ポケモン廃人、知らん地方に転移した。【完結】 作:タク@DMP
「……先に行って、アップリュー。おやしろを凍らせてきて」
「アップリュリュリュリュー!!」
甲高い声を上げたアップリューがそのまま翼を羽ばたかせて飛んで行った。
周囲は凍り付いており、氷が溶ける気配はない。
だがそんな中、身体を震わせる素振り一つ見せず、ヒメノは一歩、また一歩とアルネへと近付いていく。
「わたしの邪魔をするなら、末代まで祟るのですよ」
「アップリューの初の実戦投入。邪魔はされたくない。アルネはあなたを止める」
「……そのポケモンは、フーディン、ですね?」
【フーディン(ヒャッキのすがた) おんみょうポケモン タイプ:???/???】
「ん、正解。サイゴクにも居るけど、尻尾が寂しい」
「そんな事は聞いてないのです。素早いポケモンなら、もっと素早いポケモンをぶつけるだけなのですよ」
見た所、そいつは氷タイプを持っていないでしょうし、と付け加えた上で──彼女はボールを宙に放った。
「──ドラパルト」
「キェェェェェェン!!」
現れたのは、ステルス戦闘機のような頭部をしたドラゴンのポケモンだった。
その頭部には二匹、子供が装填されており、今にも飛ばしてくれと言わんばかりに身体を蠢かせている。
「変なポケモン。その頭はどうなってるんだろう。解剖し甲斐がありそう」
「……侮るなかれ。ステルスポケモンと何故呼ばれているのか──見せてあげるのですよ」
ドラパルトの身体が消えた。
そして、アルネとフーディンの身体に何かが突き刺さり、貫通する。
しかし──ヒメノは手ごたえの無さを感じ取った。
予感は的中し、貫かれたはずの1人と1匹はバラバラの紙になって辺りに散らばる。
再び周囲を見回すと、アルネとフーディンは背後に立っていた。ヒメノは慌てて距離を取り、再びドラパルトに指示を出そうとする。
「アルネのフーディンは……強いよ」
「ヒメノのドラパルトの方が強いのですよ!」
「そうだね。でも、使い手が熱くなっているから、こんな幼稚な罠にも気付かない。”しきがみらんぶ”」
空中にお札が大量にばら撒かれ、透明になっているドラパルトに張り付く。
そして間もなくしてそれらは爆発。一撃で意識を持っていかれこそしなかったものの、ドラパルトはふらふらと地面に墜落していく。
「なっ──ドラパルト、しっかりなさい!!」
「キェェェェン……」
「そして余所見をしているから──自分が危ない事にも気付かない」
ヒメノの身体には──お札が張り付いていた。
それはすぐさま起爆し、爆炎が身体を焼き焦がし、爆風が彼女を吹き飛ばした。
「がはっ……!?」
「大丈夫、手加減はしてる。貴女には、手持ちを全部吐いて貰わないと困るから。でも──手加減されるのはナメられてるみたいで、アルネはイヤ」
「ぐぅっ、う……!!」
悔しさと、情けなさでヒメノは泣きそうになっていた。
あれだけ他のキャプテンに威勢よく啖呵を切ったのに、いざ戦いになれば自分はこうして追い詰められている。
だがそれでも。それでも此処で膝を突いてしまえば、彼女は自らが今まで抱えてきた「怨み」を晴らせはしない。
「貴女たちさえ居なければぁ……!」
「居なければ? それはこっちの台詞。サイゴクの人間が500年前、何をしたのか知らないとは言わせない」
フーディンが空中に大量のお札を浮かび上がらせる。
「その所為で……ヒャッキの地は今も滅茶苦茶。あなたたちも味わうと良い。今、痛い? 苦しい? こんなものじゃないから」
「……わたしの身体はどうなったって良いのですよ──せめて、氷をどうにかできる方法を、教えなさい……!」
「氷? 凍らせたポケモンを倒さない限り溶けないけど……離脱させない。言ったでしょ? アップリューにはおやしろを破壊する任務があるから」
見ると、凍った木にはお札が貼り付けられており、その間を鎖のようなものが繋いでいる。
「逃がさないから。”とおせんぼう”」
「姑息な真似をするのですよ……!」
「……キャプテンの足止めがアルネの最重要任務。楽しみだね、アップリューがおやしろに着いたらどうなると思う?」
「ジュペッタ! 次は貴方が行くのですよ!」
無理矢理身体を起こしたヒメノの手から、彼女の怨みを一身に受けたジュペッタがケタケタと笑いながら飛び出した。
「ん。まだ諦めないのは──実験し甲斐がある」
アルネが言った瞬間、その後ろに──2匹のアブソルが現れる。
増援が来たのか、とヒメノは一瞬期待したが、それはすぐさま打ち砕かれた。
2匹の首には、宝石の付いた首輪がはめ込まれており、明らかにヒメノに敵意を向けている。
「……この子達は──」
「此処に来るまでに邪魔してきたから、動作確認ついでで付けた。実験は成功。今はアルネの言う事を聞く、アルネの実験動物だから」
「なんて、ことを……!!」
「アルネの強制オーライズ装置……動作実験、やるよ」
次の瞬間、アルネは数珠を懐から取り出す。
そこに刻まれた「O」の刻印が光り輝き、アブソル2匹は全身から紫電を放つ鎧が身に纏われていく。
間もなく、彼らの身体は稲光に包まれ、苦悶の声を上げるのだった。
「フルルルァァァァーッ!?」
「グ、フルルルル……!!」
【アブソル<AR:サンダース> ざんれつポケモン タイプ:電気/エスパー】
バチバチと紫電を放ち、ヒメノににじり寄るアブソル達。
その身体には明らかに負荷が掛かっているのか、よろけている。
だが、放たれる電気は強く、そして黒く、ぶつかったもの全てを焦がす勢いだ。
「……実験だのなんだのと! サイゴクのポケモンを──その命を──何だと思っているのです!!」
「──被検体」
ぽつり、と彼女は言った。
「実験動物が犠牲になるのは何時の時代だって当然の事。アルネにとっては、それがサイゴクだろうがヒャッキだろうが関係ない」
「何を……言ってるのです──!?」
「でも、貴方達だって他の生き物を食べて生きてるでしょ? でも、それにいちいち”かわいそう”だなんて思わない。それと同じ」
「そう……そうです、か」
起き上がった彼女は──首からぶら下げていた勾玉を手にする。
そこには、遺伝子のマークが刻まれた輝石が埋め込まれていた。
【ヒメノのメガマガタマと ジュペッタナイトが反応した!】
「ケタケタケタケタッ!!」
「このエネルギー反応──アブソル、オオワザを──」
間に合い等しない。
2匹のアブソルは、無数の影の手に貫かれ、即座にその場に倒れ伏せる。
そして、ジュペッタの身体をエネルギーが包み込み、そして爆ぜた。
「あなたなんか、だいきらい──なのですよ」
【ジュペッタは メガジュペッタにメガシンカした!!】
ジュペッタの身体には、更にジッパーが増えており、そこからは霊体が漏れ出ている。
かぱぁ、と空いた口からは今も尚怨念が湧き出ており、それはヒメノの胸の中を代弁するかのようだった。
「ッ……実験動物じゃ相手にもならない。フーディン、こっちもオーライズ」
「シャドークロー、なのですよ」
全方位にジッパーが現れる。
そこから空間が裂け、無数の影の手がフーディンとアルネ目掛けて伸びていった。
逃れようにも逃れる事すら出来ない。生物だれしも、不意の一撃には弱いものなのだ。
「ぐぅっ……!?」
影の手がアルネの身体を掴み、万力のように強く握り締める。
至って冷たい声でヒメノは突きつけた。
「──さあ、選ぶのですよ。此処で縊死するか、大人しく消えるか」
※※※
「エリィィィス!!」
「アップリュリュリューッッッ!!」
駆け付けた時には、既に激闘が始まっていた。
ヌシ・アケノヤイバと、アップリューの一騎打ちだ。
凍てつく氷の息吹を躱すアケノヤイバ。
その身体からは次々に影で出来た剣が浮かび上がっており、アップリューの身体には何本かそれが突き刺さっていた。
だが、アケノヤイバもまた、脚が凍って地面と縫い付けられてしまっており、動くことが出来ない。
本来ならば影となって逃げることが出来るはずだが、呪いの氷は霊的なポケモンさえも逃がさないのだろう。
「ヌシと……氷のアップリューが戦ってるよ!?」
「デカ過ぎだろ!? 大人の背丈くらいはあるぞ、あいつ!? アップリューって精々リンゴサイズだろ!?」
「ヌシ様の足が凍ってるッス! 助けるッス!」
(H70 A110 B80 C95 D60 S70……意外と耐久が高いが、火力はそこまで──でもあの氷の息吹に当たったらマズい!)
全身が氷で出来た林檎の竜は新たなターゲットが出来たと見るや、甲高く咆哮してみせる。
すると、メグル達の目の前に氷のカジッチュが落ちて来るのだった。
「進化元か! バサギリ、露払いは頼む!」
浮かび上がるなり飛び掛かってくる氷の果実たちを、バサギリが次々に叩き斬っていく。
しかし、やはりゴーストだからか、真っ二つにされたカジッチュ達はすぐさま元通りに戻ってしまうのだった。
まさに林檎のオバケ。不死身の幽霊である。
「ルカリオ! ボーンラッシュで打ち払うッスよ!」
「ヘラクロス、ロックブラストで撃ち落として!」
次々に寄ってくる彼らをポケモンの技で撃ち落としていくメグル達。
だが、如何せん数が多い。なかなか近付くことが出来ない。
しかしその時だった。
「ふるーる!!」
メグルの首から飛び降りたのは、アブソルだった。
勇ましく声を上げると、その周囲から影で出来た獣の爪が浮かび上がっていき、それが青い炎を帯びてカジッチュ達を次々に刺し貫き、地面に縫い付ける。
「”シャドークロー”……! 両親が覚えている技だから、最初っから覚えてたんスね!」
「ゴーストにはゴーストって事か! 霊体の相手を地面に押さえつけた!」
「ふーるるる!」
誇らしげに鳴いてみせるアブソル。
これにより、カジッチュ達は完全に動けなくなり、アップリューへの道は開かれた。
しかし、それで新たな脅威を感じ取った氷竜は甲高く咆哮を上げて、冷気を自らの身体へと集めていく。
メグル達も周囲の空気がいちだんと冷え込んだのを感じ取った。その場全てをまとめて凍り付かせんばかりの冷気。
【アップリューの──アップルゴースト!!】
宙に浮かび上がるのは、巨大な氷の林檎。
その中には大量の冷気が詰まっており、拡散すれば全てを氷漬けにしてしまうだろう。
それを察知したアケノヤイバは、すぐさま自らの影の剣を重ね合わせて、林檎を押さえつける。
だが抑えきれないのか、徐々に地面へと迫っていく。
「アップリュリュリュリュー!!」
まさに勝利を確信した笑みを浮かべ、アップリューは邪悪に甲高く鳴いた。
「ど、どうすれば──!?」
「この距離からなら……ぶち抜けるッスね」
「ぶち抜く!?」
「ああ、そうッス。ヌシ様が押さえつけている今、そしてアップリューがオオワザに集中しているこの瞬間が最大のチャンス!!」
ノオトは追加でもう1つボールを投げ込んだ。
現れたのは、ゆらめく怒髪天に赤い目をした憤怒の権化。
その姿はメグルが知るぶたざるポケモン──オコリザルと酷似していた。
「コノヨザル!! ここ一番、頼むッス!!」
「ここにきて、新ポケモンだとォ!?」
【コノヨザル ふんどざるポケモン タイプ:ゴースト/格闘】
【怒りが限界を超えたオコリザルが、肉体の支配から解き放たれ、この世ならざる力を手に入れた。】
怒り怒髪天を超え、肉体から解放されたコノヨザル。
その頭には幾つもの青筋が浮かんでおり、筋肉はブチブチと音を立てている。
だが心なしか、怒りに任せて暴れ回っていたオコリザルのイメージとは違い、その佇まいは静かだ。
「あれ? 知らねーんスか。オコリザルの進化形ッスよ」
「マジで!? とんでもねえネタバレを食らったんだが!」
「な、何なのこのポケモン……すっごく怖いんだけど──」
「先ずはルカリオ!! ”ボーンラッシュ”でコノヨザルを叩きまくるッス!!」
「はぁ!?」
すぐさまルカリオは、骨の棍棒を波動で作りだし、コノヨザルの頭をポコポコポコと叩き始めた。
当然のように、コノヨザルの頭は下の方からだんだん全身にかけて赤く染まっていく。
だが、あったまっているコノヨザルに反して、周囲の冷気は更に増しつつあった。
「何やってんだ!? 味方を攻撃!? そういうギミックなのか!?」
「寒い寒い!! ヤ、ヤバイ、周囲が凍ってきた──!?」
「一発。一発入れられればそれで十分ッス!!」
「一発で決められるのか!?」
「さぁコノヨザル!! お前の怒りを全部解き放つッス!! 取り合えず悪いのは全部あいつッス!!」
【コノヨザルの──】
コノヨザルが拳を振り上げた。
その瞬間、身の丈以上の大きさの霊体で出来た拳が宙に浮かび上がる。
メグルとアルカは、騒ぐのをやめた。最早これは只の技の域を脱している。
ああ、勝負あったな、と二人は確信した。
「ブッヒィィィィーッブチブチブチブチッ!!!!」
【──ふんどのこぶし!!】
鉄拳がアップリューを正面からとらえ──撃ち砕いた。
「アッ、アップ、リュ……」
逃げる間も与えなかった。
文字通り破砕された氷のように、その身体はバラバラに砕け散るのだった。
そして、宙に浮かんでいた巨大な林檎も消え失せ、周囲を覆っていた氷も消え去る。
「なっ、何だったんだ今のは……!」
「ふんどのこぶしは、ダメージを受けた数に応じて威力が跳ね上がる技。だからこうやって殴りまくると、オオワザも超えるパワーになるんス」
因みに今、5回ボーンラッシュを受けたので、威力は300となっている。
並大抵のポケモンならば蒸発するレベルのダメージである。そして、ゴーストタイプであろうアップリュー相手ならば効果は抜群。
耐えられるはずがないダメージだ。
「ダブルだったら”ふくろだたき”と相性が良さそうだな……」
「何を冷静に分析してるの!? そもそもコノヨザルに恨まれたりしない? 大丈夫!?」
「常時何かに怒ってるようなヤツなんで今更ッスねえ」
「今更だったかぁ!!」
「エリィィィス」
アケノヤイバの氷も溶けて、動けるようになったようだった。
遠巻きに見ると、凍っていた果樹園の氷も溶けており、アップリューの凍らせたものは全て元に戻ったようである。
しかし。
「ア、アップリュリュリュー!」
──そこはやはりしぶといゴーストタイプ。
バラバラに砕け散っても再び再生したのか、小さい姿のままアップリューは影の姿になってその場から逃走してしまう。
アケノヤイバが剣を突き刺そうとしたが、流石に縮小したポケモン相手には当たらないのだった。
「あ、逃げたアイツ! まだ動けたのかよ!」
「でも氷は溶けたし、あいつの呪いは解けたんじゃないですかね?」
「……それより、姉貴は何してるんスかね……アップリューと戦ってたんじゃなかったんスか」
3人の頭に最悪の光景が過る。
アップリューによって氷漬けにされたヒメノの姿だ。
まさかそうではない、と思いたいが──と腕を組んだその時だった。
「エリィィィス……」
がくり、とヌシが膝を突いた。
先の戦いで彼もダメージを受けていたのだろう。
身体は震えており、ところどころから霊気が漏れ出している。
「ヌシ様、大丈夫ッスか!?」
「エリィィィス……!」
しかし、それでも尚、アケノヤイバは先ほどアップリューがやってきた方角を見やる。
その先に、言い知れぬ邪悪が潜んでいると言わんばかりに。
サイゴクのアブソルは災いを見通す。彼の目が見ている先は、イッコンに災いをもたらす存在だ。
同時に、それと戦っているヒメノの姿も彼の目には映っていた。
「姉貴、あっちに居るんスか? ヌシ様」
「エリィィィス……」
「テング団に足止めされてるのかな」
「姉貴を足止め出来るヤツなんて早々居ないと思うんスけどね……」
メグルは少し考えた後──考えられる最大の脅威の名前を口に出す。
キャプテンでも苦戦する相手など、ヌシクラスのポケモンかそれしか考えられない。
「いーや、有り得るぜ。ベニシティの時に襲って来た”三羽烏”。あいつらのボスならな」
ノオトの血相が変わった。
「……ハズシさんの報告にあったイヌハギってヤツッスね! ハズシさんが苦戦した相手なら、姉貴が苦戦してもおかしくねーッス!」
「現にこうして帰ってきてない訳だからな……」
「急ごうよ! 助けてあげなきゃ!」
「ヌシ様はそこで休んでてくれッス!」
全員はライドポケモンに再び跨る。
ヒメノが戦っている果樹園は然程遠くない。
彼らはそこにすぐさま辿り着くだろう。しかし。
「エリィィィス……」
アケノヤイバは疲弊しきった身体を無理矢理起こし、再び地面に倒れ込む。
彼の見通しているのは災いと、それに立ち向かうヒメノだけではない。
ライドポケモンに乗っている3人に待ち受けている過酷な運命であった。