ポケモン廃人、知らん地方に転移した。【完結】 作:タク@DMP
「──ノットリィィィーッ!!」
──パラセクトというポケモンは、進化前のパラス共々、キノコに寄生された虫──つまり冬虫夏草をモチーフとしたポケモンである。
進化後のパラセクトの段階にもなると、虫は肥大化したキノコによって精神を乗っ取られてしまっており、実質的な本体はキノコとなる。
それは、何かの拍子にキノコが虫から取れてしまうと動かなくなってしまうことからも証明されているといっていい。
そしてその特徴自体は今目の前にいるリージョンフォームも同様なのか、下の虫からは精気というものが全く感じられない。その一挙一動は、操り人形のようにおぼつかない。
しかし、メグル達を敵と認識したからか、一転して鎌のような前脚を振り上げて襲い掛かってくるのだった。動きは鈍重だが、キノコの傘からばら撒かれている火の粉が周囲の草木に火をつけて焦がす。
(とんでもない熱エネルギーをあのキノコの中に溜め込んでいるわね、あのパラセクト……! 炎タイプは付いていてもおかしくないわ!)
(H60A95B80C60D80S30──!! 能力値はハッキリ言って低い部類だが、何か嫌な予感がする──)
ずるずる、と肥大化したキノコを引きずるパラセクト。
そのキノコからボコボコと音を立てて、丸い弾が放り出される。
すぐさまリザードンが飛び出し、身を挺して二人を庇った。
【──パラセクトの”キノコばくだん”!!】
直後、弾は爆ぜる。
爆風がハズシとメグルの身体を襲って吹き飛ばし、リザードンも羽根をマントのようにして防いだものの、後ろ足で踏ん張らなければ飛ばされるところだった。
爆心地はめらめらと燃えている。
胞子が可燃性であることは、目に見えて明らかだった。
更にそこから、遅れるようにしてキノコが生えてくる。
「ッ……いったたた……!! とんでもないわね……!」
「移動砲台、か……!」
ずしん、ずしん、とパラセクトは巨体を引きずりながら進んでいく。
メグル達には興味を示さない。目指す先は頂上だ。
「でも、パラセクトなら虫か草は付いてるはず……リザードンちゃん、大文字で薙ぎ払って頂戴!!」
リザードンの正面に大の字の炎が展開される。
それがパラセクト目掛けて飛んで行き、押し返そうとする。
しかし──キノコが炎を全て吸い込んでしまうのだった。
そして今度はお返しと言わんばかりに、さっきの倍の数の”キノコばくだん”が傘から放り出される。
周囲を爆撃しながら、パラセクトは進んでいく。
「何なんだコイツ、無敵かぁ!?」
「ッ……炎技が効いてない!! 特性、かしら……!?」
「炎タイプを無効にできるタイプなんてありませんからね!!」
一度リザードンに乗り、その場から離れるハズシとメグル。
パラセクトは相も変わらず、頂上を目指して進んでいるようだった。
「メグルちゃん、手伝ってもらえる? あいつはどの道放っておいたらヤバい気がする……!」
「──そこまでだ」
その時だった。
メグル達の頭上に氷の礫が降りかかる。
すぐさま振り向いたリザードンが炎を放ち、撃ち落とす。
だが、それを盾にして下手人は降り立ったのだった。
イヌハギとルカリオだ。険しい表情を浮かべたハズシがボールを握り締める。
「……あんた、この期に及んで邪魔するのね……!」
「こいつ……また出てきやがった!」
「ゲームには邪魔が付き物だ。パラセクトに辿り着いた事は褒めてやるが、止められるかどうかは別問題、だろう?」
「あいつが爆弾っていうの!?」
「どうだかな……少しは自分で考えてみてはどうだ?」
ルカリオが吼える。
周囲には雪が降り注ぎ、その身体に鎧が纏われていった。
先程も見せた、雪を纏った重装甲形態である。
そのまま恐ろしい勢いで突貫し、ハズシとメグルの喉を引き裂くべく腕を振り上げる。
だが、それを見逃すリザードンではない。すぐさま飛び出して、取っ組み合うのだった。
「メグルちゃん!! 此処は任せて頂戴!!」
「で、でも──」
「こいつは、貴方じゃどの道止められないわ!! 放っておけばどの道この島に害を成す!!」
「俺、ハズシさんを見捨てるなんて出来ません!!」
「見捨てる? ハッ、キャプテンをナメるんじゃないわよ!!」
その声は──自信、そして覚悟に満ち溢れていた。
「貴方達がパラセクトを止める方法を考えるの!! 後で絶対に来る──此処から離れて!」
ガラスが砕けるような音と共に、ルカリオの周囲から冷気が放たれ、氷が生えていく。
此処だけが雪山になってしまったかのようだ。それ以上、メグルは近付けなくなってしまう。
最早自分が介入できる領域の戦いではないことをこの時彼は悟った。
考えるしかない。自分一人で、パラセクトを止める方法を。
「すみませんハズシさん!! 任せます!!」
「良い子ね!」
言ってる間に、パラセクトは寒さを嫌ってかその場から離れていく。
それをメグルは見失わないように追いかけるのだった。
(つったって……俺一人でパラセクトをどうにかできるのか? 重くないか? その役目)
そもそも、まだパラセクトが”爆弾”と決まったわけではない。
イヌハギが近くに現れたことから、ほぼ確定ではあるが断定は出来ない状況だ。
加えて、防塵ゴーグルがあるとはいえ”キノコばくだん”で周囲に爆発物を撒き散らしながら進軍するパラセクトはメグルの手持ちでは止められない。
そもそもあの巨体が相手では並大抵の攻撃が通用することはないだろう。
パラセクトの種族値自体も素早さが極端に低い以外は、他の数値も低すぎるわけではない。レベル差、ヌシ補正等々ゲームならば存在するであろうステータスを考えた時、想像以上の強敵であることは否めない。
せめて弱点が分かれば、と唸っていたその時。
「いるじゃないか、パラセクトの弱点を知ってそうなヤツが!」
※※※
「……もしもーし」
アルカは憂鬱になりつつあった。
手当は受けたものの抉れた脛が想像以上に痛く、歩く気にもならないがかと言って寝ていられるような状況でもないので、ポケモンセンターの待合室でずっと座っているのだった。
そんな中、電話が掛かって来れば気だるげに取るしかないわけで。
「アルカ!? お前今大丈夫だよな!?」
「大丈夫ですよー、あはは、どーせボクなんて……」
「なんか暗くね? お前……」
「ほっといてくださいよ」
「って、凹んでる場合じゃねーんだよ! 実は大変な事になっててな」
「今既に大変じゃないですか、これ以上大変なことなんてないでしょ、ボクはこのまま泳いで本島に逃げますよ、あっ、脛が抉れてたから無理だった」
十数秒後。
「──デカいパラセクトォ!?」
「うっわうるさ」
アルカのテンションはひっくり返っていた。
前髪に隠れた目は開かれ、青白い肌は更に血の気が引いていた。
「何だどうした、そんなにヤバいのかパラセクト……」
「た、確かにそれなら”爆弾”と言うのも納得できます……!」
「えっ」
「というか、ただの爆弾の方がまだ良かったまであって」
「何でパラセクトと爆弾が……?」
「ああ、そうですね……
「パラセクトは爆発しねーだろ!?」
震えた声で彼女は語るが、爆発はむしろマルマインだとかクヌギダマのお家芸である。少なくともサイゴク地方では。
しかし、アルカの故郷ではそうではないらしい。
「──えーとボクの持ってる図鑑だと……あったこれです! 読み上げますよ──」
【パラセクト(???のすがた) かえんたけポケモン タイプ:炎/草】
『キノコは猛毒。触れただけで酷く爛れる。繁殖期に高所でキノコを爆発させ、胞子を撒き散らす。』
「マジの爆弾キノコじゃねーか……!」
「はい……より高い場所に登り、キノコを爆発させることで爆破の勢いで広範囲に胞子を撒き散らすんです。因みにこの行動で本体は瀕死にはなりますが、死にはしません。回復したら元通りです」
「で、でもよ、これだけなら──」
「そしてパラセクトの胞子は他のポケモンに寄生して
「そうか。でも、これだけなら……これだけならまだギリギリ大丈夫なんじゃね? 島全部がやべーことになるなんて」
「──ただ、例外が存在するんです。先ず、パラセクトの胞子は個体の大きさによって繁殖力が変わるんです。個体の大きさは、キノコの重ねた年齢に比例します」
思い当たる節しかなかった。
あのパラセクトはキノコだけで3メートル程の大きさを誇る巨体である。
「100年ほど前。あるムラが戦争で、他のムラ相手に、爆発寸前の巨大なパラセクトを爆弾として落としたんです。投下には、オトシドリってポケモンを用いたとされています」
「……それでどうなったんだ」
「全部滅びましたよ」
「!?」
「住民も兵士もポケモンも、頭から、目から、口から、ありとあらゆる部位から猛毒のキノコが生えてきて、そして意識を乗っ取られて、いずれ死にます。ムラもキノコ塗れで誰も入れなくなりました」
キノコの爆弾などという生温いものではなかった、とメグルは歯を噛み締める。
感染速度も、範囲も、この島を滅ぼすには十分であった。下手をすれば風に胞子が流れて、本土にまで被害が出ることすら考えられる。
爆発そのものが問題ではない。領土を取り合うための争いのはずが、相手の領土も民もポケモンも全て汚染してしまう厄災そのもの。
それが、あの巨大なパラセクトの持つ爆弾としての性質であった。
「特に爆発時には”キノコばくだん”──ヤツの吐き出す火球も大量にばら撒かれるでしょうから、火山周辺の家屋は間違いなく全滅……!」
「その後に胞子が襲ってくる……!! おい、本当にこんなバケモノ居て良いのかよ!?」
「そうそう居ませんよこんなの! 野生下でも、ましてや飼育下でも……でも稀に、突然変異を起こして巨大化する個体がいるんです」
「それが──今俺達が相手している”爆弾”って訳か。止めるにはどうしたら良い?」
「……倒したら縮んでしまって逃げるだけ……方法は一つ」
ぎゅっ、とアルカは拳を握り締める。
「パラセクトを……捕獲してください、おにーさん!!」
※※※
「──それにしても一人なのね」
「気付かなかったか? 此処に来るまでに部下共に会わなかったことを。既に退避させているんだよ」
「ッ……!」
野獣の如く暴れ回るルカリオ。
アイスリンクのように凍り付いた周囲を、スケーターのように滑りながらハズシを、そしてリザードンを狙う。
遠距離戦を主体とするリザードンでは、高速で距離を詰めてくる相手に分が悪い。
(ならば正面から打ち合う!! タイプが有利な分、ワタシの方が優位に立てる!!)
「──ソウブレイズちゃん! お願い!」
リザードンと入れ替わるようにして現れ、ルカリオの拳を受け止めたのはソウブレイズ。
青い炎を身に纏った剣士のポケモンだ。
「アツい炎の身体の前では、氷なんて無力! 全部溶かしてアゲル!」
「……暑苦しいのは嫌いだ」
「ッ!?」
「炎が氷に勝てると……一体何処の誰が決めた?」
ソウブレイズの身体に霜が降っていく。
ルカリオに触れた場所から熱が奪われているのか、そこから凍っている。
「──ソウブレイズちゃん!! むねんのつるぎよ!!」
「地獄突きだ。貫け」
だが、ソウブレイズ側も負けはしない。
刃と化した両腕で、ルカリオの身体から生命力を奪い取ろうとする。
しかし刃が届かない。既に敵は分厚い氷の鎧に包まれている。
そこに、ルカリオの掌底による連打が加わる。それが霊体の身体を壊す程の威力であることは、ボロボロになった鎧からも察せられた。
「某の氷は……炎をも芯から凍てつかせてみせよう」
「そんな馬鹿な事ッ……!!」
「お前も分からんわけではあるまい。炎も……低温下では灯ることすら出来ない。お前自身もそうだ」
がくり、とハズシは膝を突く。
既に彼の身体も霜に覆われている。
この低温がハズシの生命をも蝕みつつあった。既に低温障害に加え、凍傷が身体のあちこちに現れている。
「この低温は……”ゆきげしき”の応用だ。周囲を極寒地獄に変える」
(抜かった……このルカリオの扱う低温……あの子が周囲の熱を奪っている……!!)
「だがそれを抜きにしても、お前の炎は温すぎる」
ルカリオがトドメと言わんばかりに、倒れたソウブレイズに向かって回転しながら突撃する。
全身を鋭利な氷の独楽としてぶつける一撃。低温で弱っているソウブレイズには到底耐えられる攻撃ではない。
(炎技は使えない……!! かと言って、モンスターボールも凍っていて使えないわね……!! さっさとリザードンちゃんの切札を切るのが正解だった──!? いやでも、アレを見せるにはまだ早い……!!)
ちらり、とハズシは凍ったまつ毛越しにソウブレイズを見やる。
表層が凍ろうとも、未だにその目には炎が灯っている。
【ルカリオの アイススピナー!!】
「確かに、この低温では炎は灯らない……でも、炎は炎でも、こういう炎もあるのよ……
「今更何をしても無駄な事──」
【ソウブレイズの──】
「貴方一つ、勘違いしているわね」
ルカリオの攻撃がソウブレイズに突き刺さる。
だがその瞬間だった。背中から無数の手が飛び出し、ルカリオを掴んだ。
実体は無い。全て影だ。
「ギッギッギッ」と不気味にソウブレイズが嗤ったようにイヌハギには見えた。
「しまっ──ルカリオ、退け!!」
「──ワタシはキャプテン。オトすのは一筋縄じゃあいかないわ」
【──みちづれ!!】
膝を突くソウブレイズ。
だが、それと同時にルカリオの身体も無数の手に貫かれ、崩れ落ちる。
ほぼ同時に二体は斃れるのだった。
ルカリオはイヌハギの持つ瓢箪に吸い込まれ、ソウブレイズもまた、ハズシのボールに戻っていく。
低温現象を引き起こしていたルカリオが倒れた事で──周囲の気温も一気に元に戻っていく。
「意外と……ダーティーな戦い方が好きなのよ、この子♡」
【ソウブレイズ ひのけんしポケモン タイプ:炎/ゴースト】
【鎧の怨念に引きずられ、勝つためならば手段を選ばない。闇討ち、騙し討ち、何でも行う。】
低温を引き起こしていたルカリオを確実に倒す。
それこそがソウブレイズに与えられた使命だった。
まともに打ち合って勝てないならば、無理やりにでも相討ちに持ち込むしかない、とハズシは踏んだのである。
「まだ続ける? ワタシは先に行きたいんだけど」
「……面白い。エース格でなくとも、某の育てたルカリオを倒すとは。だが……生憎こっちが本命でな」
イヌハギは2つ目の瓢箪を取り出す。
そこから飛び出したのは──またも、白い獣人。
さっきとは違う個体のルカリオだった。
しかし、その立ち振る舞いは静かで、ハズシの知る「原種」と酷似している。
(ッ……さっきの個体とは何かが違う!! この子……何かヤバいわ!!)
「ルカリオは賢い。そして個体毎に長けている技能が違う。先の個体が天気を味方に付けての徒手格闘が得意ならば……こいつの得意分野も異なる。純粋な波動を用いた戦闘だ」
「ふぅん? で、強いのかしら?」
「ああ、強い。この個体にサシで勝てるルカリオは居ない。だが……それにさらにオーラを重ねよう」
「──!?」
イヌハギが懐から取り出したのは──数珠だ。
しかし、その1つは「O」の刻印が刻まれた宝石。
ハズシは身構える。すいしょうのおやしろを襲った天狗達が使っていた宝石──”オージュエル”に違いない、と悟る。
そして、目の前に立つルカリオは、頭に硝子で出来た仮面のようなものを被っている。
その仮面には青い水晶が埋め込まれていた。
「……始めよう。第二ラウンドだ」
言ったイヌハギはルカリオに向けて、数珠を向ける。
「オーライズ……”シャワーズ”」
次の瞬間、ルカリオの身体に泡立つ水のオーラが纏われる。
シャワーズの姿が浮かび上がり、そして消えた。
【ルカリオ(???のすがた)<AR:シャワーズ> タイプ:水/氷】