ポケモン廃人、知らん地方に転移した。【完結】   作:タク@DMP

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この第三章から、スカーレット・バイオレットで初登場したポケモンがネタバレ関係なく出てきます。ご注意ください! 


第三章:永遠に輝けし明の明星
第45話:これが本当の寿司ざんまい


「はーい、よい子の皆~! ”イデア博士のポケモン川柳”の時間だよ~!」

 

 

 

 

 そもそもメグルは、この世界に来てから多忙を極め、すっかり()()()()だった。

 久しぶりにまともなホテルに泊まれたので、真夜中に大人のビデオでも見ようとテレビを付けた瞬間、見覚えしかない博士が現れ、萎えてしまったのである。

 非常に忌々しき事態であった。

 

(何だコレ……)

 

 それにしてもこのボンクラ博士には勿体ない豪華なスタジオのセットであった。

 タレントとして人気があるのはどうやら本当だったのか、ラジオのみならずテレビ出演もこうして精力的に行っているらしい。

 ……コーナーの出来の良し悪しはさておき。

 

「このコーナーでは、てぇっんさいポケモン学者である僕がポケモンと交流して、最後に川柳を詠んでいくぞぉ」

「助手のお姉さんでーす、よろしくねー♪」

 

 どうやら、博士とお姉さんの二人で進行する番組らしい。

 

「お姉さん、今日も綺麗だねぇ、この収録の後に食事でもどう?」

 

(何抜かしてんだコイツ)

 

 そう思った矢先に何故公共電波でナンパを流しているのだろうか、この博士は。

 

行きませんし、博士にはぼっちでポケモンと戯れてるのがお似合いですねー♪

「お姉さァん!?」

 

 尚、お姉さんもお姉さんで慣れているのか、ものっそい辛辣だった。

 

「ちなみに僕は昨日、道端で拾ったモンスターボールが実はビリリダマで、死ぬかと思ったぞ! 皆も落ちてるモノには気を付けよう!」

 

(突然の自分語りどうした?)

 

「先ず拾ったものを自分のものにしようとする精神があさましいと思いませんか?」

「お姉さァん!?」

 

(ド正論だけど全国のトレーナーに突き刺さるからやめて差し上げろ)

 

 この期に及んでなかなか強火な毒舌を放つお姉さんであった。

 

「そ、それで、今日のポケモンは何なのかな? お姉さん」

「今日のポケモンは──この子でーす♪」

 

 

 

【ルージュラ ひとがたポケモン タイプ:氷/エスパー】

 

(あっ、終わったな博士……)

 

 

 

 ──現れたのは、太ましい唇が特徴的な女性型のポケモン・ルージュラ。

 ぎろりとした丸い目がなかなかに気味が悪い。

 そればかりか、唇からは「るぅるるるるぅるるるる」と不気味な呪文のような言葉を紡ぎ続けている。

 流石のイデア博士の顔からも血の気が引く。

 

「いや待ってちょっと」

「それでは交流お願いしまーす」

「るぅるるるるる」

「待って!! 腕の力強っ──誰か助け──」

 

 

【ルージュラの あくまのキッス!!】

 

【効果は抜群だ!】

 

【イデア博士は 倒れた!】

 

 

 

「それではイデア博士、シメのポケモン川柳をお願いしますね♪」

「る、るるる……」

「る? 何ですか? もっと大きな声じゃないと聞こえませんよ、博士?」

 

 

 ──本日の川柳

 

「るるるるる

 

 るるるるるるる

 

 るるるるる」

 

         イデア博士

 

「皆もポケモン、ゲットだぞ~(収録音声)」

 

 最後、イデア博士の口からは泡が吹きこぼれていた。

 この頭のおかしい番組が終わった辺りで、メグルはリモコンを思いっきりテレビに向かって投げそうになるのだった。

 

 

 

「──やめちまえポケモン川柳ッ!!」

「ケッ」

 

 

 

 イーブイも唾棄するレベルの、酷いコーナーであった。

 

「色々おかしいだろ!! 放送事故じゃねーか!! しかも最早川柳ですらねーよオーキド博士に謝って来い!!」

「ぷっきゅるるる」

「あとイーブイちゃん? 何で出て来てんの勝手に? いつ出てきたの? モンスターボールから」

「キュルルップイ」

 

 珍しく凶暴毛玉もご満悦の表情であった。 

 

「もしかして博士が酷い目に遇ってるところを見に来たのか」

「きゅるるるる♪」

 

(ステータス無補正とかが可愛く見えるくらい終わってんなコイツの性格)

 

 まさに人の不幸は蜜の味。

 ちなみに来週のイデア博士のポケモン川柳はお休みらしい。めでたーし、めでたし。

 

 

 

(悪夢みたいな光景だったし、さっさと寝て忘れよう……)

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 ──メグルが次に目指すはイッコンタウン。

 だが、天然の要害であるイッコンタウンに侵入するには、厳しい山越えをしなければならない。

 7番山道は崖路が多い岩山。ポケモンライドを駆使しなければ怪我をすると言われている程。

 山登りに備えて、メグルとアルカは沿岸都市・キビシティのショッピングセンターでキャンプグッズを新調していたのだった。

 しかし、メグルは昨晩のイデア博士事件の所為で、すっかりグロッキーになっており開幕アルカから心配されることになったのだった。

 

「おにーさん、目の下に隈が出来てるけど大丈夫なんですか?」

「いやちょっと昨晩色々あってな」

「色々? 一体何があるっていうんですか、ボクなんてその時間爆睡してましたよ」

「あーうん、お前は気楽でいいな……」

 

(むしろ()()が有り余っているとは言えない……)

 

 持て余しがちなのは、この年代の男ならよくあることなので仕方がない。

 

「やれやれ、そんなおにーさんに朗報! このキビシティにも美味しいものが多数あってですね。その一つが寿司なんですよ!」

「何故に寿司?」

「元気を出すためです! これから山越え! しばらく海の幸は食べられませんから!」

「寿司ならセイランシティに滞在してる時にも食ったぞ」

「ふっふっふ、確かに寿司自体はセイランが有名ですが……ご当地グルメならキビも負けてはいませんよ」

 

 そう言ってアルカはスマホロトムのページをメグルに見せつける。

 

「──じゃーん! キビのバラ寿司!」

「真っ黄色じゃん」

 

 それはちらし寿司と呼ぶのもおこがましい質素な弁当であった。

 全部真っ黄色。四角の弁当箱の中に錦糸卵が敷き詰められているというものだ。

 こんなもので精が付くのか、とメグルは恨めしそうな目をアルカに向ける。

 しかし彼女はチッチッと指を振るとスマホの画像をスライドした。

 

「ところがどっこい。この寿司の箱をひっくり返すと──」

「おお!? 豪華なちらし寿司だ!?」

 

 次のページに出てきたのは、魚や貝、蓮根やベビーコーン、魚卵が敷き詰められた宝箱。

 さっきの全部錦糸卵と同じ弁当とは思えない華やかさである。

 

「かつて、キビの地では領主が厳しく、領民に贅沢を禁じたと言います」

「それで豪華な具材を隠すために、こんな仕組みになってんのな」

「またの名をかくし寿司! いやー、寿司って奥が深いですよね……歴史を感じさせる食べ物です!」

「そうなのか……?」

「どうですか? 食べてみたくなったでしょ? 食べてみたいですよねぇ?」

「お前が食いたいだけじゃ──まあ良いや、俺も興味湧いたし」

「流石おにーさん! 早速買いにいきましょーっ!」

 

 アルカは美味しいものにも目が無い。

 本人も収入に余裕がある時は、ついつい食事に金を使ってしまうのだという。

 その所為で手持ちの金が切迫してしまうこともあるらしい。

 ……猶更彼女を放っておいたらどっかで野垂れ死ぬであろうことがメグルにも想像出来た。

 

(コイツに死なれたらテング団相手にノーヒントで挑まなきゃいけなくなるし、俺がストッパーにならねーと……)

 

 更に、一度メグルにフィッシュバーガーを貰ってからというものの魚介の味にハマってしまったらしく、海鮮系の特産品に目が無くなってしまったという。

 スマホロトムの情報に従って、問題の弁当屋に足を運ぶ。古き良き瓦屋根の歴史を感じさせる店であった──しかし。

 

「ええ!? 寿司が作れてない!? 海鮮の市場直入がこの店の良いところでしょ!? そんな事あります!?」

「……実は、こっちに魚を輸送していたトラックが海辺を走っていた時、突然巨大なドラゴンみたいなポケモンに襲われたらしくってなぁ……」

「大事件じゃねーか!?」

「トラックの運転手は怪我で済んだらしいがな、トラックは横転。積み荷はそのポケモンに破壊され、中の魚も全部丸呑みされたとか」

 

 店主が申し訳なさそうに持ってきた弁当は錦糸卵オンリーという悲しいものであった。

 そのため、本日は魚介が絡まないメニュー(例えば唐揚げ弁当や味噌カツ弁当)のみの販売なのだという。

 

「今セイランから材料を取り寄せちょるんだが……こんな事が続けば、安定して魚が仕入れられんとかな。他の店もいつ被害に遭うか……」

「そ、そんなぁ……! ボ、ボクのバラ寿司が……バラバラ……」

「良かった良かった、ダジャレを言える余裕はあるんだな」

「ありませんよバラぁ!! じゃなかったバカァ!!」

 

 アルカは大層ショックを受けた様子で崩れ落ちてしまう。

 そんな彼女を見てか──ポンッ! と音を立ててイーブイが飛び出し、彼女に駆け寄った。

 

「イーブイ!? ……慰めてくれるの?」

「……フッ」

「あ”?」

 

 ──アイドルポケモンは、一際邪悪な顔で微笑んでいた。とても慰めているような顔には見えない。

 ぴきっ、とアルカの頬に青筋が浮かんだ。

 

「今コイツ鼻で笑いました!! 笑いましたよ人の不幸を!! 最悪!! 最悪です!! 最の悪!!」

「プッキュルルルルル」

 

 ※イーブイは一度、アルカに食われかけたことがあるので彼女がすっごくキライ。

 

「うるせーうるせー、ケンカすんなこんな所で!」

「折角ボクが美味しい弁当を見つけてあげたのに! やっぱり飼い主に似るんですね、性格の悪さは!」

「なあ店主さん、要はその馬鹿でかいポケモンを捕まえなきゃ、市場の安全は確保出来ねーってことだよな?」

「ああ、だから先程、イッコンタウンの方からキャプテンが直々にやってきてそのポケモンを捕まえると連絡があったんだがなァ」

「だってよ。良かったな、安心じゃねーか」

「……ます」

「ん?」

「ボクもそいつを捕まえます!!」

「ええ……」

 

 前髪で隠れた目からは闘志が灯っていた。

 食べ物の怨みは怖いのである。

 となるとメグルが一緒に行かないわけにはいかない。

 というのも、巨大なドラゴンのようなポケモンと言う時点で嫌な予感しかしない。だが、放っておけば漁港が襲われる可能性も非常に高いという。

 

(それにしても、巨大なドラゴンみたいなポケモンだろ? ギャラドスとかそういう類か? それともマジのドラゴンポケモン?)

 

 最悪のパターンは、テング団の連れてきたヒャッキのすがたのポケモンの可能性だ。

 危険な戦いをメグルは予想する。

 それを後押しするかのように店主が苦々しい顔で言った。

 

「やめといた方が良いよ、お二人さん。このサイゴクには昔から、とんでもない巨大なポケモンの噂があってだなァ」

「と言うと?」

「疑似餌で相手を誘き寄せ、食っちまうんだとか。人はそれを”偽竜(ぎりゅう)の怪”と呼んでいてだなァ」

「ぎりゅう……偽竜?」

 

 メグルの頭に浮かんだのは──全身を獲物の骨で覆ったイカだった。

 

(もしかしてオ〇トガロア的なバケモノか……!? 偽のドラゴンとか強そうな予感……!!)

 

「そいつはハンティングスポットを変えながらサイゴクの各地で犠牲者を増やし続けているとかなんだなァ……ああ恐ろしい!」

「今回の件も、その偽竜の仕業かもしれないってことか。にわかに興味が湧いて来たぜ」

「ええ……何で今の話で怖がるどころかテンション上がってんだ、あんた……?」

 

 ポケモン廃人ならば、強そうなポケモンにワクワクするのは当然のことであった。

 

「ギリューだかギモーだか知りませんが、寿司の仇はボクが取ります! 必ずやそのギモーの首を手土産にしてやりますよ!」

「獲るなギモーの首を!! 冤罪なんだわ!!」

 

 そもそもサイゴク地方にギモー、もといオーロンゲ系統は生息していない。

 

「待っててください店長さん! 寿司と石の響きが似てるよしみで、必ずやこの石商人・アルカがバラ寿司に安寧をもたらしましょう!」

「どんなよしみだよ、食いてえだけだろオメーは」

「大丈夫か、この人達……色んな意味で」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「事件発生個所から一番近い海岸が此処か」

「この辺りには大きな洞穴もあってですね。ギモーが姿を隠すならこれ以上ない場所かと。全く、生かしてはおけないですね!」

「偽竜だっつってんだろ、ギモーが何したんだよ可哀想だろ」

「プッキュルルルル」

「で、おめーは何やってんだお姫様」

 

 イーブイの難しそうな声が聞こえてきたので振り返ってみると、砂浜に開いた小さな穴に前脚を伸ばしている。

 何をやっているんだろう、と近付いてみると、穴の中からはおずおずと真っ白で細長い円柱状の身体のポケモンが這い出て来る。

 

「ぴー」

 

(あっ、こいつがウミディグダってヤツか)

 

【ウミディグダ あなごポケモン タイプ:水】

 

 ディグダとは似て非なるあなごのポケモン・ウミディグダはとても臆病な性格だという。

 イーブイが前脚を伸ばすと、すぐに引っ込んでしまい、しばらくすると出て来るウミディグダを面白がっているようだった。

 スカーレット・バイオレットで初登場したポケモンでメグルはゲームの中ではお目にかかったことがないポケモンだ。

 

「おいその辺にしとけよ、可哀想だろが」

「プッキュルルルル♪」

 

 散々ウミディグダで遊んで飽きたのか、イーブイはそのままメグルの後を付いてくるのだった。

 

「本当に……良い性格してますよねそのイーブイ」

「何でこんなになっちまったんだろうな……」

「プッキュルルル」

 

 ぴょいぴょい、と機嫌良さそうに砂浜を跳ねまわり、岩と岩の間をジャンプして飛び越えるイーブイ。

 こうして無邪気に遊んでいるだけなら可愛いのであるが、内に秘めた凶暴性は人間すらドン引きさせるものであった。

 

「一旦お灸を据えてやるべきだと思いますよ」

「据えられるもんならな」

「そんなんだからナメられるんですよ、自分のポケモンから」

「うるせーうるせー、こいつがちょっと躾けたくらいで矯正されるタマかよ、な? イーブイ──」

「プッキュルルルルルル!?」

「……イーブイ? ……イーブイ!?」

 

 尋常ではないイーブイの声で振り向いた時には大変な事になっていた。

 岩陰から飛び出した3つの赤い円柱状のアナゴがイーブイの身体を雁字搦めにして捕えていた。

 さっきのウミディグダをペンキで真っ赤に塗ったくったようなポケモンだ。

 

「うわあああ!? 食われかけてるッ!?」

「プッキュルルルルル!?」

 

【ウミトリオ あなごポケモン タイプ:水】

 

 さっきのウミディグダとは比べ物にならない程に獰猛さを感じさせる締め技でイーブイを巣穴に引きずり込みにかかるウミトリオ。

 メグルも急いでボールをウミトリオに投げ付ける。飛び出したのはオドシシだった。

 

「テレビで見た事あります! あれってウミディグダの進化形です! 顔はあんなんですが、凶暴です!」

「電撃波だ!! あいつ多分水タイプだろ、そうであれ!!」

「ブルルルルゥ!!」

 

 オドシシの角から強烈な電気が放たれ、イーブイ諸共ウミトリオを感電させる。

 似た姿のダグトリオ同様、耐久力はあまり無いのか、3匹まとめてウミトリオはその場に昏倒してしまった。

 そして、電撃こそ一緒に浴びたものの、イーブイはウミトリオの拘束から解放されて、メグルによってボールに戻されたのだった。

 間一髪。ウミトリオは進化元に比べて非常に気性が荒いらしく、巣に近付いた獲物を締め上げて引きずり込んで捕食するのだという。

 

「──あのー、イーブイさん? もう離れてくれませんかね?」

「ぷい~……」

 

 柄にもなく気弱な声でイーブイはメグルの頭にへばりついている。

 今のウミトリオの襲撃で命の危険を感じたからか、すっかり弱気になってしまっているらしい。

 

「ふふーん、愛されてますねー、おにーさん」

「なー、イーブイ。もう良いだろ? ボールに戻れよ」

「ぷいー……ぷいー……」

「仕方ねーヤツだなあ」

 

 ふるふる、と首を横に振り、涙目のイーブイ。

 いつもの凶暴さはすっかりなりを潜めてしまったようである。

 とはいえ、もふもふがずっと首に触れているので、気分は割と幸せなメグルであった。当のイーブイはそれどころではないが。

 

「全く、お散歩の途中でポケモンに捕食されかけるなんて情けないですねー。凶暴毛玉が聞いて呆れます」

「オメー、ここぞとばかりに煽るな……」

「大体いっつもヤンチャばっかりだからバチが当たったんですよ。これを機に大人しくしておくんですよイーブイ」

「お前、もうその辺にしとけよ……」

「さーて、もうすぐ問題の洞穴ですよ。肝心な時にビビって戦えないとかナシですからね、お姫様」

「プルルルルルル……!」

 

 ギリリ、と歯を食いしばりながらイーブイはアルカを睨み付ける。

 こいつはいつか絶対泣かす、と言わんばかりであった。

 

 

 

(女の戦いって、こえー……)

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 海辺の洞穴はもう目と鼻の先。

 この辺りは不気味な程静かで、他のポケモンの姿も見当たらない。

 先程まで見かけたウミディグダすら見られず、キャモメといった鳥ポケモンも見えない。

 

なんか静かですねー……さっきまでとはエラい違いですよ」

「ああ。浜辺のポケモンは軒並み向こうに固まってたのかもな」

「まっでもそんなの関係ないですけどね。もうじき、寿司を台無しにした犯人と対面できるんですから」

 

 「待ってろギリュー!」とアルカは上機嫌に拳を振り上げる。

 それにしても、とメグルは周囲を見渡す。

 此処まで不気味なまで静かだと、逆に警戒してしまうのが人情だ。

 

(せめて何かポケモンが居れば安心できるんだが……あ)

 

 メグルはふと視線を波打ち際に移す。

 砂浜に一際異彩を放つ魚のようなポケモンが寝転がっていた。

 オレンジ色の体色が目を引くが、メグルの記憶の中には似たような形状のポケモンが居ない。

 

「何だアイツ」

「魚ポケモン? 打ち上がってるんですかね?」

 

 たったっ、とアルカはそのポケモンに駆け寄る。

 

「可哀想だから、海に戻してあげます」

「スシ……」

「あん? 喋ったかコイツ今」

「スシ……って言いましたね」

 

 メグル達が近付くと──魚のポケモンはいきなり反って、胸の浮袋を膨らませる。

 その姿はさながら握り寿司のようであった。色合いもあって、まるで海老のようだ。

 

「オレスシ……」

「うっふふ、何だろう君……可愛いねえ、食べちゃいたい」

「おい食おうとすんな」

「スシィ!?」

  

 ぎょっ、とした顔で魚のポケモンはぴょんぴょんと跳ねて波打ち際へと戻っていく。

 

「ああ、待ってください! ゲットしたいのに!」

「何で寿司に擬態してんだアイツ……?」

「待て待てー! ボク、丁度可愛い子が欲しかったんですよ──」

「オレスシ!! オレスシ!!」

「おいあんまり海の方に行くんじゃねーぞ」

「大丈夫ですよーう、こんな小さな子、すぐに捕まえてみせます!」

 

 アルカがボールを持って一歩踏み出したその時だった。

 

 

 

 

 

 

「ラッシャーセーッッッ!!」

 

 

 

 

 

 ──砂が大きく盛り上がり、巨大な大口がアルカを飲み込んだ。

 

「喰われたァァァー!?」

 

 頭から丸呑みである。

 口からはみ出している両脚をじたばたと動かしている時点でまだ息はあるのだろうが、一瞬で起こった惨事にメグルは対応出来なかった。

 砂の下から現れたのは、見上げる程に巨大なナマズのようなポケモンだ。

 

「もがーっももがーっ!?(助けて、生臭い──!?)」

 

(やっべぇ!! 助けられなくなる!!)

 

 ずるずる、と獲物をその大口で捕獲した巨大ナマズは、海へと引きずり込むべく後退していく。

 オドシシを繰り出すメグルだが、もう間に合わない。万事休すと思われたその時だった。

 

 

 

「全く見てらんねーッスね!! ”はどうだん”ッス!!」

 

 

 

 突如何処からか青い弾が飛んできて、ナマズの背を思いっきりブチ抜いたのである。




本日のフリージオ、花言葉「希望」
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