ポケモン廃人、知らん地方に転移した。【完結】   作:タク@DMP

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第57話:大騒ぎの次の日はお通夜になりがち

 ※※※

 

 

 

「うわ、鎖が絡まってやがる……どうすりゃいいんだコレ」

「痛い痛い! 挟まってますって! そこ!」

 

 手持ちは既に全員元気の欠片で回復している。ポケモンの力で外せるならそれが手っ取り早いだろう。

 しかし、いまいち適していそうな者が思いつかない。

 

「ふぃー、ふぃー」

「いや、お前には無理だろニンフィア」

「フィッキュルルィィィィ」

「あーやめろやめろ噛むんじゃねえ! 歯が欠けたらどうする!」

「ふぃー」

 

 ぺっぺっ、とニンフィアがマズそうにつばを床に吐いた。

 やはり金属の味は苦かったらしい。

 その姿を見て──アルカは目を丸くする。

 

「そのニンフィアって……まさか、あのイーブイ……?」

「進化したんだ、さっきな」

「すごいじゃないですか! おめでとうございます!」

「やんちゃさは変わらねーけど」

 

 鎖から口を離すと、ニンフィアはメグルの前に降り立つ。

 そして、鎖を外す鍵を探すメグルの足元に顔を擦り付け──ちらり、と得意げにアルカの方を見やる。

 「コイツは私のものだから」と言わんばかりに。

 

「ふぃーあ♪」

 

(何だろう……何か分からないけど、すっごく()()()気がする……!!)

 

「しっかし、どうしたもんか……やっぱバサギリに斬ってもらうか」

「ヒエッ……やめてくださいよ! 怖いんで!」

「分かってる分かってる、そもそも岩の斧で、鉄の鎖を斬るのは無理があるし……おっと、鍵があるな……こいつを外せば良いんだろ? ……ダメだこりゃ鍵ねーから外せねえかも」

「え、えええ!? どうするんですか!?」

「グラッシャー」

「……悪い、鍵探して来るからもう1回待っててくんね?」

「薄情者!! ひとでなし!! ドヒドイデ!! こんな所に女の子一人置いていくんですか!?」

「いや、だけど、このままじゃ鎖が外れねえじゃん」

「グラッシャー」

「ンだよ今、鍵ガチャガチャしてんだよ、話しかけんな──」

 

 振り返ると──そこには、凄い顔のバサギリが石斧をもたげていた。

 

(あ、もしかして、無理があるって言ったの怒ってらっしゃる!?)

 

 流石に先の発言は、著しく彼のプライドを傷つけたようである。

 しかもアケノヤイバに敗けた後。バサギリの機嫌はそれはもうすこぶる悪かった。

 すぐさま斧を宙から吊るされた鎖目掛けて一振り。

 そして──鎖は空を切るような音と共に、あっさりと解けたのだった。

 

「ひっ、ひえっ──」

「斬れた……黒曜石の切れ味ってすげーんだな……」

「感心してる場合ですか! ボクも危なかったんですけど!」

「悪かったって」

 

 適当に謝ると、メグルは尻餅をついているアルカの身体を引き上げる。

 だが、まだ脚はふらついており、まともに立てないようだった。

 

「ゴ、ゴメンなさい腰が抜けてしまって……」

「……背中貸すわ」

「ッ……は、はい」

 

 メグルに負ぶわれた彼女は少し恥ずかしそうに頷くのだった。

 足元ではニンフィアが不機嫌そうに鳴いていた。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

(結構、重い……ってか、柔らかい……)

 

 地下牢に続く石段は長い。

 そんな中、初めて直に感じる彼女の柔らかさ。

 折角真面目だったのに、邪な気持ちが心の奥底から湧き上がってくる。

 結局沈黙に耐えられなくなり、先に言葉を発したのはメグルだった。

 

「なぁ。大丈夫だったか? その──ヒメノに酷い事されたりとか」

「されてないです!」

「……牢屋に入れられて鎖で縛られたのは十分酷い事とは思うけど」

「そんな、殴られたり蹴られたりしたわけじゃないですから」

「……お前、怒って良いんだからな、自分のされた事は」

 

(つーか俺は後で絶対謝ってもらうつもりだし)

 

「……あんまり、ヒメノちゃんを責めないであげてください、おにーさん」

「……」

「すっごく、悲しそうな顔、してたから」

 

 アルカは──ぎゅっ、とメグルを抱きしめる力を少しだけ強めた。

 

「やり場のない怒り、悲しみ。ボクも気持ちは分かるんです。ずっと、故郷の人に疎まれて生きてきたから」

「でもな! お前がガマンする必要は何一つねーんだぞ?」

「良いんです! 良いんですよ、ボクは……おにーさんが助けてくれただけで、十分です」

「……俺は良くねーよ」

「良いんですって。……あの頃はこうやって助けに来てくれる人なんて居なかった。でも、今はおにーさんが居ます」

 

 すりすり、と彼女はメグルのうなじに額を擦り付ける。

 無意識だが──今は特に誰かに甘えたい気分だった。

 ずっと緊迫していた状況が続いていており、心の糸が緩んだからだ。

 

「おにーさんが、本当にボクのおにーさんだったら良かったのに」

「兄……」

 

 ぽつり、と彼女が言った。

 そうして──しばらくしただろうか。

 彼女は自分の言葉が思いの外恥ずかしかったのか「やっぱ今のナシで! 聞かなかったことにしてください!」と叫ぶ。

 

「何だよ、俺が兄じゃ悪い事でもあるのかよ」

「あります! ガサツだし、意地悪だし、ポケモンの事ばっかり考えてるし!」

「ガサツなのはオメーも同じだろ! 放っておいたら風呂をそこらへんの川で済ませようとするだろーが! 服も脱ぎ散らかすし、興味があるものには何でも飛びつくだろが! あぶねーんだよ!」

「最近は気を付けてますよ!」

「直近のヘイラッシャ!」

「ああ、思い出させないでください!」

 

 げしげし、とアルカはメグルの背中を蹴ってみせる。

 そうして一頻り抵抗した後で、しおらしい声で彼女は「だって──」と続ける。

 

「……迷惑、じゃないですか」

「何が」

「おにーさんに、です。テング団の事と言い、今回の事と言い、ボクと居たら今後も面倒事に巻き込まれますよ?」

「……迷惑なんかじゃねーよ」

「でも──」

「お前がそう思ってても、俺がお前を手放すつもりがないからな。ヒャッキの事でお前の力が要ることはこれからもあるだろうし」

「……」

「でもそれ以上に! 二人旅はやっぱり悪くねーなって思うんだ」

 

 喧嘩をして、振り回されて。

 一緒に事件に巻き込まれて──付き合いは短かったが、やはり共に歩いて来た道のりは、メグルにとって楽しいものだった。

 

「一人は寂しいだろ? 俺もだからさ」

「……べ、別に寂しいわけじゃ」

「俺も一人だったから。この世界に一人だったから分かるんだよ」

「え?」

「俺も──異世界から来たからさ」

 

 ぴたり、と時間が止まったようだった。

 そうして遅れて──

 

 

 

「……えええええええええええええ!?」

 

 

 

 石段中に彼女の声が木霊した。

 それからは、ずっとメグルは今までの経緯をアルカに話すことにした。

 元々はポケモンが居ない世界に居た事。

 見知らぬ所に落ちてきたところを、キャプテン代理の少女・ユイと博士のイデアに助けられたこと。

 そして、元の世界に戻る手掛かりを探す為におやしろまいりをしていることを。

 

「……そっか。そうだったんですね。おにーさんがおやしろまいりをしている理由は……」

「ああ。アラガミ遺跡の奥に、俺を連れてきたアンノーンが生息してるからだ」

「じゃあ、おにーさんが以前にオーライズを発動させた羽根は……サイゴクの森の神様のもの、だったんですね」

「そうなるんだろな」

 

 オーライズについて、メグルはまだ知らない事が多すぎる。

 

「結局、オーライズってどういう条件で発動するんだよ」

「ポケモンの強い力が籠った身体の一部や道具。それがオーパーツと呼ばれるものなんです。そこに刻まれた力をオージュエルで解放することで、ポケモンが鎧としてオーラを纏えるんです」

「……じゃあやっぱり、森の神様には全部お見通し、なのかもな」

「森の神様……何者なんでしょうね」

「さあな。ロクでもないヤツなのは確かかもな」

「あはは……」

 

 閑話休題。

 

「ま、話を戻すけどさ。俺もユイとイデア博士が居なかったら、マジで死んでたかもって思ってんだ」

「……分かりますよ。ボクも、親切なおばあさんとおじいさんに助けられて、今此処に生きてますから」

「だから互いに手を取り合ってもいいんじゃねーかって思うんだ。一人は寂しいだろ? 互いにな」

「……そういうことに、しといてあげますっ」

 

 強がりながらも──アルカはぎゅう、とメグルを抱きしめる。

 その行動のひとつひとつに、メグルは胸が跳ね上がるが、調子に乗り過ぎないように己を律する。

 今の彼女が頼れるのは自分しか居ないのだ。自分が、彼女の安心できる居場所になってやるのだ、と言い聞かせて。

 

「異世界から来た者同士、仲良くしようぜアルカ」

「はいっ」

 

 改めて、此処に二人は旅仲間として繋がったのだった。

 互いに素性を明かし、隠すことはもう何も無い。

 

「ふぃー……」

 

 最も、それを見ていたニンフィアは、本当に面白くなさそうな顔でそのやり取りを見ているのだった。

 助けに行くのは乗り気だったとはいえ、主人とキライなアイツの仲が深まっているのは気に食わないらしい。

 そうこうしているうちに地下牢の階段を抜け、御殿の入り口にメグルは辿り着く。

 月明かりを浴びると──丁度そこには、ノオトが立っていた。

 

 

 

「──メグルさん!! 良かった……無事に」

「互いにな」

 

 

 

 泣き疲れて寝てしまったヒメノを肩で俵のように背負うノオト。

 そして、アルカを負ぶうメグル。

 似たような格好になっている二人は、思わず笑ってしまうのだった。

 

「……アルカさん、この度はうちの姉とおやしろが大変ご迷惑を──」

「良いよ、謝らなくて。ヒャッキから来たテング団がこっちで悪さしてるんだもの。同じヒャッキから来たボクが疑われても何もヘンじゃないよ」

 

 「ボクも保身の為に今まで隠して生きてきたしね」と彼女は付け加える。

 

「それより……ヒメノちゃんは?」

「電池切れッス。ゴーストポケモンのドーピングに、自分の霊気を注いでたし……かなり疲れてたみたいで」

「……そっか」

「今日は遅いし、また後日。イッコンに居るのは嫌だと思うッスけど……宿代は払うんで」

「気遣いは無用だよ。ウチの故郷の連中が君のお姉さんを悲しませたのは事実なんだからね」

「ああ。どっちみち、アップリューを捕獲するまであいつらは此処に来る」

「当初の君の頼みは──テング団をやっつけること、だったでしょ?」

「お二人とも……!」

 

 それを聞いてか、ノオトは感極まったように涙と鼻水が溢れてくる。

 そのうち、顔は滝のようになり、いよいよ収拾が付かなくなっていくのだった。

 

「がんどうじだっずぅぅぅーっずびびびーっ!!」

「ウワーッ!! 泣くんじゃねえ!!」

「おれっぢも、おれっぢもがんばるずびびびび」

「鼻水!! 鼻水がヤバい事になってるから!!」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「この度は、大変申し訳ございませんでしたなのですよ」

 

 

 

 ──翌日。

 おやしろの御殿の前で、ヒメノは深々とアルカとメグルの前で土下座し、謝罪をするのだった。

 

「い、いや、良いよ! ボクもぶっちゃけ怪しかったと思ってるし!」

「ヒメノはミミッキュの件で完全に頭に血が上ってたのですよ……よくよく考えても、おやしろの軍勢でヒャッキを攻め滅ぼすのは無茶だったのですよ」

「待ってそんな事考えてたのこの子」

 

 アルカの顔が蒼褪める。

 考えていた事も恐ろしいが、何よりヒャッキは瘴気に満ちた荒れた大地。

 余所の世界の人間が攻め込めるような場所ではないのである。行軍すれば1週間も持たないうちに皆全滅するだろう。

 

「頭が冷えたのです。泣いて、泣いて……久々にあんなに泣いたのです」

「……感情が迷子になってたんだね」

「許されることをしたとは思っていないのです。だから──」

「許すよ、それでも」

 

 きっぱり、とアルカは言ってみせる。

 ヒメノは意外そうに眼を見開く。

 

「──ボクと友達になってよ、ヒメノちゃん。それで、終わりにしよう?」

「ッ……で、でもヒメノは──」

「ボクはね。500年前の戦争も、本当は些細な掛け違いが重なって……戦争になったんじゃないかって思ってるんだ」

「……」

「だから、此処で終わらせたいんだ。互いに誤解があって、それは今解けた。ヒャッキとサイゴクも、いつかそうなれば良いよね」

 

 アルカが手を伸ばす。

 しかしヒメノは申し訳なさが勝るのか、なかなか手を取れないようだった。

 

「ヒメノに手を取る資格なんて無いのですよ。ミミッキュが凍ったのも、今回の騒動も……全部、ヒメノが──」

「あーもう、全部もへったくれもねー!! ヒメノちゃんのミミッキュが凍らされたのは、テング団の所為だろが! 元は言えば、あいつらが此処にポケモンを差し向けたのが原因だろ!」

「っ……」

「ボクも、外来種をサイゴクに持ち込むヒャッキのやり方は気に食わないからね。何より持ち込まれたポケモンも可哀想だ」

「……止めねーとッスね。人間の悪意に動かされてるポケモンを助ける為にも」

「……ポケモンの、ためにも」

 

 ヒメノは小さく口の中で繰り返す。

 

「俺達の目的と、あんたらの目的は一致してる。テング団を止める為に──協力しようぜ。今一度な」

 

 メグルがヒメノに向かって手を伸ばし、飛び出してきたニンフィアも「ふぃー♪」と鳴きながらリボンを伸ばす。

 

「言っとくけど、俺はもう少しガツンと言ってやっても良かったんだ。でも、アルカがこう言ってるから、これで手打ちだっ」

「メグル様……」

「それに、大事なポケモンがやられてるんだろ? 一頻り怒った後は……取り返しに行かなきゃな」

「そうッスよ姉貴! 此処で凹んでる場合じゃねーッス!」

 

(テング団を止める事がサイゴクを救う事になるなら戦わねえと……それに、奴らの所為でアルカがこれ以上傷つくのはゴメンだ!)

 

(あいつらに、サイゴク地方をこれ以上壊させない……! ボクは、ボクの好きなものを守る為に戦う……!)

 

(オレっちは……これ以上、誰も泣かせたくねーッス! キャプテンとして、俺は……この戦いを終わらせるッス!)

 

(ミミッキュを……家族を元に戻せるのなら。何だってやるのですよ)

 

 ──4人の視線が交錯する。

 今度こそ、此処に協定は結ばれた。

 サイゴクの外から来た者と、サイゴクを護る者ではあるものの、その意志は一つとなったのだった。

 

「──そうと決まったら、奴らが来るまでに対策を立てるッスよ!」

「対策?」

「そうッス。先ずは、お二人には……もっと強くなってもらわねーとッスね!」

「はいなのですよ」

 

 メグルとアルカは顔を見合わせた。

 

 

 

「何をするんだ? 一体」

「勿論、特訓あるのみッス!」




アケノヤイバ みょうじょうポケモン タイプ:ゴースト/悪 
特性:あけのみょうじょう(格闘タイプの技の威力を1.5倍する。)
アブソルの特異個体。遺伝子的には同一の種族だが、イレギュラーでもある。1000年以上前から生きているとされており、かつてサイゴク地方に迫った厄災を祓った。当然、通常のアブソルでは辿り着くことの出来ない境地である。



──メガシンカポケモンの戦力は伝説ポケモンと同列。従って、アケノヤイバはスイクンやライコウといった伝説のポケモンと戦力上同列とされる。
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