ポケモン廃人、知らん地方に転移した。【完結】   作:タク@DMP

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第50話:凍てつく侵攻者

 ※※※

 

 

 

「かんぱーい!!」

 

 

 

 ──その日の晩。宿場の一室で、メグルとアルカは飲み物の入ったグラスを鳴らし合う。

 彼らの目の前には、ソースが掛けられたカツ丼が置かれていた。テイクアウトのドミカツ丼弁当である。

 

「で、これからどうする? ノオトのヤツの頼みを受けた以上、テング団がやってくるまでこの町に居なきゃいけねーみたいだし」

「ボクも居ますよ。あいつらは放っておいてもやってくると思いますから。その時に、あの氷について聞き出せば良いんです。とっちめてやりましょう、あの野蛮人共!」

「お前は知らねえのか? あの果樹園を凍らせたポケモンについて」

「ヒャッキ地方も広いんですよ。ボクも全てのポケモンを把握できてるわけじゃありません。パラセクトはあまりにも有名だから知ってただけです」

「そうか……」

「少なくとも、イヌハギの使ってたルカリオでは無理ですよ。あの氷は──呪いか何かの類です。永遠に溶けない氷の息を吐き出す怪物の伝承が残ってるんです」

「呪い?」

 

 通常、氷は一定の温度以上で溶解するのが常識だ。

 氷タイプのポケモンの放った冷気を以てしても、その常識には抗えない。

 それどころか、冷気を放ったポケモンが倒れれば、そのポケモンの力が及ばなくなったことであっさりと氷も低温も解除されてしまう程である。

 しかし、あの氷は違う。凍らせた本人が離れても尚、ずっと果樹園の一角を氷漬けせしめているのである。

 

「じゃあ、ゴーストタイプって事か。氷タイプでゴーストタイプ」

「そうなるんですかね? 呪いならゴーストタイプですか」

「……それなら猶更、あのアブソルが欲しいんだけどな……弱点突けるし」

 

 例のアブソルだが、今日も今日とて、結局親に連れてかれちまったからゲット出来ずしまいだったのである。

 

「おや、だんだん絆されてるんですか?」

「俺は俺の事が好きな子が好きだ! あんなに好き好きされて、手持ちに入れたいって思わねえほうが変だ」

「うわぁ、そうやって男の人ってウワキしていくんですね。あの映画の事が少しは分かった気がします」

「動物全般の話じゃい! 異性に好き好き言われたことなんて今まで一度たりともねーんだわ」

「ふーん……」

 

 そもそも今まで捕まえたポケモンが凶暴毛玉だったり言う事を聞かない蟷螂だったり人食い魚だったりで、オドシシ以外は一癖も二癖もある面子である。

 オドシシもべったりとメグルに甘えるタイプではなく、冷静でクールな忠臣タイプのため、アブソルのようなタイプのポケモンは初めて。

 甘えさせたらその分だけべったりと甘えてくる子犬のようなアブソルを前に、既にメグルの心は懐柔されつつあった。

 

「手持ちに加えたところで、イーブイと修羅場になる未来しか見えませんけどねー」

「うぐっ……」

 

 カチカチ、とボールのスイッチを押しても未だに拗ねているのか彼女は出てこない。

 

「ポケモントレーナーも大変ですねー。モトトカゲ、シャリタツ、美味しい?」

「アギャアス」

「メーシー」

「うちの子達は嫉妬とかしないんで楽ですよ」

 

 カツ丼の切れ端をモトトカゲとシャリタツに分けてやりながら、アルカはにこにこと笑いかけてみせる。

 すっかりシャリタツも彼女の手持ちに馴染んでしまったようだ。

 その横では、カブトとヘラクロスが仲良く並んでポケモン用のジュースを啜っている。

 

「こうやってボクが他の子達と仲良くしてても、カブトもヘラクロスも拗ねたりしないもんね?」

「ぴぎー」

「ぷぴふぁー!」

「お前は器用だなあ……」

「ボクの大事な家族ですから。たっぷり可愛がってますからね」

 

 ぎゅう、とカブトを抱き上げるアルカ。赤く光る目がこちらを見つめてきて、結構怖い。

 

「……皆、サイゴクで出会ったポケモンなんです。誰が一番、だなんて決められないですよ。この子達だけじゃない。今まで会った人達も、皆大好きです」

「遺跡だとか何だとか言って、お前もこの地方が好きだからテング団を止めたいんだな」

「なっ……! 別にそう言うわけではないです! ボクにとって大事なのは遺跡や石で──」

「はいはい分かった分かった」

「むぐー……!」

 

 ぷぅ、と頬を膨らませたアルカだったが──「テング団と戦う……か」と、ふと漏らすのだった。

 

「どうした?」

「ボクの今の意思はテング団と戦うこと。それは変わりません。今更あいつらに未練なんて無いですから」

「……そうか」

「でも、ノオトさんや、ヒメノさんは……ボクがヒャッキの民でも受け入れてくれるでしょうか」

「ッ……それは」

「多分、無理ですよね……」

 

 テング団の件で殺気立っている旧家二社は、メグルが異世界人と知るや否や強硬手段を取らないとも限らない、とハズシが言っていた。

 現にキャプテンのヒメノは、テング団への憎悪が並のものではない。坊主憎けりゃ袈裟まで憎いという言葉があるが、ヒャッキの民でひとくくりにして怨みを燃やしていてもおかしくはない。

 魔女裁判よろしくメグルまで敵認定される、ないし新たな脅威の尖兵扱いされてもおかしくはないのである。

 

「うん……難しいだろうなあ、あの様子じゃあ」

「ですよねぇ……折角、仲良くなれると思ったんですけどね。特にボク、前から同性の友達が欲しくって」

「まあ、仕方ねえよ。テング団の件を全部片づけてからでも遅くはないんじゃねーか?」

「……だったら良いんですけど。やっぱり誤魔化してるみたいで、息苦しいなって」

「アルカ……」

「今更ですけどね!」

 

 この子は本当に「良い子」なんだな、と漸くメグルは確信した。

 立場上、己の身分を隠して行動しなければいけなかっただけで、本当は隠し事一つに罪悪感を覚えるような純情な少女だったのである。

 ポケモン達を皆、ボールに戻した後、申し訳なさそうに彼女は言った。

 

「……長話しちゃってごめんなさい。ボク、自分の部屋に戻りますね──」

 

 

 

 ガリ……ガリガリ……。

 

 

 二人は横を向いた。

 窓ガラスが音を立てている。

 爪でひっかくような不愉快な音。

 覗くとそこには──

 

「ふるーる……」

「アブソルゥ!?」

 

 ──例の子アブソルが引っ付いていたのである。

 急いで窓を開けると、アブソルは「ふーるるるる!!」と何処か怯えた様子でメグルの胸に飛び込んできた。

 

「ど、どうしたんでしょう、こんな時間に……」

「ふるるるる……!」

「お前、大丈夫か? すっごく震えてるじゃねえか……!」

「ふるる……!」

 

 そう言った矢先である。

 窓の向こうから──けたたましいサイレンが鳴り響いた。

 

 

 

「──警報!! 警報!! 巨大な野生ポケモンが出現して接近中!! 対象は冷気を放ちながら周囲を凍らせてる模様──町民は避難されたし!!」

 

 

 

 ……誰がどう聞いても緊急事態である。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 ──すぐさま二人はおやしろに向かった。

 その門の前では、ノオトが僧兵のような恰好をしたトレーナーたちに何か指示を出しており、そのまま彼らは四方に散っていった。

 

「メグルさん!! 来てくれたんスね!! 今から連絡するつもりだったのに」

「あんな放送聞かされちゃあ、黙ってられねえってもんよ!」

「それで、ポケモンは?」

「監視しているドローンが、2キロ先の第三リンゴ園から町に接近してきてる影を捉えたんス。凄まじい冷気で白い霧を纏っていて、姿は見えないんスけどね」

「例の果樹園を凍らせたポケモンか」

「間違いねーっしょ! ま、氷タイプなら格闘タイプでブチ砕けば十分ッスよ」

「格闘が効かなかったらどうすんだ? 相手のタイプは分からねえんだぜ」

「その時はその時! 今時、ゴースト対策してねえ格闘使いはいねーッスよ!」

 

 ノオトがぐっ、と親指を立てた。

 流石はキャプテン、タイプ相性については抜け目がないらしい。

 それにもう1人のヒメノがゴーストタイプの使い手。仮に相手がゴーストでも打点があるので、それで安心しているのだろう。

 

「それでヒメノは?」

「ああ、もうすぐ来るはずッスよ──オレっち達二人なら、絶対勝てるッス! 修行を極めたキャプテン、弱いわけがねぇんス!」

「何でだろう、ボクすっごい不安になるんだよね、その言葉……」

「言ってやんな……その煽り文句で不安になるのはジャラランガだけで十分だ」

「申し上げます、ノオト様!」

 

 と言っていた矢先に、僧兵トレーナーの1人が慌てた様子で駆け寄ってくる。

 明らかに取り乱した様子で、はぁはぁと息を切らせている。

 

「ヒメノ様が先に1人で、氷のポケモンの所に向かったとの情報が──」

「はぁぁぁーっ!? 何やってるんスかあいつァ!!」

 

 顔を真っ赤にしてノオトが叫んだ。

 不安になっていた矢先にこれである。

 

「おいおいおい、秒でフラグ回収かよ」

「ヤバいんじゃない? ってか、2キロ先にどうやって飛んだんだろ」

「恐らくジュペッタの”ゴーストダイブ”でワープしたものと思われ……」

「誰ッスか、姉貴から目ェ離したのはァ!? 姉貴も姉貴で頭沸騰しすぎッスよ!」

「どうするんだよ!?」

「援護に行くしかねーっしょ!」

 

 そう言ったノオトはジャラランガを繰り出す。

 続いてメグル達も、ライドポケモンを繰り出して乗った。

 全身から放つ冷気で周囲を凍らせるポケモンなど、放っておけるわけがない。

 そして、ヒメノであっても一人では危険な相手である。

 

「凍ったら終わり……姉貴も分かってるっしょ……!!」

 

 真っ先にジャラランガが飛び出した。

 アルカも、モトトカゲでそれを追いかける。

 

「ふるるる……」

「お? お前も来るか?」

 

 不安そうな顔でアブソルが歩み寄ってくる。

 

「ふるるる!」

「前脚離すなよ、アブソル!」

 

 そして、アブソルを肩に掴まらせて、メグルもオドシシに跨って走り出すのだった。

 

 

 

「エリィィィス……!!」

 

 

 

 その光景を見た後──ヌシであるアケノヤイバもまた、その姿を消すのだった。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 ──第三リンゴ園は完全に氷漬けになっていた。

 それでも尚、おやしろを目指して氷の怪物は進軍し続ける。

 しかし──霧のベールを吹き飛ばす程の業火が周囲を焼き尽くした。

 煮えたぎるような熱の中、彼女は現れて一歩、また一歩と氷の怪物に進む。

 ヒメノの傍らには、シャンデリアのような姿をした豪奢なポケモンが佇んでいた。

 

「シャンデラ、ご苦労様なのですよ」

「しゃんしゃん」

 

【シャンデラ いざないポケモン タイプ:炎/ゴースト】

 

「貴方だったのですね……あの時イッコンの地に踏み入り、あまつさえ、わたしの()()を傷つけたのは──」

 

 

 

「アップリュリュリューッ!!」

 

【アップリュー(ヒャッキのすがた) おばけりんごポケモン タイプ:???/???】

 

 

 

 甲高い声を上げて、白い霧の中から現れたのは──全身が透き通った氷で出来た竜だった。

 元々、アップリューとは林檎に寄生していた進化元・カジッチュが、そのまま林檎を身に纏って進化したドラゴンだ。

 リンゴ園のあるイッコン周辺でも、たまに木の上にカジッチュがぶら下がっていることがある。

 だが、目の前のアップリューの外殻は林檎ではなく、氷となっている。

 

「……サイゴクにも暮らしているはずの竜が何故……」

「アップリュリュリュリュー!!」

 

 アップリューがケタケタと笑いながら吼えると、ヒメノの周りに凍り付いた林檎がごろごろと転がってくる。

 一見只の凍った林檎だが、そのテッペンからは何かが突き出している。

 他でもないアップリューの進化前のポケモン・カジッチュの目だ。

 カジッチュは草・ドラゴンタイプで、氷タイプを最大の弱点としている上に、林檎に寄生しなければ生きていけない程に貧弱だ。このように氷漬けにされてしまえば、死は免れない。

 

「ッ……なんと惨い事を……!!」

「アップリュリュリュリュリューッ!!」

 

 だが、その時だった。

 アップリューの咆哮と共に、凍ったカジッチュ達からどろどろとしたものが零れ落ちていく。

 そして次の瞬間、それらは再び目を開けて、空中に浮かび上がったのだった。

 中身が腐り落ちて、外の氷だけが残った虚ろな幽霊林檎(ゴーストアップル)として。

 

【カジッチュ(ヒャッキのすがた) おばけりんごポケモン タイプ:???/???】

 

【異常気象で凍ってしまったカジッチュがゴーストとして生まれ変わったすがた。空っぽの中身を埋めるものを求め、他の生き物に襲い掛かる。】

 

(……成程、そうやって仲間を増やす為にリンゴ園に来た、と。悪趣味極まるのですよ)

 

「アップリュリュリュリュー!!」

 

 その声と共に、カジッチュ達がヒメノ目掛けて襲い掛かる。

 だが──其れは全て、シャンデラの放った炎によって一瞬で蒸発してしまったのだった。

 

「……安らかに眠るのですよ」

「アップリュリュリュリュー!!」

 

 しかし、次の瞬間である。

 アップリューが吼えると共に、再び溶けて蒸発したはずのカジッチュが幽霊林檎の姿となって蘇る。

 此処でヒメノは確信した。カジッチュは最早、普通の生物ではない。死んでも無限に蘇る、ゴーストタイプと化したのだ、と。 

 そしてそれを操るアップリューもまた、氷タイプに加えてゴーストタイプを併せ持つと確信した。

 

「ッ……これではきりがないのですよ。シャンデラ! 本体目掛けて”だいもんじ”──」

「──”しきがみらんぶ”」

 

 炎を吐こうとしたシャンデラだったが、その身体に無数のお札が張り付く。

 そして間もなくそれは全て爆発し──シャンデラは地面に転げ落ちた。

 

【──効果は抜群だ!!】

 

「シャンデラ!? そんな──」

 

 お札が飛んできた方をキッとヒメノは睨む。

 その方角には、山伏のような出で立ちに、狐の仮面を被った華奢な少女が樹の上に立っていた。

 そして、その横では白い面を被ったような顔に、九つの尾を携えた人型の狐のようなポケモンが周囲にお札を浮かび上がらせている。

 

 

 

「貴女は……テング団ですね」

「キャプテン、だよね。アルネはアルネ。三羽烏をやってる。以後、よろしく」

 

 

 

【──テング団ボス”三羽烏”アルネ】

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