ポケモン廃人、知らん地方に転移した。【完結】 作:タク@DMP
「──さて、こっからが問題ッスよ」
ポケモン達を回復させ、メグルとノオトはポケモンセンターのベンチで作戦会議を行っていた。
その足元ではアブソルが不安そうな顔でうずくまっている。
「大丈夫だアブソル、お前の父さんと母さんは絶対に良くなる」
「ふるる……」
「メグルさん。真夜中ぶっ通しになると思うッスけど……大丈夫ッスか?」
時計を見やる。
既に夜の11時を回っている。
現にアブソルもうつらうつらとした様子だったので、そのままタオルケットを掛けてやるのだった。
「ああ。問題ねえぜ。急いだほうが良いからな」
「オッス! そんじゃあ、これが、おやしろの見取り図ッス」
ノオトが見取り図をスマホロトムに映し出す。
壁に囲まれたおやしろは、侵入者が現れた時に備えて幾つもの壁と門に仕切られている。
その中に、3つの御殿が存在する。
「そして第三御殿……此処が今回の目的地ッスね」
「何で此処って分かるんだ?」
「悪いヤツを捕まえた時の牢屋が……地下に未だに残ってるんスよ。……拷問器具と一緒に」
「おいおい洒落になってねーぞ……!」
「だからこそ急がねえといけねーんスよ」
姉貴なら使いかねないッス、と彼は言った。
メグルも否定は出来なかった。
ポケモンセンターの外に出ると──目の前に影が集まっていく。
彼らは身構えたが、現れたのは相も変わらず疲れたような目をしたアケノヤイバであった。
「エリィス……」
「アケノヤイバ……! もしかして戦わないといけない流れとか?」
「ヌシ様は、こういう時は中立。どっちかに与する事はねーッスよ」
「そ、そっか……」
「悪いッスね、ヌシ様。いっつも心配かけて。でも、姉貴の事はオレっちに任せて、あんたは休んでほしいッス」
「……エリィス」
「大丈夫。メグルさんが付いてるッスから」
「いや、俺の方が助けてもらってる立場だし」
「気にしねーッスよ。どうせこれから、そんな事言ってられなくなるッス」
二人は駆け出した。
目指すはおやしろである。
そんな彼らの後姿を、アケノヤイバはじっと見つめているのだった。
「……エリィス」
※※※
壁を乗り越えるとブザーが鳴り響く仕組みになっており、増援を呼びかねない。
従って作戦はただ一つ、正面突破あるのみだ。閉まっている門をライドポケモンに乗って飛び越え、彼らは正面の玄関に躍り出る。
案の定、僧兵の恰好をしたトレーナーたちがボールを構えているのだった。
「すみません、ノオト様。ヒメノ様の命令で、今日は誰もこの中に通すな、とのことです。ノオト様も含めて」
「テング団の団員を捕まえたとのことで、今はヒメノ様が直々に尋問しているとのこと。ノオト様は同情して肩入れしかねないから通すなとのことで」
「ったく、面倒ッスね。どうしても入りたいと言ったら?」
「我々を倒して進んでもらいますよ。たとえ貴方と言えど」
「おやしろの指揮権は、ヒメノ様にありますので。我々はコレが仕事。悪く思わないで貰いたい」
と、口では言っているが、全員決まりが悪そうな顔をしている。
そしてとうとう、僧兵の一人が手を上げて言った。
「あのー……1つ良いですか? ノオト様」
「良いッスよ」
「……どうせ姉弟喧嘩でしょう?」
「まあ、似たようなモンっすね。喧嘩っつーか意見が割れたっつーか」
「はぁ……」
それを聞いて僧兵たちは肩を落とす。
「そっかぁ……そっかぁ……」
「どうする? 俺ノオト様と戦うの嫌なんだけど。後で気まずくなるし。俺明後日一緒にゲームする約束してんだよ」
「あーしてたッスね、そういや」
「アットホームな職場か?」
メグルのツッコミはスルーされ、彼らの愚痴は続く。
「後、ノオト様強いんだよ普通に……」
「なんかこう……ね? 御子様だから気が引けるっていうか……ヒメノ様も何考えてんだろ」
「うん……まあでも一応体裁上はそう言う事にしとかないとだから……」
「コイツらひょっとして嫌々だな?」
「嫌々っていうか、ヒメノ様に逆らったらマジで怖いし……」
「あーうん……」
おかしい。正面から乗り込みに来たはずなのに、微妙な空気が流れつつある。
それならもう大人しく通してくれないだろうかと思うメグルだったが、上司がヒメノなのでそういうわけにもいかないのだろう。
「……なんつーか……全員ご愁傷様ッス」
「はい……」
「んじゃー各員、これはぶつかり稽古って事で。テング団の警備は他のヤツらがやってるんで、手加減はしなくていいッスよ、その代わり無傷の手持ちの数は余裕残しておいて……」
「はい……」
「もう茶番じゃねーかよコレ、緊張感の欠片もねーじゃん」
「本番は姉貴ッスよ、メグルさん。それに、コイツらは懐柔出来ても、警邏のポケモンは懐柔出来ねーっス。姉貴の捕まえたポケモンなんで」
(それにしても、俺もこの人たちが可哀想になって来た……)
一周回って同情心すら湧いてくるメグルであった。
しかし、職務に忠実なトレーナーたちは、次々にポケモンを繰り出して来る。
サワムラーにムウマージ、更にサイゴクのアブソル。格闘タイプとゴーストタイプのポケモンが半々だ。
あっと言う間にメグル達は取り囲まれてしまうのだった。
「命令は命令! 止めさせて貰う……押忍!!」
此処で止まってしまっては、ヒメノに勝てるはずがない。
メグルは取り囲まれながらもノオトに背中を預け、ボールを構える。
「なあノオト。俺一回やってみたかったんだよな、団ラッシュってやつ」
「あー……遠いパルデアではそう呼ぶみてーッスね。こういう一対多戦闘」
「そうなんだ!?」
飛び掛かってくるポケモン達に目掛けて、メグルとノオトも一気にボールを投げる。
ジャラランガとバサギリ。
それぞれがやる気十分といった様子で、次々に襲い掛かってくるポケモン達に向かっていく。
「──メグルさん、耳塞ぐッスよ! ”スケイルノイズ”!」
「おうよ! ばら撒け、”がんせきアックス”だ!」
じゃらじゃらと鳴り響く鱗から放たれる音のエネルギーが、向かってくるゴーストポケモン達を一瞬で吹き飛ばす。
メグルも耳をふさがなければ鼓膜が割れてしまう程の音圧だ。
そしてバサギリも一瞬で格闘ポケモン達に間合いを詰め、脳天に斧を叩きつけ昏倒させ、更に向かってきた相手に回し蹴りを決めてみせる。
ストライク時代のアクロバティックな動きは今も尚、健在だ。
更に、地面にばら撒かれ、埋め込まれた見えない岩が起爆して、敵のポケモン達にダメージを与えていく。
「グラッシャーッ!!」
「ボウジーンッ!!」
雄叫びを上げ敵を蹴散らしていく2匹。
しかし、当然それを掻い潜ってくる敵も出てくるわけで、素早い動きのゴーストとアブソルが集団でやってくる。
「ッ……こういう時はお前だ! オドシシ、あやしいひかり!」
団子になってやってきた敵は、見事に全員まとめて混乱し、同士討ちを始めたのだった。悲惨。
だが、そんな情けない味方をも蹴散らし、一際巨大なゴーレムポケモン・ゴルーグが戦場に現れる。
【ゴルーグ ゴーレムポケモン タイプ:ゴースト/地面】
「それなら出番ッスよ、カラミンゴ!!」
「くえーっ!」
ゴルーグの巨大な脚に飛び乗ったのは、ピンクのフラミンゴのようなポケモン・カラミンゴだった。
すぐさま踊るような動きでゴルーグの身体を駆け上っていくと、カラミンゴは華麗に舞い踊り──その頭に強烈な蹴りを何度も何度も何度も叩き込む。
「ごぉっ……!?」
巨体は崩れ落ち、そのまま倒れて動かなくなってしまった。
ファンキーな見た目のカラミンゴだが、見掛けによらず能力値は高いのである。
「必殺”インファイト”どうだったッスか?」
「ゴルーグに格闘技が当たってる──特性”きもったま”か!」
「言ったっしょ! 今時の格闘使いは、バッチリゴースト対策もしてるんスよ!」
「くえー!」
翼を広げ、得意げにカラミンゴは鳴いてみせるのだった。
とはいえ何度見てもメグルには、この鳥が格闘タイプのポケモンには見えない。まんま首の絡まったフラミンゴだからだ。
(世の中にはまだ、俺が知らねえポケモンが沢山いるんだなあ……)
【カラミンゴ シンクロポケモン タイプ:飛行/格闘】
「く、くそっ……分かっちゃいたが、ノオト様は強すぎるし、あのチャレンジャーのポケモンも強い!」
「ヒメノ様を呼ぶぞ! めっちゃ怖いけど!」
「そんじゃあ、すんません、ノオト様ー! 俺達退散しまーす!」
「はーい、お疲れ様ッスよ本当……」
散り散りになっていく僧兵たちに手を振るノオト。やはり、ヒメノに振り回される彼らには同情を禁じ得ないのだろう。
とはいえこれで邪魔者は居なくなった。後は第三御殿に向かってひたすら走るのみである。
(無事で居てくれよ、アルカ……!)
※※※
──妹は初めて捕まえたポケモンをボクに見せてきた。
「姉さん。この子、捕まえた」
「にょろにょろ」
「うわぁ、ニョロモじゃん。すごいよアルネ。ポケモンを捕まえる才能、あるんだね!」
「……」
「叔父さんに怒られちゃうかなあ。でも二人でこっそり育てたら大丈夫だよね、アルネ」
「……ん」
彼女はこくり、と頷いた。
叔父さんに見つかったらどうしようとは思っていたけど、ちょっとだけ楽しみだったんだ。
アルネは頭が良いから、育て方とか調べていてくれてるのかな。
そう思っていた次の日だった。
「ねぇ、何やってんの……? アルネ……それって、昨日捕まえたニョロモ、だよね……?」
──アルネは──刃物でニョロモの腹を──開いていた。
「なんで……死んじゃうよ、そんな事したら……」
「もう死んでるよ。薬で」
「え?」
覚えていない。
何も覚えていない。
血だらけで、臓物を取り出して並べてるアルネの事なんてボクは覚えてない──
「──解剖って言うんだよ。知らないの?」
「──はぁァ、はぁっ、はぁっ、ぁ──ッ!!」
「お目覚めになったのですー?」
とても嫌な夢だった。アルカはヒメノの声で、漸く現実に戻って来れた。
目を擦ろうとするが、腕が鎖に絡まって天井から吊るされており、動くことが出来ない。
暗い牢屋の中であることを彼女は察した。
そして、自らを閉じ込めた当の本人であるヒメノが虚ろな目でこちらの顔を覗き込んでいる。
「……ヒメノ、ちゃん……!」
「馴れ馴れしく呼ばないでほしいのですよー♪ これは尋問。でも、貴女様次第で拷問に変わるのですよ」
「ッ……」
「……吐いて貰うのですよ。テング団の事。貴方達、ヒャッキの民の事を」
「……わかったよ」
「嘘は吐かないこと、なのですよ。ヒメノの霊感は、ジュペッタと意思疎通できる程強いのです。そして、ジュペッタの特性は”おみとおし”」
「ボクがウソを吐いたらすぐ分かる、でしょ?」
「話が早くて助かるのですよー♪」
──アルカは、隠すことを諦めた。
今更、ヒャッキにもテング団にも未練はなかった。
「先ず、貴女はテング団、ないしその協力関係にあるのです?」
「ッ……」
「はいか、いいえで答えるのですよ」
「……いいえ、だ。とっくにボクは抜け人になった身さ」
「……」
ヒメノがジュペッタの方をちらり、と見やる。
呪い人形の様子には何一つ変わりはない。
「……テング団は、何処から来たのです?」
「……サイゴクと、ヒャッキは……異界の扉で繋がってる。異世界って奴だ」
「扉──異世界」
(ハズシ様の言っていた、ウルトラホールと似たようなものでしょうか……)
「異界の扉は時空のひずみ。ヒャッキには幾つか、サイゴクだけじゃなくて他の異世界にも通じるスポットが各地にある」
「その中には確実にテング団が使っているものもあるはずなのですよ。彼らは何処から現れるのか知ってるのです?」
「知らない」
「言葉を選ぶのですよ」
ジュペッタの指から黒い爪が伸びた。
”シャドークロー”だ。
いつでもその背中を引き裂けるのだぞ、と言わんばかりだった。
「知らないものは知らない……! でも、確実に異界の扉を用意してる……そればかりか、意図的に扉を発生させる技術まで確立してると思う」
「と言うのは?」
「君も見たと思う。アルネが逃げた時に使ったヤツだよ。あれが異界の扉だ」
「……成程。つまり彼女はヒャッキに逃げた、と」
「そうなるね……」
「つまり、彼らの本拠地が何処にあるのかは分からない、と」
ヒメノはアルカの思っていた以上に冷徹だった。
激する様子もなく、淡々と彼女の話を聞いていた。
最も、後ろにゲンガーが立っている時点でアルカは気が気でない。今この瞬間も、体温を奪われ続けている。
「そもそも、テング団とは何者なのですー?」
「……自警団。サイゴクのオヤシロみたいなものさ。ヒャッキ地方の国の一つ、テングの国で政を行い、テングの国の為に戦う集団だよ」
「軍や警察、のようなものですー?」
「そうだ。そこに入れば、取り合えず生活は保障されるからね。目指す人も多いよ。サイゴクで食べ物に困ったことは無いけど、ヒャッキで庶民はまともな食べ物にありつけないんだ」
(ま、庶民じゃなくても飯にありつけるとは限らないけどね)
「ではなぜ、おやしろを狙うのです?」
「それは──君もハズシさんから聞いたんじゃない? 500年前の伝承さ。オヤシロに復讐心を抱いているんだ」
「”赤い月”です? サイゴクを脅かす怪現象と、貴方達の秘宝に何の関係があるのですー?」
「逆に君達は何も知らないの?」
「──貴女が今、ヒメノに口応え出来る立場と思ってるのですー?」
「思ってないよ。でも、君達が”赤い月”の事を把握してない限り、事態は進まない。なんせボク達も”赤い月”の詳細は知らないんだ」
「……こうもぺらぺらと喋って貰うと尋問のし甲斐が無いのですよ」
拗ねたように彼女は言った。
物怖じしていないわけではない。
しかし、何処か諦めと投げやりささえ感じさせる彼女の態度にヒメノは、無性に腹が立ち、檻を掴んでガシャンと音を鳴らしてみせた。
「……随分と肝が据わっているのですね。まるで、このような扱いに慣れているかのようです。泣き声の一つでも漏らしてみるのです?」
「泣いて解決するとは……思ってないからね。生憎ウソも吐けないみたいだし」
「……では、これならどうでしょう?」
檻を乱暴に蹴飛ばしたヒメノは──ひときわ冷たい声で言い放つ。
「あの氷の戻し方、なのです」
「ッ……凍らせたヤツを、倒すしかないよ。ボクも詳しい事は知らないし」
「ウソを吐いても良いことは何も無いのですよ」
「知らないったら知らない! ボクがあっちのポケモンの事を何でも知ってると思ったら大間違いだ!」
「ジュペッタ!!」
ヒメノが叫ぶ。
しかし──ジュペッタは、何処か悲しい顔で彼女の顔を見つめるばかりだった。
「……分かったのです。分かったのですよ。貴女は潔白なのです」
「ッ……はぁ」
無実は証明された。
安堵の息を思わずアルカは吐いた。
しかし──
「でも、このまま貴女をみすみすと解放したとあれば、ヒメノも立場が無いのですよ」
「えっ」
ヒメノは狂った微笑みを浮かべていた。
「今回の件で決めたのです♪ 時空のひずみを見つけ次第、ヒャッキに攻め込んでまとめて根切りにするのですよ、ナイスアイディアーなのですよ♪」
「は、はぁ……!? 何言って──」
「──口を慎みなさい。今この場で死んでいないことをむしろ感謝すべきなのですよ」
「正気じゃないね……! 無茶苦茶だ!」
それは最早、無謀とも言える発言だった。
今の彼女の言う事は、このおやしろの人間でも聞くとは思えない。
ヒャッキはそもそも瘴気が満ち満ちていて、居住地以外は人がまともに住める環境ではない。
そして、その瘴気が満ちている場所では、魔物とも言えるあの凶悪なポケモン達が生息しているのだ。
「君は今、おかしくなってる……! 自分でも気づいてない……!」
「では貴女がヒメノのミミッキュを元に戻してくれるのです? 傷つけられたおやしろの誇りはどうなるのです?」
「ッ……」
「ヒメノの怒りは! 悲しみは! 絶望は! あの子の苦しみは!! 何処に持っていけば良いのです!」
牢屋の壁を何度も何度も拳で殴りつける。
拳骨からは血が滲み出ており、ぽたぽたと彼女の足元に赤い水たまりを作っていた。
「昼晩問わず聞こえてくるのです。ミミッキュの苦しむ声が。ヒメノはオバケさんの声が分かるから……ミミッキュの声も聞こえてくるのですよ……!」
「ッ……」
「大事な家族が苦しんでいる所を……いつまでも見せられて正気で居ろと言うなら! ……ヒメノはいっそのこと、狂ってしまった方がマシなのですよ」
「ヒメノちゃん!! ダメだよ!! ヒメノちゃん!!」
アルカの叫びは虚しく、彼女は牢屋を後にする。
どうせ、弟とメグルが第三御殿に迫っているはずだ。
あの包囲網程度をどうにもできない彼らではない。
「──結局、誰にも分かりはしないのですよ。ヒメノの事なんて」