ポケモン廃人、知らん地方に転移した。【完結】   作:タク@DMP

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第43話:蟷螂の斧

 ※※※

 

 

 

(でも罠ハメってポケモン廃人じゃなくてモ〇ハン廃人の領分な気がするんだけど……気の所為か!!)

 

 気の所為である。

 ともあれ、こうしてパラセクトの動きは完全に封じられた。

 最大のネックであったキノコばくだんも不発に終わる。

 ぽんっ、ぽんっ、と胞子を背中のキノコから打ち出すも、それはこれまでのように爆ぜなかった。

 べちゃり、と泥のように地面に広がり、そこからキノコも生えてこない。

 ”しめりけ”下では胞子が死活するという博士の推測は当たっていたのである。

 

(お前が爆発しないように気を付けながら戦うよりも、”しめりけ”持ちを守りながら戦う方が100倍楽だからな!!)

 

 ストライクの一方的な攻撃が続く。

 回転斬がパラセクトの頭部を叩き割る勢いで放たれる。

 バキッ、と音が鳴り響き、硬い甲殻に罅が入った。

 思わずメグルもガッツポーズ。

 

「ッ……押してる!! このままなら──」

 

 ──さて、此処まででメグルは完全に油断しきっていた。

 繁殖は生物にとって、種の存続が掛かった一大イベントである。

 このままでは繁殖出来ないと悟れば、何が何でも外敵を排除しに動き出すのが当然の帰結である。

 

「ノット、リリリリリリ……!!」

 

 パラセクトの鳴き声が凄みを増す。

 ストライクが何かを察したように引き下がった。

 

「どうした!?」

「ギッシャラララ……!!」

 

 その顔には怯えさえ浮かんでいた。

 これまで押していたのにどうして、とメグルはパラセクトの動きに注視する。

 キノコが──赤く光っている。そして、その光がパラセクトの虫部分に移動しているのが見えた。

 それを見てメグルは何が起こっているか分からなかった。

 だが、無理もない。パラセクトの体内では今、本来なら大爆発に使うはずだったエネルギーが寄生した虫部分に回されていたのである。

 

(何だ……何をしようとしてんだ……爆発はもう出来ないはずだし──)

 

「ノットリリリリリリリリ──」

 

 1つ。2つ。3つ。

 続いて、10個。20個。

 無数のエネルギー弾がパラセクトの周囲に浮かび上がる。

 

「は? ちょっと待て──」

 

 エナジーボール。威力80の草タイプの特殊技だ。

 それが大量に巨大なキノコの周りに浮かび上がったのである。

 

「離れろ皆!! それはヤバい!!」

 

 間もなく、オドシシとイーブイにそれが絨毯爆撃されていった。

 威力80のそれが何十個も飛び出してきたのである。

 イーブイも、そしてオドシシも、それを避け続ける力は無い。

 

 

 

【パラセクトの エナジーボール!!】

 

 

 

「ぷっきゅるるる!?」

「ブルルル!?」

 

 一発目を喰らってしまえば、多段的に二発目、三発目が襲い掛かる。

 一発一発の威力はパラセクトの特殊攻撃力がそこまで高くないからか大きくない。

 しかし、全て喰らってしまえば話は別だ。

 連鎖的にそれを受けた事で一気に2匹の体力は削られてしまう。

 

(は、話が違うじゃねーか!! 第二形態って奴かよ!?)

 

 避けられたのはストライクだけだ。被弾しても効果がいまひとつのおかげで受け切れたのである。

 すぐさまメグルは倒れた2匹をボールに戻した。

 これまでとは挙動が変わったパラセクトを前に困惑を隠せない。

 その虚ろな白い目玉に更に大きな炎が灯り、今までハマって動けなかった身体を無理矢理起こし、穴から脱したのである。

 

「ノットリィィィーッ!!」

 

 すぐさま飛び上がり、ストライクに間合いを詰めるパラセクト。

 その巨大な鎌のような前脚を振り下ろすと、地面にめり込み、突き刺さる。

 それを紙一重でいなすストライクだが、此処に来て遂に失われた分の翅が響いてくる。

 自分より遥かに鈍い相手と戦うなら気にならなかったが、空へ逃げられないのが致命的なのだ。

 高速で弾幕のように放たれるエナジーボールに加え、全長3メートルのキノコを背負いながら機敏に動き回る敵が巨体全部で押し潰そうとしてくる。

 右翅が無いことで動いている途中でバランスを失い、巨体に突き飛ばされ、地面に転げてしまう。

 

「ストライク!! 反撃だ、つばめ返し!!」

「ギッシャ!!」

 

(俺の言う事は聞いてくれる──! でも、このままじゃ、いつか捉えられる……!!)

 

 再び頭部に斬撃を見舞うストライク。

 だが巨体は割れた頭から体液を撒き散らしながら、怯む様子を見せず突貫する。

 その先には──指示を出すメグルが居た。

 

(しまっ──)

 

 司令塔を潰してしまえば全てが止まる、とパラセクトは本能で理解していた。

 飛び上がった巨体が、メグルの眼前に音を立てて着地する。

 彼は思わず立ち尽くしてしまっていた。あまりにも巨大なキノコの怪物。

 それが殺意を剝き出しにして口を開けているのである。

 

(モンスターボール──ダメだ、間に合わない!!)

 

 構えて、投げる。

 その二つの動作の間に、パラセクトはぱっくりと開けた口から炎を吐き出すことが出来る。

 

 

 

【パラセクトの──】

 

 

 

 高熱を肌で感じ取る。

 人の身体で受ければただでは済まない。

 

(死──)

 

 腕で自分の身体を庇おうとする。

 だが、不可能だ。避けることも、受け止めることも。

 炎がメグルを焼き尽くそうとしたその時だった。

 

 

 

 

「ギッシャララララ──ッ!!」

 

 

 

 

 最後に見えたのは、右翅を失ったストライクの背中だった。

 

「ストライク、お前──!!」

 

【──かえんほうしゃ!!】

 

 炎がストライクを包み込み、メグルは爆風で吹き飛ばされる。

 しばらく熱風が襲い掛かってまともに目を開けることも出来なかった。

 

 

 

「ス、ストライク……!?」

 

 

 

 ──しばらくして目を向けると──真っ黒に炭化したストライクが視界に入ったのだった。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 未熟で、自分よりも遥かに弱く、力が劣る生き物。

 そのくせ命令してくるので気に食わなかった。

 俺は強い。

 俺は速い。

 俺は戦えればそれで良い。

 気に食わないヤツは力で捻じ伏せれば良い。そう思っていた。

 負けるのは気に食わないが、その度にもっと強くなればいいと思っていた。

 新しく出来た連れは、先輩面してくる毛玉に、いつもスカした顔をしている間抜けな鹿だ。

 飯は与えられるので辛うじて殺さないで済んでいるが、本当に気に食わないヤツらである。

 鹿は特に、あのよく分からない技で俺に勝ったつもりになっているので、分からせてやった。

 なのに、俺に因縁をつけてくる様子も無い。とことんまで何を考えているか分からない鹿である。

 あの毛玉は多分俺と同類だ。だが、きっとあの毛玉は自分の方が強いと思っているだろう。多分アホだ。

 そしてあの人間だ。

 あの人間は全くと言って良い程頼りにならない。

 俺一人でも俺は強くなれる。

 いや、もっと言えば──俺は死のうが何だろうが戦えればそれで良い。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 ある日、気が付けば見知らぬ猿共の縄張りの中だった。

 気に食わなかったので、全員叩きのめしてやったら親玉が出てきた。

 

 ──最後に右の翅を捥ぎ取られたのだけは分かった。

 

 俺は今度こそ完膚なきまでに敗けたのだ。

 勝てると思った。だが──歯が立たなかった。

 屈辱だ。何と無様だろうか。

 これだけ叩きのめされても、俺はまだ生きている。

 こんな有様、あの人間に見せるくらいなら死んだ方がマシだ。

 あいつは何故か近くに居ない。

 これで、良かったのかもしれない。

 

 

 

「ストライク!! ストライク!! 何で──ッ」

 

 

 

 あの人間の声が何故か聞こえた。

 あいつは──泣いていた。

 

「俺が……居たら……こんなに、させなかったのに……俺は……!!」

 

 何故泣くのか分からなかった。

 自分が弱くて、敗けた。それだけの事だったのに、この人間はどうして自分の事のように泣いているのか──分からなかった。

 泣かれた時──俺は言い知れない感情に襲われた。

 もう、この人間を泣かせるのはやめよう、と思ってしまった。

 

「ストライク。お前は多分思いっきり暴れた方が強いからな……俺から言えるのはこれだけだ」

 

 肝心な所で頼りない人間だが。

 

 

 

 

「──絶対に、無事で帰って来い!!」

 

 

 

 とても余計なお世話ではあったが。

 少しだけ、この人間の下で戦うのも面白そうだと思えたのだ。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

【おや? ストライクの様子が──】

 

 

 

 焼き尽くされ、黒い炭のようになったストライク。

 炭化した表皮が音を立てて崩れていく。

 その下から──光が溢れていた。

 

「スト、ライク──!?」

 

 メグルは目を見張っていた。

 ボロボロ、と残っていた左翅も崩れ落ちる。

 まるで脱皮するかのように、焼け落ちた体の下から──光り輝く何かが姿を現した。

 パラセクトは思わず仰け反る。

 焼き払ったはずの敵が、生きているどころか別の何かへと生まれ変わろうとしているだから。

 思わず再び炎を吐き出し、吹きかける。しかし次の瞬間、パラセクトの頭蓋に再び刃による一撃が叩き込まれる。

 虫が苦手なはずの炎に怯むことなく攻撃を叩きこむ姿。

 そして、ごつごつとした岩で出来た身体。

 切り裂く鎌ではなく、相手を叩き割る斧となった両腕。

 最早それはストライクではない。

 メグルは歓喜の声を上げる。

 

「……進化、した──ッ!!」

 

 

 

【おめでとう! ストライクは バサギリに進化した!】

 

 

 

「グラッシャーッッッ!!」

 

 咆哮を上げるストライク改めバサギリ。

 翅は完全に退化したが、その代わりより屈強になった両脚、そして重く鋭い岩の斧が目を引く。

 再び動き出し、押し潰そうとするパラセクトだったが、バサギリが斧で薙ぎ払うと巨体は地面に叩きつけられてしまうのだった。

 

【バサギリ まさかりポケモン タイプ:虫/岩(ストライクの進化系)】

 

【絶滅したと思われていたが、とある鉱石でストライクが進化することが最近分かった。斧は欠ける程に鋭さを増す。】

 

(って事は、あの()()は”くろのきせき”……ストライクの進化に必要なアイテムだったんだ!)

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 ──このバサギリというポケモンは、過去のシンオウ地方に生息していたポケモンである。

 最近まで化石のみが発掘され、絶滅したと思われていたポケモンだ。

 ところが最近、ストライクがバサギリに進化する事例が発生。発掘現場に落ちていた石器に触れたのだという。

 この石器の正体こそが”くろのきせき”。古くから人間が刃物などに用いていたものであり、バサギリへの進化に必要なアイテムでもあった。

 だが、人間の経済活動が活発化して”くろのきせき”を大量に採掘したことで”くろのきせき”は産業品の原材料とみなされるようになる。文明が進むに連れてバサギリへの進化法は失伝して、”くろのきせき”という名前も消え去った。

 さて。バサギリに強く興味を示したのが、岩タイプの使い手であるキャプテン・キリだった。

 その筋から情報を集めたキリは、先の大合議の時、ハズシに会うなり珍しく興奮した様子でこの話題を持ち出したのだった。

 

「呼びつけて済まない。折り入って頼みたい事があってだな。他のキャプテンの前だと話しづらく……」

「良いのよぉ。こうして二人の時くらい互いの立場の事なんて忘れましょう?」

「うむ──ではいち友人として頼みたい。これは()()()()()から独自に仕入れた極秘情報だが……」

つまり、スジモンってことね

「ポケモンみたいに言うのをやめるでござる。先ずこの写真を見て欲しい」

「──ってこれ、バサギリじゃない。最近進化が確認されたっていう」

「左様。そしてこのポケモンは、この黒く輝く特別な石器で進化すると言われているらしいでござる」

「そう言えば進化法はまだ発表されてなかったわね。黒く輝く特別な石器……あら、バサギリの斧と色合いが似てるのね」

「稀少故、もしもハズシ殿が似たような石器を見つけたら教えてほしいでござる。拙者も、すながくれの頭領として、バサギリは是非とも確保したい所存」

「あらあら、ワタシ石の事は分からないわよ」

「謙遜を。ハズシ殿の()はトクベツ。一度見た宝石は、似た宝石や偽者の山の中でも見分けられる程でござろう」

「石そのものに詳しいってわけじゃないんだけど……そこまで買われたら仕方ないわね。良いわ。探しておいてあげる」

「かたじけない。その時は言い値で買うでござるよ」

 

 誰にでも分け隔てなく接するハズシは、アクが強いキャプテン達の緩衝材。

 キリは信頼のおける大人としてハズシを慕っており、ハズシも()()()()()()()()()()を警戒こそしているもののキリ個人の事は可愛い後輩として接している。

 とはいえハズシは石に詳しいわけではない。そうそう出くわす事など無いだろう──と考えていた矢先に、メグルのストライクの事件に会ったのである。

 

(片翅が無い程の欠損となると、ハッサムに進化しても苦労するわね……そう言えば、あのバサギリってポケモン、ストライクの進化系で翅が退化するんだったかしら?)

 

(……此処は一つ、賭けてみてもいいかもしれないわね。丁度石商人も居る事だし)

 

 ハズシは翅を失ったストライクが完全にバトルに復帰する道は、翅が退化したバサギリへ進化するしかないと考えた。

 そして、石商人のアルカならば、進化に必要な石器を持っているかもしれない、と考えたのである。

 正直ダメ元であったが、広げられた商品を目にした時──ハズシの目は、写真の石器と同じ輝きを放つ石器を見逃さなかった。

 

「これよ! この輝き! 間違いないわね!」

「あー、打製石器ですね。シンオウ地方で産出されたものらしいですよ?」

「これがストライクの失われた翅を補うかもしれないのよ! 言い値で買うわ!」

「え?」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 ──尤も、ゲームで”くろのきせき”の事を知っていたメグルは、ストライクに持たせられていたアイテムを見た時に「もしかして」と考えていたし、現にストライクは進化した。

 

(もしかして加工されてたから、効果が出るまで時間が掛かったのか? いや、虫だから”羽化”してたってことか? 分からん!! でも今は──進化したコイツでパラセクトを倒すのが先だ!!)

 

 想定外の一撃を喰らったことで、怒りに震えるパラセクト。

 そのまま火を噴きながらバサギリを押し潰さんとばかりに迫る。

 しかし、両翅が無くなったことで完全にバランス感覚を取り戻したバサギリには通用しなかった。

 岩の身体とは思えないほど軽い身のこなしで軽々と戦場を駆け抜けていく。

 地面を蹴り、勢いよく跳躍すると身体を勢いよく捻じり、斧を勢いよく切り付ける。

 さっきよりも威力も重さも増した連続斬りはパラセクトを捻じ伏せるには十二分だった。

 

「──よし、トドメだバサギリ!!」

「グラッシャーッ!!」

 

 地面を蹴り、バサギリは両腕を重ね合わせる。

 そして斧には石の破片が次々に纏わりついていく。

 重ね合わせた事で重さを増した斧。

 それをパラセクト目掛けて振り下ろした。

 

 

 

「──”がんせきアックス”!!」

 

【バサギリの がんせきアックス!!】

 

 

 

 

 大きな縦一文字の傷がキノコに刻まれる。周囲には石の破片が散らばり、それがさらにキノコを突き刺す。

 悲鳴を上げ、パラセクトは地面に倒れ伏せ、そのまま動かなくなるのだった。

 

【効果は抜群だ!!】

 

「よっし!! 新技も良い感じだ!!」

 

 これなら捕獲出来る、とメグルがボールを構えた。

 その時だった。

 

 

 

 

「ノ、ノットリィ……!!」

 

 

 

 

 低く、不気味な声がその場に響き渡る。 

 そして、キノコの傘が大きく膨張する。

 ぶちり、と嫌な音を立ててパラセクトの虫の部分が潰れる音がした。

 バサギリが思わず引き下がり、メグルの下へと戻る。

 そうせざるを得ない程に、キノコは次第に大きくなっていき、とうとう見上げる程へと膨らんだのだった。

 

 

 

 最早、()()()()()()()()。キノコの怪物である。

 

 

 

「な、何じゃこりゃーッッッ!?」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 ──この巨大なパラセクトを用いた爆弾には、幾つか兵器として「便利」な点がある。

 一つは爆発した場合、相手陣営に年単位で致命的なダメージを与えることが出来る点。

 これは今更言うまでもないだろう。

 しかし、ポケモンとは往々にして捕獲される生き物である。

 テング団でさえ、弱ったポケモンを瓢箪に吸い込んで捕獲する技術を確立している。

 そこで生きてくるのがもう1つの利点である。

 

 

 

 それは、巨大な個体は寿()()()()()()()()、仮に爆発に失敗してもすぐに死ぬので()()()()()()()()()()ことである。

 

 

 

 当然、大きな個体というのは長い年月を生きたパラセクトということであり、繁殖に必死である理由も、もう後がないからである。

 ではそのような個体が爆発出来ずに子孫を残せない上に、自分の命が残りわずかという状態に直面したらどうなるか。

 答えは──繁殖するためのエネルギーを犠牲にしてでも「種の存続を脅かす敵」を死滅させる、である。

 それが、残った力全部を体内の胞子の生育に回し、最早ポケモンの枠すら外れたキノコの怪物と化すという捨て身の行動であった。

 このような先の無い行動をとることが出来るのも、メグルが相対した個体に残された時間が無かったからであることは言うまでもない。

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