ポケモン廃人、知らん地方に転移した。【完結】   作:タク@DMP

66 / 225
第62話:呪いは解け、氷も溶ける

 ※※※

 

 

 

「──はどうだん、ッス!!」

 

 

 

 波動弾が弾道を描くも、壁に向かって飛んでしまう。

 すぐさま回り込んだフーディンがお札を浮かび上がらせ、ルカリオを爆撃した。

 

「諦めて。貴方達じゃあ、絶対にコトリバコの呪いは解けない」

「ッ……」

 

 八戒・呼獲箱と書いてハッカイ・コトリバコと読む。子獲箱ではない。断じて。

 このオオワザは、呪われた空間に相手をまとめて誘い込み、呪いの炎で焼き尽くす技。

 既にノオトもヒメノも、身体を呪いの炎に焼かれており、倒れる寸前だ。

 メガジュペッタ、そしてルカリオがフーディンを前にしているものの、素早くテレポートを繰り返し、更にお札で翻弄する敵を前に長期戦を強いられていた。

 

「”はどうだん”!!」

「当たらないって言ってる」

 

 フーディンに攻撃は当たらない。

 そして、二人にはもう時間が無い。

 呪いの炎が彼らの命を焼き尽くすまで、残り僅か。

 既に両脚が炎に焼かれ、立つこともままならない状態だ。

 

「結果的に、一番辛い死に方するなんて哀れ」

「……言わせておけば、なのですよ。ヒメノのミミッキュは絶対に返して貰うのですよ」

「ミミッキュ? ああ、あのポケモン」

「どうして。どうしてミミッキュを凍らせたのです!」

「あの日アルネは、偵察の為にイッコンに来てた。その時──カジッチュが逃げ出した」

 

 ぽつり、とアルネは呟く。

 

「──その時にカジッチュは、暴れて果樹園の一角を凍らせた。それだけ」

「事故だった、ってのかよ……!」

「……そう。事故。でも、あの時のカジッチュは今はタルップル。だから喜んで。もし誰かがタルップルを倒せれば、貴女のミミッキュは元通り」

 

 でも、と彼女は続ける。

 

 

 

「──簡単に倒されてやるつもりなんて微塵も無いけど」

 

 

 

 この戦いの中で、一度もフーディンは被弾していない。

 そう、ただの一度も、だ。

 

「どんな攻撃もフーディンには通用しない。貴方達じゃあ勝てない」

「……そうッスねー、お手上げかもッス」

「ええ。お手上げなのですよ」

「……諦めた?」

「まさか」

 

 ニヤリ、とノオトは笑みを浮かべた。ヒメノも頷くと同じく、笑みを浮かべてみせる。

 

「安心したのです。ヒメノ達が鍛えたメグル様とアルカ様ならば、タルップルなんて敵じゃないのです」

「だから、此処で思う存分オメーをぶちのめせるって訳ッスよ! 姉貴、フーディンをしばらく引きつけておくッス!」

「……りょーかい、なのですよ!」

 

 ジュペッタが飛ぶ。

 そして、空間から次々にシャドークローが現れ、フーディンを狙っていくが、それも全て当たりはしない。

 以前、果樹園付近で戦った時も、素早かったが当たらないわけではなかった。

 メガジュペッタの攻撃ならば、捕捉することが出来たのだ。

 

「ルカリオ。この一撃に全てを賭けるッスよ」

「──ガオンッ!!」

 

 一方、ルカリオは掌にエネルギーをチャージし始める。

 だがその間にも、ノオトを覆う炎は全身に広がっていた。

 

「もう時間が無い。貴方達は此処で焼き尽くされる」

「ふふっ、かもですねー♪」

「……この賭けが外れたら、ッスけど」

「……まさか」

 

 流石にアルネもカンが良かった。

 

「おかしいと思ったんスよ。必ず命中する”はどうだん”が当たらなかった時点で確信したッス」

 

 そこまで言った瞬間、フーディンはターゲットをルカリオに切り替え、急接近する。

 だが、もう遅かった。

 

「フーディン、ヤバい──全部バレた」

「幽霊の正体見たり枯れ尾花ー♪ 種は全て割れたのですよー♪」

「──遠くを狙うと威力が減衰する──貫くなら接射しかねえッス!!」

 

 ルカリオは床に掌を押し当てた。

 

 

 

「──最大出力──”てっていこうせん”!!」

 

 

 

 反動でルカリオが吹き飛ぶ程の威力だった。

 しかし、その勢いで空間に穴がこじ開けられる。

 すぐさま断末魔の叫びが周囲の壁から響き渡っていく。

 

「……オレっちたちが今まで相手にしてたフーディンは、全てお札で作られた幻影」

「本体は──この空間そのものだった、ってところなのですよ」

「”はどうだん”の狙いがおかしかったのは、フーディンがこの空間に変化していたからッス。ちゃあんと”はどうだん”は本体を狙ってたんスよ」

「ま、化け狐に相応しいと言えば相応しいのです。よく、狐は化かすというのですよ。ゾロア然り、キュウコン然り」

 

 がらがらと音を立てて崩れ落ちていく肉の壁。

 その破片は収束していき、フーディンのすがたへと戻っていく。

 ”ハッカイ・コトリバコ”は、()()使()()()()()()()()()()()()()()()()()()相手を閉じ込める技だった。

 故に、種を見破られ、壁を破壊されてしまえば、技を発動したポケモンには致命的な大ダメージが入ってしまうのである。

 

「──そんな──呪い殺される前に気付くなんて──そもそも()()()()()だなんて聞いてない──」

「ノオトが居ないと気付かなかったのですよ」

「いやいやー、姉貴がいねーと即負けだったッス」

 

 元の場所、おやしろの前に彼らは戻って来た。

 後に残るのは、オーライズが解除されて横たわるフーディン。

 そして、解除不能と思われていたオオワザを突破され、愕然とするアルネのみだった。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「──こっちだぜ、タルップル!!」

「たるるるるーっ!!」

 

 

 

 手筈通り、庭園内にタルップルを誘き寄せたメグル。

 当然、こちらでもタルップルを待ち受けているのはオコリザルによる挑発の応酬だった。

 早速”じこさいせい”を封じられたタルップルは怒り狂い、メグルに向き直る。

 

「ウチのポケモンの仇……取らせて貰うぞ!!」

「オヌシ、テキー!!」

 

 メグルの頭にしがみついているシャリタツが涙目で叫ぶ。

 タルップルはまとめて凍らせんとばかりに、がぱぁ、と口から冷凍ビームを放っていくが、オドシシがいずれも躱していく。

 そればかりか、動かない事で、砲撃要員たちからタルップルは良い的だ。

 

「シャドーボール一斉射ッ!! ってェェェェーッ!!」

 

 ムウマ、フワライドといったポケモン達が次々にシャドーボールを撃ち込んでいく。

 効果バツグンの攻撃の雨。

 流石のタルップルも、ひとたまりではないだろう、全員が溜飲を下げたその時であった。

 爆風が晴れた場所には、タルップルが何事も無かったかのように立っていた。

 

「なっ、今の攻撃を耐えたのか!?」

「たるるるるるるるう!!」

 

 鈍重なタルップルだが、やはり防御力には定評があるらしい。

 すぐさまライドギアの舵を切り、メグルはタルップルから離脱する。

 タルップルは背中の巨大な氷の殻から冷凍ビームを無差別に放っていく。

 屋根の上に居たトレーナーたち、そしてゴーストポケモン達は次々に呪いの氷に閉じ込められてしまった。

 

(やっぱり厄介なのはこいつだ!! アップリューの方がマシだった!! ちょっとトロいだけで、堅すぎる──!!)

 

 そして、この凶暴さゆえに鈍重なタルップルに進化させなければ手の付けようがなかったのではないか、とメグルは推測する。

 前回の襲撃で居なかったのも、アルネにとっても手に余る存在だから──そして、以前第一果樹園を襲ったのがタルップルと仮定するなら、それすらテング団にとっても想定外の出来事だった可能性すら浮上する。

 真相は定かではないが、この手の付けられない暴れっぷりから可能性は高い。

 近付くことすら憚られるレベルだ。周囲を見境なく凍らせる暴君である。

 メグルはふと屋根上を見上げた。奇襲要員のニンフィアがそこでずっと待ち構えている。

 だが、ゴーグルで視力が向上しているメグルには分かる。きっと多分、彼女は今こう考えている。

 

 

 

 ──このまま降りて奇襲? 死ねと?

 

 

 

 実際その通りであった。反論しようがなかった。

 奇襲とは、絶対に成功するという前提があって成り立つのだ。

 あそこまで隙の無いビームを展開されては、奇襲もへったくれもない。

 だが、問題は防御だけではない。情けも容赦も欠片も無い攻撃の数々だ。

 

【タルップルの ふぶき!!】

 

 猛吹雪がメグル達を襲う。

 幸い、オドシシが大きく跳んだことで、範囲からは逃れたものの、後には氷の柱が壁まで出来上がっていた。

 

「ッ……なんつー火力……!」

「シャリシャリ……スシ」

 

 氷等倍のシャリタツも怯えるレベルであった。

 天変地異のレベルだ。この氷の怪物を野放しにするわけにはいかない。

 タルップルの居る場所を起点として、どんどん壁が凍り付いていく。

 吹雪が吹き荒れるだけで、おやしろは完全に氷の城と化すだろう。

 

「オドシシ、速度上げられるか!?」

「ブルルルルルゥ!!」

 

 一気に駆け出すオドシシ。

 タルップルの弱点は機動力の無さだ。

 動き回っていれば、攻撃は当たらない。

 しかし、それは相手も分かっているのだろう。

 殻から冷凍ビームを撃ち出し、オドシシの足元を狙撃していく。

 最初は避けられていたオドシシも、徐々に疲労が溜まって来た。

 遂にビームによる一閃を避けられず、後ろ足が地面と縫い付けられてしまうのだった。

 

「ッ……オドシシ!!」

「ブッ……ブルルルルル……ッ!!」

 

 ピキ、ピキピキと音を立ててオドシシの身体はそこから急速に凍り付いていく。

 メグルは思わずオドシシから降りて足から氷を剥がそうとするが、あっという間に、首元まで凍結が進んでしまうのだった。

 

「くそっ、すまんオドシシ──」

 

 だがそこに間髪入れず、タルップルが次弾を放つべく冷凍ビームを装填しに掛かる。

 慌ててニンフィアも屋根から飛び降りようとするが、間に合わない。

 

「ッ……ヤバい、捕捉された──ッ!!」

 

 その時だった。

 タルップルの殻は突如、粉々に砕け散り、冷気が飛び散った。

 

「たるるるるぅ!?」

 

 悲鳴を上げ、のたうち回るタルップル。

 だが、自己再生する事も出来ないので、欠けた部分を治す事も出来ない。

 下手人は地面に降り立ち、敵に向かって威嚇してみせるのだった。

 遅れて降り立ったニンフィアも、驚きの余り目を見開く。

 

「──ふるるるーる!!」

 

 助っ人の正体は──子アブソルだった。

 彼女は甲高く鳴いた後、すぐさまメグルの元に駆け寄る。

 

「ふるるるーる!」

「ふぃー……」

 

 尻尾を振りながら笑顔で駆け寄る様は、本当に子犬のようだ。

 しかし、タルップルへの寸分違わぬタイミングでの不意打ちはまさに職人技。

 他のゲーム媒体ではアサシンのような性能付けがされるアブソルだが、それに相応しい立ち回りであった。

 

「お前、わざわざ来てくれたのか!」

「ふるるるーる!」

「……ふぃー。……ふぃー!」

 

 ニンフィアもメグルの元に遅れてやってくる。

 最初は機嫌が悪そうに唸っていたが、同輩であるオドシシが完全に凍結したのを見て──改めて、タルップルに怒りを滾らせる。

 

「悪いな、オドシシ。戻っててくれ。こいつは絶対──俺達が捕まえてみせる!」

「ふぃー!」

「ふるーる!」

「スシ!」

 

 改めて。

 残る手持ちは3匹。

 ニンフィア、アブソル、そしてメグルの頭の上に乗っているシャリタツ。

 小細工が通用しない以上、正面からタルップルを叩きのめすしかない。

 挑発の効果も切れてしまったのか、タルップルは背中の甲殻を再生してしまう。

 そして、自分を散々コケにしたメグル達に憎悪を向け、咆哮するのだった。

 

「たるるるるるるーッ!!」

 

 タルップルの頭上に巨大な氷の林檎が浮かび上がる。

 冷気が溢れ出し、周囲のものが音を立てて時間を止め始めた。

 オオワザの態勢だ。

 しかも、これまで見た中で最も大きな氷の林檎だった。

 この冷気爆弾が地上に落ちれば、おやしろは丸ごと凍らされてしまうだろう。

 そして、堅牢なタルップルには只の攻撃は通用しない。

 ……只の攻撃ならば。

 

「ニンフィア、これが最後だ」

「ふぃー?」

「ヤツはオオワザを撃つ瞬間が無防備になる。そのためには、オオワザを抑え込まなきゃいけない」

「……ふぃー!」

 

 メグルが取り出したのは──アケノヤイバから貰った錆びた刀だった。

 

「アルカが言っていた。そのポケモンのオーラが籠っている道具がオーパーツだって。それならきっと……コイツが反応してるのも偶然じゃないよな」

 

 万が一の時のため。

 メグルはオージュエルをずっと、ファスナー付きポケットの中に入れていた。

 そしてずっと、オーパーツを求める宝石の熱と鼓動を感じ取っていた。

 

「ニンフィア。俺の賭けに、付き合ってくれるか?」

「ふぃー!」

 

 当然だ、と言わんばかりにニンフィアは甲高く鳴いた。

 そうと決まれば、やることは決まっている。

 メグルは刀を宙に放り投げ、オージュエルを構える。

 

 

 

【オージュエルが オーパーツの力を解き放つ──ッ!!】

 

「──ニンフィア、オーライズだ!!」

「ふぃー!」

 

 

 

 オージュエルの光はオーパーツを解放し、それをオーラの鎧へと変化させる。

 

(アルカ。お前から貰ったオージュエル、此処で使わせてもらう!)

 

 刀がオーラとなり、ニンフィアの身体を覆う。

 紫色の霊魂の炎が足に宿り、頭にも火の玉が灯る。

 そして、リボンには刀の形をした装甲が纏われたのだった。

 最後に一瞬、アケノヤイバの姿が浮かび上がり、消えた。

 

 

 

「ふぃーッ!!」

 

【ニンフィア<AR:アブソル> むすびつきポケモン タイプ:格闘/ゴースト】

 

 

 

 自らの同族を思わせるその姿を見たアブソルは──思わず目を輝かせる。

 一方、メグルは思った以上にアケノヤイバに似なかったその姿に困惑を隠せない。

 

(あ、あれ? なんかアケノヤイバってより、只のアブソルって感じだな……)

 

 そうして戸惑っているうちに一つの可能性に辿り着く。

 先程、アルネが披露してみせたギガオーライズについて、だ。

 

(もしかして、アケノヤイバとしての力を解放できるのってアブソルだけだったりするのか……?)

 

「──いや、今はどっちでもいい! ニンフィア、オオワザだ!」

「ふぃー!」

 

 ニンフィアの身体に一瞬、アケノヤイバの身体が浮かび上がる。

 そして、五本の剣が彼女の周囲を舞い、次々に氷林檎を狙って飛んで行った。

 一度見ている上に、アケノヤイバのオーラが使い方を身体に教えてくれる。

 剣は林檎を抑え込み、完全に受け止めたのだった。

 

 

 

【ニンフィアの ”あかつきのごけん”!!】

【タルップルの ”アップルゴースト”!!】

 

 

 

 オオワザとオオワザがぶつかり合い、せめぎ合う。

 霊気と冷気が反発し合い、周囲に拡散していく。

 だが、タルップルは一匹だけ。オオワザを止められて焦りを隠せないのか、全部のエネルギーを氷林檎に回すものの、剣を押しのけることは出来ない。

 

「ゲームオーバーだ、タルップル。連携はこっちも負けてねーんだよ!」

 

 一方、メグルにはまだ手持ちが残っている。

 シャリタツがアブソルの背中に飛び乗り「スシー!」と甲高く鳴いたのだった。

 

「ッ……トドメだ!! アブソル、シャドークロー!! シャリタツ、りゅうのはどう!!」

 

 アブソルが地面を蹴り、一気に距離を詰めた。

 再び、タルップルの背中の殻をその鋭い爪、そして宙を舞う影の剣で八つ裂きに。

 そして、砕けた殻の中身目掛けて、シャリタツが飛び出し──「カタキー!!」と叫びながらドラゴンエネルギーを直に叩き込む。

 致命的なダメージを受けたタルップルは、崩れ落ち、同時に氷の林檎も五本の剣にまとめて切り裂かれ、爆散したのだった。

 

(これで終いだ──ダークボール!!)

 

 メグルは走り出す。

 満身創痍のタルップル目掛けてボールを投げ込んだ。

 その身体はすぐに吸い込まれていき、激しく暴れこそしたものの──遂に、ボールの中に納まったのだった。




本日12時に第三章の最終話を予約投稿しています。是非見てね!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。