ポケモン廃人、知らん地方に転移した。【完結】   作:タク@DMP

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第47話:ふたりはキャプテン

(詳しい事は着いてから話すッス! 実際に見てもらいながらの方が手っ取り早いッスから!)

 

 

 

 ──山を登り、早3時間。

 漸くイッコンタウンが遠巻きに見えてきた。

 メグルはオドシシに乗り、アルカはその後ろをモトトカゲに乗って付いてきていた。このモトトカゲというポケモンは専用のギアさえあれば教習無しでも乗れる、古くから人に乗られてきたライドポケモンである。

 そのため、教習所では最初に教習生が練習で乗るポケモンでもある。

 

「俺はおやしろの試練だから取らされたけど、取らなくても山道はモトトカゲで超えられるんだな。原付みてーなもんか」

「でもボクもいい加減、免許取ろうかと思ってるんですよ。ライドギアあると、手持ちの他のポケモンにも乗れるんですから」

「あー成程、海乗るときとか今度から俺ヘイラッシャに乗れるしな。んで──」

 

 ふと隣を見ると、ノオトは全身がじゃらじゃらと鳴る鱗に覆われたドラゴンのポケモンにライドギアを装着して走っている。

 

「そっちは随分と豪華なライドポケモンだな……」

「山道超えるなら、ジャラランガ! 急な落石が来ても、邪魔な障害物があっても、パンチでブチ壊してくれるッスからね!」

 

【ジャラランガ うろこポケモン タイプ:ドラゴン/格闘】

 

(H75 A110 B125 C100 D105 S85……600族だけど、世代と環境に振り回された、ある意味一番大変なポケモンだな……)

 

 ──600族という言葉がある。

 それは、合計種族値が600ぴったりの、一般ポケモン最強クラスのポケモン達だ。

 カイリュー、バンギラス、メタグロス、ボーマンダ、ガブリアス、サザンドラ、ヌメルゴン、ドラパルト……と言ったように、各作品に大抵1匹は存在する。

 いずれも大器晩成のドラゴン達で、最終進化まで育て上げるのは大変だが、それに見合った強さを持ち、対戦環境に進出することもしばしば。

 だが、当然その中にもある程度強さにはピンキリがある。

 このジャラランガは、尖った能力が少なく、タイプも当時最強だったフェアリーに極めて弱い事から、初登場のサン・ムーンでは600族最弱の烙印を押されていた。

 ……かと思えば、マイナーチェンジのウルトラサン・ウルトラムーンでは専用Zワザを手に入れて、一転して強ポケになったので、分からないものである。

 ……と思っていたら次回作の剣盾ではやはり環境に恵まれず、使用率が伸びなかった。何もかもダイジェットが悪い。

 そしてスカーレット・バイオレットでは──リストラ。テラスタルと相性は良さそうなのに、ジャラランガの明日は何処だ。

 

(とはいえ今までの経験から、俺達廃人がよえーってバカにしてたポケモン程、現実では強かったりするからな……侮らんとこ。これはゲームじゃねえんだから)

 

「勿論、戦闘面でも敵無しッスよ! 修行を極めた強者、弱いワケが無いッス!

 

(この世で一番不安になる煽り文句だ……)

 

 とはいえ、流石に身体を鍛えているだけあって道中のジャラランガの動きは危なげが無い。

 落石が起こりやすいらしい岩山だが、その拳を振るえば簡単に砕くことが出来てしまえるだろう。

 現に、野生のゴローンが道中何匹が転がって来たが、ジャラランガがぶん投げて解決してしまった。流石格闘タイプである。

 このままなら、楽にイッコンタウンまで辿り着くだろう、と考えていたその時だった。

 

「この辺から気を付けるッス!」

「何かあるのか?」

「この辺は──野生のアブソルの縄張りなんスよ。イッコン出身の人には襲って来ないッスけど、他所から来た人間には警戒してるッスよ」

「アブソルって、あのアブソルだろ? 耐久低いし、格闘技で効果バツグンじゃねえか」

 

 アブソルとは、災いを知らせに人里にやってくるという白い獣のポケモンだ。

 それによって人間に災いをもたらすと誤解され、迫害された悲しい過去を持つという。

 だが、それはそれとして、アブソルは格闘タイプが得意な悪タイプ。仮に出てきても、ノオトならばわざわざ気を付ける必要はないのではないか、と考えていた。

 

「いや、戦いたくないんスよ。アブソルはオレっち達、イッコンの人にとってありがたいポケモンッス」

「そうなのか。あいつら、実態はさておいて災いポケモンって言われて忌避されてる可哀想なイメージがあったんだけどさ」

「この地方でアブソルに災いポケモンとか言ったら総スカンッスよ」

「分かってるよ」

「後、サイゴクのアブソルには格闘技が通用しないッスから」

「え?」

 

 ──どうやら、そのアブソルはメグルの知るアブソルではないようだった。

 と言っているうちに、岩山に佇む黒い影が幾つもメグル達の眼前に現れる。

 

「なっ、何だァこいつら!?」

 

 それは、メグルの知るアブソルとはすがたの違うポケモンであった。

 立ち振る舞いはそのままだが、体色は黒く、そして尻尾は日本刀のようにしなやかに伸びている。

 見慣れないメグルとアルカが居るからか、彼らは威嚇がてら周囲に剣のようなものを浮かび上がらせている。

 そしていずれもサイズが小さい。メグルが知っているものよりも、一回り小柄で幼い印象を受けた。

 

【アブソル(サイゴクのすがた) ざんれつポケモン タイプ:格闘/ゴースト】

 

【集団で狩りを行い、刀のように鋭利な尻尾で相手を引き裂く。未来を見通す目を持ち、主人に吉報を告げるとされている。】

 

「アブソルは大昔から刀剣の化身と呼ばれるポケモン……それを隣のホウエン地方じゃ疫病神呼ばわり、バチ当たりも良いところッス」

「刀剣の化身!? 随分な異名だな」

「そう、この辺りじゃあ野生のアブソルは神様同然ッス。んで、アブソル達も、この道が人の通る道だなんて微塵も思ってねーッス」

「我が物顔って事だね……」

「だから、この道を通らせてもらうつもりで通るんスよ! 山を無事に渡らせてもらっているという有難い気持ちを忘れずに!」

「わ、分かった──って、うわぁ!?」

「ブルルルゥ!?」

 

 メグルはオドシシのライドギアを引っ張る。

 進行方向に向かって、何かが飛び出してきたのだ。

 

「あ、あぶねー、轢くところだった……! なんだいきなり!?」

 

 恐る恐る、メグルは地面に転がってきた何かを見ると、それは──小さなアブソルだった。

 サイゴクのアブソルは、原種に比べても小柄だ。

 だが、この個体は更に一回り小さく、顔立ちも幼い。

 

「ふーるるる!」

 

 小さなアブソルはこちらを見ると──ふにゃりとした顔でメグルの方に笑いかける。

 まだ子供で、しかもマイペースな性格なのか、他所者であるはずのメグルに対して敵意を見せることない。

 

(かわいい……けど、何でいきなり出てきたんだ?)

 

「メグルさん、前!! 前!!」

「前?」

 

 甲高い鳴き声が聞こえてきた。更にアブソルが2匹、メグルの前に現れ、警戒した様子で影の剣を周囲に顕現させた。

 

「あっ、やっべ……親か、この子の……!」

 

 もう片方は、子供の首の皮を咥えて持ち上げる。

 はしゃいで飛び出した子供を捕まえにやってきたのだろう。

 

「ど、どうすれば──」

「……ふーるる?」

「フルル……ッ!!」

「フルルルル……!!」

 

 にじり寄ってくる2匹は、肉食獣の顔であった。あどけない顔で首を傾げる子供とはえらい違いである。敵意剥き出しで番はじりじりとメグルに近付いてくる──

 

「すみません!! 御子様に大変無礼を働きました!!」

 

 見兼ねたノオトがジャラランガから降りてアブソル2匹の前に割って入り、頭を下げた。

 

「この二人は私が認めた者達で、貴方達に害を成しません! どうか、通していただけないでしょうか!?」

 

 まさに懇願。力いっぱいの請願である。

 メグルもオドシシから降りると、急いで同じように頭を下げ「すいませんでした!!」と謝罪。

 しばらく張り詰めた空気が漂っていたが、許してくれたのか子供を連れて番の2匹はその場からさっと消え去った。

 それを見届けて、ノオトは溜息を吐く。

 

「ちょっと、危なかったッスよ今の! うっかり轢いたりしたら、全員から攻撃されてたッス!!」

「悪い悪い! まさかいきなり飛び出してくるだなんて思わねえだろ!?」

「でも、可愛かったですよねー、まだ子供なのかな?」

「確かに可愛かったけど、捕まえようモンならあいつら全員敵に回すことになりそうだ」

「今みたいなことが起こりかねないッスから! くれぐれも気を付けるように!」

「すいませんでした……」

 

 その後は特に滞りなく山越えは続いた。

 イッコンタウンに辿り着く頃には、日もとっぷりと暮れかけていた。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 ──イッコンタウンは、おやしろを中心とした木造建築の立ち並ぶ里だ。 

 周囲は大きな城壁に囲まれており、野生ポケモンに攻撃されてきた歴史を物語る。

 だがそれ以上に、散々山の中でも見かけたアブソルが我が物顔で町の中でも散見された。

 

「本当にアブソルが沢山だ……町の中に溶け込んでるぜ。トレーナーのポケモンか?」

「イッコンの人々は、昔からアブソルと共に暮らしてきたんス。アブソルが剣ならオレたちは鞘ッスから」

「成程なあ、まさに一蓮托生って訳か」

「野生のアブソルも普通に入り込んでくるッスよ。アブソルは元々人間に友好的なポケモン、山に異変が起こると危険を知らせてくれるんス」

「特別な存在なんだねえ」

 

 曰く、野生ポケモンの襲撃と戦ってきたイッコンタウンでは昔からアブソルを従えて戦ってきたという。

 元々古くから人々と共存してきたポケモンであり、山からポケモンの群れが降りてくればそれを知らせ、人と共に脅威と闘ったのだとか。

 

「さーて此処のポケセン、食堂あるし……皆腹減ったろ。ノオトの頼み事、とやらも聞きたいしな」

「そうッスね。ありがてぇッス」

「立ち話もなんだしねー」

「──ふーるるる♪」

「ん?」

 

 全員の視線はメグルの足元に向いた。

 小さなアブソルが愛おしそうに頭を擦り付けていた。

 懐いてくれているのは分からないが、見るからに先程のアブソルに違いなかった。

 

「……おい。こいつってさっきの」

「ふーるるるる♪ ふるる♪」

「すっごい懐いてますね……ついてきたんですか!?」

「これってどういう事なんだ」

「……一目惚れッスね」

「どういう事!?」

 

 少女マンガのような答えにメグルは再度問いかける。

 ノオトは「これは昔から言われてる事なんスけど」と前置きした上で続けた。

 

「アブソルは剣、人間は鞘。野生の個体は自分が付いていくべき運命のトレーナーを未来の見える目で見極めているらしいッスよ」

「こんな小さな子もか!?」

「絶対違うと思うんだけど……」

「ふーるるる♪」

「うん、実はオレっちも違うと思ってたッス」

「おいどういう事なんだよ」

 

 すりすり、と脚に頭を擦り付けているアブソルを見て、ノオトは確信したように言った。

 

「マジな事を言うと、今日初めて人間を見たんじゃないッスかね? まだ小さいし……だから、初めて目にしたメグルさんに興味津々なだけ」

 

 だとすれば運命じゃなくて事故である。何故ならあの時、アブソルははしゃいで飛び出してきたようにしか見えなかったし、親も急いで子供を回収しにきたのだから。

 

「まーでも、ゴースト・格闘とかなかなか強いタイプじゃねーか、お前俺ん所に来るか?」

「ふるるる!」

「……いーや、少なくとも今はやめておいた方が良いッスよ」

 

 眼光。

 メグルの背に冷や汗が伝う。

 後ろからこちらを見張る成獣のアブソル2匹が見える。

 さっきいきり立っていた番に違いなかった。さながら、娘の初めてのお使いを隠れて見に来た親である。

 

()()()も付いて来たのかよ!!)

 

「やっぱもう少し考えてからでいいんじゃねーかな! うん!」

「ねえ、何であいつらも同伴なの?」

「……子供が付いていった相手が悪い虫じゃないか確かめてるんじゃねえッスかね……あるいは最初から渡すつもりはないとか」

「何なんだよマジで……」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「ふーるるる♪」

「結局食堂まで付いてきてしまいましたね、この子……」

「窓から親は見てるッスけどね……ずうっと」

 

 非常にシュールであったが、店の窓からこちらを覗く成獣のアブソル2匹。

 完全に娘を見守る過保護な両親であった。

 

「まあいいや、放っておこう。ノオト、そろそろ頼みって奴を聞かせてほしいんだけどな」

「ふるるる……」

 

 アブソルがメグルの膝元で切なそうな鳴き声を上げている。

 数秒後、メグルはアブソルを膝に乗せていた。当のアブソルはご満悦でニッコリ笑顔。

 

「……よし、話を続けようか」

「ふるるるるる♪」

「結局折れてるし……ボクは知らないよ。明日八つ裂きになっても」

「うるせーうるせー、後で丁重にご両親にお返しするわ。ノオト、本題に入ってくれ」

「相分かったッス」

 

 こほん、と気を取り直した様子で彼は言った。

 

「ズバリ、テング団の討伐に力を貸してほしいんス」

「ぶっ」

「テング団!?」

 

 アルカが飲み物を喉をに詰まらせた。

 目下、メグル達の最大のたんこぶ・テング団。

 彼らはかつて奪われた”赤い月”を取り戻し、更におやしろへの復讐のためサイゴクの破壊を目論んでいる危険なテロ組織だ。

 

「今や、テング団はサイゴクを脅かす敵。1か月前のベニシティに加え、つい先日はクワゾメにも変なポケモンが出たみたいで……」

「出たのか!? テング団が」

「ただ、あっちのキャプテンが速やかに鎮圧したらしいッスよ」

 

 クワゾメは、メグルの元居た世界では鳥取県に当たる町だ。

 巨大な砂丘──というより、最早砂漠に囲まれた砂の町らしい。

 そこに、ヒャッキのすがたのオニドリルが大群でおやしろを襲撃したのだという。

 誰が放ったかは一目瞭然。テング団の仕業である。

 

「そして、この件に関しては当然イッコンも他人事じゃないんス」

「何かあったのか?」

「──1か月程前ッス。イッコンタウンの果樹園の一部が……氷漬けになる事件が起きたんス」

「氷漬け?」

「言うまでもなくポケモンの仕業ッス。こんな時期に果樹園が凍るなんて有り得ないッスから。そしてその時、町の人が天狗のような怪人を目撃していて……」

「じゃあ、テング団の仕業ってこと!?」

「その時は誰も気にしてなかったんスけどね。テング団の話が出るようになってから、今思えばアレもテング団の仕業だったんじゃないかって……」

「でも何で果樹園を凍らせるんだ? あいつらの破壊活動にしちゃあ、随分と大人しいな」

 

 この果樹園というのは、リンゴ園の事らしい。

 イッコンや周辺の地域は果物が有名であり、リンゴやモモ(モモンの実ではない)、ブドウの栽培が盛んである。被害にあったのは、イッコンタウン近辺のリンゴ果樹園だったという。

 

「被害は少なかったとはいえ、あの果樹園はイッコンにとって、おやしろの一部。豊穣を司る神聖な場所。怪しいヤツが入って好き勝手したからか、姉貴はマジのギレッス。大合議では他のキャプテンにテング団の追討をするように相当ヤンチャを言ったとか」

「ひえー、怖いんだなお前の姉ちゃん……」

「おやしろを守る意思は誰よりも強いッスから……普段から他のキャプテンに隙を見せることも無いッス。見た目と雰囲気に騙されちゃダメっすよ。キャプテンで一番怖いのは姉貴ッス」

「どんなキャプテンなんだろな……ん、待てよ。キャプテン? キャプテンってお前じゃないのか?」

 

 「良い質問ッス!」とノオトは親指をぐっと上げた。

 1つの町にはキャプテンが1人とヌシポケモン1匹、それが常識のはずだ。

 しかし、このイッコンタウンは例外なのだという。

 

「オレっち達のじいちゃん……先代が亡くなった後、何を思ったかヌシ様はオレっち達双子をキャプテンに選んだんス」

「ヌシ様の意向なんだね」

「理由は分からねーけど、それがヌシ様の意向なら従うしかないッスよね」

「それで──どっちが強いんだ?」

「え?」

「……ポケモンバトルはどっちが強いんだ?」

 

 メグルが気になったのは、やはりそこだった。双子のポケモントレーナーで二人共キャプテン。実力はどちらの方が上なのだろう、と。

 だが、意に反してノオトは黙りこくった。

 しばらくして口を開いたかと思えば、

 

 

 

「わっ、わぁ……それ以上姉貴と比べてみろ、大声で泣くぞ! サイゴク最強の格闘使いが! 大声で! 人目も憚らず!」

 

【特性:ライトメンタル】

 

 

 

 ──大ダメージを受けていた。

 姉とバトルの強さで比べられるのが地雷中の地雷だったらしい。

 

「悪かった!! 謝るから泣くな!!」

「で、でも、お姉さんが強いってだけで、キャプテンの中では強い方なんでしょう!? ジャラランガとか連れてるし……きっとそうですよね!?」

 

 アルカがフォローになってなさそうなフォローを入れる。

 しかし。

 

「わぁ……ぁ……」

「泣いちゃった!」

 

 どうやら下から数えた方が早かったみたいである。

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