ポケモン廃人、知らん地方に転移した。【完結】   作:タク@DMP

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第76話:夢の終わりが迫るとき

「元の世界に……戻ったのか……!?」

 

 

 

 気が付けば、そこには動力炉の柱。

 そして、竜の骸とアブソル、ニンフィアが横たわっていた。

 だが、アブソルとニンフィアも間もなく目を覚まし、辺りを見回す。

 メグルは此処までの記憶を揺り戻そうとしたが──あまり覚えていなかった。

 あれだけ鮮烈な体験だったのに、記憶からすっぽりと抜けてしまっているのは──夢の常だろう。

 

 ──なにが いけなかったの なにが よくなかったの

 

 ヒメマボロシは──ぽつり、と呟いた。

 

 ──いいや わかってた しんだものが よみがえっちゃ いけないのよね

 

「……一回死んで蘇ったポケモンも居るから諸説だけど……まあなんだ。上手くいかねーもんなんだよ、何事も」

 

 ──……。

 

 ヒメマボロシは、漸く対面した自らの番の朽ちた腕を手に取った。

 そして──静かに涙を流すのだった。

 その後から、ノオトも、そしてアルカも動力室に飛び込んで来る。

 変わり果てたラティアスの姿を見て、二人は言葉を失う。

 

「何が……あったんですか……!?」

「……ラティアスの身体、ボロボロなんてモンじゃねーんスけど」

「……サイゴクの霊脈は生き死にすら狂わせる事がある」

 

 後ろから声が聞こえてくる。

 リュウグウだ。その傍らにはシャワーズが付いていた。

 

「リュウグウさん!? 捕まってたじゃねーんスか!?」

「こんな事もあろうかと、シャワーズも連れて来ていたのじゃよ。守るおやしろが今は無いのでな。万が一の時にワシを助けてくれるよう──近海に潜んで貰っていた」

「おにーさんと同じ事考えてる……」

「シャワーズはワシの危機を察知できるからのう。後は”むげんほうよう”であのくらいの壁、イチコロじゃよ」

 

 得意げに語ったリュウグウはそのままアルカとノオトの間を通り抜け、朽ちた2つの竜骸に寄り添った。

 

「ヒメマボロシ……と言ったかのう。サイゴクの言い伝えの一つ。無念のうちに死んだむげんのりゅうの成れ果てじゃよ」

「それ、聞いた事あるッス……! サイゴクの伝説のポケモンで、ラティアスとラティオスに似てるっていう」

「じゃあ、ラティアスはとっくに……?」

「……うむ。霊脈のあるサイゴクでは、ポケモンが死んだ後も奇妙な蘇り方をすることがあるのじゃよ」

 

【ヒメマボロシ げんむポケモン タイプ:ドラゴン/ゴースト】

 

「……故にサイゴク山地は()()()()とも呼ばれる場所じゃ。迷い込んだドラゴンポケモンが絶命しやすい場所なのじゃよ」

「開発を進めようとしたけど、事故が多発して難航したって聞いてるッス」

「開発も一概に悪ではない。しかし、サイゴクには……あまりにも人の手やポケモンにもどうにもならない自然が多すぎる」

「触れてはいけないもの、ってことだよね」

「そうじゃ。どうしようもないものが……この世にはあるんじゃよ」

 

 かつても似たような事例があったのだろう。

 リュウグウはヒメマボロシに頭を下げる。

 

「……すまんかった。人間が、君達を離れ離れにしてしまった」

 

 ──いいの こうしてまた あえたから

 

「……なあ、気は済んだのか、ラティアス」

 

 ──ええ もういいわ ししゃのわたしが みれるしあわせなゆめなんて なかったのよ 

 

「……そうか」

 

 ──あとは こころのしずくを かれにかえす それだけだから

 

 その言葉を聞いて──アルカとノオトは目を伏せた。

 

「あのっ! 少しだけだけど、ボク達ラティアスと居られて良かったと思ってる!」

「そうッスよ! もっと一緒に居たかったッス……」

 

 ──そうね でも わかるの これがあるべきかたちだから こころのしずくがむくろにかえったら かれも わたしも やっと じょうぶつできる

 

 そう言ってヒメマボロシが──こころのしずくを竜骸に捧げようとしたその時だった。

 じゃらじゃらと音を立てて、コインが竜骸の周囲に集っていく。

 

「なッ、何だァ!?」

「サーフゴー……!?」

 

 すぐさま黄金のポケモンは”こころのしずく”を手に取る。

 ”トリック”だ。相手と味方のもちものを入れ替える早業である。

 そして、次の瞬間には”こころのしずく”は──機械の前で倒れていたマリゴルドの手に渡っていた。

 

「……俺を差し置いて……許さないよォ、お前達……!!」

「マリちゃん……なんてことを……!!」

「よくもやってくれたネェ……! 俺のデイドリームを……よくも……!」

「返せマリゴルド! そいつはラティオスのこころのしずくだ!」

「ふざけるなァ! これが幾らで売れるのか、君達には分かってネェんだヨ!」

「……腐ったなマリちゃん」

 

 リュウグウが唸ると、シャワーズが泡を周囲に浮かび上がらせる。

 ”むげんほうよう”の構えだ。

 しかし、オオワザを前にしてもマリゴルドも、そしてサーフゴーも怯える様子は見せない。

 

「──離せ。こころのしずくを! 幾らお前でも容赦出来んぞ!」

「ヤに決まってるだろ、リュウちゃん! 竜骸も渡さない! 全部ぜーんぶ、俺の夢の為の礎になるんだヨォ!」

 

 ──かえして! それは かれのものよ!

 

「ヴァーカ!! 今更お前の言う事なんて聞けるかヨォ、ラティアス!!」

 

 錯乱した様子で叫ぶマリゴルド。

 だが、その手に握ったこころのしずくは、次第に濁っていき──赤黒い光を放っていく。

 

「いかん!! 伏せろ!!」

 

 リュウグウが叫ぶ。

 全員は彼に言われるがままに身を低くした。

 強い邪気が、部屋の中に満ち満ちた。

 ”こころのしずく”がマリゴルドの手を離れ──ラティオスの竜骸へとひとりでに向かっていく。

 しずくの邪気は、ヒメマボロシも、その場に居る全員も、近付けない程に強く、全員はそれを見守るしかなかった。

 

「こころのしずくが……汚染されたのか!?」

 

 ──おこってる……かれが……!

 

 赤黒く染まったしずくは、竜の骸に吸い込まれていく。

 そして──骸はひとりでに起き上がった。

 空っぽの眼窩に赤い光が灯る。

 

「オイオイ待てよ。これじゃあ、ラティアスと同じじゃねえか……!」

 

 朽ち果てた白い身体には、青い閃光がパルスとなって走っていく。

 欠けた翼は、霊気による実体のない羽根へと挿げ替えられ、虚ろに開いた口からは常に霊気が漏れている。

 

「何だ、どうなってるんスか!?」

「い、生き返っちゃったの!? ラティアスみたいに!?」

「ヒコマヤカシ……!! サイゴクに伝わる物の怪の片割れじゃ……!!」

 

 

 

【ヒコマヤカシ げんむポケモン タイプ:ドラゴン/ゴースト】

 

「しゅわぁぁぁぁーん!!」

 

 

 

 ──うそ あなた だよね……!?

 

 邪気にやられ、サーフゴーは再びバラバラに崩れ落ちる。

 更に、ヒコマヤカシがギラリ、とマリゴルドの方を見やると──右腕を握り締める。

 それと同時に彼の首に絞められたような痕が現れ、マリゴルドは苦悶の顔を浮かべるのだった。

 

「あぎっ……や、やめ──」

「いかんシャワーズ!! ”むげんほうよう”!!」

 

 すぐさまヒコマヤカシの周囲に泡が纏わりつき、そこにシャワーズは強烈な水ブレスを浴びせかける。

 それを避けたことで、マリゴルドの拘束は解かれるが、首を絞められたショックでその場に横たわるのだった。

 

 ──おねがい とまって! やさしい あなたに もどって!

 

 ヒメマボロシが懇願しに近付く。

 だが、骸の竜に最早愛する者の声は聞こえない。

 今の彼は怒りと憎悪のままに動き続ける、生ける屍でしかない。

 ヒコマヤカシが睨み付けた瞬間──彼女の身体はひとりでに動き出し、地面に叩きつけられてしまう。

 

 ──きゃぁっ!!

 

「ラティアス! くそっ……どうすれば」

「しゅわぁぁぁぁーん!!」

 

 残響のようなヒコマヤカシの鳴き声がその場に響き渡る。

 そのまま骸竜は動力室を飛び出し──外へ向かうのだった。

 

「マズい……逃がしておけば被害を出すぞアレは!」

「決着をつけるッスよ!」

「うむ……3人とも。奴を祓うのに協力してくれまいか!」

「……勿論だよ! 放っておけない!」

「レディの涙には……見過ごせねぇッスねえ」

 

 ノオトがヒメマボロシの方を見やり、親指を立てた。

 そしてメグルも、彼女の胸に拳を当てる。

 とても冷たかった。だが、それでも──彼は恐れず強く、彼女に言ってのける。

 

「……終わらせる。この哀しい夢を……断ち切る!」

 

 ──みんな……!

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 地下セクターを早急に抜け出し、外へと出たヒコマヤカシ。

 彼は今、博覧会会場で当てもなく破壊行動を続けている。

 怪獣のように光を放ち続け、建物も、サーカス会場も、次々に壊されていく。

 メグル達が外に出た頃には、ヒコマヤカシは炎上するGSフェス会場を爆撃しながら甲高い鳴き声を上げているのだった。

 

「酷い……!」

 

 ──かれは こんなことを したかったの……?

 

「醜い人間の心が、彼の心を狂わせてしまったのじゃ。止めねばなるまいよ」

 

 ──わたしが かれをとめる

 

「なら俺も一緒に行く!」

 

 メグルがヒメマボロシの背に飛び乗る。

 

「メグルさん!?」

「襲われてる人たちの救助を頼む! それに、俺にはオーライズがあるからさ!」

「ちょっとぉーっ!?」

「……メグル君の言う通りじゃ。ヒコマヤカシは彼に任せ、我々は人々の避難誘導と救助を行うぞ。これもまた、目の前の事じゃ」

「……そうですね。助けなきゃ!」

 

 飛んで行くメグルとヒメマボロシ。

 それを見届けながら、リュウグウ達は瓦礫の山と化した会場へ向かう。

 シャワーズが放水で炎を消していき、ジャラランガが瓦礫を退けて、下敷きになっている人々を助け出す。更に気を失った重傷者には、パーモットが手当てに当たるのだった。

 会場は、スタッフたちも避難誘導に当たっている。

 しかしそこに、ヒコマヤカシの”りゅうのはどう”が降り注ぐ。

 

「──モトトカゲ、”りゅうのはどう”!!」

 

 だが、すんでのところでアルカのモトトカゲのドラゴンエネルギーがぶつかり、軌道をずらした。

 その隙に、客もスタッフたちも次々に施設から逃げていく。

 

「落ち着いて避難してくださーい!! 出口は一つじゃありません、殺到しないで―ッ!」

「まだ逃げ遅れた人は居ねーッスか!!」

「これこれ、親御さんとはぐれたのか? 大丈夫じゃ。ワシが探してやろう」

 

 3人が救助を行う中、空では──2匹の竜が再び対面していた。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「しゅわぁぁぁぁーん!!」

 

 

 ──ひにくだね ゆめにすがっても あなたととべなかったのに いまこうしてまた とべるなんて

 

「……ラティアス。ちょっと手荒になるけど、良いよな?」

 

 ──うん もう おわらせてあげて やさしかったかれに もどしてあげて

 

 メグルはニンフィアを繰り出す。

 アブソルは先ほどのギガオーライズで消耗しきっており、これ以上の戦闘は負担が大きすぎる、と判断したのだ。

 実際には、夢の中でも錆びた刀の力を行使していたのもあり、メグルが想定していた以上にアブソルの体力はもう残っていない。

 そのため、最後に頼れるのは相棒の彼女だけだ。

 

「オーライズ”アブソル”……これで終わらせるぞ!」

「ふぃーっ!!」

 

 まばゆい光を放ち、ニンフィアの身体にオーラの翼、そして霊魂が纏わりつき、それが鎧となる。

 そして──狙うはヒコマヤカシだ。

 ヒメマボロシが”りゅうのはどう”を放ち、ニンフィアが影の剣を作り出して次々に空中に浮かび上がらせる。

 今度は夢ではなく現実だ。捉えれば、倒せない相手ではない。

 しかし、骸の身体の竜は周囲にバリアを展開し、2匹の攻撃を受け止めて弾き返してしまう。

 

「そんなっ……!?」

「しゅわぁぁぁぁーん!!」

 

 すぐさまヒコマヤカシの周囲に影の弾幕が浮かび上がった。

 そして周囲はいきなり霧に包まれ、何も見えなくなってしまう。

 

「何だ!? どうなってる!?」

 

 ──すがたが いくつもみえる……!

 

【ヒコマヤカシの──】

 

 そのまま高速でヒコマヤカシはヒメマボロシに突貫していく。

 

 

 

【──ミストゴースト!!】

 

 

 

 4つに別たれた分身が高速でヒメマボロシに突撃した後。

 全員がその両腕からビームを放ち──彼女を撃ち落とした。

 ぐらり、とヒメマボロシの身体は揺れ、落ちていく。

 

「おいっ、しっかりしろラティアス!!」

 

 ──あっぐ──

 

「くそっ、今のがあいつのオオワザか!! ニンフィアッ!!」

「ふぃるふぃーっ……!!」

 

 ぎゅう、と彼女を抱きしめる。

 しかし下は硬い瓦礫の山。

 落ちれば全員助からない。

 

 

 

「──シャワーズよ、頼むぞ!」

 

 

  

 その時だった。

 巨大な泡が膨れ上がり、ヒメマボロシを、そしてメグルとニンフィアを受け止める。

 それは衝撃を全て吸収し、彼らを無事に地面の上へと戻すのだった。

 

「……た、助かったぜリュウグウさん……!」

「なぁに造作もないことじゃよ。それよりマリゴルドの所為でオヌシ達に迷惑をかけたこと、お詫びさせてくれい」

「リュウグウさん……!」

「ワシも今となっては自分の選択が正しかったかは分からん。自然に配慮し開発を滞らせることが正しかったのか、それとも……開発を進めることが正しかったのか。結果的にワシの選んだ道はマリゴルドを孤立させてしまった」

「……俺にも何が正しいか分かんねーけど……でも、目の前で泣いてる誰かを助けるのはきっと、正しい事だと俺は思う」

「そうじゃのう。先ずは目の前のヤツをどうにかせんとな」

「ぷるるるるー」

「ふぃーあ!」

 

 ニンフィア、そしてシャワーズが並び立つ。

 そしてメグルは空を見上げた。ヒコマヤカシはまだ、飛びながら地上を爆撃し続けている。

 今度は、外の自然公園の方へと向かうのが見えた。

 

「……逃がすかよ」

「行くのか?」

「ええ。ラティオスを……せめて安らかに逝かせてやりたいんです」

「少し見ない間に立派になったのう」

「まだまだですよ」

 

 ──わたしも ねむらせてあげたい かれを

 

「……ラティアス」

 

 ヒメマボロシは目を瞑る。

 その身体が一瞬だけ、ラティアスのものへと戻っていく。

 幻影による見せかけの姿ではあったが、少しだけ彼女の目は穏やかになっていた。

 

 ──メグル きみのおかげで すすむことのつよさを わたしはしれた かこにはもどれないことも わかった

 

「……ラティアス」

 

 ──だからさいごに わたしに ちからをそそいでほしい

 

 ポケットが熱い。

 今度は、キーストーンが熱を帯びて輝いている。

 そしてラティアスの体内にある”こころのしずく”がそれに共鳴し、メガストーンのマークが現れる。

 

「ッ……ラティアス!! 俺は……飛ぶよ。あいつを助けたい!!」

「ふぃるふぃーあ!」

 

 ──メグル ニンフィア わたしの つばさに なって わたしは もういちど とんでみせる!

 

 キーストーンをメグルは握り締める。

 そして──それをヒメマボロシ、否──ラティアスの方に向けた。

 

「……へっ、此処まで来たら細かい事なんて気にしてらんねーよな!」

 

 メグルは彼女の背に乗る。

 ラティアスは勢いよく飛び出し──

 

 

 

「……きっとこれを、人は奇跡と呼ぶのじゃろう」

 

 

 

 ──空で光り輝く。

 

 

 

 

 

【メグルのキーストーンとラティアスが反応した──!】

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