ポケモン廃人、知らん地方に転移した。【完結】   作:タク@DMP

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バレンタインにちなんだお話。頭空っぽにして読んで下さい。


番外編:サンクスデイ戦線待ったなし

 ──サンクスデイ、と言う言葉がある。

 要するにポケモンが存在する世界におけるバレンタインデーのことだ(出典:ポケモンマスターズEX)。

 メグルの居た世界と違って、この世界にはバレンティヌス司教が居ないので、このような名前になったのだろうとメグルは考える。

 しかし。この世界においても、シンオウ、カントー、ジョウト、サイゴク、ホウエンといった日本に当たる地方ではお菓子メーカーの弛まぬ広告努力とメディアのおかげか、見事にサンクスデイは好きな人にチョコを送る日と化していたのだった。

 悲しいかな、いつの時代も人は恋愛と言うものに弱いのである。

 カップルポケモンのワッカネズミのCMでチョコレートが宣伝されているのを見ると、メグルは元の世界で母親以外にバレンタインのチョコを貰ったことがないことを思い出し、泣きそうになるのだった。

 

「おにーさん、何で悲しそうな顔してるんですか?」

「いや……この時期になるとちょっと、おセンチになっちまってな……」

「サンクスデイねぇ、いやーモテる男には辛い季節ッスねえ」

「何で辛いの?」

「う”っ(1ダメ)」

「好きな人に女の子がチョコを渡すのが定番なんスよ。モテるとチョコをいっぱい貰い過ぎて困っちゃうってわけッス」

「う”っ(2ダメ)」

「ボクそういうの疎いから知らなかった。お世話になってる人に感謝を伝える日とだけ教わってたからさ」

「オレっちも貰ったことがあって……その時たまたま彼女居たから断っちゃったんスけどねぇ」

「う”っ(3ダメ)」

 

 メグルは地に臥せた。効果抜群、急所に当たった。

 

「おにーさん、大丈夫ですかぁ!?」

「なんか理由は分かるんで放っておくッスよ。いやー、サンクスデイって良い日ッスねー」

 

(ま、丁度その3日後に、彼女が浮気してたのに気づいたんスけど……)

 

 強がりであった。これを素直に言えれば、まだメグルも救われていたのだが、見栄を張ってしまったのがいけなかった。メグルの心にはどんより雲がかかったまま。

 結局の所、誰も幸せにならない哀しい事件だった。

 

「まーでも、生きてて一回も女の子からチョコ貰ったことない人なんていないと思うッスけどねえ」

「うっぐ、ひっぐ、うっぐ……」

 

【特性:ライトメンタル】

 

「あれっ? 何でメグルさんが泣いてるんスか? ライトメンタルはオレっちの専売特許ッスよ?」

「さっさと処分してよ、そんな専売特許」

「いや、ちょっと……雨が降ってきてな……」 

 

(まさかバレンタインの悪しき風習が、この世界にも根付いているとは……クソったれ、何で異世界転移してまで惨めな思いをせねばならんのだ……許せねー!!)

 

 その時、ぽん、と音を立ててニンフィアがボールから現れる。

 最早勝手に彼女が現れるのはいつもの事だが、メグルの心情を察したのか「元気出してー♪」と言わんばかりに背中に抱き着いて来た。

 しかしメグルにとっては何の慰めにもならなかった。

 

(……浮かれた奴等と、それに乗っかれない惨めな自分……後勝手に同情してくる連中。バレンタインってマジでキライだったな)

 

 はぁ、とメグルは溜息を吐く。

 

「良いかオメーら。俺はチョコレートって食いモンが世界で一番嫌いなんだ」

「え、初耳なんスけど」

「たかがチョコなんぞを、あげた貰ったで盛り上がるバレンタイ──じゃなかったサンクスデイも大ッッッキライなんだよ、二度と話題に出すんじゃねーぞ」

「あっ、何処行くんスかメグルさん」

「買い物!! こっからは自由行動でいーだろ? 飯時になったら、レストランに集合!」

 

 露骨に機嫌が悪そうに鼻を鳴らすと、彼はそのままショッピングモールの方へ向かってしまうのだった。

 

「あーあー、そういやメグルさんって非モテだったッスねぇ。まさかあそこまで露骨に嫌がるなんて、よっぽど悪い思い出でもあるんスかねえ」

 

 そう言うノオトもサンクスデイと日付差で嫌な目に遭っているのだが、キャプテンなので泣くのは我慢した。キャプテンじゃなかったら泣いていたかもしれない。

 そんな彼の背中を見ながら、アルカはぽつりと呟く。

 

「……おにーさん、チョコ嫌いだったんだ」

「え? どうしたんスか、アルカさん」

「いやぁさ、聞いてくれる? 本当はノオトにも黙っておくつもりだったんだけどさ」

 

 アルカは思い悩んだ様子で打ち明ける。

 

「……ボク、今日2人に手作りチョコを作ろうと思ってたんだよね。この町ってレンタルキッチンがあるって聞いてたからさ」

「え”っ」

「ほら、サンクスデイって本来は感謝を伝える日じゃん? だからずっと前から考えたんだ。おにーさんも、ノオトも、いつも一緒に居てくれてありがとうー、って思ってて。せめてボクが何か出来ないかなって思ったんだけど」

 

 しゅん、とアルカは肩を落とす。

 彼女なりに感謝の気持ちを伝える為に色々考えていたのだという。

 そこで思いついたのは、ベタだが手作りのチョコを作ることだった。レシピの本も、材料もこっそり買い集めていたらしい。

 故に、メグルがあそこまでサンクスデイ(正確に言えば元居た世界のバレンタイン)に嫌悪感を抱いているとは思わなかったので、計画は御破綻になってしまうのだった。

 

「チョコが嫌いな人ってあんまりいないじゃん。まさかあんなに嫌いだなんて思わなかったよ」

「……メグルさんアレで結構拗らせてそうッスからねえ……」

「チョコじゃなくても、お菓子送ったら嫌がっちゃうかな。サンクスデイも嫌いって言ってたし」

「なーに、気にする必要はねーッスよ。チョコ以外のお菓子送ってやれば文句ねーっしょ? 大体、アルカさんが渡したものなら、手の平大回転で大喜びっしょ」

 

(あの人、アルカさんが好きなのバレバレッスからねえ)

 

 ノオトはけらけらと笑う。幾ら素直ではないメグルでも、アルカに素直に気持ちを伝えられたら邪見にはできないだろう、と思ったのだ。

 

「……サンクスデイは感謝を伝える日だもん、それが嫌いなのは悲しいよ……」

「多分、嫌な事があったんじゃないッスかねえ……」

「……そうだよねぇ……おにーさん変なところで意地っ張りな所があるからなあ……」

「そうだ、アルカさん。オレっちと一緒にお菓子の新しい材料買いに行くのはどうッスか?」

「え?」

「へへへっ、オレっち貰う側だったから、何渡されたら嬉しいか分かるッスよ。あの人のサンクスデイ嫌いを叩き直してやるッス!」

「……ありがと、ノオト! ボク、頑張ってみるよ!」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

(クッソ不愉快だったな……何処を見てもチョコ、チョコ、チョコのセール、どんだけ仕入れてやがんだ、不良在庫になっても知らねーぞ俺ァ)

 

 

 

 ポケモン達の為の買い物を一通り終えた後、メグルは売り場のチョコに目をやると余計に胸糞悪さを募らせていくのだった。

 

 ──久遠(メグルの姓)お前さー、一個もチョコ貰えなかったのかよ。かわいそー。

 

 ──良いんだよ、久遠はお母さんから貰ってるんだからさあ。ヒヒヒ。

 

 ──うるせー、俺はチョコが嫌いだからチョコなんて要らねーんだよ! バーカバーカ!

 

 ──あははは、強がってらー!

 

 これが小学校の頃である。毎年こんな感じだった。今思えばメグル含めて皆ガキだったのだが、チョコ関係で何度いじられたか思い出したくもない。

 

 ──なあ久遠、今日はバレンタインだってよ。

 

 ──俺チョコ嫌いだから二度とその単語を口にするんじゃねえぞ。

 

 ──強がるなよー久遠、モテないヤツ同士仲良くしようぜ──ん? ロッカーに何か手紙入ってる。放課後屋上に来てください? ……わり、久遠。俺一抜けで! ひゃっほーい!

 

 ──……は? 

 

 これが中学校の頃。その友人は次の日から女の子と登校するようになったので、メグルは二度と口を利かなかった。

 

 ──あれ? 久遠今日休みなん? 

 

 ──あいつ去年もバレンタインの日休んでたような。風邪引いたって言って。

 

 これが高校の頃である。最早バレンタインの日に学校に顔を出すのが嫌になるレベルであった。その日は家でずっとポケモンをしていた。

 その点大学は楽だった。バレンタインの時期になると、春休みになっているのだから。

 

「……はあーあ、何でどいつもこいつもチョコなんて──」

 

 

 

「サンクスデイなんてブッ壊せーッ!!」

「サンクスデイはカップルのものじゃなーい!!」

 

 

 

 その時だった。

 街角で「サンクスデイをぶっ壊す」と垂れ幕を掲げた如何にもな集団がこぞって街宣をしている。

 成程、見るからにモテない男達の集まりであった。カップルの祭りになっている本来のものから逸脱したサンクスデイに異を唱えているらしい。

 周りは白い目で彼らを見て通りすがるだけ、賛同する者など居はしない。

 居るとすれば、余程のアホくらいなものだろう。

 

 

 

「──俺も、君達の同志に加えてくれないか?」

 

 

 

 ──居た。アホな男が此処に居た。

 メグルは、デモ隊に正面からつかつかと歩み寄っていく。

 彼らは皆歓喜したように叫ぶのだった。

 

「お、おおお!! まさか、この活動に加わってくれる者が居るとは!!」

「待て。生半可なヤツを私達の活動に加えるわけにはいかない。志を教えて貰おうか」

「──サンクスデイだなんて言ってはいるが、事実上は騒ぎたい奴らが好き勝手騒いでるだけ。オマケにチョコが貰えねえ奴は腫物扱い」

 

 メグルの言葉に、男達は皆泣きだす。彼らも同様の経験をして来たのだろう。

 

「こんな悲しい日は間違ってる!! 無くなった方が世のため人のためだね!!」

「素晴らしい!! 面接は100点だ……私も男泣きしてしまったよ……男泣きしすぎて男泣きしてしまった」

 

 随分と安い男泣きである。

 

「それで、何をすれば良いんだ? 一日中此処で叫んでればいいのか?」

 

 メグルの質問に対し、リーダー格と思しき男は首を横に振った。

 

「いや、実は一度引き上げねばならんのだ。此処での街宣は許可を取ってないからジュンサーさんがやってくる」

「だがそろそろ、我ら同志一同の集会の時間でね。明日は来るべきXデー……一人でも多くの力が欲しい!」

「共に、この腐ったカップル共の祭典をぶっ壊そうぜ。幾らでも協力してやるよ」

 

 リーダー格の男と、メグルは硬い握手を交わすのだった。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「──同志たちよ、よく集ってくれた!! 今日の夜19時から24時にかけて、断続的に拠点からオトシドリを放ち、クヌギダマを落としますッ!! サンクスデイが来る前にサンクスデイをぶっ壊す!!」

「オオオオオーッ!!」

「名付けて”サンクスデイ爆殺☆大作戦”ッ!!」

 

 

 

 ──1時間後。

 メグルは気が付けば、全身黒いタイツに身を包んでおり、廃業した地下ライブハウスに連れて来られていた。

 そして、この時点で彼は気付いていた。自分はとんでもない集団のとんでもない作戦に足を突っ込んでしまったのではないか、と。 

 作戦概要からして人が死ぬ予感しかしない。彼らはまごう事なきテロリストであった。

 

(やっべぇ……ッ!! 非モテの悲しい集いと思ってたから参加したのに、ガチのテロ集団だった──ッ!!)

 

「作戦はこう!! クヌギダマ超落として、超逃げて!! 間違ってもビリリダマはダメだぞ!! クヌギダマがミソな!!」

 

(なんつー頭の悪い上に危険な作戦だ!! そして爆弾役を選んでいるところが無駄に小賢しい!!)

 

 メグルは歯噛みする。ついでに、またオトシドリが爆撃テロの道具に使われている。何故、サイゴクに根付く悪党どもはどいつもこいつも無駄に計画力と実行力が高く、そして過激なのだろうか──彼は甚だ疑問に思う。

 

(ど、どうする……! このままじゃ俺ァテロリストの仲間入りだ、幾らバレンタインが嫌いでも人様に迷惑かけるのは……つか人が死ぬのは……ダメだろ!! 論外も論外だ!! 誰かこの中に俺と同じまともなヤツは居ねーのか!?)

 

 そもそもあんな連中と手を繋ぎに行った時点で、あの時のメグルもまともではなかったのだが、それはさておき。

 

「行くぞお前らー!! サンクスデイを!!」

「ぶっ壊す!!」

「カップル共は!!」

「爆発だ!!」

「クヌギダマも!!」

「爆発だ!!」

 

(やべぇ、筋金入りだ……多分きっと乗り気じゃねえの俺だけだ……!! このままじゃサイゴクの歴史に残る一大テロが起きる、ついでにクヌギダマも可哀想、どうしたもんか……ッ!!)

 

 スマホロトムは部屋に入るときに没収されてしまった。

 そして、渡されたのは通信用の無線機だけ。

 このまま帰してくれそうにもない。ノオト達と集合する時間はとっくに過ぎている。かと言って、今此処でポケモンで暴れても、数の差で圧倒されてオシマイ。このライブハウスの中には総勢20人近くの黒タイツ共がエイエイオーしており、皆腰にベルトを巻き、モンスターボールをぶら下げている。

 

「ドローン映像、流します!!」

「最初の目的地は此処!! ショッピングモール!! 明日のサンクスデイに向けて買い出しをしている奴等で溢れている!! 何ならフライングでイチャついてるカップル共も居る!!」

 

 その映像は、先程メグルが訪れていたショッピングモールが映っていた。

 ドローンで監視しているのか、リアルタイムで人の行き来が見える。

 そして、ゴーグルをつけたメグルには見えてしまった。アルカとノオトが、2人で買い物袋を下げているのを。

 

「この計画が達成された時、我らの無念は完遂される!! デストロイ・オブ・サンクスデイ!! 各員、オトシドリを放つのだ──ッ!!」

 

 

 

「──ニンフィア、ハイパーボイス」

 

 

 

 メグルは耳を塞いで、後ろに下がる。

 無謀? 知った事ではない。そんなことを考えるのはやめた。

 遅れて──黒タイツたちの鼓膜が一気に爆ぜる。

 爆音と共に機器がぶっ壊れていき、画面が乱れた。

 リーダー格の男は狼狽え、ポケモンを出すことすら出来なかった。

 

「な、何だあ!? 誰だ!? 何者だぁ!?」

「人様に迷惑を掛けるので1アウト。関係のねぇポケモンを巻き込んでるので2アウト」

「貴様!! 新入りかァ!! 何てことをするんだぁ!?」

 

 サンクスデイなど関係ない。

 チョコレートなど関係ない。

 メグルにとって大事なのは、今の手持ち達を含めた旅の仲間だ。

 

 

 

「何より──俺の旅仲間に手ェ出そうとしたので3アウトだバカヤロー共。大人しくジュンサーさんのお縄に掛かりやがれ」

 

 

 

 残った面々がポケモンを繰り出していき、メグルに相対する。

 だがロクに統率の取れない烏合の衆など、テング団に比べれば大したことなどなかった。

 アブソルの影の剣が周囲を舞い、敵のポケモンを、そして黒タイツたちを地面に叩き伏せていく。バサギリが戦場を駆け、次々に雑魚を一掃していく。オドシシが”あやしいひかり”で同士討ちを誘う。

 残るテロリストたちも、ニンフィアのシャドーボールに追撃され、逃げようにも入り口をヘイラッシャが塞いでしまったので、逃走も叶わないのだった。

 そうこうしているうちに、メグルは没収された自らのスマホロトムを探し出し、即・通報。

 間もなくサイレンが聞こえてくるのだった。

 

「何故だァ!! お前もサンクスデイをぶっ壊したいと思ってたんじゃないのかあ!!」

「思ってたよ!! だけど、やり方がダメだわオメーらは!!」

 

 アブソルが、敵のハブネークを押さえつけ、勝負は完全に決する。

 敵方の戦力は潰えた。初動のハイパーボイスでトレーナー側が再起不能になったのが大きい。

 

「だって!! 最初は俺達だって平和的にデモしてたけど、やっぱり何事も暴力に訴えるのが手っ取り早いんだもん!! 爆破するしかないじゃん!!」

「フィルフィー!!」

「へぶぅ!! へぶぅ!! リボンが痛い!! へぶぅ!! ……チョコレートの無念を晴らす事も出来ないのか私達は……」

「うるせーうるせー、豚箱から出直してこい!! こんな方法でサンクスデイぶっ壊そうが、何をしようが、テメーらが昔貰えなかった分のチョコは戻ってこねーよ!!」

 

 ──このようにして、サンクスデイを破壊しようとした危険な集団は無名のトレーナーの通報によって、僅か数時間で壊滅した。

 メグルは騒ぎになる前に黒タイツを脱ぎ捨て、そのままライブハウスを抜け出す。

 間もなくジュンサーさんがやってきて、大量の爆発物であるクヌギダマと、それを運ぶオトシドリ、そして計画書を根拠に彼らを逮捕するだろう。

 

 

 

「……結局、バレンタインなんぞに縋りついたところで良い事なんざ何もねーんだよなぁ。良い勉強になったぜ」

 

 

 

 未練がましそうにメグルはぽつり、と呟いた。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「あっ、メグルさん!! 何で昨日飯時に帰って来なかったんスか!? 爆破テロを企てた奴らが捕まって、大ニュースになってたんスよ!?」

「……ちょっとな」

「ふぃるふぃー……」

 

 

 

 爆破テロを企てた組織が集団で検挙された昨晩の事件は、それはもう大騒ぎだったのだという。

 しかし、ノオトやアルカといったこの事件に直接かかわりのなかった者達は知る由も無い。他でもないメグルが、昨晩のテロを止めたことなど。

 結局メグルは逃げるようにチェックインして事なきを得たが、夕食の時間にメグルが帰ってこなかったのでノオトは流石に心配していた。

 もしかしたらメグルが大事件に巻き込まれたのではないか、と。

 現にメグルは死んだような目をしていたし、連れているニンフィアも疲れ切っているようだった。

 

「なんか、ニンフィアを連れたトレーナーがヤベー奴らを一網打尽にしたとか……まさかメグルさんじゃないッスよね?」

「さすがに偶然だろ。イーブイはサイゴクの最初のポケモンだし連れてるヤツは幾らでもいるじゃねえか。俺は昨日ふて寝してただけだぞ」

「ふぃー」

「そうッスよねぇー。まあ、結果的には帰って来なくて正解だったかもッスけど」

「あ? どういう意味だ」

 

 

 

「お、お待たせしましたっ!」

 

 

 

 ポケモンセンターに遅れてやってきたアルカは、息を切らせてやってくる。

 その両の手には、小包が握られていた。

 

「……アルカ、それって」

「おにーさんに作ったんです。日頃の感謝の気持ちを伝えるために、ずっと前から考えてたんです」

「……」

「おにーさんにとってはサンクスデイは嫌な思い出の象徴かもしれないけど……ボクにとっては、普段伝えられない気持ちを伝えられる機会と思ったから」

 

 小包の中身はクッキーだった。昨晩レンタルキッチンを借りて、ノオトに手伝ってもらいながら作ったのだという。

 

「いつも……一緒に居てくれて、ありがとうございますっ! おにーさんっ! これはほんの、気持ちです!」

 

 彼女はそれをメグルに向かって差し出す。

 試行錯誤しながら作ったのだろう。どれも形は不格好で不揃いだった。

 メグルは面食らってしまい、何と返せば良いのか分からなかった。

 

「……いや、でも、俺受け取る資格ねーよ? あんなこと言った手前」

「バーカ、大人しく受け取っておくもんッスよ、女の子の好意は」

「……」

 

 メグルは──小包を受け取る。

 その時に、絆創膏が貼られた彼女の手が触れた。

 

(こいつ……こんなになってまで……)

 

「ありがとな。まさかこんなの用意してもらってるなんて思わなかったからさ。すっげー嬉しい」

「えっへへへ……良かった、受け取ってもらえて。あ、これノオトの分!」

「えー、オレっち昨日貰ってるッスよ!?」

 

 結局の所。

 女の子からお菓子を貰いたかったわけではないのだ、とメグルは漸く気付いた。

 人から感謝の気持ちを伝えられるのは、心地が良く、胸がすくようだった。

 そして、それ以上に──メグルは、自分が「此処にいて良い」のだと改めて感じ取った。

 この3人で居るのが、今の彼にとってはとても丁度良いのだ。

 

「俺こそ、お前らが居てくれて良かったって思ってんだ。今までの旅でお前らが居なきゃ絶対何処かでくじけてたからさ」

「……えへへ、なんか照れちゃいますねっ」

「悪いもんじゃねえっしょ? サンクスデイも」

「かもな」

 

 そこまで言って──メグルは一つ、思いついたように言った。

 

「来年は皆でお菓子を作るのもいいかもしれねーな」

「来年と言わず、サンクスデイの次の月に、お返しのお菓子作る風習があるんスよ」

「その時は3人で作りましょうよ、おにーさんっ」

「お菓子もたまには悪くねえなあ」

「何なら材料余ってるし、今から作りに行っても良いと思うッスけどね、オレっちは」

「賛成! レシピ本があるから色々試してみましょうよ!」

「それも良いけど、先ずはアルカのクッキーを食べてからだな──うまい!」

 

 メグルとノオトは小包から、クッキーを取り出し噛り付く。

 香ばしい匂いと甘さを楽しみながら、3人は談笑し、次に作るお菓子の話を始める。

 

「ふぃるふぃー♪」

 

 その光景を見て、ニンフィアは微笑むのだった。主人の顔は、昨日が嘘のように晴れ晴れとしていた。

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