ポケモン廃人、知らん地方に転移した。【完結】   作:タク@DMP

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第52話:悔恨

 ※※※

 

 

 

「しっ、しま──これほど、までとは──」

「ここで、縊れ死ぬか……アップリューを止めるか。どっちか選ぶのですよ……!!」

 

 

 

 ヒメノがそう言った瞬間だった。

 周囲の氷がいきなり溶解していく。

 木々も、道も、そして満ちていた冷気も消え失せて、後には水すら残らなかった。

 

「……アップリューがやられた……」

「なっ、これは……ノオト達がやってくれたのです!? 氷が溶けた……!? それじゃあ──この子も」

 

 ヒメノは、ボールの1つを取り出す。それを強く握り締めた。

 

「っ……やっと、やっと解放されるのですね……!」

「……?」

「……お願いなのです。元気になって出てきて──」

「一体の何の話──」

 

 思い切って、ボールを目の前に投げた。

 中から飛び出したのは──

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「姉貴!! 姉貴!! ッ……!!」

 

 

 

 そこにあったのは、異様な光景だった。

 地面にへたり込んだまま動かないヒメノ。

 そして、メガシンカも解けて、ボロボロになって倒れ伏したジュペッタ。

 更に目を動かすと、奥には狐の仮面を被った少女に、無数の札を浮かび上がらせたフーディン。

 

「お前、テング団ッスね!! 姉貴に何をしたんスか!!」

 

 真っ先にノオトが食ってかかる。

 しかし、素知らぬ顔でテング団の三羽烏たる彼女は言ってのける。

 

「別に……勝手に人の首絞めておいて、勝手に絶望して……勝手に負けた」

「おい、どうしたんだよヒメノ……!」

「何があったの──!?」

 

 メグルとアルカは思わず彼女に駆け寄る。

 そして足を思わず止めた。当たり前のようにそこに転がっていて、蹴躓いてしまいそうになったからだ。

 氷の塊だった。中には、黄色いズダ袋が入っているようだった。だが、よく目を凝らすとそれが見覚えのあるポケモンであることが分かった。

 

「ミミッキュ、か……?」

「そうだけど……凍ってるの……?」

「……!!」

 

 ノオトは全てを察したように目を背けた。

 その間にも、壊れたオルゴールのようにヒメノは呟き続ける。

 

「なんで……なんで、元に戻らないのです……? ヒメノのミミッキュは、どうして氷が溶けないのです……!?」

「落ち着けヒメノちゃん! アップリューはヌシとノオトが倒した! 氷は溶ける!」

「何があったの……? アップリューにミミッキュを凍らされたなら、何で……?」

 

 

 

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 淡々と、少女は言ってのけた。

 その声を聴き、アルカの肩が跳ねた。

 いつの間にかテング団の少女は彼女の背後に回っていた。

 

「ひっ……待ってよ。何でいるの……!?」

「……イヌハギから聞いてたけど……本当に生きてたんだ、姉さん」

 

 怯えた声を上げるアルカ。

 そして「姉さん」という言葉にヒメノとノオトは反応する。

 目の前に立つアルカと、狐面の少女を見比べたが、仮面の所為で分からない。

 

「姉さんって、どういうことなのです……?」

「ち、ちが──」

「アルネの顔が分からない? これならどう?」

 

 狐面が取っ払われる。

 その下にあったのは、アルカそっくりの青白い肌に、長い赤毛を無造作に伸ばした少女だった。

 常に目は気だるそうに半開きだが、瞳は何も感じないような冷たさだ。

 

「アルカ、そっくりだ……!」

「何で逃げたの? 姉さん。逃げなかったら、アルネの力で姉さんをテング団に入れられたのに。待ってくれれば、良かったのに」

「アルネ……何で、こんな所にまで……!! ボクを追いかけてきたの……!?」

 

 メグルは思い出す。

 イヌハギが言っていたのだ。アルカには──テング団の妹が居る、と。

 

「イヌハギ達は姉さんの事を嫌ってる。姉さんが落ちこぼれの抜け人だから。でも……アルネだけは姉さんの味方」

「ッ……」

 

 アルカは声も出ない様子で後ずさった。

 彼女の事を恐れているかのような怯え方だった。

 思わずメグルが間に入り、腕を伸ばした。

 

「やめろ──お前らはもう関係ねえだろ!」

「姉さんは……アルネたちの敵? アルネたちの邪魔をする?」

 

 それを意にも介さずに、感情など凡そ感じられない声で彼女は問いかける。

 アルカは震えながら顔を伏せた。

 

「……ボ、ボクは……」

「答え、考えといて。アルネは今、三羽烏。アルネの所に来るなら、イヌハギも手出しできないから」

 

 そう言い残すと、アルネの後ろに黒い影が現れる。 

 先程絞められた首を忌々しそうに摩ると、影に飲み込まれるようにして──フーディンと一緒に彼女は消え失せた。

 

「どういう事ッスか……アルカさんは、三羽烏の姉……!?」

 

 ノオトが状況を飲み込めない様子で狼狽し、メグルが説明に困り、アルカが怯えた顔で座り込む中。

 

 

 

「姉さんってどういうことです?」

 

 

 

 一際、はっきりとした声がその場の全員を凍り付かせた。

 目をカッと開いたヒメノが立ち上がるなり、アルカに詰め寄る。

 氷漬けになっていたミミッキュは既にボールの中に吸い込まれていた。

 

「どういうことです? 何故、答えられないのです?」

「ち、ちが──ボクは──」

「答えてもらうのですよ。アルカ様。貴方は……テング団の仲間だったのです?」

 

 一言。

 その一言がアルカを追い詰めていく。彼女は既に恐慌状態に陥っており、まともに受け答えが出来る様子ではない。

 アルネだけではなく、ヒメノにも怯えているようだった。

 無理も無かった。今までの彼女の朗らかな仮面は死に、ヒメノは完全に修羅と化していた。

 見兼ねたメグルが「違うんだ! アルカは、えーと、ややこしい事情があって──」と割って入るが、彼の首に黒い手が浮かび上がった。

 息苦しさが直後に襲ってくる。

 

「ゲンガー。締め上げなさい」

「ぐっ、うぎ──」

 

 メグルの身体が浮かび上がっていた。

 しばらくして、黒い影のようなポケモンがケタケタと笑いながら実体化する。

 シャドーポケモンのゲンガーだ。

 

「ヒメノは今、アルカ様とお話ししているのですよ、メグル様」

「ッ……やめてぇ!! 全部!! 何でも知ってること話すからぁ!! おにーさんを放して!!」

「そうッスよ!! メグルさんが死んじまうッス!!」

 

 黙りこくった彼女は冷たい目でノオトを一瞥すると「貴方は、私の味方をしてくれないのです?」と問いかける。

 その威迫にしどろもどりになる彼だったが、とにかく彼女を落ち着かせるべく言葉をつづけた。

 このままではメグルが絞殺されてしまうと確信していた。ヒメノが怒るとタガが外れる事は彼が一番知っている。

 

「そういうわけじゃ──でも、何か事情が──」

「心配要らないのですよ、ノオト。続きはヒメノがやるのですよ。貴方は手出し無用!」

「げほっ、がはっ……」

「姉貴……!」

「たっぷり、妹さんとの感動の再会の感想……聞かせてほしいのですよ」

 

 地面に放り出されたメグルの喉に空気が再び入ってくる。

 だがその代わり、今度はゲンガーがアルカの頭を掴み上げた。

 

「ア、アルカ……!」

「ごめん、おにーさん──」

 

 最後にポツリ、と諦めたように彼女は言った。

 

 

 

「……黙ってたツケは、きっちり自分で払うよ」

 

 

 

 ヒメノとアルカの身体をゲンガーが包み込む。

 彼女達は、足元に影に溶け込み、そして──消え去るのだった。

 一連の始終を見た後、ノオトはメグルの胸倉に掴みかかる。

 

「メグルさん、どういう事なんスか!! 話してくれッスよ!! アルカさんは──」

「ちげぇよ!! アルカは、テング団じゃねえ!!」

「でも、黙ってたじゃねえッスか!」

「落ち着け! 例えばカントー地方の人間が全員ロケット団だって言いてえのか、ちげえだろ!!」

「ッ……あ」

 

 それで頭が冷えたのか──ノオトは掴んでいた手を離す。

 

「……そっちこそ、あの凍ったミミッキュは──」

「姉貴が大事にしてるミミッキュ、ッスよ。」

「そんな話、全然しなかったじゃねえか。そんな素振りも──」

「誰にだって、言いたくねえことの一つや二つ、あるんス。察してほしくねぇことの一つもあるんス」

 

 だとしても姉貴は変に器用過ぎたんスけどね、と彼は言った。

 

 

 

「姉貴にとって、ミミッキュは家族の一人……初めてタマゴから育てたポケモンだったんス」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 ミミッキュはかくれんぼが好きだった、とノオトは語る。

 その日も近くの第一リンゴ園まで逃げていってしまい、ヒメノは追いかけに行ったのだという。

 ヒメノはこのミミッキュを大層可愛がっており、ミミッキュもまた、ヒメノに懐いていた。 

 そして、ついつい主人の気を引こうと、見つけるのが難しい場所に隠れたのだという。

 しかし、ヒメノは霊感がとても強い。たとえどんな場所に逃げても、ミミッキュを見つけられた。

 

「ミミッキュー、ミミッキュー、何処に行ったのですー? 遠くまで行くとヒメノは困っちゃうのですよー」

「姉貴、いい加減ミミッキュに強く言った方が良いッスよ。一緒に探すオレっちの立場にもなってほしいッス」

「もう~、それだけヒメノの事が好きなのですよー♪ 愛されていると大変なのですよー」

 

 しばらくして。

 ヒメノは、ミミッキュの気配が全く感じ取れないことに気付いたらしい。

 不安そうな顔で、いつも隠れ場所にしているリンゴ園を探し回った。

 

「何処に行ったのでしょうあの子」

「──姉貴。あの辺り、凍ってねえッスか?」

「……まさか」

 

 双子は立ち尽くしていた。

 果樹園の一角は、冷気が暴れて狂った後のように凍り付いていた。

 異様な光景を前に二人は呆然とそれを眺めるしかなかった。

 しばらくしただろうか。

 氷漬けになったボロ布が目の前に打ち捨てられていたのを、漸くヒメノは見つけたのだった。

 

 

「ミミッキュ……?」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「姉貴が泣いたのを見たの、あの日が最初で最後だったッスね……」

 

 

 

 手がボロボロなのに、凍り付いたミミッキュを抱きしめた彼女は、ポケモンセンターに駆けこんだ。

 しかし、周りの大人もポケセンも手を尽くしたが手の打ちようがなく、ボールに入ったままなのだという。

 

「……怒ってたのは果樹園を凍らされたからじゃない。大事なポケモンを凍らされたからか」

「んでもって自分が目を離した負い目があるんスよ、オレっちも他所の人間には言わないように口止めされていて……」

「キャプテンなんて特に、言ったら協力してくれそうな人ばかりじゃないか」

「姉貴は不器用ッスから……その辺の辛い事情で同情されたくなかったんだと思うんス。よく言われるんスよ、姉貴は先代に性格が似てるって。頑固で意地っ張りで見栄っ張りな所が……」

 

 ノオトは立ち上がると、拳を握り締めた。

 

「メグルさんもアルカさんがヒャッキの民って知ってたなら、何でもっと早く言ってくれなかったんスか」

「お前があいつと同じ立場ならどうしたと思う?」

「……悪かったッス。姉貴が居る限り、ぜってー無理ッスね……」

 

 彼は目を伏せる。

 キャプテンだからこそ、旧家二社の排他的なスタンスは誰よりも分かり切っていたのだろう。

 取り仕切っているのが激昂したヒメノならば猶更。言おうにも言えるはずがない。

 

「あいつのことをすぐ信用したのはな……好きなモンに真っ直ぐなヤツに、悪いヤツはいねーって俺が勝手に思ってるからだ」

 

 確かに振り回されて困った事もあるが、メグルは彼女とのデートの時、自分と似たようなものを見た。

 博物館で石や遺物を眺めていた彼女の顔は輝いていた。前髪で目は見えないが、とてもはしゃいでいたのが記憶に懐かしい。

 

「付き合いは短いけど……色々あったよ。だけど──妹との感動の対面? 冗談じゃねえ! あんな顔したあいつ、見た事ねえよ……!」

 

 これは、アルカがテング団の討伐に必要だからではない。

 メグルは彼女の真っ直ぐさに惹かれていたし、それだけに彼女の怯えた顔を見て、放っておけないと思ったからだ。

 

「要するに……カワイイ女の子を助けて恩を売ってよろしくしたいから──サイゴク最凶クラスのキャプテンの姉貴に喧嘩を売りに行くんスね?」

「うぐっ、そんなんじゃねーよ」

「否定するところが童貞くせーんスよ」

「そんな不純な動機じゃねえよ!」

「じゃなきゃ、姉貴に挑もうだなんて思わねえ。思えるはずがねぇ。ウチの姉貴のヤバさは……分かってるッスよね? そもそもが四天王クラスの実力を持ったキャプテンなんスから。あんたは冷静じゃねえ。ハッキリ言って取り乱してる」

「ッ……」

「でもそれは──アルカさんに、少なからず好意を抱いている証拠ッス」

 

 自らの淡い好意を指摘され──メグルは言葉に詰まる。

 

「そうかもな……冷静じゃなくなってんのかもしれねぇ」

 

 彼女の居場所はヒャッキの地には無い。そして、サイゴクの地にも無い。そうなれば、彼女は何処にも行くところが無くなってしまう。

 だけど、そんな哀れみだとか、事情だとか関係ない。

 

「……だけど、冷静だとかそうじゃないとかこの際どうでも良い。俺ァ一人でもあいつを助けに行くぞ」

「じゃあ、オレっちも行くッス」

「えっ」

 

 ぐっ、とノオトはメグルに向かって拳を突き出した。

 

「盾突くって言ってるんスよ。おやしろと姉貴に。あんな怯えた顔した女の子……放っておけねえし、頑固な姉貴も放っておけねえッス」

「……随分物分かりが良いのな」

「オレっちも分かるんスよ。好きな女の子に一生懸命になっちまう気持ちは」

「……そう言う事にしといてやるよ」

 

 メグルも拳を突き出し、かち合わせる。

 そうと決まれば早速アルカの救出に──と思ったその時だった。

 

 

 

「ふーるるるる……」

 

 

 

 子アブソルの鳴き声が茂みの方から聞こえてくる。 

 何事か、とメグルとノオトが駆け寄ってみると、そこには、首輪の付いた彼女の親が倒れているのだった。

 

「こいつらって──アブソルの親か!?」

「弱ってるッスね……ポケモンセンターに先に急ぐッスよ!」

「ふるるる……」

「もしかして宿泊所の窓から入って来たのって、親がやられたからだったのか……!」

 

 窓に寄って来たアブソルの不安そうな顔を思い出す。

 いつもと違って、親が居なかったのは、テング団の首輪に彼らが乗っ取られたからだと察する。

 

「なんつー酷いことを……!」

「ふるる……」

「ボールに入れちまうッスよ! 後で逃がせば良いんで!」

 

 おやしろに行く前に、彼らはイッコンのポケモンセンターに急ぐのだった。

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