げたのだった。
「──視えたわ! キノコ! キノコ……?」
「マジでそんな事あります!?」
「言ったのはメグルちゃんじゃないのよ。でもこれ、大きいわね……メートル単位よ?」
それはそれはもう恐ろしい大きさであった。
近付いていくとメグルもゴーグル越しの肉眼で見える程の大きさの赤い塊が山道で蠢いているのである。
高さは山の頂上付近。
最初、メグルはこれをキノコだと認識することは出来なかった。
しかし、よくよく見ても野生ポケモン達に生えていたそれと似たような形状であることが分かる。
まさに赤い肉塊とでも呼ぼうか。凡そ3メートル程の大きさの肉の傘が動いている。
……そして認めたくはないが、肉の傘の後ろには何かを引きずったような跡があった。
まるでキノコが自立して動いているかのようであった。
全貌は傘が大きすぎて見えない。
つまり、これだけではメグルも何のポケモンかは分からない。
すぐさまリザードンがキノコのよく見える位置まで降りる。
そうして漸く、キノコの全体像を拝むことが出来たのであった。
「うっげ、何だコイツ……!!」
「怪物の正体見たり、ってところかしら……!」
正面から見るんじゃなかった、とメグルは後悔した。
全長およそ3メートルはあろうかというキノコ。
それを背負い、のしのしと強靭な前脚を地面に突き刺しながら進撃するのは、固まった溶岩のように黒い甲殻に包んだセミの幼虫のような生き物。
凡そ精気を感じられない白い眼玉には、炎がゆらゆらと灯り、燃えていた。
まとめると「キノコを背負い、胞子を撒き散らしながら徘徊する虫のポケモン」。
そんな悍ましい生き物は、メグルの中では1匹──ないし2匹しか思い浮かばない。
「……だとしても、デカすぎんだろ……!!」
「
精気の無い目で進んでいたそれだったが──障害物を認めたのか、がぱぁっと、その大きな口を開き、咆哮するのだった。
「ノットリィィィィ!!」
【パラセクト(???のすがた) かえんたけポケモン タイプ:???/???】