ポケモン廃人、知らん地方に転移した。【完結】   作:タク@DMP

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第41話:かがくのちからってすげー!

 野生ポケモン達は崩れ落ちていく。

 アルカは息を呑んだ。右翅は失った。動きのキレも確かに鈍くなっている。

 だがしかし、それでも尚。獰猛さは健在であった。

 

 

 

「ストライク──!!」

 

 

 

 アルカは思わず駆け寄った。

 右翅を失ったにも関わらず、恐ろしい刃捌きであった。

 

「な、なんてポケモンだ……! リハビリも無しに、翅無しであんな動きを──」

 

 後から追いかけるようにして出てきた医師が驚愕を表情を浮かべている。

 

(あっ、やっぱ抜け出して来たんだなコイツ……)

 

「君! 確かこの子のトレーナーだっけ!? 急にボールから飛び出して……」

「ああいや、ボクは違うんですけど……この子のトレーナーと知り合いなもので」

 

 この凶暴さだ。治療中も医師たちの手を焼かせたであろうことは容易に想像がついた。

 だが、ストライクにとっても今の戦闘は決して楽ではないことをアルカは見抜いていた。

 確かにすさまじい速度だったとはいえ、ずっとストライクは失った翅を庇うように戦っていたし、苦悶の表情をところどころ浮かべていたからである。

 

「そこまでして、君は戦いたいの? 何で──」

 

 アルカの問いかけにストライクは答えない。

 だが、ただ何かを探すように辺りを見回している。

 そして、ぎろり、とアルカの方を向くと──鎌を少しもたげて鳴くのだった。

 その仕草で彼女は何となくであるが、彼の探しているものを感じ取る。

 

「ねえ。もしかして……おにーさんを探してるの?」

「ギッシャラララ……」

「おにーさんはこっちには居ない。今、遠くの方で戦ってる」

「……」

「君はとんでもない暴れん坊だけどね。おにーさんは、すっごく心配してた」

「……ギッシャラララ」

「君は戦うのがとても好きだから、止めても行きたがるんだろうけど……ボクから一つだけ頼みがあるんだ」

 

 すっ、とアルカはストライクに歩み寄る。

 自分は彼の下には行けない。だが、彼の手持ちであるストライクは──そうではない。

 

「君は一人じゃ戦えない。今回の事で、それが分かったでしょ?」

 

 失った翅は、傲慢さと未熟さの代償だった。

 

 

 

「だから……戦うなら、おにーさんと一緒に戦ってあげて」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「ッ……やっとこさ片した……」

 

 

 

 ──幾らキノコで半ばゾンビになると言っても、捕獲してしまえば起き上がることもない。

 とはいえ、連戦に次ぐ連戦で手持ちは無論だがメグルの方の体力も消耗しきっていた。

 疲れ知らずなのは、凶暴毛玉だけである。

 

「ぷっきゅるるるる」

「わぁーってる。先に進めってんだろ? お前は怖いとかねーのな」

「ぷーい」

 

 にしし、と意地悪そうな笑みを浮かべたイーブイはメグルの頭に乗っかる。

 「疲れたから乗せろ」と言わんばかりの横暴っぷりだった。

 

「……はいはい分かってますよ、お姫様」

 

(それにしても、さっきから出て来る野生ポケモンの数が少なくなってきてる気がする……山から下りていってるのか?)

 

 イシツブテ、オドシシ、ヘイガニ、イーブイ。

 現在、この4匹で包囲網を潜り抜けているが、敵の数はだんだん少なくなっているように感じる。

 パラセクトが仲間を呼ぶのをやめて、再び進撃に注力し始めたであろうことは容易に考えられるが、何より心配なのは山の下であった。

 恐らく救援もままならない程の数の野生ポケモンが集落に大挙しており、おやしろ側はそれを抑え込むので精一杯。

 従って、今パラセクトを止められるのはやはりメグルしか居ないのである。

 ポケモン達に傷薬を使っている最中、彼は腰を地面に下ろした。

 

(疲れた……)

 

 心は今にも重圧に押し潰されそうであった。

 疲労と焦燥が同時に襲い掛かってくる。

 

「ぷっきゅるるる」

「……ンだよ。分かってるよ、休んでる場合じゃねえって」

「ぷいっ!!」

 

 ぐいっ、とイーブイが両前脚でメグルの頭を無理矢理向きを変える。

 その視線の先には──イシツブテの姿。

 

【おや? イシツブテの様子が──】

 

 光がイシツブテに集まり、思わずメグルは目を覆う。

 思わず尻餅をついてしまい「何だ!? 爆発でもするのか!?」と叫んでしまう。

 ついこの間、”じばく”を覚えたばっかりだったので猶更であった。

 しかし──

 

 

 

【おめでとう! イシツブテはゴローンに進化した!】

 

 

 

 ──光りが消えると、目の前には4本の屈強な腕を持つ岩のモンスターが立っていた。

 

「す、すげぇ! 進化した……!」

 

 進化。

 それは、一定の条件を満たしたポケモンが辿り着く境地。

 肉体の仕組みが作り変えられ、それまでとは異なり、そして更に強くなった種族のポケモンへと変化すること。

 ゴローンは戦闘経験を積んだことで、イシツブテが進化した姿である。

 

【ゴローン がんせきポケモン タイプ:岩/地面】

 

「初めて見たぜ! ポケモンが進化するの──こんな時じゃなけりゃ、もっと思いっきり喜びたかったんだけど……」

 

 はしゃごうにも事態が事態。

 浮かれている場合ではない、とメグルは思い直す。

 

(でも、事実ゴローンは炎タイプに有利な岩・地面タイプの複合。それが強化されたのはデカい!)

 

「よし、ヘイガニ、オドシシ! 戻っててくれ! 道中はこいつが蹴散らす!!」

「ゴロロローン!!」

 

 ごろごろ、と転がりながら山道を登っていくゴローン。

 それについていきながら、メグルは走っていくのだった。

 事実、そこから先の道中は楽であった。

 火力が強化された、タイプ一致の”ころがる”と”じならし”でキノコの生えた野生ポケモンは次々に倒れていく。

 特に”じならし”は敵全体に振動でダメージを与える技というのが大きかった。

 複数体で襲い掛かってくる野生ポケモン相手に、これが有効に作用したのである。

 能力が強化されたことで、イシツブテの時は一撃では倒せなかった相手を一撃で倒せるようになっているのが大きい。

 

(本当に、露払いにはこれ以上ない性能だ! 肝心のパラセクト相手は草タイプ持ってるから、ゴローンは出せねえけど……)

 

 こうして山道の道中は、無事に切り抜ける事が出来た。

 ……問題は、頂上付近に辿り着くまで、結局パラセクトに追いつくことが出来なかったことであるが。 

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「……さて参ったな」

 

 

 

 火口付近は窪地になっており、パラセクトはそこに陣取ってじっとしている。

 漸くターゲットは見つけたが、イマイチ決定打が見込めない、とメグルは歯噛みしていた。

 まとめると、背中の巨大なキノコから”キノコばくだん”を吐き出し、攻撃してくること。

 そして、背中のキノコの胞子に寄生されると、キノコが生えて精神を乗っ取られる恐れがあること。

 そもそも背中のキノコ自体も猛毒であること。

 何よりキノコが爆発する恐れがあること。これが最大の問題であった。

 

(……やっぱ無理では?)

 

 一人では手に余る。 

 そう考えていた時だった。

 

「おにーさん、聞こえますか!?」

 

 アルカからの通知だった。

 メグルはスマホロトムを手に取ると、彼女の慌てたような声が飛んでくる。

 

「どうしたんだ!?」

「実はさっき、ポケモンセンターに野生ポケモンが押しかけてきて……」

「はぁ!? 大丈夫なのか!?」

「正直結構ヤバかったんですけど……おにーさんのストライクが、助けてくれたんです!」

「! あいつ、動けるのか!?」

「はい! バリバリに戦ってます! 羽根が無くなってるのに……すごい勢いです! ただ、流石に羽根が無いからか、バランスを取りづらいみたいですけど……」

「ッ……すっげーな。呆れる程だぜ」

 

(……ストライクのヤツ。あんな目に遭ったのに……まだ戦う事を諦めてないのか)

 

 とんでもないガッツだ、とメグルは感心する。

 人間なら、腕が一本もげた後に戦っているようなものなのだから、ポケモンの生命力と言うものの凄まじさを思い知らされる。

 

「そっちは今、パラセクトを追ってるんですよね?」

「頂上付近だ。だけど正直決定打がねーんだよ……あいつ炎・草タイプだろ? だから、弱点が突けるゴローンでも多分勝ち目がない。そもそもいつ爆発するか分からねーヤツ相手にまともに戦うなんてムリだぜ」

「そうですか……おにーさん、特性が”しめりけ”のポケモンとか持ってないんですか?」

「持ってねーよ、そんな都合よく。そういうお前は持ってんのかよ」

「持ってないですね……」

 

 やはりそう都合よくはいかないか、とメグルは腕を組んだ。

 

「ま、そもそもお前が持っていたところで、お前脚を怪我してるしな」

「ポケモンを送る事なら出来るんですけどね」

「そりゃあ、ボックスからポケモンを引き出す場合だろ──離れてるトレーナー同士が、ポケモンをやり取りするなんて──」

 

 そこまで言いかけて──メグルは口を噤む。

 ある。ポケットモンスターというゲームの醍醐味とも言える要素であり、この世界にも浸透している方法が。

 

「何言ってるんですか、おにーさん。出来るじゃないですか、()()()()なら」

 

 

 

(そうか! その手があったか! そんなもんもあったな!)

 

 

 

 ──ぼっちプレイヤーにはそもそも”通信交換”という発想が無かった。

 頭の片隅にはあったが、此処に来るに至るまで思いつかなかったのである。

 ポケモンはボールに入っている時に、電子化してパソコンに預ける事が出来るのは初代から同じ。

 しかし、最新鋭のスマホロトムともなればスマホを使ってポケモンを別のスマホやパソコンに転送することが出来るようになるのだという。

 ポケモンを捕まえた際、ボールをボックスに転送するのも同じ理屈だ。何気無く使っていたが、超技術である。

 そして、その技術を利用すれば離れた場所同士でポケモンの”交換”が出来る事も知識として知ってはいたが──この世界に来て半月、切羽詰まった状況が続いていたこと、ポケモンを交換するような相手が元の世界でもこの世界でも居なかったこと、その機会も無かったこともあって、頭からすっぽ抜けていたのである。

 

(この世界でも、ポケモンの”交換”って手渡しじゃなくってスマホの通信が主流になってんだよな……かがくのちからってすげー!)

 

「それでおにーさん。どうしますか? ストライク」

「え?」

 

 その問に、すぐにメグルは答えられなかった。

 今、パラセクトに有効打を与えられるのは飛行タイプを持つストライクだ。

 しかも、ストライクの速度ならば、鈍重なパラセクトの攻撃を容易く躱すことが出来る。

 ”キノコばくだん”など当たりはしないだろう。

 だが──同時にストライクは、問題児だ。手に余る存在だ。そして、今は翅を失ったばかりでもある。

 

「正直……不安だ。あいつがもしもまた言う事を聞かなかったらって思うと。それに、病み上がりも良いところだ。こんな危険な場所で戦わせて良いのか?」

「おにーさん」

「?」

 

 アルカは何時になく真剣な眼差しで言った。

 

「確かにおにーさんは未熟なトレーナーで、あのストライクは手の付けられない乱暴者です。言う事は聞かないし、増長するし、その所為で羽根まで失いました」

「……俺が未熟だったからだ」

「ストライクも間違いなく未熟ですよ」

「……!」

「でも、それでも戦おうとしてる。戦ってたんです。ポケモンセンターに迫る野生ポケモンと戦ってたんです」

 

 ストライクを抑えることが出来なかった、より増長させてしまった、とメグルは今でも後悔している。

 今この瞬間でも、ストライクを扱いこなせるか、彼には自信が無い。

 その修行をするために、このひのたまじまにやってきたのだから猶更である。

 だが、今の戦力ではパラセクトを倒すことは出来ない。ストライクの力が必要だ。

 

「──翅を失った後、ポケモンセンターで戦っている彼の姿は、今までと何処か違って見えました。お願いです! もう一回……ストライクを信じてあげてください!」

 

 電話の向こうのアルカが──頭を下げているように思えた。

 メグルの返答は決まっていた。

 

「……分かってるよ。どの道今は、あいつの速さ、そして馬力が必要だ。それに、ちょっと嬉しいんだ」

「え?」

「……あいつは戦うのを諦めなかった。それなのに、俺が……諦めちゃいけなかったんだ。それだけで十分だ!」 

 

 メグルはちらり、とパラセクトの方を見やる。

 今は、とにかく戦力が欲しい。

 言う事を聞いてくれなかったとしても、ストライクならばパラセクトと互角に戦えるのでは──と考える。

 そして何より、ストライクに変化があったのならば、それに賭けてみたいと思えた。

 

「だけど、お前は止めると思ってたよ。ストライク、一応翅無くなってるんだぜ?」

「ボクも勝機の無い戦いにベットしませんよ。ストライクには、喪った翅を補うアイテムを持たせてますから」

「はぁ!? そんなもんいつの間に!? 早く言えよ!」

「おにーさんがライドギアの訓練を受けている時ですよ。ハズシさんがボクの所にやってきて」

 

 

 ──貴女、石商人なんですって? ひとつ、買いたいものがあるんだけど。()()ってあるかしら?

 

 

 ──え? 確かに珍しい品ですけど……オネエさんが欲しがるものには見えませんが。

 

 

 ──うふっ、サプライズよ。後で教えてあげてね。

 

 

 

「ってやり取りで取り置きしてもらったんです」

「サプライズって……何なんだそのアイテムとやらは」

「とにかくストライクに持たせておけば良いって言われてるんですけど──」

 

 アルカが言いかけた瞬間だった。

 ブツッ、ブツッと音声が途切れる。

 そして遅れて、悲鳴が遠く入ってくる。

 

「や、ヤバい! またポケモンセンターの方に野生ポケモンが来てるみたいです!」

「嘘だろ!?」

「とにかく、そっちにストライクを送ります! 交換だから……そっちからも誰かを送ってください!」

「ええい、適当なので良いか! ……待てよ」

 

 メグルはゴローンの入ったボールに目を向ける。

 丁度、対多数の戦闘に於いて役に立ちそうなポケモンが今此処にいる。

 パラセクト相手は相性の関係で厳しいが、炎タイプ中心の野生ポケモン相手なら役に立つだろう、とメグルは考えた。

 

「ッ……丁度こっちからも役に立ちそうなの送っとくわ!」

「ありがとうございます!」

 

 スマホロトムの画面にボールを翳すと、電子の塵となって消える。

 そして遅れて、彼の手元にボールが戻って来た。

 半透明のカプセルからは、右翅を失ったストライクがこちらを見ている。

 

「ストライク……やれるんだな?」

 

 かくかく、とボールが揺れた。闘志は十分だ。

 窪地に佇む巨大なキノコの塊をメグルは見下ろす。このままでは勝ち目は無論、無い。

 戦力は圧倒的に不足しており、必要なものが足りない。

 メグル一人で勝てる相手ではないだろう。

 

(でも、とても簡単な話だった。手の届く範囲に助けを求めれば、もっと早く解決することだってあるんだ)

 

 だが、かつて部屋でぼっちでゲームをしていた少年は、もう一人ではなかった。

 

 

 

 

(ストライク……お前も、そして俺も、互いにたっぷり痛い目見たからな……だから、こっから反撃してやろうぜ!)

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