ポケモン廃人、知らん地方に転移した。【完結】 作:タク@DMP
※※※
──イシツブテというポケモンが居る。
岩でできた頭の両端から屈強な腕が生えた石ころのポケモンである。
52番山道の中腹部は山岳地帯になっており、木々が少なくなってくる。
そして、ごつごつとした岩に囲まれた道となっており、このような場所ではよくイシツブテが転がって移動しているのだ。
その様子を見張るため草むらに隠れている不審な男女が居た。メグルとユイである。
「良い? 草むらにこうやって隠れて、ポケモンが近付いてきたところをボールを投げるの、返事はイエスマム」
「イエスマム」
「例えば今イシツブテが後ろ向いてるでしょ? そういう時にボールを投げると──」
後ろから後頭部にボールをぶつけられ、怯んだイシツブテはそのままボールの中に納まってしまった。
かくん、かくん、かくん、とボールが3度揺れ、完全にボールは動かなくなる。
「こうしてゲットできる、ってわけ」
得意げにユイはイシツブテの入ったボールをメグルに見せつける。
流石に手馴れている。
これが、LEGENDSアルセウスではよく見られた、
ポケモンの不意を突いてボールを当てることで、すぐにボールへ納めることができるのだ。
(今までのゲームでは分からなかっただけで、実はメジャーだったりするのか? ボール直投げ)
「じゃあ、実践ね!」
ポイントを少し変え、双眼鏡で見渡すと、何匹かのポケモンがまとまって群生している。
岩影でごろごろしているイシツブテに、シキジカ、そして──今回のメグルの目当てだ。
(見つけた!)
トナカイのような姿をした、気難しそうな表情のポケモンが木陰で足を折りたたんで休んでいる。
おおツノポケモンのオドシシだ。
角についている丸い玉の所為で、遠巻きから見ると本当に大きな目玉のように見える。
【オドシシ おおツノポケモン ノーマルタイプ】
「なぁ、1つ聞きたいんだけど」
「何よ?」
「あいつ──オドシシって進化するのか?」
「え? ……また微妙な所を突いてきたわね」
これまた微妙な顔でユイは言った。
「実は進化系が数年前に見つかったのよ。ただ、人の育成下での進化法はまだ確立されていなくって」
「じゃあ──居るんだな? アヤシシが」
「そうね」
──アヤシシ。
LEGENDSアルセウスで登場した、過去のシンオウ地方──ヒスイ地方で生息していたとされているオドシシの進化系だ。
しかし、このポケモンはヒスイ地方特有の姿から進化するわけではなく、原種のオドシシからそのまま進化する文字通り新たな進化ポケモンだったのである。
どうして現代では進化系のアヤシシが登場しないのかは理由付けされていない(メタフィクション的な理由では、LEGENDSアルセウスで初登場した後付け進化ポケモンだから、であるが)。
アヤシシ進化のトリガーとなっていた”早業”が現代では失伝したからではないか、とメグルは考えている。
そのため、アヤシシがこの地方に居ないなら諦めるつもりだったのだが──野生下での目撃例があるならば希望はあった。
(H73 A95 B62 C85 D65 S85……微妙に気難しそうな顔に違わぬ微妙な種族値だが、仮に進化しなくても序盤なら悪くない性能だし? 何より色んなタイプの技を覚えるから持っておきたかったんだよな)
何よりアヤシシに進化さえすれば種族値は改善され、アタッカーとしての性能は高くなる。
……と、このように小難しい事を述べたが、一番は──
(レジェアル出身のポケモン、一回使って見たかったんだよな!!)
これに尽きる。ポケモン廃人にもロマンはあるようであった。
ぷしゅぷしゅ、と博士から大量に貰った”においけしスプレー”を振りかけると、メグルは早速草むらで腰を低くしてオドシシの背後に回り込む。
そして、ボールを投げた。
明後日の方向へ飛んだ。
木の上の木の実にぶつかった。
そして──オドシシの頭に木の実が落ちた。
「──ぶるるるぅぅぅぅーッ!?」
気付かれた。
「そうはならんでしょ!?」
「なっとる、やろがいッ!!」
哀れノーコン。
潔く草むらから飛び出したメグルは、イーブイの入ったボールを目の前に投げ入れる。
飛び出したイーブイは気合十分だ、と言わんばかりに甲高く鳴くのだった。
「もうこうなったらままよ! 今日こそポケモンを捕まえるぞ!」
「ぷっきゅるるるっ!」
「あーあ、もう……先が思いやられるなあ……」
「ぶるるるるるぅぅぅーっ!!」
起き上がり、後ろ脚で地面を蹴るオドシシ。
そのまま突撃してくると思いきや──2本の角をメグルとイーブイに向けたまま、その場で止まってしまう。
「へっ、何かと思えば、こけおどし──」
「ぷきゅー……」
「──じゃ、ねぇかぁ……ずごぉ」
強烈な眠気がメグルとイーブイを襲った。
そのまま彼は立ったまま眠ってしまう。
”さいみんじゅつ”。文字通り相手を強制的に眠らせる技だ。
オドシシは玉の付いた二本の角を目玉に見立てることで、相手に暗示をかけることが出来る。
その応用が──この睡眠技だ。
「ちょっと起きて!! 逃げたわよ、あいつ!!」
「ふぇっ!?」
気が付くと、オドシシは一目散に逃げていく。
「そう言えばアイツ、催眠術覚えるんだったな……猶更欲しくなったね! 今後の捕獲で楽出来るしな!」
「ちょっと。何で岩壁に話しかけてんのよ!!」
「あっだだだだだ!?」
耳たぶを強く引っ張られるメグル。まだ催眠が抜けていないようであった。
※※※
おぼつかない足取りでの追跡にはなったが、獲物はすぐに見つかった。
襲ってこずに逃げていた辺り、種の特徴としては、やはり臆病な性格なのだろう。
「イーブイ! 今度は先手を打って畳みかけるぞ!!」
「ぶるるるるぅーっ!!」
「気を付けて! あいつの角を見ちゃダメなんだから!」
「わぁーってるって! 二度同じ手は喰らわねえよ! ”すなかけ”!」
イーブイの後ろ蹴りから砂煙が巻き起こる。
催眠術は命中率が低い技だ。命中率を下げてしまえば、そうそう当たることはなくなる。
「ぶるるるるゥーッ!!」
【オドシシの ねんりき!!】
しかし、そこは野生ポケモン。
ただで転ぶはずもない。目を瞑ったまま念じるオドシシ。
直後にイーブイの身体が浮かび上がって、木の幹に叩きつけられたのだった。
念動力で相手を攻撃するエスパータイプの技だ。
そもそもがノーマルタイプということもあって、LEGENDSアルセウス以前の作品ではオドシシが習得しなかった”ねんりき”だが、この地方では覚えるようであった。
それは──いずれオドシシがエスパータイプのアヤシシに進化することを意味しているようであった。
「ぶるるるるる」
じり、じり、と倒れたイーブイに迫るオドシシ。
そのまま前足を振り上げ、踏みつけの態勢に入る。
しかし、やられっぱなしで終わるイーブイではない。
ギロリとオドシシにガンを飛ばすと──
「そこ!! 電光石火!!」
その空いた顎を目掛けて、勢いを付けた渾身のテールアタックを見舞う。
まさにクリティカルヒット。
脳みそに直に衝撃が伝わり、ぐらぐらと揺らす。
態勢を崩したオドシシは、その場に倒れ込むのだった。
【──急所に当たった!!】
「ケッ」
目の前に毛玉を吐き出すイーブイ。
汚物でも見るような目でオドシシを見下ろす。
「おっと!? 効いてんな、今の!」
だっ、とメグルは駆け出す。
オドシシは砂で目が潰れており、立て直すのにも時間が掛かっている。
この好機を見逃す理由はない。
(何も、自分のポケモンの後ろからボールを放り投げる必要はないよな!)
オドシシの後ろに回り込むと──その後頭部目掛けて、至近距離でボールを叩きつける。
一瞬、怯んだオドシシだったがもう遅い。
その身体はボールの中に吸い込まれていくのであった。
「頼む、入ってくれよ……!」
ぐるん。
ぐるん。
ボールは激しく揺れていたが──3度目でぴたり、と止まる。
そしてカチッ! とロックの掛かる音が聞こえてくるのであった。
「しゃーっ!! 捕まえた、オドシシーッ!!」
思わずボールを掲げてみせる。
記念すべき、最初に捕まえたポケモンだ。
「成程、怯んでいる隙で後ろに回ってボールをキャスト……考えたわね」
「まあな。ノーコンでも、近くから投げれば絶対に当たるってわけだ」
「それはそれとして、さっきのはフォロー出来ないわよ」
「すいませんでした」
「まあでも、少しはやるようになったんじゃない? 創意工夫はトレーナーの必須スキルなんだから!」
「この調子で、次のポケモンも捕まえるとするかー!」
※※※
──その後はまあ早かった。
催眠術を使うことが出来るオドシシが加わったことで、メグルはイシツブテ、シキジカの捕獲に成功したのだった。
防御力は高いが特殊防御力がからっきしのイシツブテは”ねんりき”で体力を大きく削ることが出来たし、”シキジカ”はイーブイで真っ向から戦わせ、最後にオドシシの催眠術で眠らせて捕獲した。
こうして、2匹のポケモンを捕まえたところで、夜も暮れてきたので今晩は野宿することになった。
サイゴク地方では、ポケモントレーナーの為にキャンプ用具の軽量化・小型化、そしてその量産に企業が取り組んできたらしい。
あれだけ小さく折り畳まれていたテントも、組み立てると人一人が寝られそうなサイズとなったのだった。
「野宿はサイゴクのトレーナーの必須スキル! しっかり覚えときなさいよ!」
(剣盾がキャンプなら、こっちじゃストレートに
ポケモンを寄せ付けないお香を周囲に設置し、テントを組み立てる。
それが終わったら夕食の準備だ。昼はサンドイッチで済ませたので、夜はしっかりしたものが食べたくなってくる。
やり方をユイに教えて貰いながら、持っていた米と水を飯盒に入れ、焚火セットに置いた薪に着火する。
それに加えて、別の飯盒にはイモ(ジャガイモに似ている)とバター(ミルタンクの乳で作られているらしい)、そしてソーセージ(メグルは何の肉か詮索するのをやめた)をぶち込んだ。
「これが犯罪的に美味いのよねぇ」
とのことで、間もなくバターの臭いが漂ってきて腹が余計に減ってくるのだった。
パチパチ、と薪の音が鳴る中、ユイが鞄から鉄製の賽銭箱のようなものを取り出した。
「今日は二人だから大きいやつ使ったけど、小型のコンロもあるの」
(ゆる〇ャンのアニメで見たヤツだ)
「キャンプセットは定期的に見直すと良いわ。いずれは一人で野宿することもあるだろーしね。飯盒が無くてもコレと焼けるモンあったら死にはしないでしょ」
(よく考えたら、あんなデカい調理セットをよく持ち運んでいたよな……剣盾)
「さ、そろそろご飯が蒸れた頃でしょ。食べるんだからっ」
※※※
──じゃがバタソーセージ(ジャガイモではない)は、中毒的な旨さであった。山道を歩いた後は、炭水化物と肉、そして鼻腔を突き抜けるバターの香りが身体に染みる。ソーセージはあまりにも美味しかったので、もう1度追加で焼いてもらったほどであった。
「何か悪いなあ。色々教えて貰って。すっごく助かった」
「あたしは父さんにそうしてもらったように教えてるだけよ。あんたが物覚えがよくて助かってるわ」
メグルは既に、ユイがキャプテンとしての資質は十二分に持っているように感じた。
彼を助けるためだけではなく、彼がひとりで行動するようになった後の事も見越しているのだ。
曰く、サイゴク地方では小さい頃からサバイバル慣れするために町主導のキャンプ訓練も行われるらしく、子供たちは皆野宿には慣れているのだという。
一方で、メグルは中学の頃の林間学校で山の宿泊施設に行ったっきりだ。サバイバルの知識・経験ともに雲泥の差が存在する。
「で、手持ちはコレで4匹でしょ。昨日に比べれば上出来じゃない? 催眠術持ちを最初に捕まえたのは賢かったわね」
「いやぁ、それほどでも?」
「ま、ノーコンは相変わらずだけど」
「うぐっ……」
ポケモンの状態異常で、最も捕まえやすくなるのが「眠り」状態だ。
催眠術が当たりさえすれば、一気にポケモンは無防備になり、ゲームでも捕獲率が跳ね上がる。
そこを回り込み──至近距離のボールで捕まえる。
物事はやはり基本に則って行うのが最も効率が良いのである。
「それで、セイランシティまであとどれくらいなんだ?」
「この後トンネルを抜けてスイジンタウンに着くの。そこに駅があるから、電車でセイランシティまで抜けるわ」
「長いようで短かったなあ」
「セイランシティは海沿いの町だし、また違うポケモンも見られるんじゃないかしら」
「楽しみにしとくよ。……ところでさ、セイランシティのヌシポケモンって何タイプのポケモンなんだ?」
「水タイプ。シャワーズよ」
「シャワーズか……」
シキジカを捕まえておいてよかった、とメグルは胸を撫で下ろす。
捕まえたばかりのポケモンでどこまで戦えるかは不明ではあったが。
「でも安心して。ヌシとは直接戦わないの。キャプテンが出したお題をクリアすることになるんだから」
「ありっ? そうなの?」
「大体、駆け出しのトレーナーがヌシポケモンにサシで勝てるわけないじゃない」
「それもそうか」
「でも、どっちみち水タイプのポケモンが関わってくるだろうから……その辺、気を付けておくことね。お題も、その時々で変わるらしくって」
「楽しみにしておくよ」
となれば、水が天敵のイシツブテは使えない。
相性に左右されないノーマルタイプのイーブイとオドシシ、そしてタイプ上有利なシキジカが重要になるだろう、とメグルは考える。
「ま、いざとなったらお前がどうにかしてくれるよな、イーブイ」
「ぷっきゅるるるる!」
闘志充分だ、と言わんばかりにイーブイは鳴いてみせる。
「あと、ポケモンをテントの外に出しておくと良いわよ。今回はレアコイルが居るから、そっちは出さなくて良いけど」
「何でさ?」
「悪い事を考えるヤツが居ないとも限らないでしょ?」
じろり、と彼女はメグルの方を睨む。
(よくよく考えたら女の子1人でのソロキャンってなかなかデンジャラスだよな……ポケモンに襲われるか人に襲われるか)
キャンプ中の自分の身を守ってくれるのもポケモン、ということなのだろう。
だが、少年少女が旅に出て野宿するのが当たり前の世界である以上、人間の価値観も元居た世界とは異なるのだろうか、とメグルは考える。
「ま、あんたにそんな度胸無さそうだけど」
「心配しなくても考えねーよ」
「とゆーわけで、ヘンな気は起こさないように。テントに近付くヤツは黒焦げにして良いってレアコイルには言ってるから」
「はいはい、分かったよ」
「んじゃ、あたしは寝るから。おやすみー」
「ああ、おやすみ」
急ぐように彼女はテントの中に入っていく。
メグルも既に疲れ切っていたため、下着だけになると──そのまま寝袋に潜りこんだのだった。
※※※
「──?」
夜もすっかり更けた頃。
ユイは、寝袋の中でふと目が醒めた。
ここ半年、ずっと彼女は寝付きが悪い。
父が亡くなった時のショックを受けた記憶が──夢に姿を変えて出てくるのだ。
しかし、今日は違った。
外がやかましいのだ。
レアコイルの金属音に似た鳴き声が聞こえてくる。
「レアコイルー? 何なのー?」
テントを捲ると──ユイは言葉を失った。
「……ウソ……?」
──心臓が止まってしまうかと思った。夢でも見ているのかと思った。
見間違えるはずもなかった。
「……父……さん? 何で居るの……?」
──月は赤々と輝いていた。凶兆を知らせるかのように。