ポケモン廃人、知らん地方に転移した。【完結】 作:タク@DMP
※※※
「ほぎゃーっ!! さっさと此処から出すッスよ!! 何なんスか此処!!」
「慌てず騒がず、なのですよ」
四方を血濡れた壁に囲まれた空間に、ヒメノとノオトは閉じ込められていた。
そして、それを支配するのはフーディンとアルネだ。
「あの二人じゃ、アップリューとタルップルの両方は倒せない。ヌシが居ても関係ない」
「ッ……随分とナメられたもんッスね」
「ええ。あの二人も、ヌシ様も」
「コトリバコは……根絶やしのオオワザ。フーディンを倒さなければ、貴方達は永遠に此処から出られない。そして、呪いの炎に焼かれて死ぬ」
「ッ……」
「敵の捕虜で試した。骨も残さず焼けて消える」
「コイツ……熱ッ!?」
既に二人の身体には呪いの炎が灯っていた。
「──先に言っておくけど、希望的観測は抱かない方が良い。コトリバコはそこらのオオワザとは違う」
血濡れた壁はよく見ると、悍ましい肉片で塗り固められている。
赤い骨が見え隠れしている。
周囲は憎悪と怨嗟が反響している。
居るだけで発狂してしまいそうな空間にも関わらず、更に身体は常に呪いの炎に燃やされ続けている。
しかし。
「──ハッ、涼しいッスねー、涼しい涼しい!!」
「はいなのですよー♪ イッコンの夏に比べたら大したことはないのですよー♪」
この姉弟はそれにすら反骨してみせる。
何故なら彼らはキャプテン。
1000年以上続くおやしろの歴史を背負うという自負がある。
この苦難に屈してしまえば、おやしろは潰えてしまう以上、たとえやせ我慢であったとしても耐え抜くしかない。
「──コノヨザル、頼むッスよ!」
「ノオト。耐えて跳ね返すのですよ──ギルガルド!」
【ギルガルド おうけんポケモン タイプ:鋼/ゴースト】
コノヨザル、そして巨大な剣と盾のポケモン・ギルガルドの二匹が並び立つ。
だが、彼らの身体もすぐさま呪いの炎に抱かれて、焼かれだすのだった。
しかし主人たちも同じと気付くや否や、自らを奮い立たせてフーディンへ立ち向かうのだった。
「……苦しいはずなのに。この間よりずいぶんと安定しているように見える。どうしたの?」
「少し、貴女のお姉様に襟元を正されたのですよ」
「……姉さんは一生、アルネの庇護下、無菌室で生きるべきなのに。貴女たちが姉さんを誑かした……!」
「コイツ……マジで色々終わってるッスね……! コノヨザル、ふんどのこぶしッス!!」
影の拳がフーディン目掛けて放たれる。
だが、恐ろしく素早い動きで、フーディンの身体はその場から消えてしまい、気が付けばコノヨザルの背後を取っているのだった。
(やっぱり尋常じゃないくらい速い……!!)
「──まとめて焼却処分。”マジカルシャイン”」
赤黒い炎がコノヨザルを包み込み、焼き尽くさんとする。
怒りのボルテージが上がっていくコノヨザルだったが、素早いフーディンを前にそれをまともにぶつけることすら叶わない。
「こいつ、速過ぎッスよ!」
「よく引きつけたのです──そこなのですよ。ギルガルド、ボディパージ!!」
しかし、フーディンが術を発動しきったその瞬間が仇となる。
ギルガルドもまた、フーディンの隙を伺っていた。
その鋼の刀身を磨き上げて身軽になったギルガルドは、フーディンをも上回る動きで接近し、その刀身を抜いた。
邪悪を打ち滅ぼす聖剣による一閃だ。
「続けて”せいなるつるぎ”で叩き斬るのですよ!!」
フーディンを正面から大上段に捉えた一撃。
しかし、剣に手ごたえは無い。すぐさまその身体はバラバラのお札になってしまう。
「ッ……避けられた!? また!?」
「──しきがみらんぶ」
気が付けばフーディンは、部屋の天井に張り付いていた。
そして、無数のお札が刀身を抜いた無防備なギルガルドに、そしてコノヨザルに張り付き、一斉に起爆する。
【──ギルガルドに 効果は抜群だ!!】
【ギルガルドは倒れた! コノヨザルは倒れた!】
──やはりと言うべきか、その威力は尋常ではない。
ギルガルドは勿論、耐久力に優れているはずのコノヨザルまでもが沈黙してしまった。
倒れた二匹をボールに戻すヒメノとノオト。
しかし、呪いの炎は徐々に二人を蝕んでいく。
痛み。苦しみ。片腕は既に焼かれており、黒く焼け焦げた骨が露出している程だ。
「ッ……姉貴、腕が!!」
「落ち着くのです、ノオト。似たような呪術を知っているのですよ。これが呪いの技なら、所謂見せかけなのですよ」
「な、なぁんだ、見せかけか。腕クッソ痛いし熱いけど」
「ただし、呪いが
「ヒッ……!」
「これはタイムリミット。ヒメノ達の身体が呪いで死ぬまでの……時間なのですよ」
ヒメノとノオトに時間は残されていない。
手持ちの中で最も強い、ルカリオとジュペッタを繰り出さなければ後が無い。
轟轟と音を立てて身体はこの間にも燃えていく。
この2匹でフーディンを倒せなければ、二人の命は尽きる。
※※※
「あっぷりゅりゅりゅーっ!!」
「たるるるるーぷる!!」
すぐさま、冷気によって険しい氷の柱が周囲に現れ、高い隔壁と化す。
増援は見込めなくなり、メグル達は外から分断された。
そればかりか、冷気によって氷の柱は次々に広がり、おやしろを凍らせていく。
敵の戦力は別つべし、というイヌハギの戦術思想は少なからずこの2匹にも教え込まれているようだった。
「──俺達だって寝てたわけじゃねーんだ! 特訓の成果、見せてやる!」
「……この戦いを、終わらせる!」
メグルとアルカは同時にボールを投げ入れた。
飛び出したのはバサギリ、そしてカブトだ。
「──”がんせきアックス”で氷の柱諸共叩き斬れ!!」
「グラッシャーッ!!」
「カブト、”パワージェム”! まとめて叩くよ!」
岩の礫がアップリューを狙って飛んで行き、叩き込まれた。更にバサギリが回転斬りを勢いよくタルップルの頭に叩き込む。
勢いよくタルップルの頭はへしゃげ、潰れてしまう。
更に、アップリューも効果抜群の一撃を受けたことで地面へ叩き落とされてバラバラになってしまう。
しかし──砕け散ったのもつかの間、氷の身体は再び元通りに戻ってしまうのだった。
アップリューも、攻撃こそ受けたものの、まだ堪える様子は無い。
体力を回復させたのだ。
だが、ダメ押しと言わんばかりにアケノヤイバが剣をアップリュー達の影に突き刺す。
剣は次々にアブソルのすがたへと変わっていき、アップリューとタルップルを複数体で押さえつけ、動けなくするのだった。
【アケノヤイバの デュプリケート!!】
【効果は抜群だ!】
そして、動かなくなってしまえば2匹は良い的だった。
続けて効果バツグンの岩タイプの攻撃をバサギリとカブトは更に叩き込んでいく。
”じこさいせい”で自らの身体を再生していくが、回復ばかりで追いつかない。
おやしろで特訓を重ねたことで、バサギリの動きは無駄がなく洗練されており、カブトも素の能力が引き上げられている。
このまま押していけば勝てる──そう思われた時だった。
「たるるるるー……!」
「あっぷりゅりゅー!」
二匹は同時に吼えた。
そして、彼らの影を縛っていた剣が砕け散る。
アケノヤイバは自らの術が破られたことに驚愕しつつも、直接彼らを狙い撃つ方針に切り替え、背後から無数のシャドーボールを浮かび上がらせ、絨毯爆撃するのだった。
「す、すげぇ……!」
「とんでもない火力です……!」
「……エリィィィス」
しかし。
アケノヤイバの顔は晴れない。
それもそのはず、爆風が晴れた時、目の前にあったのは──分厚い氷の壁。
被弾する寸前で氷の壁を発生させたことで、シャドーボールは全て防がれてしまっていた。
そして、彼らを押さえつけていたアケノヤイバの分身もまた、氷漬けにされ、皆砕かれてしまう。
「アケノヤイバの技が効いてない……!?」
「こいつら、遊んでる……! ボク達の技を、防ごうと思えばいつでも防げたんだ……!」
「あっぷりゅりゅりゅりゅーっ!!」
「たるるるるるるー!!」
吼える二匹。
その遊びは終わりだと言わんばかりに、彼らの頭上に巨大な氷の林檎が浮かび上がり、地面目掛けて2つ、落とされていく。
【──ダブリュー・アップルゴースト!!】
それは、彼らの切札とも言える技だった。
発動した際の冷気だけで、既にメグルとアルカは近付けなくなる。これより一歩先でも動けば凍り付いてしまうことを察していた。
「逃げろ、バサギリ!!」
「カブト!! 戻って!!」
2匹は──答えない。
無理も無かった。敵に接近していたバサギリとカブトも冷気の余波をまともに浴びて、既に氷の像と化してしまっており、ごろん、とその場に転げてしまう。
ぞっとした。こうしてミミッキュも凍らされたのだ、と漸くメグルは敵の恐ろしさを思い知った。
アップリューだけでは此処までの脅威ではなかった。
オオワザの余波で相手を凍らせる程ではなかった。
しかし、本当の恐ろしさは2匹が揃った時にあったのである。
オオワザの威力は通常の倍に跳ね上がり、互いの冷気を受けて更に二匹の力は向上している。
「そんな──カブト!!」
「下がれアルカ!! 俺達まで凍らされたら誰がこいつらを倒すんだ!!」
氷の林檎には薄っすらと鬼の顔が浮かび上がり、落ちた瞬間に砕けて全てを凍える冷気の爆弾と化す。
それを知っていたアケノヤイバはすぐさま飛び出し、メグルとアルカの前で盾となるのだった。
「アケノヤイバ!! お前も下がれ!! やられちまうぞ!!」
「──エリィィィス!!」
【アケノヤイバの あかつきのごけん!!】
剣が五本浮かび上がり、それがアップルゴーストを抑え込む。
重なった刀が巨大な2つの林檎を抑え込むが、それでも前回より倍増した威力のオオワザを前に押されてしまい、アケノヤイバの身体も冷気の余波で凍り付いていく。
しかしそれでも、老いた自らではなく、この二匹を斃すのは後ろにいる新たな光であることを信じ──アケノヤイバはとびっきりな凶悪な笑みを浮かべてみせる。
剣が、二つの林檎を砕く。
冷気が溢れ出し──アケノヤイバに降り注いだ。
※※※
「俺の名は──だ! 貴様が、刃の獣か?」
人間が憎かった。
自らを迫害した人々から逃げているうちに、こんな所まで来てしまった。
もう、自分が生きているか死んでいるかどうかも怪しい。
道中、自らと同じ姿をした獣を食らい、その身に取り込むことで何とか身体を保っていた。
そのうち、どうやら、死ねない怪物になってしまったらしい。
誰も私を殺せない。
そんなある日、噂を聞きつけたのか、バカな人間が一人、私に挑んできた。
「ただのアブソルではないな。一戦、手合わせを願いたい!」
弱かった。
まあ弱かった。
ズタズタに引き裂いて、マズそうだったのでそこに放り捨てていた。
流石に死んだだろう、とその時は思ったのだが──
「今日も来たぞ、刃の獣よ!!」
──その次の週、男は姿を現した。
また次の週の日も。またその次の週の日も。
同じ顔が私の前に現れた。
あろうことか、徒手空拳で私に挑もうとしているのだ。イカれている。
「だはははははーっ!! 負けた!! 今日も負けたぞ!! 身体が痛い!! ははははは!!」
「ッ……チッ」
「お? 何だ、薬草を分けてくれるのか? 忝い!!」
「……エリィィィス」
「やはり話に聞いていた通りだ! 存外、お前は悪いヤツではないのかもしれんな! 明日もまた来る!」
二度と来るな。
そう思っていたが、どうしても私はこの男にトドメを刺せなかった。
私の身体に触れもしないくせに、何故何度も挑みにくるのだろう。
私が勝つことは決まっている。私には未来が視える。
死にたいのだろうか。それとも──
「何だ? 何故不思議そうに私を見る? 知らんのか。人間の最大の武器は──鍛え抜かれた、己の拳だ!!」
──本気で、私に勝つつもりだというのか? この男が?
「ッ……行くぞ!!
「……!」
「刃の獣、では長くて言いにくいだろう。かと言ってお前さんは只のアブソルではない。夜明けに見えるお前さんは何よりも美しい! だからアケノヤイバだ!」
私は今度こそ、この男を殺さねばならない気がした。
そうでなければ敗けてしまうと確信していた。
未来が視えるこの私が、初めて敗北の未来が視えてしまったのだ。
不可殺の怪物であるこの私が、この人間に敗けるなどと言うことがあっては──
「……この勝負、私の勝ちだな」
──敗ける理由など分かっていた。
この男との拳の交わりを通して、とっくに私は人間への恨みも憎しみも薄れつつあった。
その上名前まで付けられ、それを私は受け入れてしまったのだ。
「勝ったぞ、アケノヤイバ」
「エリィィィス……」
「言う事を一つ、聞いて貰えないだろうか!」
──既に私は折れてしまっていた。この男の前に。
「──私と共に来い、アケノヤイバ! その刃、今度は私の大事なものを護る為に振るってくれまいか!」
……あれ以来。私はすっかり丸くなってしまった。
様々な人間をこの目で目の当たりにして来た。
気高き魂を持つ人間。
醜い人間。
全てこの目で見てきた。
だが決して絶望しなかったのは──あの気高い男に似た魂を持つ守り人が現れると知っていたからだ。
決して悪いものではなかった。このオヤシロでの生活は。
後は頼む──ヒメノ、ノオト。
お前達は片方では頼りない。だが、二人揃えば、きっとあの男に負けず劣らずの守り人足り得るだろう。
──面白き異国の民よ。
貴様の魂もまた、あの男に似ている。
その刀の使い方、私は既に未来で識っているのだ。
存分に振るうが良い。
未来を切り開け!
※※※
「アケノヤイバ……!」
そこには、氷の彫像が出来上がっていた。
アケノヤイバの全身は完全に凍り付き、動かなくなってしまっていた。
たとえどのような高温でも溶けない呪いの氷。そこから抜け出すことは出来ない。
そして、オオワザの押し合いに敗れこそしたものの、アップリューとタルップルの本体は未だに健在だ。
更に、その傍には凍り付いたカブトとバサギリが倒れている。
(絶対に後で助けてやる……待っててくれ!)
戦局は絶望的そのもの。
周囲は氷の壁に覆われており、狭いフィールドでは圧倒的にこちらが不利だ。
冷気が充満すれば、今度こそメグル達まで凍らされてしまう。
「……おにーさん、場所を移しましょう……! 閉所では戦えません!」
「ああ。無理矢理パワーでこじ開ける!」
メグルは一気にヘイラッシャとシャリタツを繰り出す。
続けて、ヘラクロスをアルカは繰り出した。
氷をも砕くことが出来る、超パワーコンビの2匹だ。
一方、オオワザの反動からかアップリューとタルップルも未だに動けずにいる。チャンスはこの瞬間しかない。
「シャリタツ、ヘイラッシャ! 合体だ!」
ガバァッ、とヘイラッシャの口が開き、シャリタツがその中に入り込む。
そして、すぐさま水を纏ったヘイラッシャが氷目掛けて腹全部でぶつかりに行く。
同時にヘラクロスも、畳みかけるようにして拳を氷にぶつける。
「──インファイト!!」
「──ボディプレス!!」
氷の柱は一気にヒビが入り、脆くも砕け散り、吹き飛ばされるのだった。
鉱物等には必ず、そこを突けばあっさりとその方向に割れてしまう「劈開」が存在する。
シャリタツは一瞬の間に、何処が一番割れやすいかを見極め、ヘイラッシャに指示を出したのだ。
「よっし、流石だ!」
「一旦退却です!」
先ずは彼らとの間合いを取らなければ勝利は無い。
案の定、標的が逃げたと悟ったアップリューとタルップルは、ゴースト特有の浮遊で移動し、メグル達を追跡していくのだった。