ポケモン廃人、知らん地方に転移した。【完結】   作:タク@DMP

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第8話:”まじない”

 ※※※

 

 

 

「きゅるるるるっ」

「んが?」

 

 

 

 毛玉が呼吸器を塞いでいることに気付き、メグルは跳び起きた。

 息が苦しい。

 何かあった時のために、イーブイだけテントの中に出して寝かせていたのである。

 イーブイが頭にへばりついたまま寝袋から出ると、そのままイーブイはテントから出ていってしまった。

 

「おい、どうしたぁ?」

「きゅるるるるっ!」

「……何かあったってのか?」

 

 それを追ってメグルもテントから出ると──ユイのテントが開いたまま、もぬけの殻になっていたのである。

 ゾッとした。

 

「……ユイのヤツ、何処に行ったんだ?」

「ぷっきゅるるるる」

「でも、外はレアコイルが見張ってたよな? なんで──」

 

 そう言えば、と辺りを見回す。

 レアコイルも居ない。

 そして外が妙に明るいことに気付く。

 

(……月、赤くねぇか?)

 

 月が不気味なほどに赤く、そして大きく迫っているように見えた。

 何かがおかしい。

 元の世界でも、月が明るくなってオレンジ色になることはあった。

 だが、此処までではない。

 まるで何か禍々しいものが近付いている予兆にさえ思える。

 しかし、このままユイを放置することは出来ない。

 見張り役のレアコイルを引っ込めて、彼女がテントを離れるなど余程の事があったに違いない。

 

「……緊急事態だ」

「プッキュルルルル」

「……イーブイ、寝袋の臭いを追えるか?」

「プッキュイ!」

 

 イーブイをユイの寝ていたであろう寝袋に近付けさせる。

 ポケモンは知能が高い。例えイーブイであっても、警察犬のような使い方も出来るのだという。

 服を着こむ。テントとお香はそのままにして、メグルはイーブイにユイを追わせたのだった。

 

 

 

 

「……げっ」

 

 

 

 ──レアコイルを発見したのは、それからすぐあとであった。

 眠らされているのか、ごろんと木の下に3つのユニットがまとまって転がっていた。

 ポンポン、と叩くと「ジージージー」と金属音のような鳴き声を上げて再び動き出す。

 見た所目立った外傷は無いようだったので、メグルは安堵した。

 だが同時に、ユイがレアコイルとも離れ離れであることにメグルは気付いた。

 いよいよ彼女が危ない目に遇っている可能性が高い。

 

「レアコイル、お前の主人は──!?」

 

 混乱しているのか、ぐるぐるとユニットたちは回転するばかりだ。

 レアコイルに嗅覚もへったくれも無いのだろう。主人を追わせるのは酷だ。

 

「レアコイル、着いて来てくれるか?」

 

 理解したのかどうかは分からない。

 レアコイルはぐるぐると回転しているだけだ。

 しかしそれでも、ふよふよと浮き上がると、そのままメグルに着いてくるのであった。

 流石に賢い。長い間、ユイに付き従っているだけはあるのだろう──そう考えていた時だった。

 

 

 

 

【レアコイルの ラスターカノン!!】

 

 

 

 

 いきなりレアコイルが閃光をノーモーションで放ったのである。

 思わずメグルは尻餅をつく。

 そして、バキバキバキィ!! と何かが炸裂するような音が聞こえたので振り向くと──野生のメブキジカが倒れて、そこから煙が上がっていた。

 

「プッキュルルルル……!!」

「……助けてくれたのか」

 

 金属音のような鳴き声を発するレアコイル。

 しかし、感心している場合ではなかった。

 メブキジカは本来、山道を外れた場所に生息しているシキジカの進化系だ。

 それが山道に出てきていることは、自然に何か異常が起こっていることを意味していた。

 特に、このような状態では一人でうろついているであろうユイにとっても危険である。

 相棒同然のレアコイルをあのような場所に放っていた時点で”何か”が彼女の身に降りかかったことは確実だった。

 とてつもなく嫌な予感を禁じ得ないまま、メグルは森の奥へ奥へと進んでいく。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 赤い月に照らされているユイは、何処か浮世離れした空気を身に纏っていた。

 ぼんやりとしており、ポケモンも出さずにその場に突っ立っている。

 その様子に、メグルは話しかける事すら躊躇した。何かと話している。

 しかし、彼女の周りには誰も居ない。

 

「もう、心配したんだから……あたし、半年も待ってたんだからね……」

「……誰と、喋ってるんだ……?」

「プッキュルルルルィィィ」

 

 イーブイが警戒するように甲高く鳴く。

 レアコイルも、自分の主人を取り巻く異様な空気を前に心なしか慌ただしくしているようだった。

 メグルは思い切って近付いた。

 彼女は下着姿のままだった。寝苦しいので、他の服を脱いでいたのだろう。 

 華奢で色白な身体が、赫い月に照らし出された。

 

「……誰?」

「誰? じゃねぇよ──帰るぞ、ユイ」

「……駄目だよ。連れて行かせない」

「テントを空けて、自分のポケモンもほっぽりだして、どういう了見だよ?」

「……父さん。あたしを守って」

 

 彼女がぽつり、と呟いたその時だった。

 ユイの周囲に纏わりつくようにして、無数の人魂が浮かび上がる。

 メグルの肌が粟立った。しかし、次の瞬間にそれらは見覚えのあるものたちへと変わる。

 魂魄に人の顔が付いた可愛らしくも不気味な霊体のポケモン、そしてそれを取り仕切る一際大きな魔女の如き容貌のポケモンだ。

 

「ムウマに、ムウマージ……!?」

 

 

 

げんえぇぇぇぇぇええん

 

 

 

 咆哮が響き渡り、メグルは恐ろしさで立ちすくんでしまった。

 ムウマージの目は赤く輝き、夜の森に残光を残していた。

 此処までに出会った野生ポケモンたちとはレベルが違う迫力を醸し出す。

 ハッタリなどではない。恐ろしく凄まじい、肌で感じ取れるほどの野生の力が漲っているようだ。

 

(つか、この目の赤いのってオヤブンのそれだよな……!?)

 

 ──オヤブン。

 LEGENDSアルセウスに登場する、一際体の大きな個体のことである。

 そして、それらは漏れなく屈強、かつ狂暴。

 人を見ればノータイムで襲い掛かってくる存在だ。

 

【ムウマ よなきポケモン タイプ:ゴースト】

 

【ムウマージ マジカルポケモン タイプ:ゴースト】

 

 ムウマにムウマージ。

 2体は、同じ系統のポケモンで、ムウマージが進化系となる。

 特にムウマージは呪文を唱えることで相手に幻覚を見せる、半ば災厄のような生態を持つ。

 それを考えれば、ユイの今の状態にも納得がいく。

 ムウマージによって、彼女は幻覚を見せられておかしくなっているのだろう。

 

「おい、目ェ覚ませ!! そいつらはポケモンだぞ!!」

「──父さん……助けてッ!!」

 

 ユイが叫んだ。

 それに呼応するようにして、ムウマ達が一斉にメグルに飛び掛かってくる。

 しかしそれを、電気が纏めて薙ぎ払った。

 レアコイルだ。数の差は歴然だが、まとめて相手をしてくれるようだった。

 

(こっちはレアコイルに任せた方が良さげだな)

 

 その場を通り抜け、メグルは一気にユイに近付く。

 背後にはムウマージが憑りつくように佇んでいた。

 

「お前の相手は俺だ!!」

「げんぇぇええええええええん」

 

 ノイズの掛かった咆哮が再び響き渡る。 

 同時に、無数の木の葉が浮かび上がり、吸い込まれるようにしてイーブイを狙う。

 それを素早い動きで躱そうとするが、全て命中してしまうのだった。

 草タイプの技で、ムウマージが覚える技──マジカルリーフとメグルは判断する。

 この技を前に回避はムダ。絶対に命中してしまう恐ろしい技だ。

 

(マジカルリーフか!? ……イシツブテは出せないし、シキジカもイーブイも有効打が無い、となると──)

 

「すまん、戻れイーブイ!」

「ぷっきゅるるる!?」

 

 まだやれるぞ、と言わんばかりに鳴くイーブイだが、ノーマル技しか覚えていない上に耐久の低いイーブイ相手ではジリ貧は避けられない。

 シキジカはレベルが低い所為で、ゴーストタイプへの有効打となる”だましうち”を覚えていない。

 イシツブテはマジカルリーフの餌食となる。最悪手だ。

 消去法ではあったものの、この場で最もムウマージに対抗策出来るのは──1匹しかいない。

 

「──つーわけでお前を捕まえておいて正解だったわ、オドシシ!!」

「ぶるるるるゥーッ!!」

「目には目を、歯には歯を、ジョウト出身にはジョウト出身を! んでもって、ゴーストタイプには有効打のあるノーマルタイプを!!」

 

(本当は悪タイプが良いんだけど、居ないので仕方ないよね!!)

 

 ──ノーマルタイプの技はゴーストタイプのムウマージには通じない。

 しかし、同時にゴーストタイプもノーマルタイプに有効打が無いのである。

 この勝負、タイプ一致技が通用しない者同士のぶつかり合いとなる。

 だが──

 

 

 

「げんぇぇええええええええん」

 

 

 

 ──流石そこはゴーストタイプと言うべきだろうか。

 ムウマージはぼんやりとした光をオドシシに放つ。

 すると、間もなくオドシシの様子がおかしくなるのだった。

 何かに憑りつかれたかのように、オドシシはふらふらと足取りが怪しくなる。

 

「うっわ、うっぜぇ!! こいつ……あやしいひかりまで……!!」

 

 あやしいひかりは相手を混乱させる技だ。

 しかも、その命中率は脅威の100%。

 そして混乱したポケモンは、まともに攻撃が出来なくなる。

 時には訳も分からず、自分を攻撃してしまうこともあるのがゲームでの仕様だ。

 しかし、この状況での混乱は更なる意味を持つ。

 今のムウマージは、半ばユイを人質に取っている状態だ。

 その状態でオドシシが技を撃てば、彼女にも当たってしまう可能性がある。

 ゲームならば自傷覚悟で突っ込めば良いだけの話である。

 だが、メグルが今対面しているこの状況はゲームではない。

 

「狡賢いってのは、こういう事を言うんだろな……!!」

「げんぇぇええええええええん」

「──だけど、搦め手が得意なのはお前だけじゃないみたいだぞ?」

 

 

 

 

【レアコイルの でんじは!!】

 

 

 

 

 微弱な電気が流れ込む。

 訳が分からないまま、ムウマージの身体は麻痺し、その場にのたうちまわるのだった。

 ちらり、とメグルは後ろを振り向く。

 既にムウマ達は皆倒され、散り散りに逃げてしまったようだった。

 そしてそれを制したのはレアコイルだ。

 スキャンでレアコイルの技を把握していたメグルは、あの包囲網さえ突破出来れば後は勝手にレアコイルがムウマージに電磁波を入れてくれるだろうと考えたのである。

 

「どうやらコイツも、お前に借りを返したいみたいだからな」

 

 その隙にメグルはオドシシに”キーの実”──混乱を治す木の実──を食べさせる。

 何が何だか訳の分からない様子のオドシシであったが、目の前に差し出された木の実は迷わず食すのだった。

 これで、状況は完全にひっくり返る。

 素早さが持ち味のムウマージの強みは、完全に殺されたも同然だった。

 

 

 

「──お父さんに──何するのッ!!」

 

 

 

 その時である。

 ユイの叫び声に応じるようにして──ムウマージの放つオーラが、一際強くなるのだった。

 未だに月は赤々と輝いている。

 

 

 

(こっからが……第二ラウンドか……!)

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