ポケモン廃人、知らん地方に転移した。【完結】   作:タク@DMP

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第48話:アケノヤイバ

 ※※※

 

 

 

「んで、此処が第一リンゴ園……被害に遭った場所ッス」

 

 凍らされたという例の果樹園に、メグル達はノオトの案内で足を運んでいた。

 そして、事件があったという一角に足を運ぶと──そこには信じられない光景が広がっていた。

 林檎の木々が根元から葉の先まで氷に包まれているのである。

 

「マジに凍ってる……カッチカチだ!」

「こんな事が出来るのはポケモンだけッス。だけど、こんなに長い時間凍らせられるなんて、それ自体が能力である可能性が高い」

「……これ、中の木は枯れてるのかな? ずっとこの状態のままなの?」

「いーや、冷凍保存状態ッスよ。とんでもない低温で、一瞬で凍らされたみてーッス」

「確かにこりゃあ、天狗の仕業だな」

「ふるる……」

 

 今までメグルの足元に居たアブソルだったが、急に怯えたような鳴き声を発する。

 それを見て、何処か納得したかのようにノオトが言った。

 

「何か悪いものを感じるんスね。この氷から」

「ふるるっ」

「あっ、待てアブソル!」

 

 余程背筋の凍るようなものを感じ取ったのか、アブソルは逃げるように、その場から立ち去ってしまう。

 

「また戻ってくるッスよ、きっと」

「やっぱり氷……つーか、これをやったポケモンって相当ヤバいヤツなんだろうな」

「テング団のポケモンである可能性は高いよね」

「もし此処が襲われたら、オレっち達がおやしろを守らなきゃいけない。でも、絶対はない。万全を尽くさなきゃいけない」

 

 おやしろには、格闘タイプとゴーストタイプを専門として使うトレーナーが数多くいるという。

 しかし、彼らの戦術は同じおやしろで修行をしているからか似たり寄ったりであり、予想外の力を使うヒャッキのすがたのポケモンに対応できるかは分からない。

 そのためノオトは多彩なポケモンと戦術を求めた。どのようなポケモンに襲撃されても良いように、対応出来るように外からトレーナーを呼ぶことにしたのである。

 

「しかも、今は何処の町もテング団対策にリソースを割いてるッス。増援は呼べないッス」

「いやでも、さっきの話を聞く限り、お姉さんは相当強いんじゃねえか?」

「そうなんスけどね……あの人、見てて不安になるんスよ。無茶するし──」

「誰が見ていて不安なのですー?」

 

 鈴を転がすような声が聞こえてきた。

 可愛らしい声色だが、まるで影を踏まれたかのような威圧感が裏にはある。

 3人は恐ろしいものでも見るように、振り返った。

 

「おやおやー、これはこれは、ベニシティぶりのお兄さんと、怪しいお姉さん、なのですよー♪」

「……ヒメノちゃん!?」

 

 メグルは思わずその名を呼んだ。

 以前、ベニシティでキャンプをした時に出会った少女・ヒメノだ。

 相変わらずの巫女装束に、ふんわりとした話し方。忘れるはずもない。

 

「姉貴!? 居るならさっさと声掛けてくれッスよ!!」

「うふふっ、ごめんなさいなのですよー♪ ノオトがお友達を連れてくるなんて珍しいから、見ていたのですよー」

「えっ!? って事は、イッコンのキャプテンって──」

「あららー、そう言えば言ってなかったですー?」

 

 ぱちり、と両の掌を閉じると──改めて彼女は名乗る。

 

 

 

「──改めまして、私はヒメノ。ノオトと同じく、イッコンタウンのキャプテン、なのですよー♪」

 

【イッコンタウン”よあけのおやしろ”キャプテン・ヒメノ】

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「成程ー、テング団の討伐に協力してくれるというのですねー?」

「人助けの為だ。放ってはおけねーよな」

「貴重なおやしろや遺跡を、あいつらに破壊されたら石商人として商売あがったりですので!」

「丁度良かったのですよー♪ 私もテング団という唾棄すべき外患にはほとほと困っていて……旅のトレーナーさんの力も借りたかったのですよー♪」

 

 一瞬、周囲の空気が凍り付いた気がした。

 目の前に凍った木々があるのに、それよりも冷え込んだ気がした。

 

(外患なんて言葉使う女の子初めて見た……)

 

(なんか、すっごく怖い……)

 

「そして危険なポケモン・ヘイラッシャを捕まえるとはなかなかのお点前。意気込みのみならず、実力も申し分ないのですよー♪」

「姉貴。オレっちも手伝ったんスよ? オレっちが居なきゃ、そもそも話になってねーッス」

 

 2秒後。

 

「今、私がメグル様にお話しているのですよー♪ 良い子だから分かりますねー?」

すみませんでした、もうしません、ごめんなさい姉貴

「ねえ、ボクこの子怖いんだけど」

「気が合うな、俺も既に怖い」

 

 がたがたと奥歯を鳴らし、震えて鼻水を垂らしながら土下座するノオト。この双子のヒエラルキーというものをしっかり見た気がしたメグル達だった。

 普段は年上相手にも偉そうにしているノオトだが、この同い年の姉にはどうやったって頭が上がらないのだろう。

 

「ときにメグル様。ベニの事件でも、あのパラセクトを相手に活躍されたとかー♪」

「それも知ってんのか!?」

「はいー、ドローンロトムの撮影した映像でメグル様の活躍は確かに拝見しましたのですよ。ハズシ様が到着するまでパラセクトを食い止めた実力、見事だったのですよー♪」

「ハイテクなんだな……」

「とはいえ、天狗共が相手では危険な戦いになるには違いないのです。だから、先におやしろの試練をクリアしてもらうのですよー♪」

「試練? ああ、おやしろめぐりの」

「はいー♪」

 

 くるくる、と回ってみせるとヒメノは機嫌良さそうに言った。

 やはりその目で、メグルの実力を見極めたいのだろう。彼女は楽しみそうに掌を擦り合わせて言った。

 

 

 

「──明日の9時。しっかり朝ごはんを食べてから、我らが”よあけのおやしろ”に来てほしいのですよー♪」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 ──次の日。

 メグル達は、ノオトの案内を受けて”よあけのおやしろ”の前に立っていた。

 そこは神社というよりも武家屋敷という言葉が相応しい。幾つもの壁に囲まれ、神体のある建物は中央に座している。

 高い物見櫓が四方に配置され、野生ポケモンを監視しているのだという。

 町を守る砦にして拠点。そして武運長久を祈願する神社。それが、このおやしろの存在意義なのだという。

 

「おやしろの戦力はベニのそれを上回るッス。御三家三社が結託したのは、一社一社じゃ旧家二社に対抗出来なかったからッスよ」

「まるで戦争があったみたいな言い方だな」

「ええ。遠い過去に何度か。500年前くらいに融和したみたいで、それ以降はおやしろ同士の目立った争いは起きてねーんスけどね」

 

 今はもう争ってる場合じゃねーッスから、と彼は付け加えた。

 

「試練はおやしろの中で行うのか?」

「珍しいっしょ? まあ、おやしろが大きいからなんスけどねえ」

「ほえー、確かに広いよ。なんか、バトルしてる人たちもいるし」

 

 おやしろの中には白線でバトルコートが敷かれており、そこでポケモンをぶつけ合わせるトレーナーの姿も散見された。彼らはおやしろで修行しているトレーナーらしい。

 

「よあけのおやしろは昔から、武術の達人と霊能力者が集まり、町を守るため日々鍛錬していた場所ッス。ま、霊能力者の数は今となっちゃ姉貴くらいなモンすけど」

「霊感があるんだ。ゴーストタイプの使い手らしいと言えばらしいけどな」

「あるなんてモンじゃねーッスよ。絶対怒らせちゃダメッスよ、祟られるッス。メグルさん只でさえデリカシーとか無いんスから」

「ああ、誰かみたいに情けねえ顔で土下座したくねえから気を付けるわ」

お? 喧嘩ッスか?

「やめなよ……全く仲が良いんだから」

「ふるるー♪」

 

 全員は鳴き声のした方を向く。

 メグルの足に、昨日の子アブソルがすり寄り、頭をメグルの足に擦り付けている。

 

「ふるるるー♪」

「お前、まだ居たのかよ!?」

 

 辺りを見回したが、親の姿は見えなかった。

 だとすれば、何処かで隠れてこちらを監視しているのだろうか。子煩悩の親はオバケよりも恐ろしいかもしれない。

 

「流石に手持ちじゃねえポケモンは試練じゃ使えねえよな。アルカ、預かっててくれ」

「はいはい、分かりました」

「ふるるるー♪」

「ま、どうせその日のうちに捕まえたポケモンで突破出来る試練じゃねーッスから」

 

 話しているうちに、メグル達は一際大きなコートに辿り着く。

 御神体が奉納されている御殿の前で執り行われるらしい。

 そして、御殿の中からヒメノがほんわかとした笑顔を浮かべたまま、歩いてくる。

 

「──はいー、よくいらっしゃったのですよー、メグル様ー♪」

「そりゃあもう、キャプテン様から直々に挑戦してくれって言われたんだ。受けて立つのが礼儀ってモンだよな」

「ふふふっ、嬉しいのですよー。やる気も十分な所で、早速始めましょうー♪」

「おにーさんっ、張り切ってくださーい!」

「おうよ!」

「ふるるー♪」

 

 アルカはアブソルを抱きかかえて、来賓用のパイプ椅子に座る。

 メグルの前にヒメノとノオトが並び立ち、緊張した空気がその場に漂った。

 

「それでは、これより……試練を執り行うのですよ」

「この試練はヌシ様と御神体の御前で執り行う神聖なもの。厳正な態度で挑むように、ッス」

「──それでは、ヌシ様おいでませ、なのですよー♪」

 

 

 

 

 

「……エリィィィス!!」

 

 

 

 甲高い鳴き声がおやしろに響き渡った。

 直後、その中央に黒い影が集まっていき、獣の形へと変わっていく。

 

「な、何だ!? 何が出て来るんだ!?」

「よあけの守り神に、その手で武功を示してみせよ!」

「よあけの守り神に、その手で力を示してみせるのですよー♪」

「祓い給え」

「そして清め給え」

 

 黒い翼をはためかせ、鬼火を纏った長い尾を揺らす。

 虎のような縞模様が薄っすらと浮かび上がっており、有翼の人食い虎・窮奇に近い。

 そのポケモン──メグルが知る、アブソルのメガシンカした姿に酷似していた。

 

「……メ、メガアブソルじゃねえか……!!」

「長生きの結果、なのですよー♪」

「えっ」

「メガシンカはポケモンに眠る遺伝子がメガストーンで発現した姿ッスけど、ヌシ様は()()()()()姿()ッス。あるいは長生きして目覚めたのか……ま、長生きし過ぎて誰にも確かめようがないんスけどね」

「古い記録では”アケノヤイバ”と呼ばれているのですよー♪」

 

 

 

【アブソル(サイゴクのすがた) 識別個体名:アケノヤイバ】

 

 

 

「待て、古い記録って──こいつ何歳だ!?」

「このおやしろが出来た頃から生きているのですよー」

怖すぎてワンワン泣いちゃった

 

 さらっととんでもない事実が明かされ、メグルは仰天してしまう。

 だが、よくよく考えてみるとアブソルはゴーストタイプ。長生きする個体は1000年近く長生きしてもおかしくはない。

 何よりゴーストタイプですらないキュウコンですらも1000年生きるらしいので、ポケモンが常軌を逸した長寿でもおかしくはないのだろう、と思い直す。

 ただし、キュウコンの長生きする根拠は、民明書房並みに信憑性が薄いと評判の図鑑の記述であるが……。

 

(それにしても、メガアブソル、か。この手のネタバレは踏まない派だからヌシの情報は調べずに楽しみにしてたけど、まさかアブソルの特殊個体がヌシだなんてな……!)

 

 ソード・シールドで廃止されたメガシンカを思わせる姿に、耐久の低さを補うゴースト・格闘という強力なタイプ構成。

 そして妖怪を思わせる姿へと近づいたアブソルを前に、メグルも武者震いが止まらない。しかも、相手は1000年近く生きているヌシというのだから驚きだ。

 

「それで、ヌシ様と戦えば良いんだな! テンションが上がってきたぜ~!」

「ナメんなっス。これだからせっかちは……ヌシ様との”一騎打ち稽古”は、あかしを3つ手に入れてからッス。あんたじゃヌシ様に傷一つ付けられねーッスよ」

「辛辣すぎてワンワン泣いちゃった」

「あかしを3つ持たないトレーナー様には、ヌシ様の出したお題をクリアし、力を示してもらうのですよー♪ ヌシ様、いつものお願いですよー♪」

 

 アケノヤイバの目が光り、一吼えすると──メグルの目の前に剣の形をした影が落ちた。

 それは次々にポケモンの姿へと変わっていく。それもメグルにとっても見覚えのある──イーブイ、オドシシ、バサギリだ。

 

「んなっ!? 俺のポケモン!?」

「貴方の手持ちのうち3匹をヌシ様がコピーしたのですよー♪」

「ヌシ様は全てを見通す魔眼と、影を自由自在に操る力を持つッス。ボールの中のポケモンもお見通しッス」

「サイゴクのアブソルの特性は”おみとおし”ですのでー♪」

「お見通し出来る範囲が広すぎやしないか!?」

 

 実質的に相手はアケノヤイバの作り出した分身。

 しかし、影達の振る舞いは本当に生きているかのようだ。

 

「勝負は3対3。そちらは影と同じポケモンを出して貰うのですよー♪」

「へっ、影が本物に勝てる道理が無いって思い知らせてやろうぜ! バサギリ!」

「では……こちらもバサギリ、なのですよー♪」

 

 メグルが繰り出したバサギリに合わせ、影のバサギリが現れる。

 先手を打ったのはメグルのバサギリだ。自分と同じ姿をした影が気に食わないのか、気性の荒さを剥き出しにして地面を蹴る。

 

(バサギリの殺る気は十分……だから俺が上手く舵を取る!)

 

「”がんせきアックス”!!」

 

 そして、メグルもそれに振り回されることなく最善のタイミングでそれを指示した。

 身体を思いっきり車輪のように回転させ、己の影目掛けて石斧を振り下ろした。しかし──

 

「こちらも”がんせきアックス”なのですよー♪」

 

 

 

【効果はバツグンだ!】

 

 

 

 ──全く同じ重み、そして全く同じ速度で石の斧がぶつかり合い、バサギリの身体は跳ね返された。

 更に、今の”がんせきアックス”のぶつかり合いで、フィールドには大量の尖った岩がばら撒かれ、そして消える。

 見えない岩・ステルスロック。不用意に動けばポケモンに突き刺さり、ダメージを与える。

 

(ステロのダメージは無視できない……でもそれは、相手も同じだ! 短期決戦で決める……!)

 

「有効打を出せるヤツはお前しかいない、此処で絶対倒すぞ!」

「グラッシャーッ!!」

 

 咆哮し、両腕の斧を打ち付けるバサギリ。

 進化しても、己を鼓舞する時の癖は変わらない。 

 だが相手も同じような動き、そして同じステータスを持つコピー。

 バサギリが強ければ強い程、影もそれに応じて強くなっている。

 

「ふふっ。人間もポケモンも、己に克つのが一番難しいのですよー♪ ”がんせきアックス”で押せ押せなのですよー♪」

「避けろ、バサギリ!!」

「グラッシャーッ!!」

 

 すぐさま摺り足で斧による一撃を躱すバサギリ。

 しかし、その身体に尖った岩が突き刺さる。

 そうして鈍った一瞬の隙を突き、影の斧がバサギリの胴を捉える。

 

「グラァッ……!?」

「怯むな! お前らしく暴れろ──肉を切らせて骨を断て!!」

 

 痛みに顔を歪ませるバサギリ。

 しかし、そこから一気に踏み込み、影の首目掛けて斧を思いっきり振り下ろした。

 被弾したこの瞬間だからこそ、相手の急所が捉えられるのだ。意識が飛びそうになる中、力の限り斧を押し込む。

 

 

 

「──”がんせきアックス”!!」

 

 

 

 影の首は見事に叩き斬られ、消え失せた。

 だが同時に──バサギリも自らと同じ重みの攻撃とステルスロックのダメージを受けて限界だったのか、その場に倒れ伏せる。

 

「相討ちかよ……! 戻ってくれ、バサギリ」

「ふふっ、この試練の怖さ、分かってきたのですー?」

「さっきも言ったはずッス。影の能力は、元になったポケモンと同じ。動きも同じ。真っ向から戦えばよくて引き分けッス。このまま1:1で共倒れが続けば、試練は不合格ッスよ」

 

 だが、何処かで必ず1度は勝たなければ、この3対3の戦いに勝つことは出来ない。

 完全に互角。格上でなければ格下でもない相手。だからこそ、逆に勝利することは困難を極める。

 

(……どうやって、乗り越える……この試練……!)

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