ポケモン廃人、知らん地方に転移した。【完結】 作:タク@DMP
「──ぷっきゅるるる」
長い一瞬だった。
爆音と衝撃波でさしものイーブイも意識が吹き飛んでいた。
しかし、体が動かない。自分が何かの下敷きになっていることに気付いた。
そして──すぐさま、体温の温もりに気付く。
「……無事、だったか」
「ッ……!」
「世話焼かせんじゃねーかよ、ほんとに……!」
ボロボロになったメグルが、イーブイを庇っていた。
服は破れており、全身が擦り傷塗れだ。
伏せていたからか、辛うじて致命傷は免れることは出来たものの、彼の身体からは強い血の匂いが漂っていた。
「メグル君っ!!」
声を掛けたのは博士だった。
彼もケガこそしていたものの、メグルよりも離れていたからか軽傷で済んでいた。
とはいえ、ドーブルはタダでは済まなかったのだろう。ぐったりと倒れており、”元気の欠片”を使って回復させている。
「お、俺は大丈夫──」
「大丈夫じゃないだろ!? リフレクターが無かったら死んでいたかもしれないのに……!」
「へっ、へへへ、確かにいけ好かないけど、それでもコイツは──この世界に来て初めて手に入れた俺のポケモンなんだ……!」
「っ……」
「そう思ったら身体が勝手に……キャラじゃないんだけどなあ……」
オニドリルは攻撃の反動か、それともまだ”キノコのほうし”が残っているのか、地上で息も絶え絶えだ。
しかし、直に息を整えて次の攻撃に入るだろう。
その前に──
痛みを抑え、胡坐を掻くように座ると──メグルはイーブイを持ち上げて言った。
「良いか? イーブイ。お前は強い。だけど──この勝負、お前だけじゃ勝てない」
「……ぷっきゅるるる」
「お前の持ってる技。持ってる力。全部活かして……あのオニドリルに一発、ブチかまそうぜ」
「……」
ぽんっ、と彼の腕から飛び出すと──イーブイは再び戦場に立つ。
しかし、今度はメグルの方をしっかりと向き──「ぷっきゅるる」と力強く鳴いてみせたのだった。
「そこまで言ったのなら、やってみせろよ」と言わんばかりに。
「……メグル君、身体は──」
「むしろ、血もそんなに出てないし。正直死んだかと思ったくらいで」
(俺、引き籠りのはずなんだけどな? 身体だけスーパーマサラ人になった?)
思い当たる節は無い。
しかし、危機的状況から復帰したからか、驚くほど頭は冷静だった。
(それよりも。先ずはあいつを徹底的に弱体化させたい。幸い、イーブイには敵の攻撃力を下げる技がある)
「……補助技で、あいつの能力を下げよう、博士」
「……分かった。逃げるにしたって、あいつを無力化させないとね」
息を吹き返したドーブル、そしてイーブイが再びオニドリルに相対する。
「センセイ、”キノコのほうし”お願いします!」
「イーブイ、”つぶらなひとみ”でヤツの攻撃力を下げろ!」
ばちこーん! とイーブイの渾身のウインクがオニドリルに突き刺さる。
興奮しきっていたオニドリルだったが、その戦意は削げて攻撃力は低下した。
そして畳みかけるようにしてドーブルがキノコの胞子を撒き散らす。
しかし、二度目にも関わらず完全にオニドリルは眠らない。やはり踏ん張り、そのまま戦闘を続行するつもりだ。
だが、眠気に加えて攻撃力も下がっているからだろうか。
既に嘴を使った攻撃は、もうイーブイやドーブルにも通用していない。動きは緩慢だ。
となると、問題になるのはやはりさっきの大技だった。
放つまで時間は掛かるが、その間、オニドリルの回りに岩が飛び回るため、本体に攻撃が通らなくなる。
(攻撃力を上げたら岩を破壊出来たりしないか? ”効果はいまひとつ”でも攻撃力2倍なら実質等倍だし)
「博士、プラスパワーとか持ってたりしない?」
「うーん、その子道具を嫌がるよ? ──あるにはあるけど」
「サンキュー!」
ぽいっ、と博士がメグルに手渡したのは大きなカプセル状の道具だ。
「……イーブイ。俺を信じて、着いて来てくれるか?」
「……きゅっぷい」
こつん、とその額にメグルはプラスパワーを押し当てた。
赤い霧状のエキスがイーブイに降りかかる。
顔はかなり嫌がっているが、今は言う事を聞いてくれるようだ。
だが、それを大人しく待つほどオニドリルもお利口ではない。
「──パラララララララッ!!」
オニドリルは眠気に耐えながらも、飛翔する。
そして地面目掛けて回転する。
”あなをほる”の態勢である。
幾ら攻撃力を下げようとも、地中からの不意の一撃は防ぎようがない。
ポケモンならまだしも──人間ならば猶更である。
しかし。
「──ランターン、冷凍ビームッ!!」
瞬間、オニドリルは生命の危機を感じ、空中で受け身をとる。
その場の誰もが驚きで目を見開いた。
地表目掛けて放たれた最も苦手な”冷気”。それが砂の地面を一瞬でスケートリンクへと変えてしまう。
「っ……今のって──」
「冷ビー!? 誰が撃ったんだ!?」
それを放ったのは新たに介入した第三者。いや、第三のポケモン。
そして、指示をしたのは──
「……待たせたわね!」
──ユイ、その人だったのである。
その傍らにいるのは、ランターン。チョウチンアンコウのような姿をしたライトポケモンであった。
彼女の目に真っ先に入ったのは巨大なオニドリル。そして、ケガをしたメグルだった。
「って、メグル君ひどいケガ!! 大丈夫なの!?」
「何とか……」
そう言ってる間に再びオニドリルの周囲に岩が浮かび上がった。
博士とメグルの顔が蒼褪める。
さっきの大技が──来る。
「っ……ちょっと!? あれじゃあ冷凍ビームが通る隙間が無いじゃない!」
「マズいな。あの後にデカいのが来るんだ。さっきはそれで全員やられてね」
「オオワザじゃない!! 何でそんなものまで!?」
(ヤバいな。冷Bさえあれば確1で終わりと思ったんだけどな!! でも、逆に言えば冷Bさえ通ればこっちの勝ちなんだけど──)
考える暇はもう無かった。
「なあ、射線さえ通れば冷凍ビームは撃てるんだよな」
「……? そうだけど」
「それじゃあ──射線をこじ開ける!」
(これは賭けだ!)
さっきはオニドリルに大技を使われる前に倒すつもりで使用したプラスパワー。
しかし、今は強力な砲台──ランターンが居る。
ならばイーブイが今出来て、この場にいる2匹では出来ないことがあった。
「大丈夫。君なら出来る。プラスパワーで火力は2倍」
「ぷっきゅるるる──」
「良いか、イーブイ。こういう時はイヤなヤツの顔を思い浮かべるんだ」
「えっ」
イーブイは一度、博士の方を向く。
そして──露骨にそっちを睨み付けた。
(イヤなヤツって、僕の事ォォォ~~~!?)
残当である。
「──行けッ!! イーブイ、電光石火ァ!!」
ブチッ
イーブイは跳んだ。
博士の叫びを他所に全脚力を以て跳んだ。
思いっきり、岩の塊目掛けて頭突きした。
プラスパワーで攻撃力は2倍。
タイプ一致で威力は1.5倍。
そして──博士憎しで効果は抜群。
オニドリルの周囲を固めていた岩塊は粉々に砕け散ったのである。
「そ、そんなに僕の事がキライだったのか、イーブイ……」
「ッ……っし、道は開いた!! ランターン、冷凍ビームなんだからッ!!」
【ランターンの れいとうビーム!!】
最早避ける余地などありはしない。
飛行タイプと地面タイプ、共に氷タイプの技は効果抜群。
4倍もの威力となった冷気が──オニドリルを貫いた。
【効果は 抜群だ!!】
【野生の オニドリルは倒れた!!】
※※※
「──オニドリルは研究機関に送られたよ。今は色々調査してるみたいだね。と言っても、ずっと暴れっぱなしらしいけど」
「そうかあ……」
「ところで、見せておきたいものがあるんだけど」
──それから3日程しただろうか。野生ポケモンは無事に捕獲及び山へ送り返され、サンダースのケガも完治したことで、一連の騒動は終息を迎えたのだった。
すぐにメグルはブッ倒れてしまい、そのまま入院となった。
しかし、この世界の外科医術の高さもあってか(ポケモンの技を使ったヒーリングも込みで)、本日漸く退院となったのである。
迎えに来た博士は、嬉しそうにメグルに羽根を見せた。
それは彼にとっても見覚えのあるものだった。最初にやって来た時、ズボンのポケットに入っていた羽根だ。
「君、これをズボンに入れてたでしょ? 羽根が──君を守ってくれたんだよ」
「そうだったのか!? 博士、これって──」
「”まもりがみのはね”。文字通り、森の神様の力が込められた羽根さ。君、一体どうやってこれを手に入れたんだい?」
「此処に落ちてきた時にはもう、持ってたなあ……」
あの時ゴミだと言って捨てなくて良かった、と安堵する。
もし捨てていたら、オニドリルの大技を受けた時点で死んでいたかもしれないのだ。
それを考えると──ほぼ無傷だった博士の身のこなしが際立つ。
やはり、本来はバトル畑の人間だったのかもしれない。ドーブルの強さも合わさり。
「そうか。じゃあ、君がこの世界にやって来たのは──森の神様の思し召しなのかもしれないね。羽根は君が持っておくと良い」
「……聞きだしてやるよ。どうして俺だったのか。俺が何をしなければいけないのか」
「お、やる気だね?」
「何なら、今日にでも旅立ちたいくらいだ。早く元の世界に帰らないといけないからな」
病院での生活は退屈そのものだった。
そして、元の世界に戻ることを目的にしているメグルにとっては足踏みも良い所であった。
「それに……リアルのポケモンも悪いモノじゃなかったなって。少しだけ楽しみになってきてる自分が居るんだ」
「ははっ、その意気だ。そう言うと思ってね。助っ人を用意したよ」
「助っ人?」
病院を出た後。
そこには──ユイが立っていた。
既に彼女は大きなリュックサックを背負っている。
「……なんか準備万端じゃない?」
「博士こそ遅い! 今日にでも出発したい気分なんだからっ!」
「俺まだ何にも準備してねーんだけど」
「なら、あたしも準備に付き合うんだから!」
……どことなく彼女はやる気十分だった。
「今回の件であたしにもまだまだ修行が足りないと思ってね。一先ずオニドリルも捕らえたし、君も1人で旅は不安でしょ?」
「そ、それはまあ。でもいいのか? そっちは……」
「安心して? これでも一度、おやしろまいりを終えてるのよ? 先輩をドーンと頼りなさいっ!」
正直、同年代の少女と旅に出るのは気まずいとメグルは感じていた。
とはいえ、本人は譲る気は無いようであるが。
「と言ったものの、何処から行けば良いんだ?」
「おやしろまいりの順番は特に決まっているわけじゃないよ。近くなら──先ず目指すはセイランシティかな!」
「セイランシティは、此処から南西に下ったところにあるわ。サイゴクきっての巨大な港町、まさに世界の窓よ!」
そう言って、ユイはスマホロトムを取り出す。
ぴっぴっ、とタップしてアプリを起動するとホログラムのマップが目の前に投影された。
スマホでありながらホロキャスター(ホログラム投影機の機能がついた通信機。ポケットモンスターXYに登場)の機能も搭載してるのか、とメグルは感心する。
そしてセイランシティの場所は、サイゴク地方の西の端だ。
(山口県の端の端、確か……武蔵と小次郎の決闘とか、源平合戦で有名な……下関、だったか?)
「それと──君が居なかった所為で、お姫様がずっと不機嫌でね。ほらよっと!」
ぽんっ! と音を立てて、博士の投げたボールから毛玉が飛び出す。
それはメグルの頭に引っ付き──全く離れない。
そして、ずぅっと喉を鳴らしながら嬉しそうな顔をしている。
「ぷっきゅるるるる!」
「イーブイ!? ちょっ、くるしっ、むぐぐぐっ」
「何したのよ? この子手の付けられない暴れん坊だったのよ?」
「ハッハハハハ! よっぽど気に入られたんだねえ! ……ボクの事は嫌いだったみたいだけど」
「心当たりは幾らでもあるでしょーが、フラれた男がぐちぐち言わない」
「どぅーどぅー」
慰めるようにドーブルが鳴いた。何の慰めにもなっていないが。
「……ったく、イーブイっ! 離れろって! 分かったから、分かったから!」
「ぷっきゅるるる」
毛玉を辛うじて引き剥がす。
相も変わらずふてくされた顔がそこにあった。
だが、もう襲い掛かっては来ない。
一歩前進したのだろうか、とメグルは少しだけ嬉しくなるのだった。
「イーブイちゅわーん!! 僕は離れるのが寂しいよ──」
「プッキュルルルルルルルィィィ」
「大変申し訳ございませんでした」
前言撤回。
やはり凶暴性は据え置きであった。
ぎらり、と犬歯剥き出しで威嚇された博士は震えあがって平身低頭。その場に土下座してしまったのである。
「んじゃあ、一緒に行こうか。イーブイ!」
「……ぷっきゅい!」
手持ちは1匹。仲間は1人。
メグルの旅は此処から始まろうとしていた──
(でも凶暴なイーブイに異性の同行者とか、正直不安しかねぇけどな!!)
──全く以てその通りであった。
※※※
「種を撒こう。我らの天下のために」
「苗を育てよう。我らが日の目を浴びるために」
「地に埋もれようとも、いずれは咲き乱れてみせよう、花のように」
「オニドリルがやられたか」
「問題ない。種は幾らでもある。ヌシの力も知れた」
「──全ては、我ら”テング団”の計画の通り」
【メグル現在の手持ち】
イーブイ LV12 ♀ 特性:きけんよち 性格:やんちゃ
技:たいあたり、でんこうせっか、すなかけ、つぶらなひとみ
サイゴク地方の最初のポケモンはイーブイと習わしで決まっている。だが、その気性の荒さで初心者トレーナーから返却されてしまったため、博士が預かっていた。根っからの気性難で、ポケモンであろうが人間であろうが攻撃的。おまけにイーブイにあるまじきやさぐれた態度を見せることもしばしば。だが、本当に認めた相手には甘えん坊になる根っからのツンデレでもある。正直イーブイだから許されている所はあると思う。