ポケモン廃人、知らん地方に転移した。【完結】   作:タク@DMP

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第65話:バトルレース開幕!

 ※※※

 

 

「はぁー、はぁー、結局コネなんすねぇ、やってらんねーッスわ」

「まあまあ、ノオトそう拗ねるな。これが人徳って奴だよ」

「は?」

「怖すぎてワンワン泣いちゃった」

「もー二人ともっ、ショーが始まるよっ!」

 

 ──あの後、正式にメグルは明日のバトルレースに参加できることが決定した。

 出場できるのはメグルだけだが、最悪の事態は免れたと言える。

 となれば、今日残っていることと言えば、サーカスの公演である。

 このショーは3日間公演され続けるが、キャストも内容も全てが総入れ替わりになるという豪華なものになっている。

 それもそのはず、キャストは全てこのショーの為だけに集った精鋭揃いなのだという。

 

「あはぁーっ♡ 化石ポケモンちゃん達、可愛かったなぁ、ウオノラゴンやパッチラゴン、ボクも手持ちに入れたーい♡」

 

 その横では、アルカがショーの化石ポケモン達にメロメロになっていた。

 前髪で目が隠れて見えないものの、瞳の形は間違いなくハートになっていたことだろう。

 普段の彼女よりも2割増しでテンションが上がっている気がする。

 

「ガラル地方まで行かなきゃいけないのは、なかなか骨が折れるな」

「そんな事しなくても買えば良いじゃねーッスか。今時何でもネットショッピングっしょ」

「化石の値段もバカ高いんですよ……個人輸入になりますから。しかも、アレを復元できるのはガラルの怪しい研究員だけみたいで」

「結局ガラル行かなきゃダメなんだな」

「はい……」

 

 ──そーれ がっちゃんこ!

 

 メグルの脳裏には、ゲームで出会ったウカッツな研究員の姿が思い浮かぶのだった。

 よくもまああのようなアバウトな方法で誕生できたものである。

 2つの異なる生物の化石を合体させなければ復元できないガラルの化石ポケモン達は、このような経緯から大分物議を醸しだしたのだ。

 とはいえ、対戦で強かったりアニメで活躍していくうちに、徐々に否の声は少なくなっていった、とメグルには思える。

 

(それに今は思うんだよな……こいつらもちゃあんとメシ食って息して……生きてるってこと、後……図鑑の説明は適当ってこと)

 

 

 

『それでは次は、クロミちゃんとマスカーニャの、フラワーマジックですッ!!』

「はにゃはにゃはにゃーん♡ みんにゃーっ、お待たせだにゃーん♡」

 

 

 

 メグルが感慨に浸っている間もなく、ステージが暗くなり、中央にスポットライトが当てられる。

 そこには、ピエロのメイクをした可愛らしい少女と、同じく黒い仮面をつけた人型の猫ポケモンが背中合わせに立っているのだった。

 

【マスカーニャ マジシャンポケモン タイプ:草/悪】

 

(こりゃまた見た事無いポケモンだ。いかにもな見た目してんな……後、人気出そうだ。色んな意味で)

 

「クロミとマスカーニャの、マジックで、皆をメロメロにしてあげる、にゃんっ♡」

「ふにゃぁーん」

 

 マスカーニャが宙に蕾を次々に投げ入れる。

 そうしてひとたびステッキを振るうと、それらは次々に花咲かせていく。

 

「──そーれっ、花はいつか、美しく散るのだにゃっ!」

「ふにゃぁぁぁーんっ!」

 

 クロミが再びステッキを振った。

 花の数々は爆ぜて──会場中に花びらを撒き散らす。

 拍手が巻き上がり、観客たちも沸き立った。 

 メグルの腕の中で丸まっているアブソルも、そして彼の頭の上に乗っかっているニンフィアも花びらに夢中になっている。

 

「ふるるーる!」

「ふぃるふぃーあ!」

 

 その立ち振る舞いの数々には、一切の危うげというものがない。

 更に、クロミがステッキを振るうと、今度はマスカーニャもクロミも無数の花へと変わってしまう。

 

「おおっ、両方共消えた!」

「何処行ったんだろ!?」

 

 辺りを見回すメグル達。

 そうしているうちに、スポットライトは観客席の二点に当たる。

 そこには手を広げたマスカーニャが、そして反対側にはクロミが得意げに立っていた。

 そのまま、天井のワイヤーに掴まってぶら下がると、花を観客席に振り撒きながら宙を華麗に舞っていく。空中ブランコだ。

 そしてすれ違うタイミングで、両者はワイヤーの持ち手を離し、これまた危うげなく入れ替わるのだった。

 

「みーんにゃー♡ クロミにメロメロになってくれたかにゃー♡」

「ふにゃぁーん♪」

 

 盛大な拍手が上がる。

 空に舞う花びらを手に取りながら「すげぇな……」とメグルは呟くのだった。

 本当に感動した時、人間は語彙というものを失ってしまうのである。

 横ではアルカも興奮しながら手を叩いている。

 そして更に横では──ノオトが、呆気にとられたかのようにクロミに見入っていた。

 

「オ、オレっち一目惚れしちまったッス……」

「うんうん、すっごいショーだったよ。流石、このショーのためだけに集められた凄腕エンターテイナーだ!」

「ああ。やっぱりプロは違うな……魅せる事の何たるかを理解してるぜ」

「いや、クロミちゃんに……」

「は?」

 

 メグルとアルカは、ノオトに怪訝な目を向ける。

 

「決めたッス!! オレっち、このショーが終わったらクロミちゃんに告るッス!! 何なら今から──」

「正気に戻れッ!!」

「即席厄介ファンかテメーは!!」

「へぶぅ!!」

 

 突然、暴走し始めたノオトをアルカが羽交い絞めにし、メグルが拳骨。 

 血迷ったことを宣う格闘少年に、二人は年長者として滾々と説教することにした。

 やはりこの姉弟、揃って頭の螺子が何処かブッ飛んでいる。

 比較的常識人と思われたこの少年も例外ではない。

 そもそも二人はヒメノの恋事情までは知らないが、姉弟揃って恋をすると途端に脳みそがバグりだすところまで同じなのである。

 

「お前ッ、飛行機に乗ってた時自分で言った事忘れたんか!?」

「運命の出会いの前では些細な事ッスね」

「なーに言ってんだコイツ」

「ダメに決まってんでしょーが、そんなん!! 迷惑だよ迷惑!! 姉弟揃っていきなり頭がバグるのやめてよ!!」

「お前アレか!? アイドルとかにすぐガチ恋するタイプだろ! わりーけどやめとけ! 傷つくだけだ! 主にお前が!」

「抗えねぇんスよ……カワイ子ちゃんには……どんなに修行しても、こればっかりは……!」

「抗え理性!! お前の姉貴が泣くぞ!! 頼むから節度のある行動を心がけろ!」

「……恋は追いかけるものッスよ、オレっちは何時だってそうだったッス! そして捕まえてきた実績もあるッス!! その後逃げられたけど!!」

 

 ライフルを構えるようなしぐさをしながら、ノオトは決め顔で言った。

 

「そう、オレっちは、まさにハンター……恋のハンターッ!」

「ウッザ……」 

「誰かこいつを止めてよ……」

 

 その時であった。

 勝手にボールからポン、と音を立ててルカリオが現れる。

 そして、ノオトの耳たぶを引っ張り──会場の外へと引きずっていくのだった。

 

「くわんぬ」

「ああっ!! ルカリオ!! やめるッス!! もうしないから!! 反省してるからぁぁぁ──」

「くわんぬ」

 

 ぺこり、とルカリオが二人に対し申し訳なさそうに礼をする。

 

「連行されてった……」

「悪は滅びたな……ヨシ!!」

 

(隣の席、うるさいなぁ……)

 

 公演中、私語は慎みましょう。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「──リュウちゃん。随分と良いトレーナーに恵まれたネ」

「この仕事を続けておると、新たな若い世代の芽生えを間近で見られる。それがやり甲斐じゃわい」

 

 

 

 ──VIP用の応接間で、リュウグウとマリゴルドは向かい合い、ワインのグラスをぶつけ合う。

 そして同時に、くいっ、と中身を飲み干すのだった。

 

「うまい……本当にワインかコレは。あっさりしていてエグみも無い」

「……リュウちゃん。酒の飲み方が変わらんナ。スパークリングワインはねぇ、発泡酒みたいにぐいぐい飲むもんじゃないヨォ」

「そっちこそ。昔の癖が出ておるわい」

「かっはは、リュウちゃんには敵わんネ☆」

 

 「ミガルーサのムニエルです」とウェイターが料理を運んできた。

 脂の乗った切り身肉に舌鼓を打ちながら、リュウグウはそこにワインを流し込む。

 

「……長生きしてみるもんやなぁ。こんなに美味い飯と酒が頂けるなら」

「ウチに来ればいつでも食わせてやるヨ。リュウちゃんならタダ、サ」

「……ほっほ、後何回、こうして顔合わせて飯が食えるかの」

「俺は毎日でも良いヨ」

「そうはいかん、おやしろがある。いや、今は無いが……いずれ立て直す時までワシがセイランを守らんといかん。……だが、この歳で何処までやれるか」

 

 互いに老けた顔を見ると、否が応でも歳というものを痛感させられる。

 

「何を言ってるんだい、リュウちゃんも俺も、まだまだ現役。俺達はゴールド……決して錆びない、()()サ」

「錆びないなんてことは無い。荒波を受ければ、如何に頑強な船も何時かは朽ちて果てる……だから古船は引退する。何時の日か、必ず。誰にだってその日は来る。明日はワシかもしれん」

「それは今日じゃあない。いつになく弱気じゃないか、リュウちゃん。あんなに強いのにサ」

「錆びるのは強さだけじゃない。頭もだ。だからワシは……マリちゃんみたいに、常に新しい考えを取り入れられる人間が羨ましいよ。ワシは頑固だからな」

「そこがリュウちゃんの良いところだヨ。昔から変わらないってところがネ。安心したヨォ」

 

 ワイングラスにワインを注ぎながらリュウグウは窓から見えるサイゴクの地を眺めていた。

 

「なあ、リュウちゃん。GSフェス、最終日まで楽しんでくれヨ」

「ああ。勿論、そうさせてもらう」

「デイドリームは……俺の夢なんダ」

 

 マリゴルドはワインを呷ると──上機嫌に語る。

 

「有史以来、ポケモンと人間は力を合わせる事で不可能を可能にして来た」

「……そうじゃなぁ。サイゴクを開拓できたのは人の力だけではない」

「デイドリームだってそうさ。皆が不可能って言ったけど、今こうして実現している」

「……分からんもんじゃなぁ」

「そうサ、リュウちゃん。出来ないなんてことは何も無いんだ。何事もネ。デイドリームだって……白昼夢を現実にしてみせる。そんな思いで付けたんだからネっ☆」

「白昼夢、か。マリちゃん。オヌシの夢は──」

 

 コツン、と空のワイングラスが音を立てた。 

 その先には──リュウグウの顔が映り込んでいる。

 

 

 

「……変わらないヨ。あの頃から、ずっとネ。世界中の人も、ポケモンも、ボクの会社で幸せにするんダっ☆」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「みーんにゃーっ♪ GSフェスの目玉イベント、ビッグバトルレースに来てくれて、ありがとにゃーっ!」

 

 

 

 ──翌日。

 GSフェスの内部会場は大盛況に満ちていた。

 中央の広場には、ホログラムでクロミの姿が映し出される。

 

「あ、昨日のサーカスの──やっぱりGSグループの社員なのかな、この人」

「あァァァー、クロミさんんんッ! ホログラム越しでも麗しいッス! こんな所で会えるなんて、やっぱり運命──」

くわんぬ

「すまねッス、もうしねえッス、だから耳たぶ掴むのやめ──いたたたた千切れちゃうッ!!」

「おにーさん居た! 参加者21人かぁ、道理で抽選になるわけだよ……」

「応募者めっちゃ多いはずッスからねえ。おっ、少し緊張してるッスね、ガラにも無い」

 

 映し出されるカメラには、ライドポケモンに乗り込んだトレーナーたちが横一列に並んでいる。

 その中には、オドシシに跨っているメグルの姿もあった。

 アルカとノオトは、会場内の喫茶店で固唾を飲みながら、タブレットで観戦していた。

 どうせステージが広すぎて、彼らの姿は会場からでも見えはしない。

 

「さーて、このビッグバトルレースのルールを改めて、説明するにゃーん! 進む方法は自由! ポケモン及び、トレーナー自身の力で地形を踏破し、一番最初にゴールできたツワモノが優勝、キーストーンゲットだにゃー!」

 

 カメラに映し出されたのはエリアの風景。

 ステージは平原、森林、そして途中にあるステージを別つ湖によって構成されている。

 道中にはライドポケモンの力を借りて踏破しなければならない場所も多数存在する。

 それを乗り越えた先に、ゴールがある。だがしかし、これは只のレースではない。

 

「無論、これはバトルレース! 妨害・攻撃、何でもアリ! でも、それに耐えうるだけの強豪揃いにゃ! サイゴク地方の険しい自然に比べれば何のそのにゃー!」

「これ絶対抽選だけじゃなくてふるい落としがあったッスね。確かに危険……並みのトレーナーには参加できねーッス」

じゃあ何でノオトは落ちてるの?

「大前提として抽選って事忘れてねーッスかァ!? 泣くッスよ!?」

「ごめんごめん」

「また、一度に繰り出せる手持ちは1匹だけ! ライドポケモンと戦闘ポケモン、どちらを繰り出すかの駆け引きが醍醐味だにゃー♪」

 

 バトルレースは攻撃も妨害もアリ。

 ただ速ければ良いというものではないのである。

 

「それでは──もうみんな、待ちきれないにゃーんっ? カウントダウンセット──」

 

 3──

 

 

 2──

 

 

 1──

 

 

 

 

「──GOッ!!」

 

 

 

 クロミが宣言したその瞬間だった。

 

 

 

 スタート地点で閃光が迸る。

 

 

 

 横一列に並んでいたポケモン達のうち5匹が、早速身体を硬直させ、出遅れたのだった。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「──ゼブライカ、キラキラに電磁波ァッ!!」

「ほぎゃあああ!?」

「しびびびびび!?」

「おい、動け! 動けよォ!」

 

 

 ──周囲に居たポケモンは、トレーナー共々身体が麻痺し、その場に蹲ってしまう。

 そして、そのままいの一番にらいでんポケモン・ゼブライカが抜け出したのだった。

 開幕電磁波。周囲の相手を足止めし、抜け出すためのテクニックだ。

 攻撃アリ、妨害アリを体現する立派な戦術だ。卑怯とは言うまい。

 

「イッシュ地方出身、生粋のジョッキーとは僕、ピカラの事さ!」

「キィィィィーン!!」

「ふざけんじゃねーッ!! ブッ殺してや──うごごごご、痺れて動けん──まひなおし、まひなおし──!」

「僕、今、輝いてるッ──まさにキラキラキラル、キラフロルってね! コッ☆」

 

 決め顔をカメラ目線でバッチリ見せると、ピカラはゼブライカを華麗に駆り、集団から抜け出すのだった。

 

「おーっと、ピカラ選手の電磁波で早速5人の選手を出遅れさせるーッ! これがビッグバトルレースだーッ! しかし、それだけで勝てる程、ビッグバトルレースは甘くないにゃーっ!」

「ん?」

 

 彼の後ろからはマッハポケモンのガブリアス、更に同じく電気タイプのジバコイルが猛追する。

 

「電気が効かねえなら関係ねーぜッ!!」

「あいつやべーぞ! さっさと堕とすぜ!!」

「チッ、思ったよりも落ちなかったね……だけど輝くのは僕だけで十分さ! キラキラリィィィーンッ!!」

「あっぶねぇ、あいつの近くに居なくて良かった……」

 

 一部始終を見ていたメグル。

 確かにこのバトルレースでは相手への妨害や攻撃は許される。

 しかし、あまりにも悪目立ちし過ぎると他のプレイヤーのヘイトをまとめて買う事になってしまうのだ、と事前にメグルはノオトから聞いていた。

 すぐさま、彼を脱落させるべく、電磁波を受けなかったトレーナーがゼブライカに攻撃を仕掛け始めるのだった。

 

(オドシシは補助技が使えるッスけど、あまり濫用しないようにッス! 序盤で脱落したら元も子もねーッス!)

 

「って聞いてて良かったぁ……電磁波でアレなら開幕催眠術とかした日には、他のプレイヤーからブッ叩かれる未来が見えらぁ。しばらく技は封印して走りに徹して──」

 

 だがメグルも他人事ではない。

 近くに居るのは牛のようなポケモン・ケンタロス、そしてバッフロン。

 その2匹が両サイドから幅寄せしてくる。

 右は、カウボーイハットを被った、浅黒い肌の筋肉モリモリマッチョマンだ。

 左も、カウボーイハットを被った、浅黒い肌の筋肉モリモリマッチョマンだ。

 

「──ヘッへ、ボウズ。バトルレースは初めてか? ママから貰ったポケモンが可哀想だぜ、おうちに帰りな!」

「──俺達剛力兄弟!! その微妙なツラしたコブ付きのウマ鹿に、パワーが何たるかを教育してやるぜ!」

「オドシシ、あやしいひかり」

「えっ」

「えっ」

 

 あやしいひかりがケンタロスとバッフロンの周囲を舞い、2匹を混乱させる。

 そして、2匹は互いを敵と誤認し、すぐさま争い始めるのだった。

 そのまま彼らは兄弟仲良くもつれ合い、地面に投げ出されてしまう。

 

「おい馬鹿、ケンカするんじゃねえ!!」

「暴れんなコラ!! あーっっっ──落ちる、踏まれる!! 踏まれるゥ!!」

 

【──剛力兄弟、リタイア】

 

「わりーな、ポケモンバカにされたら黙っちゃおけねーんだわ」

「ブルルルルゥ」

「オドシシ。お前が一番になるところ、全世界に見せてやろーぜ!」

「ブルルルルゥ!」

 

 このように、開幕から潰し合いが発生した結果、生き残ったのは10人。

 早速参加者のうち、半分以上が脱落していくビッグバトルレース。

 だが、此処からは道無き道が始まる──

 

 

 

「さぁー、こっからが地獄だにゃーっ♪ 道も出口も見つからない大森林エリアだにゃーっ♪」

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