ポケモン廃人、知らん地方に転移した。【完結】   作:タク@DMP

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第44話:蒼穹が紅に染むる時

 ※※※

 

 

 

「デカ過ぎんだろ……!!」

 

 火口を起点に膨張し続けるパラセクト。

 それは、自らの種を脅かす敵を押し潰さんばかりである。

 この子嚢は当然猛毒。人が触れれば、火傷では済まない。

 そして、これがもしも火山から転げ落ちれば、人里どころか山そのものにも被害が出る恐れがある。

 思わずボールを投げ付けたメグルだが、そもそももうボールそのものが反応しなかった。

 ポケモンはポケットに入るからポケモンと呼べるのだ。ポケットに入らないポケモンはもう、ただのモンスターである。

 思わず逃げようとするメグルだが、岩陰にまだ”しめりけ”要員のポケモンを残していることを思い出す。

 絶体絶命。

 膨張の速度はあまりにも速く、逃げ場は何処にも無い。

 そう思われた時であった。

 

 

 

 

「──”せいなるほのお”よッ!!」

 

 

 

 突如、火の球が目の前に飛んでくる。

 それが、膨らんできた子嚢を焼き切り、燃やし尽くす。

 邪悪を祓う神秘の炎は、胞子ひとつ残さない。

 メグルは空を見上げた。リザードンだ。そしてそこから、1匹のポケモンが降りてきた。

 

「ッ……ブースター……!?」

 

【ブースター(サイゴクのすがた) ようがんポケモン タイプ:炎/鋼】

 

 ほのおポケモン・ブースター。炎の石で進化するイーブイの進化形のポケモンだ。

 しかし、その姿はメグルの知るものとは大きく異なる。

 足首と胸元には燃え盛る炎のような体毛が生えており、全体的に狐のようにすらっとしたフォルムが特徴的だ。

 だが、体表にはところどころ、鉛色の部分が混ざっており、光沢を放っている。

 

「メグルちゃん、乗って!!」

「は、はいぃ!!」

 

 急いでメグルはバサギリをボールに戻した後、リザードンに乗る。

 だが、ブースターは未だに巨大化したキノコと相対している。

 

「大丈夫なんですかアレェ!? てかハズシさん、大怪我──」

「ワタシの事は良いの。それよりどうしてこんな事に?」

「特性”しめりけ”のポケモンで爆発は防いだんですけど戦ってる途中でこうなっちゃって。まだ遠くの岩陰に”しめりけ”持ちのポケモンが残ってるんです! 早く助けないと──」

「そう。爆発の心配がないなら、焼いてしまって問題無いわね」

「え? でも待ってください、あいつの特性で炎技は効かないんじゃ──」

 

 そこまで言いかけて、メグルは口を噤んだ。

 先程パラセクトの子嚢の一部を焼き切ったのは、確かにブースターの放った炎であった、と。

 

()()()()()()()()。これ、常識よ?」

 

【特性:メルトボディ 相手の特性を無視して攻撃出来る。炎技の威力が上がる。】

 

 真っ先にメグルの頭に過ったのは、某海賊漫画の海軍大将であった。

 

「ってか、あれがようがんのヌシ……今まで何処にいたんですかコイツ!?」

「山の下の野生ポケモンは、この子の炎でキノコが焼かれて正気に戻ったみたいよ」

「すいませんでした」

「後は、オオワザ一発で決められるかどうか──ね。此処まで来たら、完全に焼き尽くすしかない」

「いけるんですか?」

「いけるいけない、じゃない。やるのよ! ……そうよね、ヌシ様!!」

 

 ブースターの咆哮が響き渡る。

 只の炎ではない。炎を喰らい、水を蒸発させ、湿気をも味方に付ける高温・高熱のマグマを宿した溶岩の化身だ。

 体表の鉛色の部分が全身に広がっていき、赤く光り輝く。

 ブースターの身体は今、全身が赤く熱された鉄と化した。

 

「さあ、マグマで溶かし、焼き尽くしてあげる。ヌシ様、オオワザよ!!」

「ぎゅららららららら!!」

 

 ブースターが高く跳んだ。

 そして、全身を炎と溶けた鉄で包み──キノコ目掛けて突貫する。

 

 

 

 

ブースターの メルトリアクター!!

 

 

 

 

 刹那、ブースターは小さな太陽と化した。

 強烈な光を放ちながら、パラセクト目掛けて突貫し、キノコを内側から焼き尽くす。

 炎を熱源諸共食らい尽くすのは、大質量の熱の塊。

 それがキノコの中で暴れ回り続ける。

 ブースターが再びキノコの中から現れた頃には──全ての胞子諸共、膨張した子嚢は炭と化したのだった。

 キノコは燃え尽き、白い炭と化す。

 突風が吹き、それは脆くも崩れ去った。

 激動の一晩はこうして無事に終わり、ひのたまじまを脅かし続けた”爆弾”は此処に停止したのである。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 ──それからはまた、慌ただしい日々が続いた。

 ハズシは骨を砕かれる大怪我をしていたため、速やかに入院した。幸い命に別状はなかったという。

 ひのたまじまは、本土からの救援もあって、復旧はすぐに終わる見通しである。

 アルカの脛の傷も半月ほどで完治し、元のように歩けるようになった。

 そして、パラセクトの捕獲こそ出来なかったものの、今もシャクドウ大学では胞子の解析が進められているという。

 おやしろはしばらく閉鎖されていたらしいが、ハズシの意向で彼が退院した後、再び開かれることになったのだった。

 一方、メグルもこの間、何もしない訳にもいかないので、ハズシの退院を待つ間、ずっと教習所でライドギアの講習を受け続けた。

 そうして、ハズシが退院する頃には無事にライドギアの免許を取得したのだった。

 

「ハズシさん、退院おめでとうございます!」

「そっちこそ。ワタシが居ない間に、ライドギアの免許、無事に獲得出来たらしいじゃない」

「いやー、あはは」

「聞いたわよ? すっごく苦戦したんですって?」

「あはは……運動神経は今後頑張って改善シマス……」

 

 事実、試験には2回くらい落ちた。

 それでも凹まなかったのは、ハズシが退院した時に恰好が付かない姿を見せたくなかったからである。

 

「アルカちゃんも元気になったようで良かったわ♡」

「おかげさまで……」

「でも、大変なのは此処からよね」

 

 ハズシは腕を組み、椅子に座り込む。

 半月ほど入院していたからか、体力がまだ戻っていないらしい。

 だが、顔は神妙だ。

 

「おやしろの関係者には先に伝えたのだけど……メグルちゃん。後、アルカちゃんも。貴方達には話しておいた方が良さそうね」

「テング団の事で何か分かったんですか?」

「ええ。奴らの目的よ。イヌハギって名乗るあの男が話してきたのよ」

 

 ハズシの口から話された情報は、凡そメグルがアルカから聞いた伝説と合致していた。

 アルカは向こうの出身であるからか、かなり気まずそうな顔をしていた。

 

(とはいえ、わざわざアルカの身バレのリスクを冒さなくても、ハズシさんの方にもテング団の目的が図らずとも共有できたのは良かったのかもしれない)

 

「あのリージョンフォームも、異界の姿だった……って事ね。敢えて呼称するなら”ヒャッキのすがた”ってところかしら」

「ヒャッキのすがた、か……これまで戦ってきた相手も原種とは全然違う力を持ってたし、これから戦う相手も強敵揃いだろうな……」

 

 地面タイプを持ち、地中に穿孔する力を持っていたオニドリル。

 未だにその能力の全容は分からないが、テング団の団員が多数使っているダーテング。

 周囲の冷気を操る力を持ち、原種の攻撃性能も据え置きのルカリオ。

 そして、爆発する事で胞子をばら撒き、周囲のポケモンにも寄生させるパラセクト。

 いずれもサイゴクを超える過酷極まる環境で進化した姿であろうことは容易に想像できた。

 

「そんな奴らを相手にし続けるのは骨ね。どうにかして和解の糸口が掴めないかしら。このままじゃ、本当に全面戦争になりかねない。そうなれば双方共倒れよ」

「聞く耳を持つような相手とは思えないですけど……」

 

 当事者のアルカが言うと、説得力が増す。

 尤もハズシは、アルカが()()()()()()であることは知らないのであるが。

 

「ハズシさん。先代とかから、似たような話は聞いた事が無かったんですか?」

「無いわね。500年も前でしょう? 資料は大体失われてしまっているのよ。いや、意図的に消された可能性もあるわねぇ……」

「”赤い月”って……どんな秘宝なんでしょうか」

「分からないわ。でも、もしもこれが先祖が奪ったものならば、ワタシ達子孫がそのツケを払わなきゃいけないわね。ま、頭下げて許してくれそうには見えないけど……せめて赤い月さえ見つかれば」

「何ならボク達が”赤い月”の在処を調査します!」

「えっ、アルカ!?」

 

 ずいっ、と身を乗り出したのはアルカだった。

 

「石商人として、テング団の暴挙は見過ごせませんので! それに秘宝だとか何やらは石商人の領分ですよ!」

「そうね。考古学に詳しい貴方の力をおやしろとしても借りたいわ」

「んじゃあ俺も。おやしろまいりの途中で何か手掛かりがあるかもしれないし」

 

(それが”世界を救う事”に繋がるなら、元の世界に戻る足掛かりになるかもしれないしな)

 

 メグル自身も忘れかけていたが、彼の目的は元の世界に戻る事だ。

 しかしこれまでやってきたポケモンのゲームの前例からして、使命を果たさずに帰る事は出来ないはずだ、とメグルは推測する。

 

(今は進むしかない。赤い月の謎を……解き明かす!)

 

「それでメグルちゃん。貴方の次の行き先は? 残っているのは3つよね」

「シャクドウシティは最後に挑むって決めてるんです」

「それじゃあ、旧家二社の試練を受けることになるわね。とはいえ、彼らはテング団の件で殺気立ってる。くれぐれも気を付けて頂戴」

 

 マップを確認すると一番近いのはイッコンタウン。

 岡山県の中心に座する吉備中央町に相当する町だ。

 町の規模自体は小さいが、山の中にあるからか天然の要害となっており、半ば城塞都市と化しているのだという。

 

「もしかしたら旧家二社なら何か情報を握ってるかもしれないし……上手く調べてもらえるかしら」

「キャプテンの間で情報共有できないんですか?」

「プライドが高いのよ。他のキャプテンの力を借りるのは恥だと思っている節すらあるわ。まあ無理も無いわね。おやしろは過去、何度も対立してるもの」

「難しいんだなあ……」

「まあ、大人の話は今は置いておいて。……メグルちゃん、最後に大事なことを済ませましょう」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 ──メグルがハズシに連れられてやってきたのは、ようがんのおやしろ。

 アケノ火山の麓に建てられた巨大な神社であった。

 

「試練を終えた貴方は、その証をヌシ様から受け取る資格を持つわ」

「久々だな、この流れも……」

「ぷっきゅる」

 

 イーブイが不機嫌そうに鳴いた。相も変わらず、メグルの頭にへばりついているのだった。

 おやしろの奥に進むと、祠があった。

 それを守るように二体のポケモンの像がどっしりと構えている。

 エンテイ。

 火山ポケモンと呼ばれる伝説の三聖獣の一角だ。

 

「──かつて。ジョウト地方から新天地を求めて、この地に移り住んだ人々が居たわ。一説によれば、故郷をポケモンに焼かれたからみたいね」

「それが……今のサイゴクの人々なんですよね?」

「ええ。御三家三社がある町の起源ね。そして彼らは……故郷の地を駆け抜けた三匹の聖なるポケモン・三聖獣に思いを馳せ、この石像を作った」

「……サイゴクのイーブイの進化形は、どうして伝説のポケモンに似た姿に進化するんでしょうか?」

「分からないわ。サイゴクの霊脈が彼らの進化を祝福した。それを見たジョウトからの移民が、三聖獣に似たものを見出した……それが真実よね」

「じゃあ似てるだけで関連性は無いってことなんですかね?」

「どうかしら? うちのヌシ様は、エンテイが使うとされる”せいなるほのお”を扱える数少ないポケモンよ。……そうよね? ヌシ様」

 

 ハズシの声に応えるように、石像の間に一匹のポケモンが現れる。

 

「……ブースター……!」

「ぎゅららららら」

 

 ようがんポケモン・ブースター。

 サイゴクのおやしろを守る御三家ヌシの一角。

 改めて目の当たりにすると、エンテイに勝るとも劣らない威迫を放つ。

 その瞳を見ていると吸い込まれそうになってしまいそうだ。

 イーブイもその姿に息を呑み、大人しくしている。

 

(こいつ”せいなるほのお”使えるのかよ……まさか、唯一王に畏怖を感じる日が来るなんて)

 

「ぎゅらららららら」

 

 ブースターが低く唸れば、周囲は陽炎で揺らめく。

 そして目の前には溶岩を押し固めたような宝石が現れる。

 

「試練を超えた証よ。受け取りなさい」

「……はい!」

 

 ──メグルのおやしろまいり、残るおやしろは3つ。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 おやしろを出た後、本土に繋がる連絡船の船着き場で、ハズシは名残惜しそうに言った。

 

 

 

「さて。貴方とは此処でお別れね」

 

 

 

 次の目的地はイッコンタウン。

 山に囲まれた、天然の要害とも言える場所。

 一度、都市部のキビシティに寄った後、此処からメグルは再び山を越えていかなければならない。

 旅立ちの日、わざわざ忙しい身にも関わらずハズシは見送りに来てくれた。

 

「貴方のおかげで、ベニシティは救われたわ。貴方、やっぱりワタシが思った通り見どころのあるイイ男だったわね♡」

「こっちこそ……バサギリの件とか、本当にありがとうございました」

「あら何の事かしら? 只のお節介よ♡」

「あはは……絶対出世払いしますよ」

「言ったでしょ? ワタシじゃなくて、この先出会う人に愛を分けて頂戴ね」

 

 汽笛が鳴る。

 連絡船に乗り込み、メグルはハズシに向かって手を振る。

 彼もまた、笑顔で手を振り返した。

 

「ありがとうございました! また、来ます!」

「──ポケモンちゃん達と、仲良くね! 良い旅を!」

 

 ハズシの姿が見えなくなるまでずっとずっと手を振り続ける。

 サイゴクの本土が、もうすぐそこに迫ろうとしていた時だった。

 突然、メグルはぽんぽん、と肩を叩かれる。

 振り向くと、そこには──不満げに頬を膨らませたアルカが立っていた。

 

「……あのー、おにーさん。もっと早くに気付いてくれると思ってたんですけど」

「アルカァ!? お前結局付いてくるのかよ!?」

「そりゃ当然です! おにーさん、ボクのようなテング団に狙われてる、か弱い女の子を放っておくんですね!」

「歯牙にも掛けられてないんじゃなかったっけ」

「うぐっ……」

 

 アルカは痛いところを突かれたかのように呻くと「そんな事はどーでも良いんですよ!」と食ってかかる。

 

「そも、互いにテング団と敵対する身。二人で行動していた方が互いに何かと安全だと思いません?」

「悪い話じゃねーけど、何か裏があるんじゃねーだろうな。連中とは関わり合いになりたくねーって言ってただろが」

「あいつら放っておくと貴重な遺跡をブッ壊したりするかもしれないじゃないですか。……それに、ボクだってやられっぱなしはイヤですし」

「お前……殊勝な所もあるんだな」

「失礼!!」

 

 涙目になりながら彼女は口をキッ、と結んだ。

 しかしメグルからしても決して悪い提案ではなかった。

 ヒャッキのすがたのポケモンを知るのはアルカだけだ。彼女が居れば、初見の敵が相手でも情報を握ることが出来る。

 ポケモンは相性ゲーム。そのタイプが分かるだけでも大いに助かる。

 

「俺もお前が居るとテング団の奴らが使ってるポケモンの事が分かるから助かるんだけど」

「だから、協力関係を結びません? テング団を倒すまで。おにーさんも1人じゃ心細いでしょうし。それに万が一の時は囮になってもらって──」

「おいこら本音が漏れてんぞ」

「というわけでウィン・ウィンだと思うんですけど」

 

 正直、不安は残る。

 だがテング団を今後も相手取るならば贅沢は言っていられない。

 それに──

 

「ったく、しょーがねーなぁ。テング団を倒すまで、だ!」

「交渉成立、ですね!」

 

 差し出された手をメグルは手に取る。

 こうして。旅の道連れが一人、増えたのだった。 

 目指すはイッコンタウン。二人を、まだ見ぬポケモン、まだ見ぬヌシとキャプテンが待ち受けている──

 

 

 

 ──第二章「紅に染むる蒼穹」(完)

 

 

 

ここまでのぼうけんを レポートにきろくしますか?

 

 

 

▶はい

 

いいえ




「流石ハズシ殿! これでバサギリが手に入るでござるな!」
(打製石器、二個買ってて良かったわ……)

 こっちも丸く収まったらしい。
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