ポケモン廃人、知らん地方に転移した。【完結】   作:タク@DMP

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第74話:夢の牢

 ※※※

 

 

 

「あはぁーっ♡ すごいすごい♡ 待ちに待った古代の世界だーッ!! カブト、君の住んでた時代だよーっ!!」

「ぴぎぃ!」

 

 アルカが訪れたのは古代の世界。

 以前に読んだ胡散臭いオカルト本そのままの世界が目の前に広がっていた。

 

「見て見て! 見たこと無いポケモンがいっぱい居るーっ!」

「ドン!! ファーンドドドド!!」

「わーっ、すごいすごい! なんかすっごくデカいドンファンがいるーっ!!」

「ぷりぃぃぃいああああ!!」

「あっちにはデカいプリン!! 古代のプリンは歌うんじゃなくて叫んでたんだね!! 図書館の()()()()()()()()()は間違ってなかったんだ!」

「ぷひひひひぃぃぃっぷ!!」

「すごいーッ!! 古代のウルガモスって地を這ってたんだ!」

「プピファー……」

「あれ? ヘラクロス、何で対抗心燃やしてるの? あ、待ってーッ! 戦いを挑みにいかないでーッ!?」

 

 勝手に突っ走ってしまったヘラクロスを追いかけようと、アルカはボールから──モトトカゲを繰り出す。

 

「よーしっ、そうと決まればモトトカゲ! ヘラクロスを追いかけるよ!」

「アギャァス」

 

 しかしそこに居たのはモトトカゲではない。

 全身を赤い鱗と、派手な色の羽根に身を包んだ、古代の王であった。

 

「……なんかモトトカゲ、めっちゃ赤くなってない!? デカくなってない!? なんか羽根生えてない!?」

「アギャァス!!」

 

 乗れ、と言わんばかりに赤いモトトカゲは親指で背中を指す。

 ためらいなくアルカはそこに乗り込み──モトトカゲの身体から大きな翼が生える。

 

 

 

「あっ、すごい、飛んだーっ!! ボク達が、古代の王だーッ!」

「アギャァス!」

「ぴぎーっ!」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「素敵よぉん、ノオト君……貴女のような可愛い男の子が、好みだったの……」

「今夜は君に決定♡」

「ねぇ、チューしていーい?」

「うへへへへへ、オレっち空前のモテ期ッスね♡ 何処を見てもカワイイお姉さんばかり!」

「ノオト君……♡」

「ノオト君……♡」

「ノオト君……♡」

 

 右手には美女。左手にも美女。

 中央の王座に座るのは──ノオトだ。

 ぐへへへ、としまらない顔をしながら、彼は空前のハーレムを前に満ち足りていた。

 

「夢なら醒めなくて良いやーっ!! 我が世の春ッスねーッ!!」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「おお、おお、シャワーズよ! オヌシの子供も漸くシャワーズになったぞ! これで”すいしょうのおやしろ”も安泰じゃわい」

「ぷるるるるー」

「え? まだヌシを引退するつもりはないって? 困ったのう。ほほほほほっ、どうする? お前の母さん、なかなか手強いぞ。もっと強うならんとのう!」

「ぷるるるるー♪」

「……新しいおやしろも立派に立ったし、これで何も思い残すことはないのう、ほほほほ。次の世代に、託すだけじゃて」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 

「後はアブソルと、ヘイシャリか……」

「探さなくていーよ、アブソルなんかっ!」

「何でそんな事言うんだよ」

「だって、アブソルが居ると、メグルはアブソルばっかり見るんだもん! あたしの事……忘れちゃいそうになるんだもん」

「忘れねーよ。言っただろ、オメーが最初のパートナーなんだから。それに忘れるようなキャラしてねーんだよ、お前は」

「……えっへへへへー、そうだよねーっ。大好きーっ、メグルーっ!」

「……ほんっとに頭ァお花畑だなアイツら。俺達ゃ今戦えねーんだぞ。さっきみてーに敵が来たら、どうするんだ?」

「姫が幸せそうで、私は感涙でございます」

「うわっ泣いてんのかよ鹿野郎」

 

 学校を出ると、記憶の通りの通学路。

 家までの道もきっと同じだ。

 道行く人の記憶も、きっと同じ。

 だが、そんな中でメグルは拭えない違和感を感じていた。

 

「それにしても、何でツンベアーなんだろうな」

「え?」

 

 メグルはふと、さっき現れた敵の事を思い出していた。

 ツンベアーは氷タイプのポケモン。町の中に現れるポケモンとしては、不自然だ。

 現れるなら、雪山や流氷近くのような寒い場所のはず。

 

「町中に現れるようなポケモンじゃねーんだよな……」

「そんな事考えて何になるんだってんだよ」

「そーだよっ! 正面からブッ飛ばしちゃえばいいんだよ!」

「何でトレーナーってもんが必要か、今しっかりと分かったわ、ポケモンは他のポケモンの生態なんて気にしねえし分からねえ

「私も指示は御主人様に任せます。いずれにせよ、元の姿に戻らねば……勝てる相手にも勝てませぬ」

「……ああ」

「……ところで御主人様。足を速めた方が良いかと」

「え?」

「……尾けられております。我々」

「えっ!?」

 

 ちらり、と後ろを見る。

 看板。物陰。

 そこに、ギラギラとした目が見える。明らかに人のそれではない。

 

「走るぞ……マニューラだありゃあ!」

「ニュゥーッ!!」

 

 甲高い声を上げて、赤い襟の付いた猫のようなポケモン・マニューラは飛び出し、後ろから追いかけて来る。

 今此処で戦っても有効打が無いことは分かり切っている。逃げるしかない。

 

「オドシシ、催眠術でどうにかしてよ!」

「斯様に素早い相手では無理があるかと、技ではなく小細工でございますので……」

「じゃあ”あやしいひかり”」

「技が使えないので無理でございます」

「チッ、情けねえぜ、あんな奴らに追われてる自分がッ!」

「何で追いかけて来るんだよ、あのマニューラ共──ん?」

 

 進行方向に制服姿の女の子が立っていることにメグルは気付く。

 黒髪のショートヘア。如何にもたまたま通りがかった、という風だ。

 

「おいっ、危ないぞ君!! 逃げた方が──」

 

 だが、彼女はメグルを真っ直ぐと見つめるとすれ違い様に呟いた。

 

「……大丈夫。そのまま進行方向を変えないで。走って」

「えっ──」

 

 マニューラ達がメグルを目掛けて飛び掛かろうとしたその時。

 

 

 

 

「……災いが、起きる」

 

 

 

 近くを通りすがったトラックのワイヤーが切れて積み荷が崩れ落ちる。

 積まれていたのは鉄パイプ。

 がらがらと激しい音を立てて、マニューラ達に降りかかり──まとめて押し潰したのだった。

 メグル達は脚を止めて、後ろを振り向く。

 追手は皆鉄パイプの下敷き。そのまま霧のように消えてしまうのだった。

 

「……た、助かった……! ラッキーだったな」

「ラッキーじゃない。未来が見えただけ」

「ッ……」

 

(何だろう、この子。如何にもミステリアスな雰囲気だ。まさか、この子が夢の──)

 

「未来……そう、全ての未来を私は見通せる」

 

 少女はメグルに歩み寄ると──ぐいっ、とその首を抱き寄せる。

 

「私とぉ運命の人が……結ばれる未来もねぇ♪」

 

 そして何処か間延びした甘ったるい声で、メグルに囁きかけるのだった。

 ぴょこん、とスカートからはあの鋭い日本刀のような尻尾がメグルには見えた気がした。

 

「お前ひょっとしなくてもアブソルだなァ!?」

「はぁぁぁーっ!? アブソルゥ!? 何やってんのこんな所でぇ!!」

「あ、ニンフィアにバサギリ、オドシシだぁ。みーんな、姿が変だよぉ、何やってるのぉ?」

「ミステリアスキャラ秒で無いなった!!」

 

 クールなのは有事の時だけらしい。

 

「あんたねぇ、メグルには近付くなって何回言ったら──」

「えへー、ニンフィアちゃんだぁ。人間の姿でも、ニンフィアちゃんは可愛いねぇ」

「あっぐぅっ……」

「ふわふわで、ゆめふわー♪ ニンフィアちゃんー♪」

 

 ふるる、ふるる、といつもの甘えたアブソルの鳴き声が聞こえてくる。

 そしてニンフィアも満更ではないのか顔を赤くしながら「あんたねぇ……」と呟くのだった。

 嫌い嫌いと口では言っているが、実際は良い姉貴分と妹分の関係のようだ。

 

(そういやこいつ等、喧嘩したこと無かったな)

 

「おいアブソル。何でテメェはこんな所に居るんだ」

「んー? 運命の人が、此処に来るような気がしたんだぁ。それ以外は全然分かんない」

「ふむ。どうやらこの分ならシャリタツ様とヘイラッシャ様も何処かに居るのやもしれませんな」

「うんー♪ それよりもぉ、運命の人ー♪」

 

 いきなりごろん、と道端に寝転がると──アブソルは一際甘えた声を出すのだった。

 

「ねぇー、わしゃわしゃしてぇ。レースの後に、甘えさせてくれるって言ったのに、全然まだ足りないよぅ」

 

 服従のポーズ。

 アブソルが甘えたいときにする格好だ。

 しかし今は人間の姿。道端に寝転がっている女子高生という最悪の絵面が誕生してしまった。

 

「バカ野郎、道端で寝転がるんじゃねえ! お前は今人間の姿なんだぞ!?」

「だめぇ?」

「あんたねぇ! メグルを誘惑するなーっ!」

「あうーっ、ニンフィアちゃんも、もっと素直になれば良いのにぃ」

 

(レース……?)

 

 メグルの頭に──ひとつ、ピースがハマった気がした。

 聞き馴染みの無い言葉だが、何処かでメグルはそれに熱中していたような気がした。

 それを起点に何かを思い出せそうだったのである。

 

「全く疲れる連中だぜ。姦しい」

「らしくなってきましたなぁ」

「走り疲れたし、どっかで休もうぜ。丁度目の前に──寿司屋が……寿司屋?」

 

 メグルは目を見開いた。

 そこにはデカデカと「ヘイラッシャ寿司」と書かれた看板、そして豪華な装飾の寿司屋が建っていたのだった。

 すぐさまメグルは暖簾をくぐり、店の中に突撃する。

 

「すいませーん!! 席空いてますかァーッ!!」

「なぁー、親分。スシヤってよぉ、何すれば良いんだよぉ」

「そりゃあラッシャ、寿司を握ってお客に出すに決まってんじゃないか。人間の本で読んだよオレァ」

「なぁー、親分。おでぇ、腹減ったんだけどォ」

「バカ言ってんじゃないよラッシャ、あんたは作る側なんだよ今は! ……何で作る側なんだ? オレ達いつだって食う側だったような……」

「お前らもうヘイラッシャとシャリタツだろ」

 

 店頭には、大柄でふくよかな大男。

 そして、気丈そうな顔つきの背の低い少女が、板前の恰好をしてカウンターに立っていた。

 名前を呼ぶと、彼らはメグルに気付いたように指を差す。

 

「ああ! 大親分だァ!!」

「ッ……大親分じゃないか!」

「良かったぁ、マジで俺ん所のポケモンだった!」

「それと、そこに居る人間たちは……」

「新しい食いモンかよぉ?」

「バカだねアンタ、人間を食ったら後でエラい目に遭うんだよ! やめときな!」

「ごめんよぉ、親分……おでぇ、腹減ったんだよぉ」

「食いモン呼ばわりされるのは心外だな、デカ魚。テメェとはまだ刃を交えたことが無かったが……覚えとけよ」

「あー、わがっだぁ! バサギリだぁ、お前! なんだよぉ、そんな姿になっちまってよぉ」

「そんな事言ったら、あんたらも同じよ。今のアンタたち、きっと技一つ使えないから」

「お姫様もか。オレもそうだ。試したが無理だった。一体何が起こってる?」

「……流石、シャリタツは話が早いな。お前達は今、夢の中で人間の姿になってんだ」

 

 メグルが二人の姿を指差す。

 「やっぱりか」とシャリタツは頷き──ヘイラッシャはあんぐりと口を開けた。

 

「ああああ!! マジかよぉ!! こんな口じゃあ、親分を口に入れられねぇよぉ!!」

「今気づいたのかい、あんた……」

「どうじよう、親分!! これじゃあ一緒に戦えねぇよぉ!!」

 

 そして滝のような涙を流すヘイラッシャ。

 しかし、そんな彼の襟元を正すようにシャリタツは毅然とした態度で「バカだね! 泣くのをおやめ!」と叫ぶ。

 

「オレ達の繋がりは、そのくらいで切れるヤワなモノだったかい? オレの知恵と、あんたの力。それが合わされば勝てないヤツなんて居ないだろ?」

「ッ……親分んんん」

「何見せられてんだ俺達ァ。デカ魚とドラゴンの恋物語なんぞ見たかねぇぞ」

「いっつもこんなカンジだよ、この2匹」

「はわぁ、仲良しは良いことだよぉ♪」

「これで全員揃いましたね。御主人様」

 

 ニンフィア、オドシシ、バサギリ、ヘイラッシャ、シャリタツ、そしてアブソル。

 今此処に、メグルのスタメン6匹が揃った。

 

「ねぇーねぇー、シャリタツちゃんっ! 人間の姿もかわいいねえ! 今度また一緒に、お出かけしようね!」

「スパイ大作戦はしばらくゴメンだよ……お出かけなら、何処でも付き合ってやるけどね」

「あはぁっ、良かったぁ♪ シャリタツちゃん好きーっ!」

「なぁオドシシよぉ、お前さんの催眠術でどうにかならねーのかよぉ」

「所詮、小細工ですので……ただ、貴方様くらいの体躯でしたら、敵がやってきても安心でございますな」

「へへぇ、任せてくれよぉ。おでぇ、頑張るからよぉ」

「っ……」

 

 わいわい、と話す手持ち達。

 そんな彼らを見ながら──メグルは安心したように息を吐く。

 姿は変わっている。言葉も分かる。

 だが不思議と違和感は感じない。

 

「よしお前ら! 此処の出口を探すぞ! アルカやノオトに心配掛けちまう!」

「そうだねェ。アルカの大親分にノオトのガキんちょ……無事だったら良いんだけどねぇ」

「……シャリタツ」

「オレはね。あんたら人間3人をね、これでも認めてんだよ。うちらを倒した実力者だ」

 

 それに、と彼女は少し意地悪な笑みを浮かべてみせる。

 

「……大親分同士、くっついて貰わないと困るってワケさ。あんたらいっつも見ていてじれったいんだよ」

「な、何の事でしょう……?」

「大親分。……こっから先はあんたの器量次第だよ」

「……ああ。お前達の力を生かせるかは……トレーナーの俺に掛かってるからな」

「──テメェら、構えろ」

 

 バサギリが警戒心剥き出しで扉を開ける。

 

 

 

「……空の色がおかしいぜ」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「……何故じゃ。何故こんな事に……」

 

 リュウグウの目の前には、嵐で崩れたおやしろ。

 そして──へしゃげたタマゴを抱えて息絶えたシャワーズの姿があった。

 おやしろはもう無い。

 そして、次の世代に繋がる命も──潰えた。

 

 

 

「何もかも……無くなってしもうた……何もかも……」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「ごめんなさいねェ。やっぱり私達、大人っぽい人が好きなの」

「お金を持ってる彼氏の方が、良いデートに連れてってくれるし」

「何でも買ってくれるしねーッ!」

「そ、そんな……」

 

 ノオトの周囲には誰も残らなかった。

 王座から、女性たちは皆離れていく。

 気が付けば、ノオトは一人ぼっちだった。

 

「ま、待ってくれよ、オレっちまだ頼りねーかもッスけど……姉貴に何一つ勝てねーけど……」

 

 王座も無い。何も無い。  

 ポケモンも誰も居ない。

 今の彼は──本当に一人だ。

 真っ暗な部屋に投げ込まれ、助けてくれる人は誰も居ない。

 

「姉貴!! メグルさん!! アルカさん──!!」

 

 知っている者の名を呼ぶ。

 しかし、誰も現れない。

 

「ルカリオ……ッ!?」

 

 相棒の名を呼んでも、出て来はしない。

 

 

 

「誰か、誰かいねーのかよぉ……!!」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「げほっ、がはっ、ごほっ……何で……おじさんと、アルネが、こんな所に……!!」

 

 

 

 気が付けば、アルカはあの”家”に居た。

 周囲を見回す。 

 カブトも。ヘラクロスも。モトトカゲも。

 皆、横たわり、息一つしていない。

 

「……その子達には被検体になってもらった」

「ッ……!」

「おいアルカァ。何でオメェ、まだこんな所に居るんだァ?」

「はぁっ、はぁっ……起きて、起きてよ皆!! 起きて……!!」

 

 ヘラクロスの身体を揺する。

 しかし、彼は白目を剥いたまま、ぴくりとも動かない。

 カブトも目の光が消えてしまっており、モトトカゲに至っては体温を感じられない。

 

「……助けて、助けてよ……!!」

 

 恐怖。

 そして絶望のまま、アルカはじりじり、と引き下がる。

 だが助けに来る者はいない。

 金槌を持った叔父。そして、注射器を構えたアルネが迫る。

 

「……姉さんも、私の近くで一生……被検体になれば良い」

「はぁっ、はぁっ、はぁ──ッ!!」

 

 目には涙が浮かぶ。

 そこに彼女の注射器が──迫る。

 

 

 

「おにーさんッ……!!」

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