ポケモン廃人、知らん地方に転移した。【完結】   作:タク@DMP

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第55話:StarDust

 ※※※

 

 

 

 何ともまあ物々しい雰囲気の御殿であった。

 よあけのおやしろの中では、最も古く、そして如何にも「何かあった」風を醸し出している。 

 地下になぜか牢屋がある事と言い、真の意味でいわくつきなのだろう。

 

(ま、まあ良いや、早いところ助け出さねーと……)

 

 メグルが一歩、そこを踏み出した時だった。

 ──御殿の前は照明で照らされており、丁度影が映るようになっている。

 それが不自然に歪んでいき、翼の生えた獣の形を象っていく。

 思わず後ずさる。甲高い、あの独特な鳴き声がおやしろに木霊していく。

 

 

 

「──エリィィィス!!」

「話がちげーじゃねーかよ……!」

 

 

 

 敵意は感じない。

 今まであれだけ、恐ろしい野生ポケモンと出会って来たので、いい加減メグルも相手が明確に殺意を抱いているかは分かるようになっていた。悲しいかな。

 しかし、何故か周囲に影で作られた剣が浮かび上がっている。おかしいかな。

 

「おいおいおい、アケノヤイバ! もうすぐそこに、アルカが居るんだ。通してくれねーかなぁ!」

「──エーリィィィス……!」

「……はぁーあ」

 

 溜息を吐いた後、メグルはゴーグルを掛ける。

 一気に視界はクリアになり、暗視機能でアケノヤイバの姿もより鮮明に映った。

 相手はヌシ。本気で戦わなければ、勝てはしない。

 

(メガシンカポケモンの種族値は……そして常時メガシンカしていて、昔から生きてるコイツは実質準伝クラスの強さと考えていい)

 

(勝てるのか? 本当に?)

 

 ギリッ、とメグルは唇を噛み締める。

 勝てる勝てないか、ではない。勝たなければ先には進めない。

 

「俺達戦う理由なんて無いよな、アケノヤイバ」

「エリィィィス……!!」

 

 次の瞬間、影の剣が幾つも浮かび上がり、メグルの足元に突き刺さる。

 思わず飛び退いたが、相手は完全にやる気だ。

 

「……分かったよ。そっちがそのつもりなら、押し通る!!」

 

 メグルはボールを投げて、バサギリを繰り出す。

 

 

 

「エーリィィィィィス!!」

 

 

 

【ヌシポケモン・アケノヤイバに勝利し、力を示せ!!】

 

 

 

(……メガアブソルの種族値はH65A150B60C115D60S115……高いACSに比べて耐久は紙以下……押せば通るはず──)

 

 すぐさまバサギリが飛び出し、壁を蹴って宙を舞う。

 

「──”がんせきアックス”!!」

 

 くるり、と一回転したバサギリはそのまま首を落とさん勢いで斧を高速で振り下ろす。

 しかし──そこにアケノヤイバの姿は無かった。

 周囲にステルスロックがばら撒かれ、地面に埋め込まれる。

 だが、足音も無く消える敵を前に意味を成さないだろう。

 

「──グラッシュ……!!」

「落ち着けバサギリ! ヤツは攻撃するために必ず出てくるはずだ! 見極めろ!」

 

 その時だった。

 メグルは周囲に寒気のするような気配を感じとる。

 辺りを見回すと、壁の上にアケノヤイバが。

 更にその周りには全身が影で出来たアブソルが立っていた。

 

【アケノヤイバの デュプリケート!!】

 

 アケノヤイバの一吼えで、影のアブソルは次々にバサギリに襲い掛かってくる。

 一挙手一投足がヌシのそれにも負けず劣らずの苛烈さはまさに複製品と言う言葉が相応しい。

 だが、流石にそこは手持ちの中でも一番の武闘派・バサギリ。

 例え相手が複数体であっても押し負けはしない。一体一体の攻撃をいなしていき、叩き斬っていく。

 しかし、それだけに本体・アケノヤイバの姿が消えていることに気付かなかった。

 

「──今度は何処行った、あいつ──!?」

 

 

 

【アケノヤイバの はどうだん!!】

 

 

 

 キィィィン、と甲高い音が聞こえてメグルとバサギリは上を見上げた。

 

「ッ……まさかあいつ、特殊アタッカー!?」

 

 言う間も無く、複製品のコピーも巻き込んで、何発もの”はどうだん”の雨が降り注いだ。

 耐久力に優れるバサギリと言えど、砲撃の雨には耐えられない。

 結局、アケノヤイバに一発も弾を当てることなく倒れ伏せたのだった。

 

「も、戻れバサギリ……!」

 

(バサギリがやられた……! あいつが格闘/ゴーストと仮定するなら、有効打を与えられる奴は居るのか!?)

 

 

 

 ※※※

 

 

 

【ドラパルトの ドラゴンアロー!!】

 

【効果は抜群だ!!】

 

 

 

「──おやおや、それで終わりなのです?」

 

 

 

 ジャラランガはドラパルトの前に倒れ伏せていた。

 

「霊気を解放したのか姉貴……!」

「……よあけのおやしろの理念。忘れたとは言わせないのです。怨みは、人とポケモンの力を増すのですよ」

「ッ……それは先代の、間違った教えだろが……!」

「間違って等いなかったのです! 現にドラパルトの力は更に増幅しているのです!」

 

 ──イッコンのキャプテンが代々、強い霊感を持っているのには理由がある。

 それは、一族の中で強い霊感を持つものが選ばれているから──そして、強い霊感を持つ者はゴーストタイプと心を通わせることが出来るからだ。

 それ故に、キャプテンはゴーストポケモンの影響を受けやすく、また与えやすい。

 憎悪に塗れた今のヒメノは、ゴーストポケモンにとって絶好の栄養源である。

 途中まで押されていたドラパルトだったが、ヒメノが霊気を解放した──つまり自分の持っている力のリミッターを完全に外したことで、彼女の憎しみに煽られ、”ソウルビート”が乗ったジャラランガを上回る力を手に入れたのである。

 ……しかし。

 

「キ、キェェェェェン」

 

 散々”スケイルノイズ”を受けていたためか。

 あっさりとドラパルトも地面に沈んでいく。

 

「ッ……戻るのです、ドラパルト」

「なあもうやめようぜ、姉貴! 見てらんねーよ……!」

「やめる? 今更一体何を! 後戻りなんて出来ないのですよ」

「出来るッスよ! そのためにオレっちが居るんだろ!?」

「メガシンカも出来ない貴方に……霊感も無い貴方に。ヒメノの事なんて分からないのです」

 

 彼女はジュペッタの入ったボールを握り締め、空中に放った。

 中からはジュペッタが飛び出す。

 口のジッパーは開かれており、常時呪いの力が駄々洩れとなっている。

 だが、幾ら漏れても尽きることはない。何故なら、ジュペッタこそヒメノの最初の相棒であり、ヒメノと最も心を通わせているポケモンだからだ。

 その姿はノオトにとっても悍ましいもので、思わず引き下がる。だが、此処で逃げることなど出来ない。

 

「ッ……ルカリオ。頼むッスよ」

「幾らルカリオと言えど、メガシンカのあるジュペッタには──勝てないのですよ」

 

 ヒメノはキーストーンが埋め込まれたメガマガタマを取り出す。

 

 

 

「──メガシンカなのですよ──ジュペッタ!」

 

 

 

 ※※※

 

「──次はお前だ、オドシシ!! せめて混乱させれば──”あやしいひかり”!!」

「ブルルルゥ!!」

 

 しかし、あまりにもアケノヤイバは速過ぎる。

 その姿が消えたかと思うと、次の瞬間にはオドシシの背後に回り込み、連続で”はどうだん”を叩きこむ。

 当然、一致抜群の攻撃を受ければ耐えられるはずもなく、オドシシも敢え無く沈むのだった。

 

(レ、レベルが違い過ぎる……! 旅パで手持ちの体力が一気に溶かされるって、こういう事かよ……!?)

 

「何考えてんだよマジで……適正レベルを考えろ、適正レベルを! 後、もうちょっとだってのに……!」

「エリィィィス……!」

「何でだアケノヤイバ! 通してくれ!」

「エリィィィス……」

 

 メグルを取り囲むようにして、再びアブソルの影が現れていく。

 そして彼らの周囲に大量のシャドーボールが浮かび上がり、メグル目掛けて飛んで行く。

 飛び退いて避けるのが精一杯だ。

 

(分身と消える身体……物量で押し潰すのがコイツの基本戦略……何でコイツがヌシになったのか、分かるような分かりたくねえような!)

 

「ヘイラッシャ!! 次はお前だ、頼む!!」

「ラッシャーセーッ!!」

「”ダイビング”だ!!」

 

 水を纏い、そのまま宙に飛び上がったヘイラッシャは、アケノヤイバ目掛けて飛び掛かる。

 しかし、幾ら相手が巨体と言えど、鈍重な身体では俊足のアケノヤイバを捉えるなど不可能。

 そればかりか、標的の身体は消えてしまい、ヘイラッシャはそれを見失ってあたふたするばかりだ。

 

(やっぱダメか、速度が違い過ぎる……バサギリがダメなら、他のヤツで追いつけるわけがねえ!)

 

【アケノヤイバの ──はどうだん!!】

 

 またしても、その周囲に大量の弾幕が浮かび上がる。

 それがミサイルのように正確にヘイラッシャの急所を射抜いていく。

 元より防御は高くとも、特防は高くないポケモンには耐え難い。 

 そのまま低い呻き声をあげると、ヘイラッシャは仰向けに倒れてしまうのだった。

 

「ッ……ダ、ダメだ、このままじゃ全滅だ……!! ゴローニャ──じならしであいつの動きを止めろ!」

「ゴロロロローンッ!!」

 

 転がりながら地面を打ち鳴らすゴローニャ。

 しかし、地面に立っていたと思われていたアケノヤイバの身体は気付けば宙に浮かび上がっており、更に分身した上で大量の”はどうだん”をゴローニャにぶつけるのだった。

 

【効果は抜群だ!!】

 

 アケノヤイバの”はどうだん”の弾幕から逃れる術はない。

 分散されている分、一発一発の威力は控えめだが、必ず命中する弾幕など並みのポケモンが受ければ

 時間稼ぎにもなりはしない。

 メグルに残っているポケモンは──イーブイしか残されていない。

 だがイーブイの技は全てノーマルタイプ、ゴーストタイプのアケノヤイバに有効打は無い。

 

「頼むアケノヤイバ──通してくれ……俺はアルカを、連れて帰らねえといけないんだよ……!」

「エリィィィス……」

「あいつは──故郷に居場所が無いんだ……! だからサイゴクまでやって来たんだ……!」

 

 だが懇願虚しく、はどうだんの一発がメグル目掛けて飛び──炸裂した。

 

「がはっ、ごほっ……!!」

「──エリィィィス」

 

 立っているのもやっとだった。

 手持ち達は皆、これを数十発も受けて倒れたのか、とメグルは痛みを噛み締める。

 

(今思えば……初めて会った時、放っておいたら、そのまま一人で死んでしまいそうだってカンは間違ってなかったんだ……!)

 

 明るい態度に騙されそうになったが──アルカはずっと、辛い思いを押し隠していた。

 故郷では「無能」の烙印を押され、逃げてきた先でも故郷という「過去」が迫ってきて逃げられない。

 おまけに、この地では己の素性もロクに明かすことが出来る相手も居ない。 

 それがどれだけ心細かったか、今のメグルならば分かる。

 

(分かんだよ……俺も元の世界じゃぼっちだったから……大学で友達も出来なかったし……一人暮らしだから、毎日家に帰っても誰も居ない!)

 

 きっと、彼女の受けた痛みは自分の比ではないだろう。

 そんな事はメグルにも分かっている。

 しかし。だからこそ、放っておけないのだ。

 

(それが当たり前すぎると、忘れちまうんだよな──寂しいってことをさ!!)

 

 だからこそ、彼女も自分から離れなかったのだ。

 この世界に来たばかりのころ、助けてくれたユイや博士がどれほど心強かったか。

 今彼女にとって、頼れるのは自分しかいない。ならばどうして此処で立ち止まっていられようか。

 

(俺が此処まで……来れたのは、仲間のおかげだ……人もポケモンも関係ないんだ……!)

 

 戦える手持ちが居なくとも。まだ足は動く。

 牢屋がある第三御殿に、身体が勝手に動いていく。

 

「俺だって、何か掛け違ってたら今頃一人だったかもしれない……例え俺だけでも良い、あいつの味方になってやりてぇんだよ!!」

「……フッ」

 

 アケノヤイバの口角がふっ、と上がった気がした。

 そして、何もせずとも──ボールが弾ける音がした。

 

 

 

「──プッキュルルルルィィィ!!」

 

 

 

 アケノヤイバと、メグルの間に割って入るようにして──イーブイがその場に立っていた。

 

「イーブイ……!?」

「……ぷっきゅい」

「ダメだイーブイ! 幾らお前でも、アケノヤイバには勝てない! 有効打が無さ過ぎる!」

「……」

「良いかイーブイ、此処でお前まで何かあったらマズい! 此処は俺が一人で何とかするから、ノオトの所に行って、あいつに──」

 

 

 

【イーブイの でんこうせっか!!】

 

 

 

「へぶぅ!!」

 

 メグルは倒れた。

 数時間ぶりの、強烈な腹への頭突きであった。

 胃の中の物が出て来そうになるほどに痛烈だった。

 

「あ、あの、イーブイ……?」

「……ぷいー」

 

 近寄ってくる彼女は、壁にもたれかかるメグルを一瞥すると──「これで許してやる」と言わんばかりに首を差し出す。

 首輪には、かつてコハクタウンで手に入れた”かわらずのいし”が付いている。

 鈍いメグルも──漸く察し、己の不甲斐なさに自嘲の笑みが零れる。

 ゲームだって現実だってそうだ。諦めれば、そこでゲームオーバーである。

 

「……そうだな。何が勝てねー相手だよ。そんなヤツ居ねーよな」

「キュイ!!」

 

 くいっ、と彼女は第三御殿の方に目を向ける。

 メグルが何をしたいのか分かっているようだった。

 あれほど嫌っていたはずのアルカを、心の底では憎からず思っていたのだろうか。

 

「プッキュルル!」

「……うるせーうるせー、分かってるよ。あいつに一発、デカいのお見舞いしてやるんだろ! お前なら出来る! 俺は信じてる!」

 

 それを聞き──彼女はぴょい、とメグルの胸元に飛び込んで来る。

 

「ぷっきゅるるるー!」

 

 当然でしょ、と言わんばかりに彼女は胸を張ってみせる。

 そういえば初めて会った時も俺はボロボロだったな、とメグルは思い返す。

 イーブイの”たいあたり”を何度も受けて、それでも何とか捕まえて。

 そして、オニドリルのオオワザから彼女を庇ったのがきっかけで、イーブイは心を開いた。

 思えばあの時から、ずっとイーブイは自分の近くに居たな、と彼は思い出す。

 当たり前のように首元にしがみついていたので、いつの間にか忘れてしまっていた。

 

(わりーなイーブイ。気付いてあげられなくって。俺、お前にこんなに好かれてたんだな)

 

「……なあイーブイ。これから新しい手持ちが沢山入ると思う」

「……ぷい」

「だけどな、覚えておいてくれ。俺の相棒は──お前だ。それだけは変わらない!」

 

 メグルは思いっきり、イーブイの首輪の”かわらずのいし”を引きちぎる。

 月の光が、強く彼女の身体を照らしていた。

 だが、アケノヤイバも容赦の欠片も無い。

 ならば見せてみろ、と言わんばかりに”はどうだん”の弾幕を空中に張り巡らせる。

 

 

 

「進もうぜ──そして一緒に駆け巡ろう。俺達は……パートナーだからな!!」

「ぷっきゅい!!」

 

 

 

 ──弾幕が掻き消える程にまばゆい光がイーブイに降り注いだ。

 ()()()()()、月の光が差し込む日だった。

 

 

 

「──エリィィィス!!」

 

 

 

 はどうだんの弾幕が正確に二人を目指して飛んでいく。

 だが、飛び出した彼女は──それを全て一身に受けて──尚も、不敵に笑っていた。 

 ノーマルタイプに格闘タイプは効果バツグンだ。

 ……しかし。もう、目の前に居る彼女はノーマルタイプではなくなっていた。

 

 

 

【効果は、いまひとつのようだ……】

 

「──反撃の、スピードスター!!」

 

 

 

 お返しだ、と言わんばかりに星型の弾幕がアケノヤイバ目掛けて飛んで行く。

 いつものように分身して避けようとするヌシだったが、スピードスターは追撃弾。

 すぐさま本体を割り出し、アケノヤイバを爆撃する。

 

「ッ……エリィィィス!?」

 

【効果は抜群だ!!】

 

 身体から煙を上げながらヌシは漸く気付いた。この弾幕は普通ではない。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、と。

 そしてメグルも、それは知っている。今更驚きはしない。

 何故なら彼はポケモン廃人だ。元の世界のゲームに居たイーブイの進化形の事は知り尽くしている。

 

 

 

「──ふぃーあ♪」

 

 

 

 小鳥が囀るような歌声がその場に響く。

 

 

 

「わりーな、アケノヤイバ。今夜の星屑は、ちょっと痛ェぞ」

「ふぃー♪」

 

 

 

 月に照らされる白と桃色の体毛。

 愛くるしい宝石のような青い瞳。

 そして、身体にふわりと巻き付いている長いリボン。

 その姿はまさに妖精であった。

 

 

 

【ニンフィア(イーブイの進化形) むすびつきポケモン タイプ:フェアリー】

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