ポケモン廃人、知らん地方に転移した。【完結】   作:タク@DMP

83 / 225
第77話:夢幻のその先へ

 冷たい。

 暗い。

 何もかも分からない。

 周囲から敵が迫ってくる。

 振り払わねば。

 ああラティアス。

 俺のラティアス。

 お前は今どこにいる?

 もう、俺は何も見えはしない──

 

 

 

「──待ちやがれ──ッ!!」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 ヒコマヤカシ目掛けて一筋の閃光が飛んでくる。

 紫色のラインが刻まれた音速の竜──メガラティアス。

 キーストーンの力によって目覚め、メガシンカを果たしたラティアスの姿である。

 

 

 

【メガラティアス むげんポケモン タイプ:ドラゴン/エスパー】

 

 

 

「いつまでも彼女を泣かせてんじゃねーぞ、伊達男!! 今すぐ目ェ覚まさせてやるよ!!」

「ふぃるふぃーあ!!」

 

 ──だいじょうぶ ひとりじゃない わたしはいま ここにいるから!

 

 メグル達に殺意の視線を向けたヒコマヤカシは早速高速で突貫する。

 しかし、ラティアスも負けてはいない。

 それを躱すと、すぐさま”りゅうのはどう”を翼から放つのだった。

 すぐさま態勢を立て直したヒコマヤカシも空中で身体を翻すと、シャドーボールを幾つも放ち、誘導弾のように飛ばしていく。 

 

「ニンフィア、シャドーボール! 撃ち落とせ!」

「ふぃー!」

 

 だが、ニンフィアも負けてはいない。

 オーライズによってタイプ補正が掛かったシャドーボールが、正確にラティオスの誘導弾を相殺していく。

 

 ──もっととばす! ふりおとされないように!

 

「あったぼうよ!」

「ふぃるふぃーあっ!」

 

 激しいドッグファイトを繰り返し、二匹は空中でぶつかり合う。

 

「オオワザ”あかつきのごけん”だ!!」

「ふぃーっ!!」

 

 そして拮抗状態を崩すべく、メグルはオージュエルを握り締め、オオワザをニンフィアに命じた。

 影の剣がラティアスの周囲を舞い、ヒコマヤカシ目掛けて次々に飛んで行く。

 だが、ヒコマヤカシもまた、空中で留まったまま周囲に霧を展開し、目晦まししようとする。

 目で操作し、思ったところへ飛んで行く”あかつきのごけん”は、対象が見えなくなれば当たらなくなってしまう。

 

 ──させない! そのわざは みきった!

 

【ラティアスの ミストボール!】

 

 霧は晴れた。

 ラティアスの放った大玉のエネルギー弾が爆ぜて、逆にヒコマヤカシの周囲を霧で覆い隠すのだった。

 

「──いっけぇぇぇーっ!!」

「ふぃるふぃーあ!!」

 

 そこに、幾つもの影の剣が突き刺さる。

 憎悪も怒りも、悲しみも、全て断ち切るかのように五本の刀がヒコマヤカシを切り刻んでいく。

 

「しゅわぁぁぁぁーん!!」

 

 しかし、それでもまだヒコマヤカシは止まらない。

 刀が突き刺さったままの姿で、ラティアスに”りゅうのはどう”を浴びせかける。

 右羽根に直撃。その身体が傾いた。

 

「ラティアス!」

 

 ──しんぱい いらない かれのくるしみにくらべれば

 

「ッ……」

 

 ──ねえ おぼえてる? わたしたち ずっとちいさいころから いっしょだったよね

 

 ヒコマヤカシは再びシャドーボールを展開する。

 

 ──きみのとぶすがたが とても すきだった きみもわたしのとぶすがたが すきだった

 

 それをラティアスは再び”りゅうのはどう”で撃ち落とす事で防ぐ。

 速度も、火力も、耐久も。既にメガシンカの力で彼女が上回っている。

 憎悪に心を封じ込められた骸に、負ける理由など何処にも無かった。

 

 ──ありがとう きみがあのときまもってくれたおかげで このひとたちとわたしはあえた

 

「しゅわぁぁぁぁーん!!」

 

【ヒコマヤカシのラスターパージ!!】

 

 太陽の如く激しい光がヒコマヤカシの身体から放たれる。

 熱量を持ったそれは、メグル達を消し飛ばすべくゆっくりと近付いていく。

 

 ──このひとたちとあえて わたしは とてもしあわせだった くいなくいける

 

【ラティアスの──】

 

「ニンフィア、もう一度……力を振り絞れ!! オオワザだ!!」

 

 ──だいじょうぶ いっしょにいけば こわくないよ

 

【ニンフィアの──】

 

 

 

 

【──ミストボール!!】

【──あかつきのごけん!!】

 

 

 

 ──霧の弾が巨大な光を打ち消した。

 そして、今度こそ、五本の刀がヒコマヤカシの身体を切り裂き──貫いたのだった。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 大丈夫。

 怖くないよ。

 私がずっと一緒に居るよ。

 安心して。

 守ってあげられなくてごめんね。

 痛みを分かち合えなくてごめんね。

 今度はずっと、私がいるから。

 傍にいてあげるから。

 私は此処にいるよ、ラティオス。

 しっかり私は見えているよ。

 大好きだよ。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 竜の骸は──博覧会の会場に叩きつけられ、砕け散る。

 その身体を繋いでいた霊気も”あかつきのごけん”によって断ち切られ、バラバラになった。

 後に残るのは、赤黒く濁った”こころのしずく”だけだった。

 メグルとラティアスはすぐにヒコマヤカシが落ちた場所に急ぎ降り立つ。

 そして──変わり果てたその遺骸を、ラティアスは抱き締めるのだった。

 

 ──だいじょうぶ だいじょうぶだよ ラティオス

 

「……ラティアス」

 

 ──……うん わたしも すぐに いくから

 

 メガシンカの光が解けて。

 ラティアスの身体も再び色を失っていく。

 

「メグルさんっ!!」

「すごい音が聞こえた──!」

 

 アルカが、そしてノオトも駆け付ける。

 その頃にはもう、ラティアスの身体もボロボロに崩れ落ちていた。

 

 ──もう じかんが ないみたいだね

 

「……ラティアス」

「……こんなのってねーッスよ……折角、友達になれたと思ったのに……!」

「お前ら。これで良いんだ。これが……あるべき形なんだ」

「でもメグルさんだって!! 泣いてるじゃねえッスか!」

 

 メグルは──思わず目を袖で拭う。

 

「泣いてなんかねーよ!! ちょっと……目から汗が出ただけだ」

 

 そう言ってしまうと、次から次へとぼろぼろと涙が出て来る。

 

「ふぃー……」

 

 ニンフィアも釣られて泣いてしまっているようだった。

 分かってはいたが──やはり送り出すのは辛い。

 もっと一緒に居たかった。

 もっと話していたかった。

 名残惜しいのは、この場に居る全員だ。

 

 ──ねえ メグル わたしは たびがよかったとおもえるのは いいけつまつをむかえたときだけだ っていった

 

「……ああ」

 

 ──そういういみでは わたしは いいおわりかたを むかえられたかもしれない

 

 再び、あの写真のように二つの竜骸は横たわる。

 

 ──わたしのたびの おわりを きみたちに みてもらえる これいじょうないしあわせだわ

 

「あっ……」

 

 メグルは声を上げた。

 2つの竜骸が消えていく。

 砂のように崩れ落ちて、天高く昇っていく。

 

 ──おわかれの じかんが きちゃった わたしも かれも いかなきゃ いけないみたい

 

「……ラティアス。ラティアス!! もう帰ってくるんじゃねえぞ!! ……立派な彼氏とずっとずっと、何処までも飛んで行けよ!!」

「そーだよ!! 離しちゃダメなんだからね!!」

「約束ッスよーっ!!」

 

 ──うん やくそくする

 

 竜骸は、跡形もなくその場から消え去った。

 最後に残ったのは2つのこころのしずく。

 それらは寄り添うように転がった後、音もたてずにぼんやりと──消えていくのだった。

 

 

 

 

 ──さようなら みんな よい たびを

 

 

 

「……じゃあな、ラティアス。達者でな」

「ふぃるふぃー……」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

『デイドリーム計画の裏で多数の不正及び、大規模的なテロを企てていたとしてサイゴク警察当局はマリゴルド氏を緊急逮捕しました──』

 

 

 

「……終わったな。ぜーんぶ」

「そうだねぇ。夢みたいな3日間だった」

「ウソみてーッスよ、本当に」

 

 テレビの報道を見ながら、メグル達は嘆息する。

 事後処理にリュウグウと共に立ち会ったメグル達は、マリゴルドが逮捕されたことも知っている。 

 デイドリーム計画の事は表向きには”テロ”として処理され、マリゴルドが塀の中から出て来ることはもう無いだろうとのことだ。後先もなさそうだし。

 いずれにせよ彼は、ポケモンの暴走を招いたGSフェス、そして彼が計画していた数々の陰謀の責任を取らされることになるだろうとのこと。

 この件で流石に落ち込んでいたリュウグウではあったが、これからも度々に面会に行くと言っていた。

 

「……リュウグウさん、大丈夫かなあ」

「まあ、友達があんなことになっちまったのは残念ッスよねえ」

「うん……もっと他に無かったのかなあ」

「さあな。過去はやり直せねえし、未来の事も分からねえ」

 

 メグルはぐいっ、とエネココアを飲み干すと立ち上がる。

 ニンフィアが機嫌良さそうに「ふぃー♪」と頭をこすりつけて来る。

 

「だから俺は全力で生きるとするぜ。こいつらが居る、今を……ラティアス達の分までな」

「……おにーさんにしては、良い事を言いましたねっ!」

「ああっ! 俺は、残りのおやしろを全部回るっていう使命があるんだからな!」

「ふぃるふぃーあ!」

「そうだね。いつまでも落ち込んでられないよねっ!」

 

 ポケモンセンターを出て、遠くの地平線を眺める。

 あの先に、砂漠の町・クワゾメタウンがあるのだ。

 

「ところでおにーさん。結局キーストーンってどうしたんですか?」

「ああ、実はな……この通りだ」

 

 メグルはアルカに右の手首を見せつける。

 そこには、キーストーンが埋め込まれていた。

 

「メガリング、だよね!?」

「ああ。リュウグウさんが今回のお礼にって。キャプテンも同じものを使うみたいでさ。更に、オージュエルもこの通り」

 

 メグルはもう左の手首を見せた。

 こちらは、違う色のバングルが嵌められており、そこにオージュエルが埋め込まれている。

 

「こっちがメガリングなら、こっちはオーバングルってところか? これで持ち歩く手間が少しは省けるってもんだぜ」

「でもメグルさん、あんたまだメガストーン持ってないじゃねーッスか」

「っ……それは、これから見つけるんだよ!」

「メガストーンって何処にあるんだろうね」

「さあな。それも旅のお楽しみだ!」

「ふぃるふぃーあ」

 

 ニンフィアが嬉しそうに鳴いた。

 

「でもおにーさんの手持ちでメガシンカするポケモンってアブソルなんじゃ」

「えっ」

「そういえばそうッスね。ギガオーライズも出来るし、メガシンカも出来るんじゃねーッスか、アブソルって」

「えっ」

 

 爆弾が両者から投下される。

 すぐさまニンフィアの顔が曇った。

 

「……フィルルルル」

「待て。待つんだニンフィア。ステイ。ステイホーム!!」

「あーあ、お姫様怒っちゃった」

「オメーらの所為だ馬鹿野郎!! クソが!!」

「サイゴクのアブソルってメガシンカ出来るのかなぁ」

「出来るのは出来るらしいッスよ、アケノヤイバがモロにメガアブソルじゃねーッスか」

「おい!! お前らの所為でコイツ、ブチのギーレェじゃねえか!! どうしてくれんだ!!」

「フィッキュルルルルィィィ」

 

 ニンフィアに追いかけ回されるメグル。

 そのまま怒った彼女に、メグルは地面に押し倒されてしまう。

 

「よし分かった。落ち着こうニンフィア。此処は冷静に、だ。良いか? 前も言ったよな? 一番のパートナーはお前だって」

「なんかめっちゃ浮気してるヤツの言い草ッスね」

「あの映画の男も似たようなこと言ってたよ」

「うるせー水を差すな!」

「フィルルル!!」

「待て待てリボンを絡ませるんじゃない、首が締まっちゃうおじさんになっちゃうから!! マジで!! やめて!!」

「フィルルルル!!」

「うわーん、だってメガニンフィアなんて居ねーんだから仕方ねーじゃん!! ……ん?」

 

 メグルは──ふと、空を見つめる。

 2つの飛行機雲が仲良く、空に軌跡を描いていく。

 

「ふぃ?」

 

 ニンフィアもそれに気付いたのか──見入っている。

 

「どーしたんスかー?」

「いや、でっけー飛行機雲だなーって」

「何にも見えませんよ、おにーさん。何言ってるんですか?」

「え」

 

 メグルは目を擦り──もう一度、空を見つめる。

 飛行機雲はとっくに消えていた。

 

「……っはっははは! そーかそーか! 仲良さそうで良かった!」

「ふぃーあ!」

「えっ、何笑ってるんですかこの人」

「なーんでもねーよ!」

「ふぃー♪」

 

 メグルとニンフィアは起き上がる。

 きっとあの二匹は今も、空を飛び続けているのだろう。 

 そう思うと元気が湧いて出て来るのだった。

 彼らの旅はまだまだ続く。続くったら続く。

 

 

「……次の町に行こうぜ、皆!」

「ふぃるふぃーあ!」

 

 

 

 

 

 

 ──第肆章「夢幻異聞デイドリーム」(完)

 

 

 

ここまでのぼうけんを レポートにきろくしますか?

 

 

 

▶はい

 

 

 

いいえ

 

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 

「──そうですか……メグル君たちが例の事件に」

「うむ」

 

 

 

 ──後日。

 シャクドウシティ・キャプテン代理ユイはリュウグウから今回の事件の顛末を聞いていた。

 

「……さて、ユイ君。未だにサンダースからは……」

「認められて、ないですね……」

「うむ……」

 

 周囲に重い空気が漂う。

 ヌシポケモンから認められることが、キャプテンになる条件だ。

 しかし、ユイは未だにサンダースから認められておらず、キャプテン代理の立場に甘んじている。

 

「あたしが電気使いとしてもっと精進しなければいけないのは確かなんですが……どうすればいいのやら」

「一度、君も修行してみるのはどうだね? 他の地方に」

「他の地方に、ですか?」

「うむ」

「で、でも、テング団がおやしろに襲ってきたら……」

「その間はワシが居る。どの道、今”すいしょうのおやしろ”は無いも同然じゃからのう」

「……すみません」

「ただ、単に修行に行けと言っちょるのではないぞ」

「と言うのは?」

 

 ユイの問いに、リュウグウは眉を顰めた。

 

「……フェスの時、マリゴルドのヤツが言っていたのじゃよ」

 

 

 

 ──リュウグウ。あのサーカスで出した化石ポケモン達は……野生で捕まえたんだヨォ。ガラルのカンムリ雪原でネェ。

 

 

 

「……ガラル地方、カンムリ雪原……!」

「うむ……そこに居る古の雷獣達を捕えてくるのじゃ。きっと、オヌシの力になるやろうな」

「……確か、父さんがついぞ捕まえられなかったって言ってた──」

「そうじゃ。非常に危険な戦いになるじゃろう。しかし、サンダースは求めているのかもしれぬ。父をオヌシが超えることを」

「……」

 

 ごくり、とユイは息を呑む。

 カンムリ雪原は寒冷地として知られている場所だ。

 最近になって多少豊かにはなったらしいが、以前は作物も育たない死の大地だったという。

 

 

 

「行ってきます、リュウグウさん。カンムリ雪原に!」

 

(古の雷獣……捕まえて、ヌシ様に認めてもらうんだから……!)

 

 

 

 ──TO BE CONTINUED……

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。