ポケモン廃人、知らん地方に転移した。【完結】   作:タク@DMP

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第73話:久遠メグル

(──此処は何処だ?)

 

 

 

 声が聞こえてくる。

 

(俺は確か……クワゾメタウンに向かっていて……それで……)

 

「おいコラァ、久遠!! 起きろォ!!」

 

(久遠……俺の……苗字……しばらく、呼ばれてなかったから、忘れ、て──)

 

 懐かしい喧騒に、そして怒鳴り声に──メグルは思わず顔を起こした。

 教室だ。そして、その周囲には同じ制服をした少年少女が並んでいる。

 そのデザインはメグルが通っていたころのものと全くと言って良い程同じだった。

 顔ぶれも、見た事のある者ばっかりだ。

 

(高校……!?)

 

「いつまで寝とるんだオマエはァ! 転校生に寝ぼけた顔見せる気か?」

「転校生ェ……?」

 

 違和感を隠せない。

 高校はとっくに卒業したはずだからだ。

 しかし、言われるがままにメグルは教室の入り口を見る。

 そこに立っていたのは──宝石のように青い目。明るい桃色のカールした髪。

 そして口元に携えた微笑み、後は八重歯。

 ふーん可愛いじゃん、高嶺の花。そう思って見つめていたのも束の間。

 

 

 

「転校生の、ニンフィアだよっ! よーろしくね、人間たちっ!」

「待て待て待て待て!」

 

 

 

 ──メグルの意識は一気に現実へと引き戻されそうになった。

 そんな名前の日本人は居ない。

 転校初日にクラスメイトを”人間”呼ばわりするヤツはもっと居ない。

 

(俺は確実に、何かのスタンド攻撃を受けている……無限〇詠か何かの類だコレは!!)

 

 カリカリカリカリ、と爪を噛みながらメグルはニンフィア、と名乗った少女を睨み付ける。

 

(俺は今の今までサイゴク地方に居たはずだ、いきなり元の世界に戻ってるどころか時間が巻き戻るなんて有り得ねえ)

 

 メグルは記憶を巻き戻そうと思案する。

 此処に至るまで、確実に何かがあったはずだ、と。

 

(んでもって、何か。此処に来るまでに何かがあったはずだ。思い出さなければ……ッ!!)

 

 そしてうんうん、と唸った末に──メグルは涎を垂らしながら満面の笑みを浮かべたのだった。

 

(思い出せ……ないッ!! うんッ!!)

 

 記憶がごっそりと抜けてしまっているようだ。

 だからこそ、こうして”異常”に気付けたのであるが。

 それが誰の仕業か、どんな技なのかは全くと言って良い程分からない。

 だが少なくとも、これが現実ではない事だけは分かる。

 かと言ってほっぺを抓っても全く醒める気配はない。

 

「ねー、ニンフィアちゃんすっごく可愛くなーい?」

「どうやってケアしてるの? 髪ツヤツヤー」

「えっへへー、それほどでもあるかなー。あたし、可愛いからねー♪」

「オイお前ちょっとこっち来い」

 

 HR後、女子たちがニンフィアを囲んでいた。

 早速メグルは彼女の手を引っ張って連れ出そうとする。

 こんな所で談笑している場合ではないことだけは分かっていた。

 

「オメー何やってんだよ、どういう状況か分かってんのか!」

「ちょっと久遠。あんたニンフィアちゃんに何するのよ──」

「そうよ! オタクが伝染る! 触らないでくれる!?」

「──メグルーっ!」

「えっ」

 

 ぎゅうっ、とニンフィアはメグルに抱き着き、頬擦りしてみせる。

 ポケモンの姿ではなく、人間の姿のため、とても新鮮──もとい、いけない気分になってしまう。

 思わずメグルはバランスを崩し、尻餅をついてしまうのだった。

 

「きゃーっ!?」

「ニンフィアちゃん、久遠と知り合いか何か?」

「実は彼氏彼女だったとか!?」

 

 

「……ねえ。皆。離れて貰って良い?」

 

「え?」

 

 一際怖いニンフィアの声がその場に響く。

 

「メグルの一番の()()()()()は、あたし、だからさ。メグルの傍に他の女は寄ってほしくないんだけど」

「ちょっ、ちょちょちょ、ニンフィアさん!?」

「あはっ。立ってよ、メグルー♪」

 

 ぐいっ、と彼の手を引っ張るとニンフィアと目が合った。

 きっと人間ならとんでもない美少女なんだろうな、と常々思っていたが、こうしてみるとカワイイを詰め込んだような女の子だ。

 漫画の世界から出てきたような、そんな鮮やかささえ感じる。

 そして周囲からは男子の怨嗟が漏れ聞こえてくる。

 

「メグルのヤツ……!」

「ニンフィアたんと近すぎだぞ……!」

「絶対殺す……!」

 

(クラスメイトから俺に向けられている殺意がヤバい!!)

 

「いこっ、メグル。あたしと、お話したいんだよねっ♪」

「あ、ああ」

 

 ニンフィアに引っ張られ、メグルは始業ベルが鳴ろうとしている教室から、そのまま二人で抜け出すのだった。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「ニンフィア。お前は何処まで分かってる?」

「……何にも分からない。いきなり、人間の世界に連れて来られたからさ。取り合えずノってみただけ」

「此処は夢の中だ。俺はお前の言葉が何故か分かるし、お前は人間になってる」

「……えええええ!? あたし人間になってるの!?」

「今気づいたのかよ!?」

「そう言えば、見たこと無いヒラヒラが付いてるし、何だか手も長いし、身体がつるつる! 邪魔だしヒラヒラ外しちゃお」

 

 そう言って彼女はすぐさまスカートに手を掛けて脱ごうとしたので、メグルは必死に掴んで止めた。

 

「やると思った!! マジでやると思った!! でもやめような!! 今お前は人間の姿なんだぞ!!」

「分かった分かったよ! メグルの言う事だから聞くよ……」

 

 んもーう、と言いながら鬱陶しそうに彼女はスカートを履き直す。

 

「幾つか質問をしたい。お前の名前は?」

「ニンフィア」

「主人の名前は?」

「メグル」

「好きなものは?」

「メグル!」

「……嫌いな奴は?」

「え? イデアでしょ? アルカでしょ? 後、アブソル!」

「……よし分かった。お前は確実に俺のニンフィアだ。つーかお前、嫌いなヤツ多すぎだろ!」

「だってイデアはウザいし、アルカとアブソルは、メグルと近すぎ! あいつらメスの顔してるもん!」

「メスの顔って……」

「メグルは、あたしのモノなんだからね!」

 

 ぐいっ、とニンフィアはメグルのネクタイを引っ張ると、彼女は獰猛な笑みを浮かべてみせる。

 

「……他の女に目移りしたら、痛くしちゃうよ」

「ヒッ」

「なーんてねー♪」

 

 前から思っていたが、此処まで好かれていたとは、とメグルは頭を抱える。

 最近確かに好意を示す頻度が増えた気はしていたが、ヤンデレに片足突っ込んでいるとまでは思わなかったのだ。

 

「ねえメグルー?」

「何だよ」

「好きって言って」

「え」

「あたしのことー、好きって言ってー!! 言わなきゃやだーっ!!」

「ええ……」

 

 ぎゅーっ、と抱き着きながら彼女は駄々をこねる。

 いつものポケモンの姿ならともかく、人間の姿で迫られると胸が本当にドキドキしてしまう。

 だが、このままではいつまで経っても離れてくれなさそうなのでメグルはニンフィアの耳元で──「好きだよ」と呟くのだった。

 

「ふぃっ!?」

「……そりゃあ、一番のパートナーだからな。一番最初に出会った、大事なパートナー。好きじゃないわけねーだろ?」

「へ、へええ、そうなんだ……」

 

 ぷしゅー、と音を立ててニンフィアの顔が沸騰したように赤くなる。

 

「ニンフィア?」

「そーなんだ……えっへへへ……そーなんだ……なんか、顔熱いなあ、えへへへ……」

 

(なんか恋人みたいなやり取りしてるな俺ら……コイツはポケモンなんだけどな)

 

「逆にさ、ニンフィア。お前は何で、俺の事そんなに好きなんだ?」

「決まってるでしょ! ぱーとなー、だからだよっ!」

「はぁ」

「ちょっと頼りないけどゴハンもくれるし、優しいし、後あたしを勝たせてくれるし! 大好きっ!」

 

 ぎゅーっ、とメグルを抱きしめると、ニンフィアはそのままメグルを押し倒す。

 ふわりと鼻腔に良い匂いが突き抜けた。

 

「おいニンフィア……!?」

「大好きだよっ! 本当に大好きっ! メグルは、ずぅーっと、あたしのモノなんだからねっ!」

「待て待て、その姿で押し倒すな! 本当にヤバいから……!」

「えー?」

 

 今の彼女は、本当に美少女である。よくない気持ちを抱いてしまっても仕方がない。

 メグルは彼女に抱き着かれたまま起き上がると、諭すように言った。

 

「良いかニンフィア。俺達はこの空間から出なきゃいけねーんだ。俺達を此処に閉じ込めたふざけたヤツをどうにかしねえと」

「……確かに。ナメられっぱなしは癪だなあ。誰がこんな事をしたんだろう、メグル」

「他の手持ちの奴らもこの世界に来てる可能性があるだろうし集めておきたい」

「ゲッ……まさかアブソルも?」

「探さねえとな。お前が居るなら他のヤツも居るだろ」

 

(特にアブソルは近くに居たはずだし……絶対に……あれ? 何でアブソルが一番近くに居たんだっけか……)

 

 

 

「──君達? 授業をサボって不純異性交遊に耽っているって通報があったんだがね?」

 

 

 

 メグルとニンフィアは振り返る。

 そこには、鬼のような顔をしたジャージ姿の大男の姿が。

 メグルは思い出した。高校時代とっても怖かった生徒指導の先生を。

 

「ちょっと指導室まで──」

「ニンフィア、逃げるぞ!!」

「ふぃっ!? ま、待ってよメグルーッ!!」

「コルァーッ!! 待たんかーッ!!」

 

 怒鳴り声が後ろから追ってくる。

 急いでメグルは非常階段を駆け上がり、上へ上へと上がっていく。

 

「何処まで逃げるのーッ!?」

「良いから黙ってついてこい!!」

 

 全速力で駆け上がり、息を切らせたメグルは近くにあった掃除用具入れの中に自分とニンフィアの身体を押し込める。

 しばらく生徒指導の怒鳴り声が聞こえていたが──じきに聞こえなくなった。

 覗き穴から誰も居ないことを確認すると、メグルはニンフィアと一緒に外に出る。

 

「あんな奴、あたしの大声で吹っ飛ばしてやるのに!」

「わ、わりぃ。お前がポケモンなの忘れてた……」

「それより此処は何処?」

「屋上階だ。ほとぼりが冷めるまで、此処に居るか」

 

 メグルは「立ち入り禁止」と書かれた鉄の扉を開ける。

 外に出ると、青い空が綺麗すぎる程に広がっていた。

 そして、その真ん中に──胡坐を掻いて瞑想している大柄な少年の姿があった。

 

「……誰だアイツ」

「あっ──」

 

 何か気付いたような声を上げると、ニンフィアは少年に駆け寄る。

 急いでメグルもそれについていく。

 総髪が真っ先に目についた。そして、浅黒い肌に生えた無精髭も目立つ。

 顔は若いが、粗削りで無骨な剣道少年といった風貌だ。

 思わずメグルは──その名前を呼んだ。

 

「……バサギリ、か?」

「チッ……見覚えのある顔と、見覚えのねェ顔か」

「え!? バサギリなの!? あたしだよ、あたしっ! ニンフィア!」

「人間の顔なんざ、俺様から見れば全部同じだ」

「なにそれーっ! やっぱムカつく!」

「本当にバサギリなのか……」

「よォ。こんな変な所でも会うとは奇遇だぜ人間」

 

(なんつーか、こいつも想像通りって性格してんな)

 

「だけどこの身体は不便だ。まだ翅がもげた時の方がマシだった。今度は両腕までこの有様だ」

「ッ……これは夢の世界なんだ、バサギリ。俺とお前達が当たり前のように話せているのもそのためで──」

「……構えろ」

「え?」

 

 バサギリが起き上がり、身構える。

 突如、屋上に──影が現れた。

 白熊のようなポケモン・ツンベアーだ。

 それが獰猛な唸り声を上げて、メグル達に近付いてくる。

 

「何でポケモンが!?」

「いや、あたし達もポケモンだけど」

「そう言う事じゃねえよ! この世界は俺の記憶に近い……ポケモンは居ないはず……!」

「難しい事、よくわかーんないっ!」

「ぶった斬る」

「……お前らはそうだよなぁ。ニンフィア、ハイパーボイス! バサギリ、がんせきアックス!!」

 

 思わずメグルは手を突きだし、二人に指示を出す。

 すぐさまニンフィアは甲高い大声を発し、バサギリは腕をツンベアーに目掛けて叩きつけた。

 しかし──

 

「ッ……だ、出せない! 技が出せないよ、メグル!」

「斬れねえ……!!」

「あっ……しまった……」

 

 ──それは全くと言って良い程、ツンベアーには通用しなかった。

 

「今のこいつらは人間……ポケモンの技が出せないのか……!」

「ぶおおおおおおん!!」

 

 両腕を上げたツンベアーは、すぐさまバサギリを突き飛ばし、更にニンフィアの身体を掴んでしまう。

 

「なっ!? お前ら!!」

「ッ……痛つつつつ、クソがァ……こんな身体じゃなけりゃあ、勝てねえ相手じゃねーのに……!」

「あっぐぐぐぐ、クッソォ……こいつぅ……!!」

 

 メグルは地面を叩きつける。

 勿論、自分も生身で敵う相手ではない。

 しかし、かと言ってボールに戻して彼らを逃がすことも出来ない。

 絶体絶命だ。考えても考えても対処法が思い浮かばない。

 

(どうすれば──)

 

「皆さん、目を伏せて!」

「えっ──!?」

 

 その時だった。

 屋上の入り口から声が聞こえてくる。

 そして誰かが颯爽とツンベアーの前に立ちはだかった。

 

 

 

「”さいみんじゅつ”でございますッ!!」

 

 

 

 その手には、宝石の付いた振り子が握られていた。

 しばらくそれは揺れており、ツンベアーもそれを眺めていたが──ぱたり、と音を立ててその場に眠ってしまうのだった。

 

「ね、寝ちまった……」

「……大丈夫でございますか? 姫。バサギリ」

「姫──って、オドシシ!?」

「テンメェ……」

 

 メグルは思わず二度見した。

 振り子を持っていたのは、初老の男性。

 執事服に身を包んだ老紳士だった。

 

「おやおやこれはこれは、ご主人様。お変わりないようで何よりでございます」

「お前は──オドシシなのか──!?」

「左様。貴方様の忠臣でございます」

 

 メグルは目を丸くする。オドシシを名乗る老紳士に、驚きが隠せない。

 

「お前、技が使えるのかよ!?」

「いえ……催眠術なんで。体に染みついてしまっていまして……出来ると思ったら出来たのでございます」

 

(コイツもうスリーパーじゃん、やってる事)

 

 尚、催眠術ばっかり撃たせまくったのはメグルである。

 

「とはいえ、他の技は使えないですがね」

「そうかぁ」

「とにかく、助けられちゃったよ! ありがとっ、オドシシ!」

「チッ……相も変わらず、涼しい顔して美味しいところだけは持っていくヤツだぜ。そう言う所が気に食わねえ」

「おいバサギリ。助けて貰ったんだからその言いぐさはねーだろ!」

「フン。俺はなァ、この身体にされた所為ですっげーイライラしてんだ。さっさと、こんなふざけたことをしたヤツをぶった斬るぜ」

「闇雲に行動しては危険でございます」

「そーだよっ! 本当に脳筋なんだから。考える頭まで岩になっちゃったのかなっ」

「ンだとォ……?」

「やめろ!」

 

 メグルは思わず叫んだ。

 人間の姿になって分かるが、この3人はやはりギクシャクしているのがデフォルトらしい。

 放っておくと、すぐに喧嘩を始めてしまう。

 

「ニンフィアもバサギリも……言い過ぎなんだよお前ら。もっと仲良く出来ねーのか?」

「ふふっ……」

「オドシシも笑ってないで仲裁に入ってくれよ」

「いえ。やはり我々姿が変わっても、中身は何も変わらないということが実感できたのであります」

「……ケッ。スカした野郎だぜ」

「ああ! ほんとーにバサギリってヤなヤツ!」

 

 反目し合うバサギリとニンフィア。

 そして、それを仲裁するオドシシ。

 普段パーティで見る流れが、人間の関係として出力されると、気苦労も倍である。

 

 

 

「……先が思いやられるなァ……」

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