ポケモン廃人、知らん地方に転移した。【完結】 作:タク@DMP
※※※
泣きそうな顔のアルカがいきなり抱き着いてくる。
「わーッ!! わーッ!! 今は離れろ!!」
「えっ」
「違う違う! イヤだからとかじゃねえから、泣くな!! どうしたんだ!?」
只でさえ劣情に悩まされているときに、上目遣い+涙目で抱き着かれては息子が大変な事になってしまう。
メグルはアルカを押しのけながらも「話を聞こう!」とハッキリと伝えるのだった。
「じ、実はシャリタツがあんまり元気なくって……!」
「ぴぎぃ……」
カサカサ、と彼女の足元のカブトも心なしか不安そうに鳴いている。
「昨日まで仲良くカブトと遊んでいたのに……今日はゴハンも食べなくって……」
「何か思い当たる節は!?」
「ボク、これでもシャリタツの育て方は一通り調べたんですけど……思い当たる節なんて一つしかなくって」
「……まさか」
カタカタ、とメグルのぶら下げたボールの一つが揺れる。
ヘイラッシャの入っているボールだ。
「……ノイローゼ、ってコトォ!?」
※※※
「ラッシャ、スキー♪」
「ラッシャーセー♪」
感動の再会。
ヘイラッシャとシャリタツは、町の裏で身を寄せ合って頬擦りし合っているのだった。
とはいえこれでも、鍛錬の時に二匹揃って繰り出す時もあったのだ。
しかし、その時間もあまり長くはなく、これまでのようにピッタリというわけにはいかなかったのだろう。
『シャリタツの育成メモ:野生でヘイラッシャと一緒に居たシャリタツは、一緒にそのヘイラッシャも捕まえてあげないとノイローゼに陥る事がある。』
『ヘイラッシャの育成メモ:尚、ヘイラッシャは頭があまりよろしくないので、シャリタツと引き離してもそんなに気にしません。トレーナーの貴方がヘイラッシャの親分です。』
「うっわ、こんな風に書かれてるのか。頭が良い分、シャリタツの方がメンタル病みやすいんだな」
直球で頭があまりよろしくない、と書かれているヘイラッシャ。
メグルが指示を出しても、ぼーっとしているときがあったので、それは間違いないのだろう。
「ボクの認識が甘かったんです……隣におにーさんがいるから、いつでも会わせてやれると思ってたし、今まで平気そうだったから……まさか内心ガマンしてたなんて」
「まるで恋人だな。矢印は、司令塔のはずのシャリタツの方が大きいけど。確か性別はウチのヘイラッシャが♂だったよな」
「はい、シャリタツが♀です……」
「マジの恋人じゃん、体格差カップルかよ」
今この瞬間もイチャイチャしている二匹を見ながらメグルは溜息を吐いた。これでは引き離そうにも引き離せない。
「……ね、おにーさん。恋人ってこんな感じなんでしょうか。会えなくなったら……とても辛くなる、でも、会えたらとっても嬉しくなる……それが恋人なんですね」
「そ、そーじゃね? 俺は恋人居た事ねーから分かんねーけど」
「……ボク、あんまり恋をするって意味……少しだけ分かった気がするかも」
(クソッ、こんな時に意識させるようなこと言うんじゃねーよ)
「……おにーさん。ボク、決めました」
ぎゅっ、とアルカはメグルの袖を握る。
「貰って、くれませんか……ボクの──」
どきり、と胸が跳ねた。
彼女の目は熱を帯びており、涙が浮かんでいた。
その顔は十二分にメグルの「男」を刺激するには十分だった。
よく見ると、前髪で目こそ隠れているが、そこから見え隠れする瞳は綺麗だ。
そして、唇はぷっくりと膨れており、快活さとは裏腹に何処か艶やかだ。
(待て、待て待て。確かに助けた後だけどさ、あまりにも急展開過ぎね!?)
普段の振る舞いとは裏腹に、彼女は少女ではなく自分と同年代の「女性」であることを否が応でも思い知らされる。
背中に当たっていた感触を思い出す。柔らかいだけではない。確かに膨らみは大きかった。
「ま、待て! 貰うっていきなり、いきなりすぎやしねえか! もっと段階を踏んでだな──」
「──シャリタツを!!」
「──もっと互いに知り合ってから──うん?」
「ラッシャ、スキー♪」
「ラッシャーセー♪」
──HAPPY END──
「──いやいや待て。どういうことだよ」
「やっぱ、離すのは可哀想ですし……それにシャリタツもヘイラッシャも互いに一緒に居ると最大限の力を発揮できるでしょうから」
「お前シャリタツ欲しがってたじゃん、ヘイラッシャをお前が貰えば──」
「ゴメンなさい、正直食われたトラウマが五臓六腑と脳髄の奥底にまで染みこんでて多分ムリです」
彼女の顔から更に血の気が無くなっていく。
あの一件は時が経つにつれて、更に大きなトラウマに成長してしまったらしい。
それに、と彼女は続けた。
少し寂しそうな笑みだったが、確かに覚悟が籠っていた。
「それに……あんなに仲の良いポケモンを引き離すなんて、ボクにはできないですよ……」
「……よく考えて決めたなら、それで良いけどな」
「シャリタツの幸せを考えるなら、多分それが一番かなーって」
二人は、2匹の逢瀬を眺めながら──束の間の平穏を楽しむ。
穏やかに、時は過ぎ去っていった。
「ところでおにーさん。さっきの、もっとお互いを知り合ってから、ってどういう意味ですか?」
「忘れて」
結果。
シャリタツは岩の物理アタッカーで役割が被って困ってたゴローニャとの交換でメグルの手持ちに入ったのである。
シャリタツもヘイラッシャと水で被ってるのだが、実質2匹で1匹の上に能力傾向が大きく違うのでメグルは不問とした。
だが、それはそれとして自室に戻った後メグルは──
「煩悩退散煩悩退散煩悩退散!!」
ガンガンガンガン!!
宿の壁に頭を打ち付け、メグルは速やかにベッドに潜り込み──泣いていた。
もう捻挫していたことなんて忘れていた。
傍らでは、ニンフィアが呆れた顔で睨んでいた。「コイツ何やってんだ」と言わんばかりの顔だった。
「……俺は……もう限界だ、色々……」
「ふぃー……」
「環境や時代が悪いんじゃねえんだよ……俺が悪いんだ……殺してくれ……もう消えたい……」
己の童貞仕草にメグルは激しく死にたくなるのだった。
完全に溜まり過ぎていた。
アルカの何気ない一言に反応し過ぎたのは、一生の恥である。
(疲れてるんだな俺……アルカに良くない気持ちを抱くなんてさ……ヘッ、ポケモン廃人としたことが情けねーぜ……)
「ふぃー」
ニンフィアがメグルの身体をリボンで包み込む。
ぷくぅ、と不満そうに頬を膨らませる彼女は「わたしじゃダメ?」と言わんばかりに覆いかぶさるのだった。
そして喉をケアしてほしそうに、鋭い犬歯の見え隠れする口を開ける。
メグルは鞄から喉スプレーを取り出すと、ニンフィアの喉にそれを吹きかけた。
ハイパーボイスの練習をする上で、喉の負担を軽減するために買っていたのだ。
「……すまんニンフィア、心配かけた……」
「ふぃー♪」
(ほんっと、どうしちまったんだよ俺……)
──ベッドに身を潜らせ、瞼を閉じたその時である。
「──警報!! 警報!! 前回のアップリューと思しき影が接近中!! ──町民は避難されたし!!」
二度目の警報は甲高く鳴り響いたのである。
※※※
──全員はおやしろの前に集まっていた。
「──始まったのですね」
「メグルさん! 足は平気ッスか!?」
「……走らねえといけねー時は、オドシシに乗るから大丈夫さ」
「──エリィィィス!!」
その時だった。メグル達の前に現れたのは、アケノヤイバだった。
口には、見慣れない古い刀が咥えられている。
そして──アケノヤイバはそれを、メグルの前に放るのだった。
思わず彼はそれを手に取る。
「な、何だコレ……!?」
「これは──初代守り人様の刀ッス! ……もう錆びてて使い物にならないッスけど」
「……何でこれを俺に……!?」
「とんでもない霊力が込められていて、持っていれば悪いことを回避できるらしいッスけど……」
「ヌシ様は未来を見通す力を持つのですよ。きっと、何か悪い未来を見たのですよ」
「……エリィィィス」
受け取れ、と言わんばかりのアケノヤイバの態度にメグルは刀を手に取る。
もう錆び切っているが、ずっしりと重い。
「……ありがとな、アケノヤイバ。お守りにするぜ」
「エリィィィス」
嫌な気配を感じ取ったのか、アケノヤイバは空の方を見やる。
空気の流れが変わった。
嫌なものが現れる、とその場に居る全員が悟った。
音も無く、その場に天狗と、二匹の氷竜が降ってきて、冷気が溢れ出る。
「──今度はもう、回りくどいのはヤメ。最初っから全部、凍らせて砕く」
──テング団三羽烏・アルネ。
そして、それが引き連れるのは、陰陽師の如き姿のフーディン。そして、冷気を放ち続ける幽霊林檎・アップリュー、そしてタルップルだ。
「フーディンの”テレポート”か……ッ!!」
「御明察。前回はやられたけど、今回はやらせない」
原種同様、とんでもない超能力だ、とメグルは歯噛みした。
だが、更にその周囲にはごろごろと氷漬けになった林檎が転がっている。
またもや果樹園でカジッチュを調達してきたのだろう。
アップリューの一吼えでそれらは浮かび上がり、林檎のオバケと化す。
「ッ……またそうやって、犠牲を……!」
「姉さん、考え直してくれた? テング団に入るのを」
「……アルネ。小さい頃から君は、さりげなくボクを助けてくれたよね」
「ん。姉さんは私に残った唯一の血の繋がり。だから、姉さんを今度こそ守る」
「勝手な事言うな! だったら何で、アルカはお前にこんなに怯えてんだ!」
「おにーさん」
ぴしゃり、とアルカはメグルを手で制し、前に進み出る。
「……続けて、アルネ」
「姉さんを傷つけていたあの男はもう居ない。姉さんが居なくなった後、アルネの被検体になったから。褒めてほしい」
「ッ……気持ちは嬉しいよ、アルネ。ボクの為を思ってテング団に入れてくれようとしてるんだよね」
ヒメノと、ノオトの顔が強張る。
アルカの決意は変わらない。
彼女はもう一歩前に踏み出し、叫ぶ。
「──でもボクは、お前みたいに命を大事に出来ないヤツと一緒には居られない!!」
仮面の下で分からなかったが、明らかにアルネは動揺したようだった。
がくり、とその身体は一瞬揺らぎ、そして仮面を押さえつけ──持ち直す。
「……昔っからそうだったよね、アルネ。ボクは……やっぱり理解出来ないよ。実験の名の下に平気で人を殺して、平気でポケモンを殺して、
「ッ……姉さんの前では、あのニョロモの後は──」
「でもその後、アルネが隠れて
「……姉さん。アルネは──」
「挙句の果てに、強制オーライズ装置! このマシンの開発中に──ポケモンが何匹犠牲になったの!? 答えてよ!!」
「……」
アルネは答えられなかった。
答えられるはずも無かった。
何故ならば既に、数えられる数をとっくに超えていたからだ。
「……何で答えられないの、アルネ」
「……興味を満たす為にやっただけ。それがヒャッキの為になるなら、猶更いい。……
「ッ……」
「姉さんは、違うんだ」
「……やっぱり君とは相容れないよ、アルネ」
「……とんでもなく傲慢な思想ッスね。こいつは、ヒャッキの環境とかそんなの関係ない。
「アルカ様。これまでの非礼を改めてお詫びします。この女は、貴女の妹と呼ぶのも烏滸がましいのですよ」
キャプテン二人が前に進み出る。
三羽烏は強敵だ。キャプテンでなければ対等には戦えない。
「アルカ、無理してコイツの相手をする必要はない。頑張ったな」
「は、はい……」
何処か曇った顔のアルカをメグルが肩を引っ張って下がらせる。
交渉決裂と言わんばかりにアルネは手を振り上げた。
アップリュー、そしてその傍らにいるずんぐりとした林檎竜・タルップルの口から冷気がさらに漏れ出し、周囲のものを凍らせていく。
「やっぱ出たな、アップリューにタルップル……!」
「……前回は調整中だっただけ。アップリューであれだけ打撃を与えられたなら、タルップルも加えれば確実におやしろは撃滅できる」
「一気に戦力全部持ってきてくれるなんて、親切ッスね!! まとめて叩きのめしてやるッス!!」
「……前回と同じと思わないで。アルネたちも、進歩してるから」
次の瞬間、フーディンの顔に付けられた仮面が輝く。
そしてアルネの取り出した「O」の刻まれた宝石がカッと光を放ち、夜の闇を照らした。
「……ギガオーライズ”ワカツミタマ”。実験開始」
アップリューとタルップルの冷気を吹き飛ばす勢いで、その場に妖気が満ち満ちた。
フーディンの体色は白く変わっていき、九つの尾は更に大きく、地面に垂れるほどに成長していく。
そして、宙には円を描くようにして、灼熱に包まれたお札がフーディンを取り囲むのだった。
溢れ出るオーラは最早鎧ではなく、フーディンの身体と一体化している。
仙人の如き姿は、メガシンカした後の姿を思わせる。
【フーディン<ギガオーライズ> おんみょうポケモン タイプ:???/???】
「何だ……!? ギガ、オーライズ……!?」
「……”ワカツミタマ”って、ヒャッキの
「妖怪!? 妖怪って、どういうことなのです!?」
「九つに別たれた尾と魂を持ち、鬼術で全てを焼き払う伝説の仙狐です……!! 実在したなんて……!!」
これまでのオーライズしたポケモンとも一線を画す力を放ち続けるフーディン。
その場の全員は、じりじりと引き下がりながら警戒するしかない。
立ちはだかるのが憚られる程に恐ろしいプレッシャーだからだ。
「ひとつ、研究者として講義をしてあげる。サイゴクのフーディンは皆、ワカツミタマの血を引いているとされている」
彼女は語る。
サイゴクのフーディン系統のポケモンは、ワカツミタマと呼ばれるポケモンから始まったのだ、と。
そして、似通った力を持つ二つのオーラは非常に相性が良いのだ、と。
「だから……この場合は、先祖のオーラを重ねることで”先祖返り”を起こす。こうして先祖返りを起こしたオーライズが、ギガオーライズ」
「って事はどうなるんだ!? タイプとオオワザ以外に何が変わるんだー!?」
「確かフーディンのタイプは悪とフェアリー、でしたね? アルカ様」
「う、うん……!」
【フーディン(ヒャッキのすがた) おんみょうポケモン タイプ:悪/フェアリー】
アルカの記憶では、それが正しい。
しかし、目の前のフーディンは熱気に包まれている。
一度凍らせれば溶けない程のアップリューとタルップルの冷気と、
タイプが変わっている、とアルカは確信していた。
「要は、ダイマックスを超えたキョダイマックスみてーなもんか……!」
メグルは取り合えず、それで納得する事にした。
「何でも良いッスけど、それならこっちも全力ッスよ!」
「はいー、メガシンカで攻めるのですよ」
「……何か勘違いしてる。こちらの戦力は一斉投入。だけど、
あっと言う間だった。
がばぁ、と箱のような空間が現れ、ノオトとヒメノの姿が、アルネとフーディン共々飲み込まれていく。
「オオワザ──”ハッカイ・コトリバコ”」
飲み込まれた者達は皆、消え失せた。
後に残るのは、アップリューとタルップル、そしてメグルとアルカにアケノヤイバだ。
「あいつら大丈夫かよ……!? 分断されちまったぞ!?」
「アルネも居なくなってるし、こっちからはどうしようもない……無事だと思いたいですけど……!」
「アップリュリュリューッ!!」
「たるるるるるるるーっ」
枷を失った氷竜二匹が咆哮する。
今は彼らを押さえつけなければ、おやしろどころかイッコンタウンが氷漬けにされてしまう。
「何とかしよう、おにーさん……ッ!!」
「ああ、俺達で……あいつらを倒す!!」
「エリィィィス……!」
メグルとアルカはボールを構えた。
ヌシ・アケノヤイバも、自らの使命を果たすべく咆哮してみせる。
”よあけのおやしろ”防衛戦が今此処に、始まったのだった。