ポケモン廃人、知らん地方に転移した。【完結】   作:タク@DMP

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第40話:道筋

「リザードンちゃん、素早さ勝負に勝つわよ! ニトロチャージでギア上げ!!」

「無駄だ!! ”こごえるはどう”!!」

 

 炎をその身に纏い、突貫するリザードンを迎え撃つようにしてルカリオが凍てつくオーラを全身から放つ。

 幾ら燃え盛る烈火の竜と言えど、身体を覆う低温には敏感であった。

 動きが明らかに鈍り、ぐらり、と飛行中の身体が揺れる。その隙をルカリオは見逃さない。

 突っ込んできたリザードンの頭を逆に蹴り飛ばし、追撃と言わんばかりに”こごえるはどう”を追加で喰らわせる。

 

「大原則として低温下では物体の速度は低下する──低温そのものを司るルカリオ以外はな!!」

 

(動きが鈍い……!! ”こごえるはどう”、当たったらマズいわね……!!)

 

 ”こごえるかぜ”のように、当たった相手の素早さを下げる効果があるのだろう、とハズシは推測した。

 現にリザードンは”ニトロチャージ”を使ったにもかかわらず、二度の”こごえるはどう”を受けてから動きが鈍っている。

 さっきのように天気を変えられているわけではないにも関わらず、だ。

 

「リザードンちゃん、エアスラッシュ!!」

「──避ける──必要も無かったな?」

 

 翼から放つ空気の刃がルカリオを切り裂く瞬間、べちゃっと音が鳴り響き──ルカリオの身体が溶け、再び元に戻る。

 ハズシは目を見張った。それはまさに、ヌシのシャワーズと全く同じ性質だったからだ。

 

「何故それまで!? シャワーズちゃんじゃあるまいに──!!」

「……オーライズで変化する要素は3つ。オーラの持ち主であるポケモンのタイプ、オオワザ、そして──()()だ」

 

【特性:さんたいへんか(三態変化) 自在に変化する水の身体を持つ。相手から攻撃を受ける時に防御、特防、回避率のどれかが上がる】

 

 特性”さんたいへんか”は、シャワーズのありとあらゆる攻撃を受け流す性質のからくりと言っても良いものであった。

 水は温度によって、液体、固体、気体の三つの状態へと変わる。”さんたいへんか”は水と全く同じ性質の細胞を持つシャワーズが、己の身体の温度や成分をコントロールすることで自在に自分の身体の状態を変えられるのである。

 だが普通の個体は水の身体を自力で組み替えるのが難しい。同じくターン終了時に能力が変わる「ムラっけ」と同様、思ったような効果を得られない時もある。自在に体の状態を変えられるのはヌシの特権だ。

 

(オーライズは……そのポケモンの性質を引き継ぐ……加えて、あのルカリオの技巧が恐ろしく高く、”さんたいへんか”すらもすぐに扱いこなしてしまったとしたら?)

 

 ハズシは、ルカリオをちらりと見やる。先程の個体よりも明らかに動きが洗練されている。物覚えもとてもいいのだろう。

 オーライズで身に着けた特性すらもすぐに自分のものにしてしまった辺り、イヌハギが「最強」とするのも無理はない、と判断する。

 

「リザードンちゃん!! エアスラッシュよ!!」

「くどい!! 捻じ伏せろ、ルカリオ!!」

 

 ルカリオの身体が消える。

 かと思えば、リザードンの背後に回り込んでおりそこに──

 

「──”こごえるはどう”!!」

 

 ──凍える冷気を叩きつける。

 地面に叩きつけるリザードンを更に追撃するべく、ルカリオの身体はドロドロに再び溶け、更にリザードンに組み付いた。

 

「ッ……リザードンちゃん!! しっかりして!!」

 

(幸い、シャワーズちゃんよりも形質変化の時間は短い……! でもまさか、特性まで引き継いでるなんて……!)

 

 戦いに活かすならば十二分すぎる程の時間である。

 加えて、シャワーズには無かった俊敏さ、そして技の火力の高さ。

 そこに”さんたいへんか”による状態変化が加われば、最早手が付けられない。

 

「──自分のポケモンの心配をしている場合か? ……波動弾だ、ルカリオ」

 

 ルカリオの身体が消える。

 そして一瞬の間にハズシとの距離を詰め、掌に青い球体エネルギーが溜められる。

 

「しまッ──」

 

 爆音が鳴り響いた。

 ハズシの身体は吹き飛ばされ、地面に叩きつけられる。

 頭からも、脚からも、そして両腕からも血が流れていた。

 倒れていたリザードンは主人が攻撃を受けたと悟り、再び起き上がろうとしたが──すぐさま戻って来たルカリオに背中を押さえられてしまう。

 そしてハズシも起き上がろうとした矢先に、右腕が動かない事に気付いた。

 

(これ、骨が砕けたわね……!!)

 

 みしみしと軋む体、そして動かない腕。

 全身から血の匂いがしてくる。

 漸く、ルカリオを撥ね飛ばしたリザードンが、心配そうにハズシの下へ戻る。

 

「大丈夫、ワタシは平気よリザードンちゃん」

「ばぎゅ……」

「頼みの綱のヌシポケモンに呼んでみたらどうだ?」

「あの子はワタシを助けになんて来ないわよ……いつだって、困った人たちの味方だもの」

「そうか。この期に及んで姿を見せないのは、某の部下にオーラを抜かれて抜け殻になっているからだろうな」

「……そうじゃないと良いけど」

「その余裕もいつまで持つ?」

 

 イヌハギが数珠を振り上げる。

 それに呼応し、ルカリオに一瞬シャワーズの姿が現れ、そして消えた。

 同時に、周囲に多数の泡が浮かび上がり、リザードンを取り囲む。

 

「……このオオワザは……こう使うんだったかな? 是非、見て貰いたいものだな。キャプテン相手に披露するのは初めてなもので、聊か()()()()()()と思うが」

 

(ッ……オオワザが来る)

 

 もうモンスターボールは握れなかった。

 利き手が潰されている。左手が動くことを察しながら、衝撃の影響で未だに朦朧とする頭でハズシは右腕のブレスレットを握り締めた。

 

「……はぁ、情けないわね。キャプテンであるこのワタシが……此処まで追い詰められるなんて」

 

 無数の泡がリザードンを、そしてハズシを包囲する中、ルカリオが右手に大質量の水を溜めている。

 リザードンが炎を吐き出そうとするのをハズシが制した。

 

「……勝負は一瞬よ、リザードンちゃん。ワタシの合図に合わせて」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

【キノコばくだん 威力70 命中100 炎 効果:爆発する胞子の塊で爆破する。水タイプにも効果バツグンとなる】

 

 

 

 ぽんぽんぽん、と背中のキノコから”キノコばくだん”を放ちながら頂上目指して、パラセクトは山を登り続ける。

 アルカとの通話を切った後、メグルはパラセクトと併走する形で追跡していた。

 幸い、パラセクトは足が非常に遅い。人が走れば追いつける程度の速度しか出ない。巨体も相まって見失うことは無い。

 問題となっているのは、素早さ以外の要素全部である。

 先ず胞子を撒き散らす巨大な傘。触れれば腫れる猛毒のキノコが、直接攻撃を難しくしている。

 そして、パラセクトの特性上()()()()()()()下の虫。痛みも恐れも感じないゾンビ虫は、ただただキノコの命令のまま行動する。そのため、小手先の小細工が通用しない。

 何より周囲に放出されるキノコばくだん。これが非常に厄介で、爆炎と共に胞子も撒き散らし、また猛毒のキノコがそこから生えて来る恐ろしい生物兵器である。

 これらの性質を兼ね備えている上に、時限爆弾ということもあって無視することも出来ない。まともに戦うことすら憚られる代物となっているのである。

 

(アレ? コイツ一体どうやって倒すん?)

 

 加えて、炎・草というタイプが地味に面倒であった。

 弱点は岩・毒・飛行という何とも言い難いタイプなのである。

 更に直接攻撃が憚られるというのがまた、余計な縛りであった。

 

(粉系の技は”ぼうじんゴーグル”で防いでくれるだろうけど、技ですらないサブギミックは防げないってアニメでやってたもんな……ケロマツのケロムースだったか?)

 

 そもそも粉を肺へ吸い込むことは防げても、身体に付着して寄生した胞子の発芽は防げない。

 メグルは思案を巡らせる。この際、大爆発さえ防げればいいのだが、大対策で真っ先に思いつくのは特性:しめりけ(自爆系の技を封じる)のポケモンだが、メグルはそんなもの持っていない。

 今から山を降りてからそこらへんで特性:しめりけのコダックを捕まえて来たいところだったが、ひのたまじま周辺には生息していないようであった。無念。

 

(くっそーっ、何でこんな事に!? 俺だって泳いでこの島から逃げてえよ!! だけど──)

 

 ハズシの姿を思い出し、メグルは歯を食いしばる。

 

(あんな風に命を張って貰って逃げ出すなんてダサいところ、こいつらに見せたくねえからな!!)

 

「直接攻撃は危険……イーブイ、スピードスター!! オドシシ、あやしいひかりだ!!」

 

 星型弾がパラセクトのキノコにぶつかり、そしてオドシシの放った奇妙な光が、パラセクトの動きを狂わせる。

 幾ら下の虫が死んでいようとも、中枢を司るキノコの方がイカれてしまえば関係ない。

 パラセクトの動きは途端に止まり、ぐらりぐらり、と揺れ始める。

 

「うっし!! 混乱した!!」

 

 とにもかくにも、メグル一人では手に余る存在には違いない。

 この巨体を、少しの間だけでも良いので足止め出来ればそれで良い。

 メグルは辺りを見回した。利用できそうな地形は存在しない。だが、存在しないなら作れば良い。

 

「足がすっとろいのが助かった! イーブイ、イシツブテ、出番だ! ぶっちゃけ使う事が無いって思ってたけど──パラセクトの周りで”あなをほる”!!」

 

 ベニシティのディスクショップで買った技マシンで覚えさせた技である。

 すぐさまイーブイとイシツブテは、パラセクトを取り囲むようにして穴を掘り出す。

 高速で地面を潜る2匹。土壌はすぐさま崩れていき──パラセクトの足元が崩れ落ちた。

 

「ノットリィィィーッ!?」

「こうして、落とし穴完成、って訳だ!!」

 

 虫側が埋もれる程度の深さで、相変わらずあのキノコは出張ったままだ。

 だが、足止めをすることは出来た。

 重いキノコの所為で、パラセクトは落とし穴から抜け出すことが出来ないのである。

 

「んで。こっからどうするか、だよな……」

 

 もぞもぞ、と揺れるパラセクトのキノコ。

 足を止めたところで、結局コレが爆発するので意味が無いのである。

 

(マジでどうしようこいつ……大人しく捕まってくれるのか? 正直捕獲出来ねーなら、海洋投棄が一番手っ取り早い気がするんだけど、此処から海も遠いしどうやって運ぶんだ、この巨体) 

 

 モンスターボールを握り締めながら、メグルは溜息を吐く。

 もし捕獲に失敗した場合、またこれが穴から出て来る可能性は高い。

 

「ええいままよ!!」

 

 ボールを投げる。

 流石にこの距離で、あの巨大なキノコには外さない。

 巨体はボールに収まり、地面に落ちた。

 かくん、かくん、と二度揺れたボールだったが──ピシッ、とボールに罅が入る。

 

「──ノットリィィィーッ!!」

 

 それまでの鬱憤を晴らすかのように、キノコばくだんを放ちながらパラセクトが飛び出す。

 すぐさまメグルはその場から離れた。

 やはり早々簡単に捕まってくれるようなポケモンではないようである。

 パラセクトは再び進軍を始めた。それをメグルは追いかける。

 

「プッキュルルルル!!」

「わりー、悪かったって!! でも捕まったら全部終わりなんだから仕方ねーだろ!!」

 

 折角穴を掘ったのに! と言わんばかりにイーブイがメグルの頭に乗っかる。

 とはいえ、落とし穴自体は有効策である。

 幾ら元が地面の中にいるセミの幼虫のようなポケモンと言えど、あのパラセクトは聊か肥大化し過ぎた。地上、火山の世界に適応し過ぎた。そもそもアルカは下の虫を”火山虫”と呼んでいたので、セミの幼虫ですらないのかもしれない、とメグルは考察する。

 結局のところ、虫部分の全身が地面に埋まってしまえば、自重の所為もあって自力で這いあがることが出来ないのである。

 

「イーブイ、イシツブテ、もう一度穴を──」

 

 そうメグルが言いかけた時だった。

 

 

 

「──ノットリガァァァァーッッッ!!」

 

【パラセクトは仲間を呼んだ!】

 

 

 

 パラセクトの野太い咆哮が木々を揺らす。

 そのあまりにも悍ましい響きに、メグルは尻餅をついてしまった。

 そして遅れて茂みがガサゴソと音を立てて、ドンメルやポニータといった野生ポケモンが姿を現す。

 

「お、おいおいおい……マジかよ……!!」

 

 それらの頭には既に例のキノコが生えてしまっている。

 キノコに寄生されたポケモンは、本体であるパラセクトの命令一つで本体の危機に駆け付けるのである。

 そして呼び出した当の本体はと言えば、メグルを野生ポケモンに任せ、ずんずんと先へと進んでいく。

 既に無視できる数ではない。6匹程の群れとなって、野生ポケモン達はメグルを取り囲んでいるのである。

 

「こ、こいつ──!! どうすれば──!?」

 

 イーブイやイシツブテ、オドシシが必死に野生ポケモン相手に戦う。

 とはいえ、キノコに精神を乗っ取られてゾンビ状態となっている相手は、ダメージを与えても与えても手ごたえすら感じられない。

 向こうは疲れ・痛み知らずでトレーナーにも突っ込んで来るので、メグルがボールを投げる隙も与えてくれない。

 その間にも本体であるパラセクトは、自らの胞子を最も広く拡散出来る頂上を目指して進み続けている。

 

 

 

(くっそォ……! 折角対処法がおぼろげに浮かんできたのに……せめて決定打があれば……!!)

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 悪いことは続くものである、とこの日アルカは痛感した。

 ポケモンセンターのシャッターがどろどろに溶解したのである。

 下手人は無論、野生のマグマッグ、そしてそれを引き連れる進化形のマグカルゴであった。

 いずれも頭から()()()の代わりにキノコが生えており、目は焦点が合っていない。

 当然、センター内は大パニック。トレーナーたちが、これ以上キノコの寄生した野生ポケモンが入らないように抑え込んでいるのが現状である。

 

(あっ、あばばばば、食い止めるどころの話じゃないじゃん!!)

 

 ロビーで座りっぱなしだったアルカも、最早応戦せざるを得ない状況となった。

 ヘラクロスを繰り出し、襲ってきたポケモンを倒そうとしたその時。

 

 

 

 

「──!!」

 

 

 

 

 疾風が、頬を横切った。

 野生ポケモン達のキノコが──次々に切り落とされていくのが見えた。

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