ポケモン廃人、知らん地方に転移した。【完結】   作:タク@DMP

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第46話:三人合わさればモンジャラの知恵

「──げぼぇぇぇっ!!」

 

 

 

 いきなり背中に大ダメージを負ったからか、巨大ナマズはアルカを吐き出す。

 砂浜に放り出された彼女は、色んな粘液でぐっちょぐちょになっており、涙目で起き上がるのだった。

 

「も、もうやだーッ!! 何なの今のはーッ!?」

「大丈夫か!?」

「大丈夫なわけないでしょ!! 死ぬかと思いましたよ!!」

 

 ごぼごぼ、と音を立てながら巨大ナマズは海の中へと沈んでいく。

 一先ず危機は脱せた、とメグルは胸を撫で下ろした。

 

「ったく、目の前で食われるんだから……ヒヤヒヤしたっスよ。オレッちとルカリオが居なきゃ、そのまま海の中だったッスね」

「くわんぬ」

 

【ルカリオ はどうポケモン タイプ:鋼/格闘】

 

 ”はどうだん”を放ったのはルカリオ。青い体色に、黒いラインが特徴的な獣人のポケモンだ。

 イヌハギの使っていたものとは違う、メグルもよく知る原種の姿だった。

 

「助けてくれてありがとうございます……」

「本当に助かった。ありがとう」

「何々、当然の事をしたまでッス!」

 

 それを連れているのはサンドバッグを背負ったラフな格好の少年。

 ニカッ、と爽やかな笑みを浮かべると、彼は親指を自らの顔に向けた。

 

「でもこっからは……イッコンタウンのキャプテンであるオレっちに任せてもらうッスよ!」

 

【イッコンタウン”よあけのおやしろ”キャプテン・ノオト】

 

「キャプテン!? お前、キャプテンなのか!?」

「失礼ッスね。サイゴク最年少にして最強の格闘使いのノオト! 聞いた事ないっスか?」

「悪い、ねえわ」

「そこはウソでもあるって言えよ!! 泣くッスよ!?」

 

 自分よりも遥かに年下であろうキャプテンにメグルは戸惑いを隠せない。背格好はこの間小学校を出た中学生くらいだ。

 とはいえ、連れていたルカリオの力を見るに相応の実力者なのだろう、とメグルは察する。

 

「ねーちゃん。平気ッスか? 痛いところは──臭ッ! 全身から腐った魚の匂いがする……!」

「言うなぁ! ボクだって気にしてるんだよ! あいつをシバいたら絶対風呂入る……」

「いやいや、さっきも見た通り、あの偽竜はとても危険なポケモンなんスから。無理しねー方が良いッス」

「あいつが偽竜? デカいナマズじゃねーか」

「と思うっしょ。それが違うんスよ」

 

 ノオトがスマホロトムを起動すると、さっきのナマズ、そしてオレンジの魚のポケモンの画像が現れる。

 ナマズの名前はヘイラッシャ。そしてオレンジの魚の名前はシャリタツというらしい。

 

「な、なんだこいつら……」

「偽竜の怪、またの名を()()()()。こいつらは一蓮托生の生態で、セットなんスよ」

「共生関係ってこと?」

「そうッス。頭はとても悪いが身体がデカいヘイラッシャに、小さいけど頭が良いシャリタツが命令して効率的に狩りを行うんス」

 

【ヘイラッシャ おおナマズポケモン タイプ:水】

 

【シャリタツ ぎたいポケモン タイプ:水/ドラゴン】

 

 シャリタツは打ち上げられて弱った魚に擬態して獲物を誘い込み、そこをヘイラッシャが丸呑みにしてシャリタツがおこぼれを頂く……というのが基本的な彼らの狩りだ。

 しかし、特に頭の良いシャリタツは、それをフルで悪用して人間の食べ物どころか人間まで頂こうとするらしい。

 

「さっきの砂の中に潜ってたのも、シャリタツの考えた作戦ってことか。どっちかっつーとヘイラッシャの方が親方みてーな顔してんのにな」

「ちな、パルデアって地方にはこいつが湖にわんさかいるんだとか。考えたくもねーッス」

 

(怖すぎるなパルデア地方……)

 

 ”偽竜の怪”とは一際賢いシャリタツと、一際大きなヘイラッシャの組み合わせだという。これでも、パルデアでかつて観測された特大サイズの”偽竜のヌシ”に比べれば可愛いものらしいが。

 

「しっかし、何で寿司みたいな姿をしてるんだ? タマゴ巻き、海老、そして赤身……よく出来てるぜ」

「一説によると、シャリタツの姿を真似て作られた料理が”握り寿司”らしいッス。よく、シャリタツは寿司に擬態してるって言われるんスけど、逆なんスよ」

「今、衝撃の事実が発覚したんだが!?」

 

 諸説あります。

 

「じゃあ、このバカは見事にシャリタツの罠にハマってまんまと食われかけたわけだ」

「もう良いでしょー!! 許せない、バラ寿司を台無しにした挙句、ボクまで食べようとするなんてとんでもない奴らだよ!!」

「これに懲りたら、危ない場所に行くのはやめるッスよ……相手は危険な偽竜の怪ッスから」

「ヤだね! バラ寿司の怨み、許すまじだよ」

「どんだけ食いたかったんスか、バラ寿司……」

「今回はまんまと食われかけたが、コレでも腕に覚えのあるトレーナーなんだ……多分。協力させてやってくれ」

「仕方ないッスねー……オレっちも正直、1人じゃあ手に余るなって思ってたんスよ。ヘイラッシャ狩りならショウブさんが居てくれれば楽だったんスけど」

「ショウブ?」

「先代のシャクドウのキャプテンッスよ。1年前に死んじゃったんスけど」

 

(ってことは、ユイのお父さんか)

 

 メグルを拾ったシャクドウシティのキャプテン代理・ユイの前任者がショウブらしい。

 どうやら腕の立つハンターであり、同時にキャプテンの中でも恐ろしい実力の電気タイプ使いだったという。

 名づけられた異名は狼雷のショウブ。銃は稲妻の名で例えられるためである。

 

「ま、仮に生きてても他所のキャプテンに協力してもらうのは姉貴が良い顔しないだろうけど……」

「姉貴?」

「何でもねーッス。ヘイラッシャとシャリタツを捕まえるんスよね? オレっちは格闘使い。捕まえても使い道無いッスから、捕獲は任せるッス」

「徹底的にあいつらをシバいても良いんだよボクは」

「倒したら小さくなって逃げられるだけッスよ。捕獲以外ありえねーっス」

「何だって良いよ。あいつらに痛い目見せられるならね」

「一人で突っ込んで、また食われても助けねーッスよ。何なら囮にしても良いんスけどね」

「ひっ、それはやめて!! お願い!! あいつらに食べられて死ぬなんてゴメンだよ!!」

 

 泣きそうな顔で彼女はノオトに縋りつく。

 強がってこそいたが、やはり食べられかけたのはトラウマになったらしい。

 

「分かった分かったッスから! 生臭いから近付くなッス!」

「臭い言うな!」

 

(そんなに怖いならやめときゃいいのに……)

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 ──洞穴は裏から入ることができ、海水が流れているエリアの上には岩の足場が存在し、上から水場を見下ろすことが出来る。

 海水の通り道が長い時間をかけて大きな空洞になったらしく、この先は川に繋がっているようだ。

 そこでメグル達は獲物を逃した後に狩りをしているであろうヘイラッシャの帰りを待っていた。

 

「ラッシャーセー……」

 

 足場の岩陰に隠れていると、案の定あの巨大ナマズがどん臭そうな顔でどんぶらどんぶらと流れて来る。

 此処を住処にしているのだろう。しかし、シャリタツの姿は見えない。

 

「……あの寿司ドラゴンは何処?」

「シャリタツは普段、ヘイラッシャの口の中に隠れて、食べ残しを食ってるんス。でも、シャリタツが口の中に居る時のヘイラッシャはアホみたいに強いッスよ。無敵ッス」

「小さいのが口の中から命令してるから、か」

「それだけじゃないッス。シャリタツの特性・しれいとうで、ヘイラッシャそのもののパワーも強化されるッス」

「んじゃあ、どうにかして口の中からシャリタツを引きずり出さないと話にならないのか」

「逆に言えば、シャリタツさえ引きずり出せば、ヘイラッシャは只の強いポケモンッス」

「……強いのは変わりねえんだな」

 

 合計種族値は530。

 そこらの最終進化ポケモンよりも高い数値を持つバケモノ、それがヘイラッシャだ。

 それをメグルが知る由も無いのであるが。

 

「先ず、俺がイーブイで攪乱しよう。小さすぎて、あの巨体じゃあ捕らえられないだろうしな」

「上手くいけば、ルカリオの”はどうだん”でアッサリ沈むはずッス。あいつ、脂肪は分厚くて打撃はまともに通らないけど、特殊攻撃はスカスカッス」

「じゃあ、ボクがヘラクロスでシャリタツを口の中から引きずり出すよ。ヘラクロスの膂力なら飲み込まれはしないでしょ」

「ヘラクロス程の馬鹿力なら、ヘイラッシャの顎の力にも負けないし、下手すりゃ舌を引っこ抜けるッスからね」

「おっそろしいな……」

「確かに相手は最強の肉体に最強の知恵。でもこっちは、三人集まればモンジャラの知恵だよ!」

「それをいうなら文殊の知恵、だろ」

「いや、モンジャラの知恵で合ってるッスよ」

 

(この世界ではそれが正解なのか……)

 

「よし、それじゃあ仕掛けるッスよ!」

「オーケー!」

「スシー」

「……ん?」

 

 全員は、声のした方を見やる。

 足場に乗っかっていたのはメグル達だけではなかった。

 

「──シャリシャリ」

 

 さっ、と3人の顔から血の気が引く。

 既に彼らの侵入は気付かれていたのだ。

 シャリタツの口から、高圧力の水の塊が放たれる。

 

 

 

【シャリタツの みずのはどう!!】

 

 

 

「この寿司野郎ォォォーッ!?」

 

 足場は脆くも粉々に破壊され、3人は洞窟の浅瀬に叩き落とされる。

 そして、そこにべちゃりと降りるのはシャリタツ。

 尻餅をついているメグルに向かって、擬竜は挑発するようにヒレを首元に持っていった。

 

「オヌシ、シス」

「あ”? 何だオメー」

 

 

 

 

 

「オシメェ~~~~~!!」

「腹立つゥ~~~~~!!」

 

 

 

 

 そして特大の煽り顔をかましてみせるのだった。

 メグルの額に青筋が2本くらい浮かんだ。完全に人間をバカにしている顔である。

 どうしてサイゴクの野生ポケモンはどいつもこいつも性の根が終わっているヤツばかりなのだろうか、とメグルは考えたが誰にもその答えは分からない。

 

「まさか、全部バレてるなんて……!」

「シャリタツの知能は、ドラゴンタイプトップクラス……ちとオレっちも侮ってたッスね。こいつはその中でも更に賢いッスよ」

「こんなナリで、カイリューやガブやドラパよりも賢いのかコイツ!? 嫌だ!! 俺は信じねーぞ!! 寿司よりあいつらの方がバカだったなんて!!」

「ラッシャァ……?」

 

 何が起こったのかイマイチ要領を得ていない様子のヘイラッシャだったが、親分であるシャリタツが現れたのを見てがぱぁと口を開ける。

 そして、その舌の上にシャリタツは飛び乗った。

 

「が、合体しちまった……!!」

「ラッシャーセー!!」

 

 洞窟はヘイラッシャが暴れるだけの広さがあるが、それでも閉所に違いは無い。

 そこでこの10メートルを超える巨体を相手取らねばならないのである。

 偽竜は一度咆哮すると、その長い尾を振り回し、叩きつけて来る。それを躱し、3人は作戦の手筈通りシャリタツをヘイラッシャから引き剥がすためのポケモンを繰り出した。

 真っ先に飛び出したのは、メグルのイーブイだ。

 

「上がった能力は、少しでも下げる! イーブイ、つぶらなひとみ!」

「ぷっきゅるるるる!」

 

 つぶらな瞳を見つめてしまったことで、ヘイラッシャの勢いが一瞬弱まった。それをアルカが見逃しはしない。

 ヘラクロスが巨大な顎に手を掛けると──

 

「おらおらー!! さっきの怨み!! んでもって──寿司の怨みだーッ!!」

「ラッシャァ!?」

 

 ──思いっきり、こじ開けたのだった。

 がぱぁっと開いた大顎からシャリタツの姿が見える。無論、擬竜が無抵抗でやられるはずはなかった。

 その小さな口から水の塊が放たれ、ヘラクロスを至近距離で吹き飛ばす。

 

【シャリタツの みずのはどう!!】

 

 だが、これしきで倒れる森のチャンピオンではない。仰け反ったものの、即座にシャリタツが居る口内目掛けて”ミサイルばり”を放つ。

 

「よっし!! 直撃だよっ!!」

 

 再び口を閉じたヘイラッシャ。

 その巨大な身体でヘラクロスを押し潰さんとばかりに飛び掛かる。

 流石のヘラクロスも”しれいとう”でステータス強化された状態で放たれた”のしかかり”を受け止めることは出来ない。

 勢いに飲まれ、押し潰されそうになる。だが、それが仇となった。その瞬間、ヘイラッシャの弱点とも言えるどてっぱらががら空きになったのだ。

 

「ッ……ルカリオ、はどうだん!!」

 

 ルカリオが右手に波動を溜め込み、ヘイラッシャに向かってゼロ距離で押し当てた。

 爆音と共にヘイラッシャの巨体が揺らぎ、横向きに倒れ込み、シャリタツを吐き出してしまう。

 すぐさま宿主の所へ戻ろうとするシャリタツだったが、

 

「プッキュルルル」

「ッ……オヌシ!?」

 

 当然、それを阻むのは凶悪毛玉だ。

 シャリタツに組みかかったまま、ヘイラッシャの口の中へ2匹共飛び込んでしまったのだ。

 

「ああ!! イーブイが食われちまったッス!?」

「不意を突かれたならさておき、ケンカモードのあいつがそう簡単に飲み込まれるわけねえよ。シャリタツに組みかかってる限り、ヘイラッシャはイーブイを飲み込めない。一緒に共生相手を飲み込むことになっちまうからな」

 

 メグルが言った後、ヘイラッシャの口の中で爆音が何度も何度も響き渡る。

 

【イーブイの スピードスター!!】

 

【シャリタツの みずのはどう!!】

 

【イーブイの スピードスター!!】

 

【シャリタツの みずのはどう!!】

 

 ヘイラッシャの口腔内では仁義なき戦いが繰り広げられていた。

 当然、流れ弾は全部ヘイラッシャの体内にぶつけられるわけで、地獄の苦しみも良いところである。

 のたうち回っている大ナマズだったが、とうとう堪らず2匹を吐き出した。

 

「おッげぇっ!!」

「ほら見ろ出てきた」

 

 勝者はイーブイだった。

 凶悪毛玉の口には、白目を剥いたシャリタツが見事に咥えられていた。

 

「ぷっきゅるるるる!」

「お、それが戦利品か、偉いぞイーブイ」

「す、すげぇ……ッス!! カンドーッス……!!」

「このイーブイヤバすぎなんだけどぉ……」

 

 純粋に感動しているノオト。感嘆通り越し、ドン引きしているアルカ。当然だが後者の反応が正しい。

 だがまだ勝ったわけではない。

 倒れた親分を見たヘイラッシャは、イーブイ目掛けてのしかかろうとするが──

 

「っと、シャリタツが居なくなったなら、もう怖くねーッスよ!! ごきげんなお仕置きの時間ッス!! ルカリオ、頼むッスよ!!」

 

 ──その大きな腹に”はどうだん”のチャージを再び終えていたルカリオが突貫する。

 やはりシャリタツが居ないと、何処までも鈍重で直線的な攻撃しか出来ないのだった。

 爆発音が響き渡り、10メートル以上の巨体が浅瀬の洞窟に転がり、打ち上げられた鯨のように沈黙する。

 そこにメグルがボールを投げ付けると、あっさりとヘイラッシャは吸い込まれていき、何度か揺れるとそのまま大人しくなったのだった。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「つー訳で、シャリタツとヘイラッシャ、両方共捕獲に成功したわけだけど」

「オレっちは良いッスよ。専門外のタイプッスから」

「アルカ、どっちか要る? 俺が2匹貰うのは流石に申し訳ねーしさ」

「……シャリタツでお願いします。ボク、もうヘイラッシャのデカい口見るのゴメンなんで」

 

 全て終わったからか、げんなりした様子でアルカは言った。

 風呂に入った後で、すっかり生臭さは消えたが、未だに自分の身体の匂いを嗅いでいる辺り、鼻腔から消えないようだった。

 

「それじゃあ、俺がヘイラッシャだな。まあでもこいつら合体したら強いし、俺達が片方ずつ持っておけば悪くないと思うぜ」

「ボクは二度とコイツの顔を見るのはゴメンですよ!」

 

(多分イーブイも同じことをアルカに思ってんだろうなあ……)

 

「……それにしても、スゴかったッス! ヘラクロスのド根性に、ヘイラッシャの口の中で暴れるイーブイ! お二人は、オレっちが思ってた以上に凄腕のトレーナーだったッスね」

「まーね! ボク強いから! えっへん!」

「オメーは真っ先に食われてただろーが……」

「その後は頑張ったもん!!」

「特にあのイーブイ! どうやったら、あんな風に育つんスか!? 将来有望ッスよ!」

 

(俺が知りてえわ)

 

 きっと、世界のどんなブリーダーであっても、メグルのイーブイと同じような戦い方が出来る個体は育たないだろう、と彼は確信していた。

 こいつはきっとノーマルタイプなどではない。強いて言うなら悪/格闘タイプがお似合いである。

 

「お二方程の実力があれば……頼めるッスね」

「ん? 何だ?」

「オレっち、実は腕の立つトレーナーを探してたんス」

 

 そう言ってノオトは頭を下げ、そして土下座するのだった。

 

 

 

「──この通りッス!! イッコンタウンの為、そしてオレっちの大切な人達の為……お二人には力を貸してほしいッス!!」

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