ポケモン廃人、知らん地方に転移した。【完結】   作:タク@DMP

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第61話:総力戦

「標的現れました!!」

「よしっ、シャドーボール一斉射!! アップリューとタルップルを叩け!!」

 

 

 

 氷の柱から飛び出してきた2体の怪物目掛けて、おやしろのゴーストポケモンが一斉に弱点であるシャドーボールを放っていく。

 しかし、その攻撃は音も無く出現した氷の盾によって防がれてしまい、周囲に氷の破片が散らばるのみになってしまった。

 そればかりか、タルップルの背中からは無差別に冷凍ビームが放たれていき、射撃をしていたゴーストポケモン達を正確に狙って氷漬けにしていく。

 

「退け、退けーッ!! 凍らされたら元に戻れんぞ!!」

「何て奴らだ……! ヒメノ様とノオト様のすがたも無いし、あの二人に任せていて大丈夫なのか!? まともに近付けんぞアレでは!」

「構わん! おやしろを凍らされては後世の恥! 死ぬ気で止めよ! 若い者が死ぬ気で踏ん張っているのだ、我らが命を懸けずしてどうする!」

「ハッ!!」

 

 アップリューとタルップルから逃走し、漸く距離を取ることが出来たメグルとアルカ。

 反撃とばかりに2匹の怪物に向き合うが、その間に割って入るようにして、ズルズキンにゴロンダ、ゴルーグといったおやしろのトレーナーのポケモン達が増援に加わる。

 更に、メグル達を怪物から遠ざけると言わんばかりに僧兵の姿をしたトレーナーたちが現れた。

 

「皆さんッ……!」

「死ぬ気で奴らの進軍を止めろ!」

「我々が奴らがおやしろに進むのを止める! 奴らにダメージを与えてくれ!!」

 

 ゴルーグが力づくでタルップルの身体を引っ張り、引きずられながらも止める。

 更に、アップリューの身体にズルズキンとゴロンダの悪タイプを併せ持つ2匹がしがみつき、一気に地面へ引きずり落とすのだった。

 だがやはり低温の身体を持つ彼らに触れること自体がリスクを伴う。すぐさま冷気が噴出され、ポケモン達は氷漬けになってしまうのだった。

 しかし──それでも、重みによって彼らはすぐには動くことが出来ない。

 

「叩き込め!! ヘイラッシャ、アクアブレイク!!」

「ヘラクロス、ストーンエッジだ!!」

 

 ヘイラッシャが身体全部でタルップル目掛けてぶつかり、吹き飛ばす。

 そして、墜落したアップリューにトドメを刺すようにしてヘラクロスが岩の刃を思いっきり突き刺した。

 ──しかし。

 

「あっぷりゅりゅりゅりゅりゅーッ!!」

「た、たるるるるるるるーっ!!」

 

 すぐさま冷気が噴き出し、ヘラクロスもヘイラッシャの身体も氷漬けになっていく。

 ぐしゃぐしゃに潰されたはずの身体は、何事も無かったかのように”じこさいせい”で回復したのだ。

 更にタルップルは、その巨大な口を開け、猛吹雪を引き起こす。

 

 

 

【タルップルの ふぶき!!】

 

 

 

「ッ……ドロンチ、”ひかりのかべ”!!」

 

 だが、黙って凍らされるおやしろのトレーナーではない。

 すぐさまドロンチが展開した光の壁が猛吹雪を抑え込み、メグル達に再び逃げる余裕を与えるのだった。

 しかし、漏れだした冷気は壁を通り越し、ドロンチとそのトレーナーを氷漬けにし、更に地面をも凍結させていく。

 

「いっ!?」

 

 急に路面が凍結したことで、メグルの身体が倒れた。

 テーピングしていて動かしづらくなっていた足が枷となり、もつれたのだ。

 肘と膝をぶつけ、痛みで悶絶しながら彼は転がる。

 「おにーさん!?」とアルカの声が飛んできたが、彼女が助けに入れば彼女までアップリュー達に凍らされてしまう。

 

「先に行けアルカ!! 俺は追いつく──」

「でも──」

 

 後ろからアップリュー、そしてタルップルが大口を開けて迫ってくる。

 大容量の冷気を口から漏らしながら──

 

 

 

「ニンフィア!!」

「ふぃーあ!」

 

 

 

 メグルはすぐさま腰のボールを投げ込み、ニンフィアを繰り出す。

 一か八か。賭けるしかない。

 ヘイラッシャもバサギリも倒れた今、此処で彼らを退けることが出来るのは彼女だけだ。

 しかし、ハイパーボイスはまだ完成していない。

 彼女は不安そうな顔で二体の敵を睨み付ける。

 何時にも無く弱気な彼女の背中をさすりながら、メグルは起き上がった。

 

「──ニンフィア。前に言ったよな?」

「ふぃー……!」

「デカい技放つときは嫌な奴の顔を思い浮かべろ、って! 博士の顔を思い浮かべろ!」

「……ッ!」

 

 ただし、ニンフィアの頭に思い浮かぶのは、博士ではなかった。

 

 

 

 ──ふーるるるる♪(特別意訳:好き好き♡ 私の運命の人♡)

 

 ──おにーさんが、本当にボクのおにーさんだったら良かったのに……♡(泥棒猫フィルターが掛かっています)

 

 

 

 泥棒猫(猫ではない)二匹の顔と言葉だ。

 ニンフィアは譲るつもりは無い。主人はあくまでも自分の物だ。

 暴れん坊の自分を見捨てないで命懸けで庇ってくれたあの日から、ニンフィアの心はメグルに奪われたままなのだ。

 

「ッ……ふぃぃぃぃぃーっ」

 

 大きく息を吸い込むニンフィア。

 主人を護るという意思。

 そして大好きな主人の隣の席を脅かす者全てを吹き飛ばさんと言う意思。

 それが、足りなかった最後の一押しとなる。

 彼女の声には魔法が宿った。

 

 

 

 

「──ふぃぃぃぃぃぃぃーッ!!」

 

 

 

【ニンフィアのハイパーボイス!!】

 

 

 

 

 メグルが後少し耳を塞ぐのが遅ければ、彼の鼓膜は破れていただろう。 

 周囲のもの全てを震動させる大声量の衝撃波は妖精の祝福を受け、アップリューとタルップルを昏倒させて地面に叩き伏せる。

 想定外の反撃を受けたからか、氷の怪物たちはUターンし、そのまま逃げていくのだった。

 

「や、やった……! ハイパーボイスを覚えたんだな、ニンフィア!」

「ふぃーあ♪」

 

 尚、メグルは気付いていない。その理由が、自分に向けられた巨大な好意の矢印であることに。

 

 

 ※※※

 

 

 

「さ、寒い……!」

「耐寒ジャケットを着ていてコレか……」

 

 対アップリュー・タルップル用に、相当の厚着をしている各員だったが、それでも冷気を常時放ち続ける2匹と相対すると漏れなく皆「寒い」とこぼすのだった。

 無論、目の前でずっと戦っていたメグル達も例外ではない。

 何時敵が来てもいいように、ずっとジャケットの用意はしていたのだ。

 その上で彼は断言する。

 今回の戦いはこれまでで最大の地獄である、と。

 周囲の気温は既に2℃近くまで冷え込んだ。

 アップリューとタルップルの周囲は氷点下を超す勢いだという。

 

「報告! アップリューとタルップルの二匹は、第二庭園で休息しているとのこと!」

「片方が起きて、片方が寝ているのを繰り返しているみたいですね……抜け目がない奴らだ」

 

 その報告を聞いて、メグルは思わず唸る。

 敵の最大の脅威は幾らダメージを与えても、すぐに回復してしまうことだ。

 放っておけば、再びあの二匹は全快してこちらに襲い掛かってくることは容易に想像できる。

 

「これでボクは2匹。おにーさんは3匹、手持ちを凍らされてるんですよね……」

「あのまま、あいつらを逃がしたら大惨事だ……他にもポケモンや人が凍らされてるのに」

「スシー……」

 

 か細い声が聞こえてきた。

 思わず鞄の蓋を開けると──そこには涙目のシャリタツが入っていた。

 両手で抱き上げると、しょんぼりとした様子で「ヌシー?」とシャリタツはアルカ、そしてメグルの方を見やる。

 どうやら彼女にとっては、二人共「主人」という扱いらしい。

 

「シャリタツ、無事だったのか……!」

「良かったぁ……! でも、ヘイラッシャの口の中に居たよね!?」

「すんでのところでアイツ、シャリタツを口から吐き出したんだろうな。漢の中の漢だぜ」

「ラッシャ……」

「大丈夫だ、お前の彼氏はぜってー助けてやる!」

「そうだよ! あんな奴ら、すぐにやっつけてやるんだからね!」

「ヌシィ……」 

 

(やっつける、ね……奴ら二匹相手にするのが此処まで苦とは思わなかったけど、それでも勝ち目がないわけじゃない)

 

 方法は無いわけではない。

 この戦いに勝つには条件が3つある、とメグルは考える。

 1つは、あの二匹を引き離し、分断する事。二匹掛かりではどうやっても勝ち目はない。冷気が強すぎて近付くだけで壊滅させられる。

 2つは、自己再生を封じる事。このままでは幾ら体力を削っても回復するだけだ。

 3つは、オオワザの対策をし、発動させないか、発動前に体力を削り切ること。

 

「方法はある……あいつらの強みを一つ一つ潰していけば、必ず活路は開ける!」

「でも、どうやって?」

「そのためには、俺達だけじゃない。今此処にいるおやしろのトレーナーの皆さんの力が必要……なんすけど……」

「……」

「……」

「……」

 

 厳しい顔の僧兵たち。

 相手が強いだけあって、簡単には踏ん切りが付かないようだった。

 既に仲間が何人も凍らされている。

 更に、最大戦力であるキャプテンも不在の状況。

 彼らの心も既に摩耗しつつあった。

 しかし──その中の一人がカツン、と杖を鳴らす。

 

「良いじゃねーか、テメェら賭けてやっても。このボウズは、そこの嬢ちゃん助けにうちのお姫様に喧嘩売りにいったんだろ?」

 

 豪胆な笑みを浮かべ、彼はメグルの頭をポンポン、と叩く。

 

「──俺ァ嫌いじゃねえぜ。漢見せてくれるヤツはな」

「ッ……そうだな。俺達ゃ頭使うのは下手くそだけど……一緒に考えようぜ」

「やるだけやるしかねえよな──じゃなきゃ、ヌシ様に怒られちまうよ」

「ノオト様とヒメノ様が認めたトレーナーなんだ。俺達も命張らなきゃな。イッコンの大ピンチ、今戦えるのは俺達だけだ」

 

 一人の言葉を切っ掛けに、全員は立ち上がっていく。

 休んでいる場合ではない。

 この間にも二匹は体力を回復させているのだから。

 

「ボウズ。策はあるか?」

「……二匹を分断したいんです。一匹ずつなら、勝ち目はまだあるかと。でも正直、これが一番難しくって」

「でもよ、あいつら言うてアップリューとタルップルなんだろ? 多分やりようはあるぜ」

「そうだな。おう、農園の爺さんと婆さんに誰か電話しな! 叩き起こせ! 出番だってよ!」

「何だか解決しそうですね、これは」

「ああ……」

 

 そして2つ目のネックポイント。

 それは、自己再生によって体力を回復されることだ。

 

「じゃあ、分断した後に挑発が使えるポケモンで奴等の回復を封じれば良い」

「ああ。第二庭園から奴らをそれぞれ東門、西門に誘導すれば、第一庭園と第三庭園が袋小路になる」

「そこに、待ち伏せさせたポケモンで奴らの動きを封じれば良い」

「オオワザもそうだ。複数体のポケモンで取り囲んで、弱点技をぶつければ……勝てねえことはねえよ」

「皆さん、盛り上がり始めましたね……にしても、どうやっておびき出すんでしょうか?」

「……どっちにせよ、一番気合入れなきゃいけねーのは俺達だぜ?」

「え?」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 アップリューとタルップルはふと、香ばしい香りで目を覚ました。

 アップリューは、自らが好む酸っぱい林檎の香り。

 タルップルは、自らが好む甘い林檎の香り。

 幾ら幽霊林檎と言えど、彼らは元々林檎の竜。胃の腑に甘い蜜、そして酸っぱい酸を溜め込むべくその匂いがする方にそれぞれ動き出すのだった。

 睡眠の次は食事。生き物にとっては体力を回復させる重要な行動である。

 

「アップリュリュー!!」

「たるるるるるるるー!!」

 

 すぐさま彼らは、庭園の西門、東門から飛び出した。

 そして、通路の先に居たのは──

 

「──欲しいだろ? 欲しいなら捕まえてみろよ!」

「──こっちに、おーいで!」

 

 ──東門。甘い蜜をしこたま入れた瓶を背負ったメグルがオドシシに跨っている。

 

(餌で釣るのが一番手っ取り早いんだよ!!)

 

 ──西門。酸っぱい林檎酢をしこたま入れた瓶を背負ったアルカがモトトカゲに跨っている。

 

(頑張るってこういう事!? 要は囮ってことじゃないですかぁ!!)

 

 アップリューはアルカを、そしてタルップルはメグルを目掛けて一目散に飛び出したのだった。

 だが、そこからは一本道。

 すぐさま彼らは第三庭園と第一庭園に誘導されることになるのである。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 第一庭園。

 壁に囲まれた枯山水の庭園に誘い込まれたアップリューは、すぐさまオコリザル達が視界に入る。

 彼らはアップリューを見るなり、振り返り、お尻を叩き、そしてあっかんべーと挑発してみせた。

 当然、キレるアップリュー。すぐさまオコリザル達目掛けて氷柱を落とそうとするが──

 

「──竜の波動!!」

 

 既に顔の下に潜り込んでいたモトトカゲから想定外の奇襲を受けることになり、墜落する。

 そのままアルカはアップリューの背後に回り込むと叫ぶ。

 

「君の相手はボクと、モトトカゲだ! カブトとヘラクロスの仇、取らせてもらうよ!」

「アギャァス!!」

 

 キェェェェェ、と甲高く叫ぶアップリュー。

 怒りは既に心頭だった。しかし、アルカの背中には未だにあの酢の入った瓶が良い匂いを漂わせている。

 凍らせては馳走にありつけない。すぐさま幽霊林檎はそれを奪うべく、飛び掛かるが──

 

「準備用意!! シャドーボール、一斉射!! ってェェェーッ!!」

 

 屋根の上から、再び彼は奇襲を受けることになる。

 そこには、おやしろのトレーナーたちが仁王立ちで立っていた。

 ムウマやゴーストと言ったポケモン達が、間髪入れずにシャドーボールを撃ち込んでいく。

 

「おやしろを只の神社と思わんことだ!! 一方通行の通路と袋小路の庭園は、敵を四方から叩きのめすために設計された古の罠よーッ!!」

「あっ、あっぷりゅりゅりゅりゅりゅーッ!?」

 

 今度は不意打ちだったので、氷の壁すら張ることが出来なかったアップリュー。

 それもそのはず、挑発されている所為で、既に冷静な判断が出来なくなっているのだ。

 だが、そうなれば今度は最後の手段に容赦なく転じるというわけで。

 アルカ達の頭上に巨大な氷の林檎が浮かび上がり、更に周囲は氷に閉ざされていく。

 凄まじい冷気がアップリューの身体に集中していくのだった。

 

【アップリューの──】

 

「オオワザ来た!! ──そのまま決めちゃって!! お願い!!」

 

 おやしろのトレーナーたちはアルカの叫び声に反応し、すぐさま屋根の上で通り道を開ける。

 間もなく、ごろごろと瓦を剥がしながら音を立てて、それは勢いを強めながら転がっていくのだった。

 だが、オオワザに集中しているアップリューは、もう周囲の敵全部を凍らせることしか考えていない。

 だから気付かなかった。

 ()()()()()のは、自分の方であった、と。

 

 

 

 

「──ゴローニャ、ヘビーボンバー!!」

 

 

 

 屋根から勢いよく飛び出した岩の塊は──アップリューの脳天を一気に押し潰す。

 ふらり、とへしゃげた頭で態勢を崩すアップリュー。

 オオワザを中断し、潰された頭部をすぐさま再生こそさせたものの、”じこさいせい”のように体力まで回復させる余裕はないし、させることも出来ない。

 すぐさまモトトカゲのギアを握り締め、アルカはアップリューに向かって駆け出す。

 

 

 

「──トドメだ、モトトカゲ!! オーバーヒート!!」

「アギャァス!!」

 

 

 

 モトトカゲの口に灼熱が溜め込まれ、一気に凝縮された火種として飛ばされる。

 爆炎がアップリューを包み込み、氷の外殻を溶かしていく。

 

【効果は抜群だ!!】

 

「──行け!! ダークボール!!」

 

 そこに、アルカは夜間で捕獲率が上がるダークボールを投げ込んだ。

 完全に墜落し、炎上したアップリューはその中へと吸い込まれていき──何度か激しく揺れたものの、収まったのだった。

 そして周囲を凍てつかせていた氷は解けていく。

 第一の氷の呪いは、これで完全に解かれた。

 

 

 

「よっし! アップリュー、捕獲ですっ!」

 

 

 

 周りから歓声が上がる。

 残るは──タルップルのみだ。

 

 

 

「……おにーさん。どうか無事で」

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