ポケモン廃人、知らん地方に転移した。【完結】   作:タク@DMP

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第67話:旅路

 ※※※

 

 

 

「おにーさん、無事だったけどまたピンチでは……!?」

 

 復旧したモニター画面に噛り付く二人。

 そこでは、メグルとピカラの一騎打ちの様子が流されている。

 

「残る奴等は全員強敵揃いッス……特にヘイラッシャは特防が低いから、キラフロルの攻撃に当たったらアウト……!」

「おねがーい!! 勝って、おにーさんっっっ!!」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「ヘイラッシャ、速度を上げてくれ!」

「ラッシャーセー!!」

「させるかッ!! キラフロル、ヘドロウェーブだ!!」

「フロシチウ!!」

 

 キラフロルを猛追し続けるヘイラッシャ。

 だが、その動きは鈍重そのもので良い的だ。

 キラフロルの背部の蕾が開かれ、大量の毒液をヘイラッシャに目掛けて吐き出す。 

 

「すごい威力にゃ、ヘドロウェーブ!! それはそれとして凄い水質汚染だにゃ、大丈夫かにゃーん!?」

「ハッハハハハ! 僕以外の全ては汚れてしまえば良いんだッ!! 輝いているのは僕だけで十分さッ!!」

「キラリッ! キラキラ!」

「えっ? 何? どうしたキラフロル、そんなに慌てて──」

 

 ピカラは振り向き、絶句した。

 毒液に塗れて苦しんでいるはずのヘイラッシャが水上に見えない。

 まさか、と思って水面を覗いたが時既に遅し。

 ごぽごぽと音を立てて、それは水の底から現れる。

 

 

 

「ヘイラッシャ──”ダイビング”!!」

 

 

 

「ほぎゃーっ!?」

 

 

 

 水中から大口を開けて、ヘイラッシャがキラフロルの身体に喰らいつく。

 そして、そのまま湖目掛けて、そのまま顎の力だけで投げ飛ばしてしまうのだった。

 

「あばばばば、目が回るーッ!?」

「フロロロロロロロ──」

 

 しばらく彼らが空中を舞った後。

 水面に大きな水の花が咲いた──ドボン、と大きな音を立てて。

 そのまま、目を回したピカラとキラフロルがぷかぷかと浮かんでくるのだった。

 

「あ、あれぇー、まだ昼なのにー、ほ、星が見えるなぁー」

「フロシチウ……」

「これでピカラ選手、脱落にゃ!! 更に後方では、ミガルーサの群れに襲われたアスム選手が脱落にゃーっ! 残るは二人ーっ!」

「よっし! もうすぐ湖も終わりだ! 急ぐぞヘイラッシャ!」

 

 

 

「──そうはさせないわ」

 

 

 

 加速するヘイラッシャの後ろから足音が聞こえてくる。

 だが此処は水上。走れる者など居るはずがない、とメグルは振り返った。

 否、居た──クエスパトラが水上を恐ろしい勢いで駆け抜けて来る。

 翼のフリルからはバーナーのようにサイコパワーが放出されている。

 その上には、先程メグルを助けた少女が跨っている。

 

「いっ、マジかよ!?」

「おーっとスピカ選手のクエスパトラ、足元にサイコパワーを纏わせることで水上歩行を実現したにゃーっ!!」

「エスパータイプ、何でもありじゃねーか!! 急げヘイラッシャ、追い越される!!」

「……此処まで来た強さ。私に見せて頂戴」

「やーなこった!! 逃げ切るぜ!!」

 

 だが、クエスパトラはこの間にも加速していき、ヘイラッシャを追い抜いてしまう。

 流石に足元と翼にサイコエネルギーを集中させているからか攻撃はしてこない。

 しかし、このままでは先にゴールされてしまう。

 湖を超えた先は再び平原。

 その先は──ゴールだ。

 更に、クエスパトラは乗り換える必要が無いのに対して、メグルはヘイラッシャからオドシシに乗り換える分、更に時間のロスが発生する。

 

「このまま走り切る──キーストーンは私のモノよ!」

「させねーよッ!!」

 

 だが、諦めるメグルではなかった。

 オドシシが全身にサイコエネルギーを纏わせることで、加速に成功したのである。

 それでもまだ、クエスパトラを捉える事は出来ない。

 

(さっき攻撃をする時、クエスパトラは目から光を放ってた。あいつの最大の武器は目なんだ、つまり後ろを向いている今なら反撃は受けない……ッ!!)

 

「ッ……”あやしいひかり”だ!」

 

 ふよふよと舞う光。

 それは、クエスパトラの頭の周りを舞い、混乱し、失速するのだった。

 

「しまッ……走れ、走れクエスパトラ! 追いつかれて、たまるか──ッ」

「オドシシ、ラストスパートだ!! 追い上げろーッ!!」

 

 ふらふらになりながらも走るクエスパトラ。

 そこに必死で走り、食らいついていくオドシシ。

 会場の歓声が聞こえてくる。

 

「ゴールまで後わずか!! 勝つのはオドシシ!? それともクエスパトラかにゃーん!?」

 

 振り落とされないように手綱を握り締めるメグル。

 漸く、クエスパトラに横並びした。

 

「ッ……どうして!? 何のためにそこまでして走り続けるの!?」

「キーストーンが必要だからだ!!」

「何のためにそれを使う!?」

「──大事な人たちをポケモンを……守る為に使う!!」

 

 オドシシの蹄がひときわ強く、地面を蹴り飛ばす。

 

「なら私も──負けるわけにはいかないッ!!」

 

 首を伸ばすクエスパトラ。

 頭の中はふらふらしていたが、それでもレースを走り切るという目標は忘れていない。

 そして、オドシシも角をゴールテープに向ける。

 差せ、差せ、差せ。

 疾く、疾く、疾く。

 意地と意地のぶつかり合いに──終止符が打たれたのだった。

 

 

 

 

「ゴォォォォォール!! GSフェス、ビッグバトルレース優勝者は──」

 

 

 

 

 オドシシの上で、そしてクエスパトラの上で。

 二人は息を切らせ、歓声だけを身体いっぱいに受けていた。

 

「ねえ貴方……とても強い心を持ってるのね……」

「いや……俺一人の力じゃねーよ。皆が……俺を支えてくれたから、今此処に立ってる」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 表彰式が終わった後。

 キーストーンを大事そうに握るスピカとメグルは、会場の裏で談笑していた。

 

「とても良い勝負だったわ、メグル」

「いやー、スピカちゃんには結局勝てなかったけどな!」

「どっちが勝ったか、私には分からなかったけど」

「僅差だったんだよ僅差! あーあ、悔しいよ」

 

 後から聞くと、本当にハナ差だったという。

 ギリギリまでオドシシが勝っていた可能性はあったというのだ。

 それでも、初参加のバトルレースで準優勝は大健闘も良いところ。

 メグルは特性パッチ2枚を貰い、ほくほく顔で仲間達の元に帰ることが出来る。

 ……のであるが、思っていた以上に二人の話は盛り上がってしまっていた。

 

「……おにーさんと、あのおねーさんの話、なかなか終わらないですね」

「完全に意気投合してるッスね。激戦を繰り広げる中、友情……いや、恋情が芽生えた!?」

「ハァ!? おにーさんがァ!?」

「いやでも有り得るっしょー、メグルさんも年頃の男ッスよ? あんなカワイイ女の子と話せて悪い気はしねーんじゃねッスか?」

「なんかヤだ!! すっごくヤだ!!」

 

 アルカは柱の後ろから、二人の姿を見ながらぐぬぬ、と下唇を噛み締める。

 何故「嫌」なのか具体的に答えることは出来ないのであるが。

 

 

 

「ねえ、メグル……一緒に、来て貰いたいところがあるの。メグルみたいな、強いトレーナーと一緒に」

 

 

 

「どっえええええ──むぐっ」

「静かにするッスよ、アルカさん! バレちゃうでしょうが!」

「むがががが!?」

 

 ノオトがアルカの口を手でふさぎ、一旦引っ込む。

 勿論、当のメグルは意外そうに眼を見開き、すぐさま顔を赤くしてあたふたし始める。

 スピカは、とてもきれいな少女だ。目は宝石のように黄色く、見ていると吸い込まれてしまいそうになる。

 メグルはそれに飲み込まれそうになったが──漸く、言葉を捻り出すことが出来た。

 

「えーと、行きたいって何処に?」

「付いて来てほしい。……大博覧会の会場に」

「……大博覧会? 何でまた」

 

 それを見ていたノオトは興奮した様子で、小声で「デートッスよ、デート! あのメグルさんが女の子からデートを申し込まれてるッス!」と叫ぶ。

 口を押さえられたアルカはいい加減苦しくなってきたのか「ギブ!! ギブ!!」と叫び続けるが、ノオトには聞こえていない。

 そんなことは露知らず、スピカはにこり、と微笑みながら両の手を合わせるのだった。

 

「うん。ダメかしら?」

「良いけど……ごめんっ! 1つだけお願いがあるんだ」

「……?」

「仲間と一緒で良いか? ……おいお前ら。さっきからコソコソと何やってんだよ。全部バレてんだわ」

 

 メグルが柱の方に視線を向けると──おずおずとノオト、そしてアルカが出て来るのだった。

 

「ど、どーも……」

「すんません、メグルさん……気になっちゃって、つい」

「悪い奴等じゃねーんだ。良いかな?」

「ええ、問題ないわ。むしろ、仲間がいると心強いくらいよ」

「え? デートじゃなくて良いんスか、お姉さん!?」

「デートじゃねーよ。つーか、スピカちゃんの事はお前らにも後で紹介するつもりだったしな」

「ふーん……本当ですかァ?」

 

 アルカが怪訝そうな目でメグルを睨む。

 

「何だよ。何か悪いのかよ」

「べっつにー? おにーさんがボク以外の誰とデートしても関係ないですけど!」

「あぁ!? あんなに野次馬みてーに柱から見てただろが! 気になってたんじゃねーのかよ」

「はいはい、お二方ァ! 静かにするッスよ。そしてスピカさん、って言ったッスよね?」

「ええ」

 

 ノオトは跪き、彼女の左手を取る。

 そして渾身の決め顔で──

 

「一目見た時から、貴女にオレっちのハートはゲット・ワイルドされちまって……今夜はノオトに、しときませんか? あっ、ルカリオ!! 痛い!! 千切れる!! 耳千切れちゃうッス!!」

 

 ──ルカリオに連行されて行った。

 

「大丈夫かしら、あの人」

「あいつはノオト。普段は真面目なんだけど、時々変なんだ。気にしないでやってくれ」

「ボクはアルカ。石や遺跡が大好きなんだっ! よろしくねっ!」

「ルカリオーッ、もうしねーッスから、許してぇぇぇ」

 

 そんな3人を見ると──少女は笑いかける。

 どことなくおかしかった。三者三様でありながら、とてもきれいにまとまっている彼らが。

 そして「忘れるな」と言わんばかりにモンスターボールから、ニンフィアが飛び出してメグルの肩に乗っかってみせる。

 バトルレースでは出番が無かったので、すっかり不満のようだった。

 

「フィッキュルルル……」

「で、コイツが俺の相棒のニンフィア。仲良くしろよ、お前。唸ったりすんじゃねーぞ」

「……フィルルル……フィ?」

 

 しばらく唸り声を上げていたニンフィアだったが──何かに気付いたように目を見開き、その後は大人しくなるのだった。

 

(珍しいな。どうしたんだろ、ニンフィア……)

 

 

 

「──改めて。スピカよ。よろしくね、皆」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「すげぇ、デカいな……!!」

「マリゴルドが世界中から集めた宝が集まってるッスから」

「しかも、化石ポケモンの復元骨格も展示されてるんだよ!」

「……」

 

 黄金の財宝の数々。

 カブトプスや、プテラといった化石ポケモンの全体図。

 更に、バーチャルポケモン・ポリゴンの研究レポートに、製造の過程などなど。

 メグルからしても、思わず目移りしてしまうような宝の山ばかりだ。

 しかし、各員が大博覧会の展示に目を奪われる中、スピカだけが険しい顔を浮かべていた。

 

「……どうしたんだ、スピカちゃん」

「そうッスよ、来たかったんじゃねーんスか?」

「……ううん何でもないわ」

「あっ、見て下さいよ、おにーさん!」

 

 アルカが指差した先には、ティラノサウルスのようなポケモン・ガチゴラス──ではなく、その口元に丸い穴の開いた看板だった。

 その下には人のイラストが描かれており、よく観光地にある映える看板というやつだ。

 そこは写真撮影が可能なエリアとなっており、人が並んでいた。

 

「好きだよなあ、皆ああいうの……」

「ボク、写真撮りたいですーっ!! 良いですよね、良いですよね!?」

 

 ぱしゃり。

 

「ぶっふっ……何だコレ、マジで食われそうになってるじゃん。てか、イラストのポーズが面白いし」

「意外にリアルッスよね、このガチゴラス……ぶっふ」

「顔に落書きでもしとくか、加工アプリで」

「あー、良いッスね! 賛成賛成!」

「ちょっとちょっとーッ!? 皆も撮るんですよ、皆も!」

「えっ俺も!?」

 

 ぱしゃり。ぱしゃり。

 

「ちょっとおにーさんっ! もっと面白い顔してくださいよ! 迫真の怯え顔!」

「何で顔にダメ出しされなきゃいけねーんだよ!」

「メグルさん、もうオレっちの顔歪めてるじゃねーッスか! 何スかこれ、オクタンみてーな顔じゃねーッスか!」

「オメーいつも大体そんな顔だろ」

「ハァーッ、良いッスよ、そんな事言うなら、オレっちも──」

「ああテメェ! 俺の顔ネンドールみたいにしやがったな!!」

 

 撮った写真を前にワイワイと騒ぐ二人。

 それを見て、スピカは何が何だか、という顔で首を傾げていたが、すぐにアルカが彼女を看板の前に引っ張ってくる。

 

「ほらっ、スピカさんも!」

「えっ、私は良いわよ、写真あまり好きじゃないし──」

 

 ぱしゃり。

 

「もう、顔真っ赤じゃないですか、スピカさん」

「だから言ったのよ……恥ずかしくって」

「まあまあ、これも思い出じゃねーか?」

「そうッスね! 写真ならずっと残るッスから!」

「思い……出? ……なら良いけど」

 

 少し困ったような顔を浮かべながら、スピカはまんざらでも無さそうに微笑むのだった。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「この部屋は……」

「人類と、ポケモンの共存の歴史を一枚の絵に記した絵画だね」

 

 アルカはピタリ、と言った。

 そこには、ポケモンと人間の生活圏が離れ、切り離されていた時代。

 そして、人がポケモンの生活圏に入り込み、ぶつかり合っていた時代。

 最終的に人とポケモンが共存し、共に生き始めた現代。

 そこに至るまでの道筋が描かれていた。

 サイゴクで過ごしていれば、嫌という程感じる野生ポケモンの脅威。

 恐怖と憎しみのままに殺し合った歴史が確かにそこには横たわっている。

 無数の屍の先に──今の平和があるのだ、と言わんばかりの絵画だ。

 

「タイトルは……”歴史の旅路”って書いてある」

「ふぃるふぃーあ……」

「……旅路?」

 

 スピカは、思わずメグルに問いかけた。

 

「もっと恐ろしいタイトルかと思っていたわ。今に至るまでに、多くの命が失われたのは悲しいことじゃない? 私にはどうしても……この絵画が怖くて、悲しくて、辛いものに思えるわ」

「そうだな。だけど、俺……この作者が何で”旅路”ってつけたのか、ちょっとだけ分かる気がする」

「何故?」

「……俺も分かるんだ。情けない事、辛い事、苦しい事。旅してると沢山経験してきたからさ」

「そうね……私もそうだわ」

「でも、それだけじゃないっ」

 

 サイゴクにやってきてから、本当に沢山の事があった。

 いきなり知らない森に落とされたこと。

 巨大なオニドリルと戦ったこと。

 イーブイと出会い、旅に出たこと。

 幾つもの壁にぶつかり、最初はトレーナーらしいことが何も出来ず、悔しい思いをしたこと。

 それでも──その度に強くなり、出来る事を増やし、立ち向かってきたこと。

 

「その間には嬉しい事、楽しい事も沢山あったから……この旅をしていて良かったと思ってる。良い事悪い事全部ひっくるめて、()()なんだって思うんだ」

「……良い事、悪い事、全部ひっくるめて……」

「だから、俺とニンフィアがこうして巡り合ったのも、こいつら仲間達と出会ったのも、きっと……この絵画の延長線なんだと思うんだよ」

「その先が──辛く苦しい終わりだったとしても、そう言える?」

「えっ」

 

 スピカは、冷たい目でメグルに投げかけた。

 メグルは答えられなかった。

 自分の旅の先。旅の果て。それがどんなものになるか分からない。

 だがきっと自分は無事にこの旅を終わらせて、元の世界に戻るのだと無意識のうちに考えていた。

 そんな保障など、何処にも無いのに。

 

「考えたことも……なかった」

「旅が良かったと思えるのは……良い終わり方をした時だけよ」

「じゃあ何で──スピカは旅をしてんだよ」

「ふぃるふぃー?」

「……とっくに消えて無くなった……あの日の幻を追いかけているだけよ」

 

 そう言って、スピカは部屋を出て行ってしまう。

 それに気付いたノオトとアルカも、そしてメグルも──急いで彼女を追いかけるのだった。

 

「……なんかスピカさん、博覧会の上の階に行く毎に元気なくなってますね?」

「行きたかったんじゃないんスかね?」

「……」

「早く来て頂戴。私が見たいものはこの先にあるの」

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