ポケモン廃人、知らん地方に転移した。【完結】   作:タク@DMP

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第49話:よあけのしれん

「次はオドシシ!! お前だ!!」

「じゃあこっちもオドシシ、ッスよ!!」

 

 互いに二番手はオドシシ。

 繰り出されたオドシシは、自分と全く同じ姿をした影を目の当たりにしても尚、冷静に出方を伺っているようだった。

 すぐに突貫するバサギリやイーブイとは大違いである。

 

「確かに実力は同じだ。だけど、運は同じじゃねえよ。素催眠バトルしようぜ!! 素催眠バトル!! 負けたらお前最大3回休みな!!」

「受けて立つッス。オドシシ、催眠術!!」

 

 反響し合う催眠オーラ。

 数秒後には2匹のオドシシが地面に倒れ伏せ、昏倒していた。

 

「同時に寝たーッ!?」

「こんなはずじゃなかったのにッスー!!」

「そりゃそうなるよ……」

「ふるるー♪ ふるるー♪」

「あーアブソルはかわいいねえ、互いに催眠術打ち合ってるバカ達が面白いんだねえ、よちよち」

 

 数分後。

 オドシシ、影、両者共に同時に起き上がる。

 ヒメノが「そろそろ真面目にやりましょうね?」と囁き、ノオトが顔を真っ青にしているのが見えた。

 だが、彼は至って真面目だったのでノオトが責められる謂れは本当は無いはずである。不憫。

 

「くそっ、仕切り直しだ……バリアーラッシュで正面突撃だ!!」

「こっちもバリアーラッシュ、ッスよ!!」

 

 互いに角をぶつけ合うオドシシ。

 展開されたバリアによって衝突のダメージも軽減されるが、互いに有効打も無い。

 

「なら、こっちの運ゲーはどうだ!? ”あやしいひかり”だ、オドシシ!!」

「こっちも”あやしいひかり”ッスよ!!」

 

【オドシシたちは 混乱した!!】

 

「そっちもタマを張るッスよ、メグルさん! ……動けない確率は3分の1ッス」

「真似すんじゃねーよ、こっちの択を!」

「運は実力が絡まないッスからね……拮抗した実力を崩すには丁度良い。あんたにとっても、そしてオレっちにとっても!」

「ソ……ゲ……クソゲー!! クソゲーだよこんなの!! 何やってんのこの人たち!!」

 

 観戦席で見ていたアルカも思わず頭を抱える始末。

 だが、こうでもしなければ完全に互角の相手に勝つことは出来ない、とメグルは判断したのだ。

 運は実力が絡まない、とノオトは言った。しかし、メグルは確信していることがある。

 

(スカーフキッス、いばみがクレッフィ、印パルシェンにムラっけオニゴーリ、素催眠ゲンガー……悪いことは大体やった。何ならキッスはXYからずっと同じ個体を使ってた)

 

 軽犯罪も積み重ねていけば立派な大罪人である。

 

(そんな俺が言えることはただ一つ……運も実力のうちって事だ!!)

 

 どんなに恰好を付けても、ただのクソゲーの申し子なのだった。

 

「”でんげきは”だ!」

 

 混乱こそしているものの、オドシシは目標を見ずとも当たる電撃を放ち続ける。

 だが、影もまた”でんげきは”を放ち、オドシシを感電させるのだった。 

 ダメージレースは互角。先に動けなくなった方が負ける。

 

「”バリアーラッシュ”!!」

 

 両者が同時に叫ぶ。

 障壁が互いに展開された。

 ぐっ、とオドシシが地面を強く踏み込んだ──

 

 

 

「ざーんねん、運はこっちに向いたみたいッスね」

 

 

 

 ──はずだった。

 オドシシは転倒し、起き上がろうとするが再び倒れてしまう。

 そして、影の方は混乱が治ったのか、ノーモーションで角から電撃を放つ。

 混乱でイージーウィン出来る選択肢は、運負けというイージールーズを生む。

 メグルは賭けに敗けた。オドシシは感電すると、そのまま動かなくなるのだった。

 

「しまっ……くそ、戻れオドシシ!」

「これで2対1ッスね。居るんスよ、運で乗り切ろうとするチャレンジャー。でも、そう簡単にはいかねーッス」

「強ち策は間違ってなかったって事か……」

 

 残るメグルの手持ちはイーブイだけだ。

 対して、相手はオドシシ、そしてイーブイの影が残っている。

 よしんばオドシシを倒したとしても、後に控えているのは互角の実力のイーブイである。

 体力が削れた状態でそれを倒さなければならない。

 

「怖気づいたッスか? 逃げるなら今のうちッスよ」

「……此処から勝つ方法」

 

 メグルは頭の中で戦いの流れを考えていく。

 気合を入れ直すため、もう一度ゴーグルを掛け直した。

 

(イーブイは”つぶらなひとみ”を覚えている。だけど同時に、特殊技の”スピードスター”を覚えてるから意味が無い。だから、デバフ無し。小細工無しのぶつかり合いになる)

 

「此処でオドシシを倒せても、相討ちだと負け、か──」

「残りは例のイーブイ。でも、2匹に続けて勝てるッスかね?」

 

 ノオトは()()()挑発してみせる。

 それが、どん底に落ちたチャレンジャーに対する最大限の激励であると知っている。

 

「最初のバサギリで散々分かってるっしょ? 相討ちなら負けッス。今棄権したら、情けなく負けるところを傍目に晒さずに済むッス」

「はっ、冗談は休み休み言えよ。そんな事したら、うちのお姫様にたっぷり怒られるわ! そうだろ!」

「プッキューイ!!」

 

 イーブイはボールから出て来ると共に、その一声でオドシシの影目掛けて飛び出した。  

 その顎に目掛けて渾身の”でんこうせっか”を見舞う。

 更に、影の身体が揺れた瞬間を、凶悪毛玉もメグルも見逃さなかった。 

 その一瞬の隙が、素早い上に小柄で小回りが利くポケモンの前では命取りとなるのだ。

 

(やはり速いッ!! やっぱりこのイーブイが一番のクセモノ……!!)

 

「トドメの”スピードスター”!!」

 

 尻尾から星型の弾幕が放たれ、オドシシの影へと吸い込まれていく。

 絶対必中の遠隔攻撃、耐えられるはずもない。オドシシの影は、それまでの戦いでダメージが蓄積されていたのか倒れ、そのまま消え失せたのだった。

 

「おやおやー? ブチ抜かれないのではなかったのですー?」

「う、うっせー姉貴!! まだこっちにゃ1体残ってんスよ!!」

「はいー、それではイーブイ、行くのですよー♪」

「姉貴ィ!?」

 

 3匹目。 

 飛び出して来たのは、他でもないイーブイの影だった。

 

「ぶつかり合いなのですよー」

「スピードスターを放ち続ければ勝手に沈むッスよ。必ず命中するんスからね!」

 

 尻尾を振り回し、星型弾幕を放つイーブイの影。

 当然、必中技の為全てが命中し、爆音と共に砂煙が巻き起こる。

 だがすぐさま、その中からイーブイが犬歯を剥き出しにして、弾丸のように影へ飛び掛かった。

 

「……怯んでない!? 正気かコイツ!?」

 

 事実、被弾はした。ダメージも受けていた。

 だが自分と全く同じ姿をした相手に敗けるなど、イーブイ自身のプライドが許さない。

 影の首元に噛みつくと、その顎の力だけで空中へ投げ飛ばす。

 技の後隙で動けない影は、それが致命的な隙となった。

  

「”でんこうせっか”だけなら大ダメージは与えられねえけど──」

 

 そのどてっぱらに、渾身の頭突きが炸裂する。

 だが、影も負けてはいない。空中で尻尾を再び振り上げ、星型弾幕を作り出そうとする。

 しかし、そうして動いた尻尾にイーブイは食らいついた。

 

「あらあらー♪ こんなにやんちゃなイーブイちゃんは、見た事が無いのですよー♪」

「しまっ──」

「──落下ダメージも乗せておくぜーッ!! 地面目掛けてトドメの”でんこうせっか”!!」

 

 地面に向かって2匹は勢いよく突っ込む。

 激しく揉み合った末、下になったのは影の方だった。

 自重と勢いも合わせて、首が捩じ切られ、頭部を叩き壊された影は──そのまま霧となって消えたのだった。

 確かにスピードスターは強力な技だ。しかし、速度で繰り返し押せる”でんこうせっか”を中心にした近接戦闘こそがメグルのイーブイの本領。

 威力の高い技には後隙が付き物であり、それを利用して電光石火を繰り返し放って手数で押したのが功を奏したのである。

 相棒を正しく理解していなければ掴み取れない勝利であった。

 

 

 

「プッキュルルルル!!」

 

 

 

 こうして、アケノヤイバによって作り出された影は全て倒された。 

 メグルは見事、3つ目の試練を突破したのである。

 

「前から思ってたけど、やっぱりあのイーブイ、ヤクザ過ぎでしょ色々……あれ生身のポケモン相手にやったら流血沙汰なんですけどぉ……」

 

 尚、アルカの意見は御尤もである。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「エリィィィス……!」

 

 

 

 御殿の前に佇むアケノヤイバが吼えると、目の前に剣の形をした結晶が現れる。

 それをメグルは両の手で受け取った。

 試練をクリアした証明となる”よあけのあかし”である。

 メグルのおやしろまいり──残るおやしろは2つ。

 

「結構苦戦したけど、何とかなったな……イーブイのおかげで」

「プッキュルルル!」

 

 メグルの首元にしがみつき、イーブイが甲高く鳴いてみせる。

 

「そのイーブイ、マジで見どころしかねーッスよ。ヌシ様も興味を持ったみたいッス」

「ふふっ、武功に優れたポケモンは幾ら居ても困りませんのでー♪」

「ぷっきゅるる♪」

 

 ぴょいっ、とメグルの首元から飛び降りると──得意げにイーブイはメグルに頭を差し出す。

 「撫でることを許す」と言わんばかりに。メグルもその意図は汲み取った。幾ら凶暴毛玉と言えど、褒めてほしい時は褒めてほしいのだろう。

 しかし。

 

「ふーるるるるるっ!!」

「どわぁ!?」

 

 空いたメグルの後ろ首に、いきなりアブソルが飛びついてしがみつく。

 

「な、なんだよいきなり!?」

「ふるるるー♪」

「ああ、ゴメンなさい! いきなり飛び出しちゃって……」

「あっははは、おいおい舐めるなよ、べとべとになるじゃねえか」

「自分の事みたいに喜ぶじゃん」

「どうやら今のバトルを見て、ますます気に入ったみたいッスね。メグルさんの事を」

「野生のアブソルはトレーナー様を見極めると言いますのでー♪」

 

 メグルにじゃれつくアブソル。

 それを微笑ましく見守る各員。

 だが、一番重要な事を忘れている。メグルの目の前で一気に不機嫌そうに後ろ足をダンダンと打ち付け始めたイーブイだ。

 珍しく機嫌が良かったので主人に頭を撫でさせてやろうと思ったら、横入り。

 

「ね、ねえ、おにーさん! 前! 前!」

「ん? 前? ──あ」

 

 凶暴毛玉は激怒した。必ず、調子に乗っている主人を分からせてやらねばならぬと決意した。

 脚の音で漸くメグルは、自分が今何をすべきだったかを思い出す。

 

 

 

「お姫様、これは違──」

「プッキュルルルィィィ!!」

 

 

 

【イーブイの でんこうせっか!!】

 

【メグルは たおれた!!】

 

 

 

「どうして……こうなるの……」

 

 腹に痛い一撃を喰らったメグルは地面に倒れ伏せる。

 急にメグルが倒れたからか、何が起こったか分からないアブソルは頭に「?」が浮かびっぱなし。

 

「大丈夫ですか、おにーさん!?」

「さっきまで完璧なコンビネーションだったスよねぇ!?」

「ふふっ、乙女のジェラシーなのですよー♪」

「ケッ」

 

 イーブイはそっぽを向いてしまい、転がり落ちた自分のモンスターボールに前脚を置くと自分から入っていってしまうのだった。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「あー……生き返る……」

「言ったっしょ? イッコンの温泉は最高ッス。染みるっしょ」

「……ああ、最高だ」

 

 ──その日の晩。

 メグルは、案内された温泉に浸かって疲れを癒していた。イッコンタウンは温泉でも有名なのだという。

 男湯にはメグル、そして隣にはノオトが浸かっている。

 

「にしても最後の最後でしくじったぜ……まだ腹が痛ェよ俺は」

「完全に間が悪かったッスね……」

「あれからボールのスイッチ押しても出てきてくれねーんだよアイツ。ま、明日になったら機嫌治ってるだろうけど」

 

 あれからイーブイはすっかり拗ねてしまった。

 ボタンを押してもボールからも出てこない。いつもはスイッチを押さなくても勝手に出て来る彼女が、である。

 

「やれやれ、モテてる男は辛いッスねー」

「うるせーうるせー、ポケモンにモテても嬉しかねーよ」

「ん? でも、アルカさんは彼女じゃねーんスか?」

「あいつは、ただの旅仲間だよ」

 

 最初は怪しいヤツだと思ってたのは否めない。

 しかし、アルカは好きなモノに真っ直ぐだ。メグルも似たようなところがあるので、少なからず親近感は覚えていた。

 

(ま、でも……それ以上でもそれ以下でもねーんだけどな。変な気起こして嫌われたらダセーし)

 

「えっ、じゃあ女の子と付き合った事とかねーんスか、メグルさん」

「ねぇよ。お前は?」

 

 にたり、としたり顔でノオトは指を二本立てた。

 

「2回ッス」

「このマセガキ! オメー俺よりも大分年下だろが」

「そう、ガキッスよ。付き合えたは良いけど、ガキっぽいからって理由で2回とも向こうからフラれたんス」

「……ご愁傷様。でも子供の恋愛ごっこなんてそんなモンだろ」

「同い年の女子ってみーんな大人っぽい人が好きみてーッスよ。それこそクワゾメのキリさんみたいな感じの」

 

 はぁー、と憂鬱気にノオトは溜息を吐いた。

 顔が良いのと、人当たりは良いのでモテはするのだろう。長続きするかはさておいて。

 それはそれで可哀想だな、と思ってしまったメグルだった。

 

「……オレっちも、もっと頼られる良い男になりたいんスけどね……」

「なれるんじゃねーの? 今日だって、立派にキャプテン務め上げてたぜ」

「……姉貴が居るからッスよ」

 

 ぶくぶくと、彼は湯舟に自らの顔を半分沈めて言った。

 

 

 

「……姉貴が居ないとオレっちは、只の半端者ッスから」

 

 

 ※※※

 

 

 

「お邪魔するのですよー♪」

「……マジ?」

 

 

 

 一方、女湯。

 温泉に浸かっていると、唐突に風呂場に入って来たヒメノを前にして、アルカは目を白黒させる。

 

「ふふっ、ベニシティ以来、おしゃべりが出来なかったのでー。嫌だったですー?」

「え、えーと、ボク、誰かとお風呂入るの初めてで──」

「……それにしても、こうしてみると……べっぴんさんなのですよ」

「ふぇ?」

「とっても色白で、しかも……こんなに大きく」

「ちょっ、何処を見てんのさ!?」

 

 思わずアルカは腕で、お湯に浮いていた自らの膨らみを隠す。

 屈託のない笑みでヒメノは言ってのけた。

 

「それは勿論おっぱいなのですよー♪ 大きいことは、善きことなのですよー♪」

「直球!! あのさ、ボクだって好きでおっきくなった訳じゃないんだよ!? 2年前くらいから急に大きくなって色々大変だったんだから。重いし邪魔なんだよコレ」

 

 普段こそ、ジャケットとインナーで押し潰されて目立たないものの、湯に浮かぶ程度には彼女の膨らみは目立つ。

 

「でも、ヒメノは大きい方が良いのですよ。ヒメノにお母様が居たら、きっとこんな感じなんだろうなーって思うのです」

「……お母さん、居ないの?」

「はいー、二人とも亡くなったのです。でも、ヒメノにはオバケさん達が居るから平気なのですよー♪」

 

 この笑顔の裏に、この少女はどれ程の重圧を抱えて生きてきたのだろうか。

 キャプテンとしての責務、親がいない寂しさ。

 そして、親がいない辛さが──アルカには痛い程分かってしまう。

 

「……ボクも分かるよ」

 

 

 ──お前のような一銭にもならんガキを、態々叔父の好で面倒を見てやっているというのに!! お前にやる飯は無い!!

 

 ──欲しいのは妹の方だ。読み書きだけじゃあない。算術機並みに計算が出来ると聞いた。賢いヤツは是非、テング団に欲しい。

 

 ──逃げよう……逃げるんだ……もし別の世界があるなら……行って、みたいな……。

 

 

 

 アルカは目を伏せた。

 思い出すのは──封じてしまいたいほど忌むべき記憶の数々だった。

 

「アルカ様?」

「……ボクも、親が居なくて大変だったから、すっごく分かるんだ」

「そうなのですー?」

「うん。でも、このサイゴクで出会った人達に良くしてもらってさ。今は元気だよ」

 

 にへら、とアルカは目を細めて笑ってみせる。

 辛い記憶に蓋をするように。二度と帰りたくない故郷に目を瞑るように。

 

「おにーさんもね、その一人なんだ」

「アルカ様とメグル様は、どのような関係なのですー? ずっと一緒なのですかー?」

「ただの旅仲間だよ」

「おやおやー、年頃の男女が寝食を共にして何も起こらないとは思えないのですよ」

「寝は共にしてないよ! 勝手な事言うな!」

 

 白い彼女の頬が真っ赤になっていく。

 思い浮かぶのは、メグルと一緒に見た例の過激な映画だった。

 未だにベッドシーン周りがこびりついて頭から離れない。

 

「ふふふー♪ アルカ様は、からかったら面白いのですよー♪」

「……本当に、何事も無いんだってば」

 

 確かに彼といるのは、心地よい。何故か安心感さえアルカは覚えていた。

 だが、元々の目的を忘れてなどいない。

 

(一緒に居て楽しい人だとは思うよ。意地悪だけど、バカみたいに真っ直ぐだし、からかったら面白いし)

 

 彼と過ごした日々はまだ短い。

 それでもアルカは彼に対して居心地の良さを感じている。一方、当のメグルがどう考えているのかは──分からないのであるが。

 

(ボク達はテング団を倒す為に……手を組んでるに過ぎないんだ。おにーさんだって、そう思ってるよ)

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